演劇 軍ポン
本城、桐島、杉原の三人で引いたくじ引きには当たりのように姫役と書かれていた。
演目は白雪姫。
文化祭での来客など見込めず他校の助っ人として強制参加となる。
代わりにみんなの赤点をチャラにしてもらえるとの事だった。
「ド、メインじゃねーか!!」
ヒ「がんばれよ、応援しに行くからよ笑」
マ「オレも観に行ってやるぜ」
「やだぜ〜〜〜‥セリフ多そうじゃん」
勝手に噂は広まるもんで、当たってしまった本城はもしかしたらと不安になる。
初めはヒロミとマコくらいしか観にこないだろうと思っていたから。
練習の際にはヒロミが付いて来てくれた。
ヘアセットやメイクまでされてちゃんと服装もきっちり姫の格好に変身していた。
ヒ「キレーじゃねーか!見違えるな」
「ばか言うな!マジでやるのかよ〜〜‥恥ずかし過ぎんだろ‥」
わりと本腰でやる感じに本城はそわそわし出しヒロミに耳打ちする。
「あのよ、‥軍司には来ねえようにして欲しいんだ‥あいつが観に来るわけねーけど」
ヒ「軍司にか?」
「ん。かっこわりー姿見られたくねーし‥」
ヒ「フッ、そーだな。いちよう見張っとくぜ」
「さんきゅー」
校内で会話してる二人から耳にしていた軍司。
「ここじゃ文化祭なんてやっても誰も寄りつかねーからよー、
三年でも暇だろって他校の助っ人に呼ばれたみたいだぜ。劇みてー」
「ほー」
「しかもお姫様役だとよ」
「は?冗談だろ?」
「(‥三年‥)オイ、助っ人って誰のことだ?」
「え‥あのマスクをたまに付けてるボーヤさんとこのだよ」
「!?(助っ人で姫役?なに引き受けてんだあの人は‥)」
***
ヒロミやマコは観にきてくれるらしいが大勢では来ないで欲しいと思っていた本城。
「王子役がバッくれた!?うそだろ‥どーすんだよ」
せっかく練習して覚悟を決めてきたのに。
でもこれで中止になるかもしれないという淡い期待は演劇部部長に速攻消される。
長「代役立てるから」
「当日にか!?」
長「定番な話だしなんとかなる」
「えー‥中止とかじゃねーの?」
長「探してくる!」
「行っちまいやがった‥」
他校の文化祭に行くことがバレた軍司は秀吉たちまで付いてきてしまっていた。
「マジで来たのかよ」
「いーじゃねーか暇だし」
「同じく」「同じく」
秀吉、マサ、コメ、ゼットンは文化祭を楽しんでいた。
軍司は上手く抜けて劇を観に行こうと人混みに紛れて消え去る。
長「劇に間に合わなくなる‥!誰か王子役を。主役だよ?誰か主役になりたい人ー!?」
駆けるうさぎのように慌てて募集してる妙な人を見つけた。
「なぁ、」
長「え!君希望!?」
「は?聞きてーんだけど、」
長「来て来て!良かったー‥!」
「ちょっと、あの、劇の王子役って‥!?」
かなり焦ってるのか腕を掴んで強引に進む他校の先輩らしき人。
長「あぁ、王子役が来なくて。わるいけどセリフ少なくて簡単だしアドリブも良いんでちょちょいとやって欲しいんだけど」
「はぁ‥‥相手役は?」
忙しなく部屋に連れられ簡単に説明を受ける。
長「まだ時間あるから頭に叩き込んで。メイクや着替えはオレらがやるんで座って」
「‥は、はぁ‥」
長「ごめんね、後でお礼するから」
メイクや衣装など担当する先輩たちも真剣で気圧される。
きっと劇を成功させたかったんだろうと軍司は引き受けてしまった。
徐々に格好が仕上がりウィッグまでかぶせられる。
長「男前!」
肩を叩かれ鏡を見たら信じられない姿が目に映る。
ちゃんと王子になってる。しばらく凝視してしまった。
「メイクすげー‥」
長「プロ目指してるからね」
「こりゃいけるかも」「楽しみだな」
先輩方は頼もしかった。ここに来なきゃ出会うこともねー人たちだ。来て良かったかもな。
なにより、オレ、かっこいい‥!と軍司は感動した。
「ハッ‥‥あの、姫役は?」
「あぁ、もうとっくに体育館で待機してるよ」
鼓動が高鳴った。
これはかっこわりーとこ見せられねー‥と身振り手振りで少ないセリフをまた復唱した。
***
体育館裏と幕が閉じたステージでキャストは合流。
「見つかったのか‥!だれなんだ‥?」
長「王子のとこ軽く通すよ」
「お、おう!」
本城は他校の誰かだと思っていたが、軍司はしばらく見入って言葉を失っていた。
細いからか服装に違和感はない。
髪型もセットアップされ髪飾りまで付いている。
メイクを施されよく見たらキラキラ、ツヤツヤしている。
その上動く度に動きやすいように切れ目が入ったスカートが柔らかくなびき、
脚がちらちら覗き見えて軍司は目が飛び出そうだった。
「集中」
「!」
本城に指でつつかれ至近距離で目が合う。
「よろしくな」
「‥はい‥っ」
見知った物語の王子はセリフはそんなにないが最初と最後に出番でメインだ。
軍司は深呼吸し動いてセリフを口にすれば二人のイメージが浮かび上がった。
***
軍司を探す秀吉たちは体育館の人混みに紛れていた。
ゼ「すげー人だな」
政「おー、この時間あんまイベントないからじゃねー?」
米「軍司いねーなぁ」
秀「丁度始まるみてーだぜ?」
演劇部の部長は集客にも力を入れていた。
一方、ヒロミとマコはすでに着いていて、入り口を遠くから見張っていたヒロミは
秀吉たちの姿に驚いたが周りも念の為見渡し軍司が居ないのを確認する。
マ「お、そろそろ始まるみてーだぞ」
ヒ「‥なんかオレまで緊張してきた」
劇が始まると姫役が出た際は男たちがわいていた。男子校のノリみたいな空気だ。
ヒ「ポンちょっと赤くなってんな笑」
マ「頬紅じゃねーのか?」
王子役も登場する。
緊張していたが目の前にいる白雪姫を見ているだけで周りの音は聞こえなくなる。
そのおかげで集中できた。
しばらくして春道、ヤスたち三人が中に入ったがヒロミは気付かなかった。
春「おー、盛り上がってんじゃねーか」
ヤ「白雪姫役がポンさんだって」
亜「信じられん‥‥かわいくねーか?」
ヤ「遠くからだけどみんなキレーだなー。ほりが深い‥!」
春「あー?でもよーありゃポンなんだろ?ないない」
クライマックスへ向かってあっという間だった。
王子は七人の小人をよそに棺に敷き詰められた花々の元で眠る姫へ駆け寄る。
「‥美しい白雪姫‥頼むから目を覚ましてくれ‥!
君と出会った時からずっと‥‥ずっと頭から離れないんだ‥‥‥愛している‥‥」
鼻をすする音に秀吉は横を向いたらゼットンが泣いていてギョッとした。
冷やかしに来た春道は普通に見入ってしまっていた。
顔に水滴が落ちてきて王子が泣いていると驚き本城の口は薄ら開いた。
目はまだ開けられない。
「お願いだ‥また歌ってくれ‥!今度はお城で‥末永く‥共に暮らそう‥」
唇が重なると会場がざわつき始めた。
春「熱演だな‥」
ヤ「え‥!?」
マジでキスしてねーか?と誰かの声がする。
ヒ「あの王子は誰だ‥?」
本城はとっさに胸ぐらを掴みそうになったが、盛り上がってる劇を台無しにできない。
堪えてゆっくり目を見開く。
「‥‥」
会場の騒がしい音。
涙が伝ったあとか汗なのか濃いメイクの上でも近くだとよく見えた。
真っ直ぐ見つめてくるその優しい笑顔はなんなのか。
見つめ返す事しか出来ずすぐには起き上がれなかった。
米「おい‥」
政「なんだかエロくねーか‥?」
王子はゆっくり姫を起こせば片方はスカートから見えてる脚を撫でている。
春「おお‥」
ヤ「//////」
「体は平気か?」
「‥え、えぇ‥」
「改めて、僕とお城へ行ってくれませんか」
「‥」
白雪姫は頷いたら、抱えようと距離を詰める王子に反射的に胸板を強く押す。
姫が暴れそうなので王子はゆっくり宥めた。
「力を抜いて‥」
「‥!!?」
固まった姫の脚に口付けし体を抱え上げた。
ナレーションが入りステージに残り続ける王子の額から汗が伝う。
幕がゆっくり閉まっていく際に軍司は真剣な目つきで本城を刺す。
「‥本城さん‥」
「!!」
本城の瞳がひどく揺らいでいた。
ヒロミは王子がなにか喋った後のポンの様子がおかしい事が分かった。
「ッ‥‥/////」
幕が閉まり、野次やら拍手も混じる。
本城は信じられなくて強く服を握り締め、唇を噛み締めている。
もう気付いたかと軍司は吐露した。
「教えてくれたっていーだろ‥後悔するとこだったぜ‥」
本城は唇が震え言いたいことがたくさんあると言葉が出ないんだなと知る。
頭に血が昇ったような熱さが一気にくる。
「‥‥」
軍司は腕が限界だったがあまりにも可愛いくて、
唇を近付ければ制止してきた手のひらに口付けた。
目の前のこの生意気な男をどうしてやろうかと本城は頭がいっぱいで、
軍司に下されたらようやく声が出た。
「‥軍司か‥?」
「‥‥はい」
本城は向こうを向いてしまい震えていた。
「すみません‥っ」
本城さんをこんな簡単に触れることなんてない。
この格好や劇を通して本当の姫のように後ろから抱きしめてしまっていた。
考えたらとんでもねー事してるってようやく血が引いてきた。
「どーいうつもりだ‥ッ」
「‥本城さんを観に来て。たまたま頼まれたんス、代役を‥騙したつもりじゃねー」
激励を送りに来た人たちは異様な空気の二人に近寄れなかった。
「言えよ‥」
本城はしがみついてる軍司を振り払うまで、
あの妙な笑顔も涙も真剣な演技も蘇る。プライドも傷付けられた。
「すみません‥でした‥っ」
「‥離れろ」
「はい‥っ」
「後で説教な」
耳まで赤くなってる本城に気付けないほど軍司は慌てて追いかける。
着替えをしてる本城の横で軍司も急いで帰り支度をする。
「付いてくんな!」
「っ‥本城さん」
「前のおまえに戻ってんぞ」
昔は本城の後ろをずっと追いかけていたが今ではやっと向き合って話せたばかりだ。
ヒロミたちはポンを見つける。何故か軍司も一緒だった。
ヒ「ポン‥」
表情からして事情をすぐに聞いてやりたかったのに春道たちが先に声をかけてしまった。
春「よー!後半よかったぜ〜茶化しに来たのに見入っちまってよーハハハハ」
ゼ「感動しました‥!!!」
本城は大人数を目の当たりにして唖然とした。軍司の連れまでいる。
ヤ「めちゃくちゃ綺麗でしたよ!」
亜「遠くからだと本当の女みてーでドキドキしたぜ‥」
「うるせーー!!!オレぁ帰る!」
ヒ「春道やめとけ、ポンは慣れねーことして疲れてんだ。解散しよーぜ、オレは送ってくっからよ」
春「んだよ、忙しねーな」
秀吉たちは白雪姫役が本城だと知らず驚いていた。
秀「あいつ、それでここに来たのか?」
政「なー軍司、どこ行った?」
米「さっきまでいたぜ」
軍司は一人になり立ちすくしていた。
「やっちまった‥‥。あした謝んねーと。やり過ぎちまった‥」
見格好のせいか夢中に演じてしまっていたのもあるが、
引き受けた時点で下心があったようなもんだと今更気付く。
長「いたいた!岩城くん、お礼したかったのに」
「‥‥」
長「出店の好きなの奢るよ」
「わりーけど‥食欲なくて」
長「そう?なら何がいいかな‥」
「いらないっス。何も」
充分もらったと軍司は引き止めようとする先輩を断って帰ってしまった。
***
ヒ「ポン、大丈夫か?様子がおかしくて心配だったんだよ」
「‥ヒロミ‥‥」
ヒ「!?‥ちょっとこっち来い」
涙を溜めていたポンを人気のない場所へ連れて行き話を聞いた。
ヒ「そうか‥まさか軍司とはな‥‥さすがに分かんなかったぜ」
「‥あいつなんなんだよ‥わけ分かんねー‥」
ヒ「急な代役だったんだろ。盛り上がっててあいつも熱が入っちまったんだよ」
「そーじゃねー‥それはオレが一番分かってんだよ‥!だから怒れなかった‥」
ポンは今度は膝から崩れ落ちるように地べたに付いたかと思ったら頭を抱え出す。
「‥ぐあーーーー‥ッ!!!オレのファーストキスー‥ッ‥」
「‥‥」
涙の理由が分かりヒロミはかける言葉もない。
ヒ「なんの慰めにもなんねーけどよ‥劇すげー良かったぜ」
「‥‥盛り上がってたな。頭真っ白だったけどよ、セリフはちゃんと出てきたぜ」
見格好に合うようちゃんと女らしさを意識したつもりだ。
もしあれが知らねー奴だったら殴っても気が済まなかっただろーから、
まだ良かったかもしれねーなと叫んで話してたら少し落ち着いてきた。
「‥軍司にやっぱ会ってくるわ」
「おう、呼んできてやろーか」
「わりーな‥ヒロミ」
***
知らせを受けた軍司は家から走って来た。
「‥まーた汗だくだなー」
「‥本城さん‥っ、話ってなんスか」
「座れ。ん!」
二人は隣に座り、本城はハンカチを渡す。
「えっ‥」
受け取らないから顔に流れる大粒の汗を拭いてあげた。
「軍司ー」
「/////は‥はいっ」
「おまえの演技、好評だったみてーだぜ」
「!‥」
「劇は思い出に残ったけどよー、先輩のファーストキス奪うのはどうなんだよ?‥ありえねーだろ」
「ッ‥ぁ‥‥ファースト‥キス‥」
「おめーもじゃねーと許さねーぞ」
「/////」
殴られるのを当然覚悟して来た軍司は面食らった。
「‥いや‥、オレも‥‥っスよ?////」
「ふーーーーん?バカだなーー‥オレにしちまってよ」
汗だくで赤面してる軍司を見て少し気が晴れた。
思い出に残っちまうファーストキスは不幸中の幸いというか?
先に思い出したとしても軍司だしな。良くねーけど。
「調子に乗りました‥」
「ほんとーになぁ〜‥飯奢れよな」
「!あ、急いで来たので財布置いてきちまって‥‥本城さん、今日はオレん家来てください」
「はぁ?」
「今夜焼肉なんスよ。食べに来ますか?」
「なに!?焼肉!?‥そーいや昼あんま食ってなくてよ、緊張し過ぎて‥。聞いたら余計腹減ってきたぜ」
「行きましょう」
「!」
‥行ってくれませんか‥
お城へ‥末永く‥
‥愛している‥
「本城さん?」
「ぅ‥いや、劇が抜けきれてーねーかも‥////」
「?」
軍司ん家で歓迎され焼肉パーティー。
たくさんご馳走してくれてまるで劇が続いてるみたいでおかしかった。
演目は白雪姫。
文化祭での来客など見込めず他校の助っ人として強制参加となる。
代わりにみんなの赤点をチャラにしてもらえるとの事だった。
「ド、メインじゃねーか!!」
ヒ「がんばれよ、応援しに行くからよ笑」
マ「オレも観に行ってやるぜ」
「やだぜ〜〜〜‥セリフ多そうじゃん」
勝手に噂は広まるもんで、当たってしまった本城はもしかしたらと不安になる。
初めはヒロミとマコくらいしか観にこないだろうと思っていたから。
練習の際にはヒロミが付いて来てくれた。
ヘアセットやメイクまでされてちゃんと服装もきっちり姫の格好に変身していた。
ヒ「キレーじゃねーか!見違えるな」
「ばか言うな!マジでやるのかよ〜〜‥恥ずかし過ぎんだろ‥」
わりと本腰でやる感じに本城はそわそわし出しヒロミに耳打ちする。
「あのよ、‥軍司には来ねえようにして欲しいんだ‥あいつが観に来るわけねーけど」
ヒ「軍司にか?」
「ん。かっこわりー姿見られたくねーし‥」
ヒ「フッ、そーだな。いちよう見張っとくぜ」
「さんきゅー」
校内で会話してる二人から耳にしていた軍司。
「ここじゃ文化祭なんてやっても誰も寄りつかねーからよー、
三年でも暇だろって他校の助っ人に呼ばれたみたいだぜ。劇みてー」
「ほー」
「しかもお姫様役だとよ」
「は?冗談だろ?」
「(‥三年‥)オイ、助っ人って誰のことだ?」
「え‥あのマスクをたまに付けてるボーヤさんとこのだよ」
「!?(助っ人で姫役?なに引き受けてんだあの人は‥)」
***
ヒロミやマコは観にきてくれるらしいが大勢では来ないで欲しいと思っていた本城。
「王子役がバッくれた!?うそだろ‥どーすんだよ」
せっかく練習して覚悟を決めてきたのに。
でもこれで中止になるかもしれないという淡い期待は演劇部部長に速攻消される。
長「代役立てるから」
「当日にか!?」
長「定番な話だしなんとかなる」
「えー‥中止とかじゃねーの?」
長「探してくる!」
「行っちまいやがった‥」
他校の文化祭に行くことがバレた軍司は秀吉たちまで付いてきてしまっていた。
「マジで来たのかよ」
「いーじゃねーか暇だし」
「同じく」「同じく」
秀吉、マサ、コメ、ゼットンは文化祭を楽しんでいた。
軍司は上手く抜けて劇を観に行こうと人混みに紛れて消え去る。
長「劇に間に合わなくなる‥!誰か王子役を。主役だよ?誰か主役になりたい人ー!?」
駆けるうさぎのように慌てて募集してる妙な人を見つけた。
「なぁ、」
長「え!君希望!?」
「は?聞きてーんだけど、」
長「来て来て!良かったー‥!」
「ちょっと、あの、劇の王子役って‥!?」
かなり焦ってるのか腕を掴んで強引に進む他校の先輩らしき人。
長「あぁ、王子役が来なくて。わるいけどセリフ少なくて簡単だしアドリブも良いんでちょちょいとやって欲しいんだけど」
「はぁ‥‥相手役は?」
忙しなく部屋に連れられ簡単に説明を受ける。
長「まだ時間あるから頭に叩き込んで。メイクや着替えはオレらがやるんで座って」
「‥は、はぁ‥」
長「ごめんね、後でお礼するから」
メイクや衣装など担当する先輩たちも真剣で気圧される。
きっと劇を成功させたかったんだろうと軍司は引き受けてしまった。
徐々に格好が仕上がりウィッグまでかぶせられる。
長「男前!」
肩を叩かれ鏡を見たら信じられない姿が目に映る。
ちゃんと王子になってる。しばらく凝視してしまった。
「メイクすげー‥」
長「プロ目指してるからね」
「こりゃいけるかも」「楽しみだな」
先輩方は頼もしかった。ここに来なきゃ出会うこともねー人たちだ。来て良かったかもな。
なにより、オレ、かっこいい‥!と軍司は感動した。
「ハッ‥‥あの、姫役は?」
「あぁ、もうとっくに体育館で待機してるよ」
鼓動が高鳴った。
これはかっこわりーとこ見せられねー‥と身振り手振りで少ないセリフをまた復唱した。
***
体育館裏と幕が閉じたステージでキャストは合流。
「見つかったのか‥!だれなんだ‥?」
長「王子のとこ軽く通すよ」
「お、おう!」
本城は他校の誰かだと思っていたが、軍司はしばらく見入って言葉を失っていた。
細いからか服装に違和感はない。
髪型もセットアップされ髪飾りまで付いている。
メイクを施されよく見たらキラキラ、ツヤツヤしている。
その上動く度に動きやすいように切れ目が入ったスカートが柔らかくなびき、
脚がちらちら覗き見えて軍司は目が飛び出そうだった。
「集中」
「!」
本城に指でつつかれ至近距離で目が合う。
「よろしくな」
「‥はい‥っ」
見知った物語の王子はセリフはそんなにないが最初と最後に出番でメインだ。
軍司は深呼吸し動いてセリフを口にすれば二人のイメージが浮かび上がった。
***
軍司を探す秀吉たちは体育館の人混みに紛れていた。
ゼ「すげー人だな」
政「おー、この時間あんまイベントないからじゃねー?」
米「軍司いねーなぁ」
秀「丁度始まるみてーだぜ?」
演劇部の部長は集客にも力を入れていた。
一方、ヒロミとマコはすでに着いていて、入り口を遠くから見張っていたヒロミは
秀吉たちの姿に驚いたが周りも念の為見渡し軍司が居ないのを確認する。
マ「お、そろそろ始まるみてーだぞ」
ヒ「‥なんかオレまで緊張してきた」
劇が始まると姫役が出た際は男たちがわいていた。男子校のノリみたいな空気だ。
ヒ「ポンちょっと赤くなってんな笑」
マ「頬紅じゃねーのか?」
王子役も登場する。
緊張していたが目の前にいる白雪姫を見ているだけで周りの音は聞こえなくなる。
そのおかげで集中できた。
しばらくして春道、ヤスたち三人が中に入ったがヒロミは気付かなかった。
春「おー、盛り上がってんじゃねーか」
ヤ「白雪姫役がポンさんだって」
亜「信じられん‥‥かわいくねーか?」
ヤ「遠くからだけどみんなキレーだなー。ほりが深い‥!」
春「あー?でもよーありゃポンなんだろ?ないない」
クライマックスへ向かってあっという間だった。
王子は七人の小人をよそに棺に敷き詰められた花々の元で眠る姫へ駆け寄る。
「‥美しい白雪姫‥頼むから目を覚ましてくれ‥!
君と出会った時からずっと‥‥ずっと頭から離れないんだ‥‥‥愛している‥‥」
鼻をすする音に秀吉は横を向いたらゼットンが泣いていてギョッとした。
冷やかしに来た春道は普通に見入ってしまっていた。
顔に水滴が落ちてきて王子が泣いていると驚き本城の口は薄ら開いた。
目はまだ開けられない。
「お願いだ‥また歌ってくれ‥!今度はお城で‥末永く‥共に暮らそう‥」
唇が重なると会場がざわつき始めた。
春「熱演だな‥」
ヤ「え‥!?」
マジでキスしてねーか?と誰かの声がする。
ヒ「あの王子は誰だ‥?」
本城はとっさに胸ぐらを掴みそうになったが、盛り上がってる劇を台無しにできない。
堪えてゆっくり目を見開く。
「‥‥」
会場の騒がしい音。
涙が伝ったあとか汗なのか濃いメイクの上でも近くだとよく見えた。
真っ直ぐ見つめてくるその優しい笑顔はなんなのか。
見つめ返す事しか出来ずすぐには起き上がれなかった。
米「おい‥」
政「なんだかエロくねーか‥?」
王子はゆっくり姫を起こせば片方はスカートから見えてる脚を撫でている。
春「おお‥」
ヤ「//////」
「体は平気か?」
「‥え、えぇ‥」
「改めて、僕とお城へ行ってくれませんか」
「‥」
白雪姫は頷いたら、抱えようと距離を詰める王子に反射的に胸板を強く押す。
姫が暴れそうなので王子はゆっくり宥めた。
「力を抜いて‥」
「‥!!?」
固まった姫の脚に口付けし体を抱え上げた。
ナレーションが入りステージに残り続ける王子の額から汗が伝う。
幕がゆっくり閉まっていく際に軍司は真剣な目つきで本城を刺す。
「‥本城さん‥」
「!!」
本城の瞳がひどく揺らいでいた。
ヒロミは王子がなにか喋った後のポンの様子がおかしい事が分かった。
「ッ‥‥/////」
幕が閉まり、野次やら拍手も混じる。
本城は信じられなくて強く服を握り締め、唇を噛み締めている。
もう気付いたかと軍司は吐露した。
「教えてくれたっていーだろ‥後悔するとこだったぜ‥」
本城は唇が震え言いたいことがたくさんあると言葉が出ないんだなと知る。
頭に血が昇ったような熱さが一気にくる。
「‥‥」
軍司は腕が限界だったがあまりにも可愛いくて、
唇を近付ければ制止してきた手のひらに口付けた。
目の前のこの生意気な男をどうしてやろうかと本城は頭がいっぱいで、
軍司に下されたらようやく声が出た。
「‥軍司か‥?」
「‥‥はい」
本城は向こうを向いてしまい震えていた。
「すみません‥っ」
本城さんをこんな簡単に触れることなんてない。
この格好や劇を通して本当の姫のように後ろから抱きしめてしまっていた。
考えたらとんでもねー事してるってようやく血が引いてきた。
「どーいうつもりだ‥ッ」
「‥本城さんを観に来て。たまたま頼まれたんス、代役を‥騙したつもりじゃねー」
激励を送りに来た人たちは異様な空気の二人に近寄れなかった。
「言えよ‥」
本城はしがみついてる軍司を振り払うまで、
あの妙な笑顔も涙も真剣な演技も蘇る。プライドも傷付けられた。
「すみません‥でした‥っ」
「‥離れろ」
「はい‥っ」
「後で説教な」
耳まで赤くなってる本城に気付けないほど軍司は慌てて追いかける。
着替えをしてる本城の横で軍司も急いで帰り支度をする。
「付いてくんな!」
「っ‥本城さん」
「前のおまえに戻ってんぞ」
昔は本城の後ろをずっと追いかけていたが今ではやっと向き合って話せたばかりだ。
ヒロミたちはポンを見つける。何故か軍司も一緒だった。
ヒ「ポン‥」
表情からして事情をすぐに聞いてやりたかったのに春道たちが先に声をかけてしまった。
春「よー!後半よかったぜ〜茶化しに来たのに見入っちまってよーハハハハ」
ゼ「感動しました‥!!!」
本城は大人数を目の当たりにして唖然とした。軍司の連れまでいる。
ヤ「めちゃくちゃ綺麗でしたよ!」
亜「遠くからだと本当の女みてーでドキドキしたぜ‥」
「うるせーー!!!オレぁ帰る!」
ヒ「春道やめとけ、ポンは慣れねーことして疲れてんだ。解散しよーぜ、オレは送ってくっからよ」
春「んだよ、忙しねーな」
秀吉たちは白雪姫役が本城だと知らず驚いていた。
秀「あいつ、それでここに来たのか?」
政「なー軍司、どこ行った?」
米「さっきまでいたぜ」
軍司は一人になり立ちすくしていた。
「やっちまった‥‥。あした謝んねーと。やり過ぎちまった‥」
見格好のせいか夢中に演じてしまっていたのもあるが、
引き受けた時点で下心があったようなもんだと今更気付く。
長「いたいた!岩城くん、お礼したかったのに」
「‥‥」
長「出店の好きなの奢るよ」
「わりーけど‥食欲なくて」
長「そう?なら何がいいかな‥」
「いらないっス。何も」
充分もらったと軍司は引き止めようとする先輩を断って帰ってしまった。
***
ヒ「ポン、大丈夫か?様子がおかしくて心配だったんだよ」
「‥ヒロミ‥‥」
ヒ「!?‥ちょっとこっち来い」
涙を溜めていたポンを人気のない場所へ連れて行き話を聞いた。
ヒ「そうか‥まさか軍司とはな‥‥さすがに分かんなかったぜ」
「‥あいつなんなんだよ‥わけ分かんねー‥」
ヒ「急な代役だったんだろ。盛り上がっててあいつも熱が入っちまったんだよ」
「そーじゃねー‥それはオレが一番分かってんだよ‥!だから怒れなかった‥」
ポンは今度は膝から崩れ落ちるように地べたに付いたかと思ったら頭を抱え出す。
「‥ぐあーーーー‥ッ!!!オレのファーストキスー‥ッ‥」
「‥‥」
涙の理由が分かりヒロミはかける言葉もない。
ヒ「なんの慰めにもなんねーけどよ‥劇すげー良かったぜ」
「‥‥盛り上がってたな。頭真っ白だったけどよ、セリフはちゃんと出てきたぜ」
見格好に合うようちゃんと女らしさを意識したつもりだ。
もしあれが知らねー奴だったら殴っても気が済まなかっただろーから、
まだ良かったかもしれねーなと叫んで話してたら少し落ち着いてきた。
「‥軍司にやっぱ会ってくるわ」
「おう、呼んできてやろーか」
「わりーな‥ヒロミ」
***
知らせを受けた軍司は家から走って来た。
「‥まーた汗だくだなー」
「‥本城さん‥っ、話ってなんスか」
「座れ。ん!」
二人は隣に座り、本城はハンカチを渡す。
「えっ‥」
受け取らないから顔に流れる大粒の汗を拭いてあげた。
「軍司ー」
「/////は‥はいっ」
「おまえの演技、好評だったみてーだぜ」
「!‥」
「劇は思い出に残ったけどよー、先輩のファーストキス奪うのはどうなんだよ?‥ありえねーだろ」
「ッ‥ぁ‥‥ファースト‥キス‥」
「おめーもじゃねーと許さねーぞ」
「/////」
殴られるのを当然覚悟して来た軍司は面食らった。
「‥いや‥、オレも‥‥っスよ?////」
「ふーーーーん?バカだなーー‥オレにしちまってよ」
汗だくで赤面してる軍司を見て少し気が晴れた。
思い出に残っちまうファーストキスは不幸中の幸いというか?
先に思い出したとしても軍司だしな。良くねーけど。
「調子に乗りました‥」
「ほんとーになぁ〜‥飯奢れよな」
「!あ、急いで来たので財布置いてきちまって‥‥本城さん、今日はオレん家来てください」
「はぁ?」
「今夜焼肉なんスよ。食べに来ますか?」
「なに!?焼肉!?‥そーいや昼あんま食ってなくてよ、緊張し過ぎて‥。聞いたら余計腹減ってきたぜ」
「行きましょう」
「!」
‥行ってくれませんか‥
お城へ‥末永く‥
‥愛している‥
「本城さん?」
「ぅ‥いや、劇が抜けきれてーねーかも‥////」
「?」
軍司ん家で歓迎され焼肉パーティー。
たくさんご馳走してくれてまるで劇が続いてるみたいでおかしかった。
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