台所で食器を洗っていたら「食べるの早いな、春蓉」と言いながら白雄さんが入って来た。

「はい、とても美味しかったので。ご馳走様です」
「そうか。それを聞いたら白蓮も喜ぶな。食事中ずっと、春蓉の口に合うか気にしていたかな」
「そうですか。後で機会がありましたらお伝えします」
「そうしてくれ」
「食器は置いておいてください。洗いますので」

そう言うと、白雄さんは流しに立つ私の隣に立ち「手伝おう」と言うので「大丈夫です。全部私がやります」と言い、食器を受け取ろうとするが無視をされた。

「一人でこの量をやるのは大変だろ。二人でやれば、苦労も半分だ」
「いいえ、私一人でやります。私は居候です。それ位します」

強行的に白雄さんが持っているお皿を奪おうとしたら頭突きをされた。
本気ではなかったのだろうが、かなり痛い。
なにしやがる、このお坊ちゃん……！

「春蓉、居候じゃない。家族だ」

平然とした様子でそう言う白雄さんの言葉を「家族じゃないです」と否定すると、またも頭突きをされた。

「ぐぁぁ……！」
「春蓉、学習したとは思うが、また居候だとか家族じゃないだとか言ったら頭突きするからな」

綺麗な微笑みを浮かべながら言う白雄さんに反抗しようとしたら「学習したよな？」と有無を言わせぬ言葉の圧力をかけてきた。
うっ……、この圧力……。
伯母さんと似たものを感じる……！
ぐっと我慢して、致し方なく一緒にお皿を洗う事にする。
始終無言でお皿を洗っていたら徐に白雄さんが「春蓉、もう一人じゃないんだよ」と言った。

「今日からここがお前の家で、俺たちや紅炎たちも家族だ。もう、寂しくない」
「……」

脳裏に、昔の自分が過った。
誰もいない部屋で泣きじゃくる自分。
思わず顔面が歪んだ。
思い出したくもない記憶だ。

「いいんです。私は、慣れてますから」
「慣れ過ぎて、どうすればいいかわからないんだろ？お前はいつも、親族が集まると居心地悪そうにして気が付くと一人になりたがっていたな」
「一人が好きなんです」

一人なら誰も傷付けない。
自分だけを信用していればいい。
自分のご機嫌だけ窺っていればいい。

「そうか、だが今日からは嫌だと言っても一人にはしないぞ」

白雄さんの善意に苛立ちを感じ思わず「余計なお世話だ！」と怒鳴ってしまった。
直ぐにはっと我に返り「申し訳ありません」と謝罪をする。
あぁ、でももやもやする。
確かに、私が欲しかった言葉のはずなのに何故それをもっと昔に言ってくれなかったのかと理不尽な怒りが胸にわだかまる。
最後の一枚を洗い終え、直ぐに「部屋に戻ります」と一言断り台所から逃げるように立ち去った。
これだから、人と関わるのは嫌いなんだ。
無意味に心乱されるのはとても嫌いだ。