おんぼろアパート前で、迎えに来てくれた練くんの高級車の助手席に乗り込みシートベルトをすれば、静かに車はまた走り出す。
家庭教師のアルバイトは初めてなので何をすればいいのかよくわからず、とりあえずネットで家庭教師の仕事について調べたのだけれど、どこも「勉強力よりコミュニケーション力」という文言が並ぶ。
そんな気楽な仕事なのか、家庭教師。
とりあえず、教えてもらっていた三人の情報を確認する。
練白蓮くん、十八歳。
性格は明朗快活で、誰からも信頼され好かれる性格。国語や英語、歴史は問題ないが、理数系がやや不安。進路は国文科。
練紅覇くん、十三歳。
人の痛みをよく理解できる優しい子。何でもそつなくこなすが、本当にそつなくなので絶対的な物にならない所が気になる。
練紅玉ちゃん、同じく十三歳。
少し引っ込み思案で人見知りではあるが、いい子。白蓮くん同様、文系は問題ないが数学で躓いている様子。基礎からお願いしたいとの事。
尚、紅覇くんと紅玉ちゃんは腹違いの兄妹である。あまり、家族関係には触れない事と事前に忠告があった。
怖い。
とりあえず理数系をメインに教えてくれとの事で、教材は練くんの方で用意してくれるので私は筆記用具だけでいいと言われている。
口に合うかどうかさっぱりわからないが、高級おせんべいを手土産に急遽買って来たのだが大丈夫だろうか。
一応、練くんにこのメーカーで問題ないか電話をしたら、おかしそうに笑いながら「律儀だな。雷が好きな物なら、なんでもいいよ」と優しく言われた。
だが、庶民の好みとお金持ちの好みは土俵が全く違うと思っているので、やはりそれなりにお値段のする物を購入した。

「そういえば、練くんって何人兄弟なの？」

そこそこ密度の高い交流をしているものの、練くんの事をあまり知らないなと思い出した。
私の質問に「俺が長男で、次男の白蓮、その下に長女の白瑛、末っ子の白龍だ」と簡単に説明してくれる。

「へー、うちと似た感じだ」
「雷の家はどうなんだ？」
「うちは私が長女で、その下に弟弟妹だよ」

私も簡潔に伝えると、練くんが「長女……？」と心底不思議そうな声をだす。

「弟妹の話しなかったっけ？」
「いや、聞いてはいたが、その……あまり長女らしくないなと……」

俺の妹の方がしっかりしている気がして……、とごにょごにょ言う練くんに「おのれ……」と低く言えば、割と本気で「すまない」と反省した声色で謝ってくれたので許そう。
運転をしている人に話しかけるのは少々迷惑かと思ったので、外を見れば高級住宅地が車窓に広がっており「お金持ちの家に行くんだな」と今更ながら緊張してきた。
失礼がないよう、気をつけないと！と気を引き締めたのだが、玄関前でスタンバイしていたご弟妹、従弟妹様たち半数から敵意の目を向けられては心折れそうにもなる。
ただでさえ帰りたくなっているってのにこの仕打ちはないぜ、練くん。
状況の説明をしてほしい。