皇子と私
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あれの一件から一月が経ち、漸く落ち着きを見せた今日この頃。
一週間くらい白雄様の顔を見られず、白雄様に「意外と根に持つな」と言われたが、当たり前だ。危うく、初体験を奪われる所だったのだから。
そう、あれは白雄様のお戯れだったのだ。気にすることはない、と自分に言い聞かせてやっとまともに向き合えるようになったのだから。
今夜は、白雄様の十六歳の誕生会。
呼び出しはかからないだろうと思い風呂に入って部屋に戻り扉を開けると、真っ先に目に飛び込んで来たのは豪奢な礼服を着て私の書物を読んでいる白雄様だった。
「……何してるんですか、白雄様」
脱力する私の問いかけに、白雄様は書物から目を離さずに「お前に用があるから待っていた」と仰った。
「主役が抜け出していいんですか?」
寝台に腰掛けている白雄様の前に椅子を待ってきて座ると、漸く書物を閉じて私の方を見て「意外だな。お前が恋愛小説を読むとはな」と言った。
おいこら、なんで歴史書の奥にしまっておいた本を持っているんだ。羞恥で変な悲鳴がでそうになるのを抑えながら、話を逸らそうと「で、宴会抜け出してまでのご用向きは?」と尋ねると神妙な顔つきで「頼み事が、あってな」と仰る。
「白雄様が私に頼み事ですか?」
聞くに、今日の宴会で来た煌国と同盟関係にある小国の王が自国に留学しないかと誘ってきたそうだ。だが、その小国には色々と黒い噂がある。九割方罠であろうと判断される。
「じゃあ、行かない方がいいんじゃないですか?」
「いや敢えて飛び込み、尻尾を出した所で叩く」
「皇子が、囮ですか?」
心配そうに呟くと、白雄様はニヤリと笑い「心配か?」と尋ねて来た。
心配じゃない訳がない。聞くに、その小国までの距離はかなりある。私の力が及ばない所で白雄様が危険にさらされるのが心配じゃないわけがない。不安そうな顔をしていたのか、白雄様が優しく微笑み頭を撫でながら「大丈夫だ」と言ってくださるのはいいが、子供扱いしないでほしい。
「安心しろ。護衛に紅炎を連れて行く。それに、お前もいるし大丈夫だ」
「私も?」
「そうだ。あまり、人数を連れて行くと怪しまれる。だが、情報を集めてもらいたいし、世話係も欲しい所だ。あとは、もう一人くらい護衛も欲しい。となると、全てを兼ね備えている李鈴が適任だ」
思わず「はぁ?」と言ってしまった。
いや、まぁ、確かに遠くで危険にさらされるのは心配だとは思ったけど、だからと言って働かせすぎだろ。一人三役こなさせるって酷使させすぎではなかろうか。
私は黙って引き出しから算盤を取り出し白雄様に手渡す。白雄様も黙って算盤を受け取り、暫し考えパチパチと珠を弾き私へと返した。
掲示された額に目ん玉飛び出そうになる。こ、これだけあれば高くて手が出せなかったあの本もあの薬草も買える……!
「白雄様!絶対に払ってくださいね!」
興奮気味にそう言うと、白雄様は苦笑しながら「お前がそこまで喜ぶのを見るのは久々だな」と仰った。
「だって、だって……!これだけあったら、あれも買えて、あれも……!あぁ、あれも欲しいし……!」
物欲丸出しな発言に対して、白雄様はしみじみと「お前でも買い物をするんだな」と大変、私に対して失礼な発言をされたが、今は全て許そう。
「買い物か……。李鈴、帰ってきたら一緒に買い物に行かないか?」
「白雄様、何度も言ってるかも知れませんが、何度だって言いますよ。極力、私と好意的な仲であると思われるのは、白雄様のお立場的によくないことです」
そう言うと、白雄様は寂しそうな顔を一瞬して「変装すれば、構わないか?」と尋ねて来た。
「そんなに私と買い物に行きたいんですか?」
呆れながら聞くと、白雄様は素直に「あぁ、凄く行きたい」と仰る。その瞳は、不安で揺らいでいた。
心配になり「なにがそんなに不安なんですか?」と聞けば、白雄様は拳をギュッと握り話始めた。
「戦争に行っている以上、俺はいつ死ぬかわからない。もし、死んだ時、家族だけではなく、お前の事も思い出したいんだ。俺の全てを受け入れてくれた李鈴の事を」
「白雄様……」
「それに、帝位を継承したら今以上に会えなくなる。そうしたら、俺は李鈴との思い出を支えにするしかない!李鈴、俺は不安なんだ!死ぬことも、国を背負うことも、李鈴に会えなくなることも!」
吐き出す様に叫ぶ白雄様が痛ましく、思わず白雄様を抱きしめた。白雄様も不安を埋める様に私を抱きしめ返す。その震える背中をゆっくり撫で「大丈夫ですよ」と語り掛ける。
「白雄様は背負い込みすぎです。十六と言えど、まだ子供です。不安に思う事だって沢山あります。もし、貴方が帝位を継承なさった後に不安に押し潰されそうな日が来たら、いつでも言ってください。私は身分など捨てて貴方に会いに行きます。そして、こうして不安がなくなるまで抱きしめます。思い出も沢山作りましょう。嫌と言う程に」
「あぁ、作ろう……」
「さあ、もう部屋へ戻りましょう。結構、お酒飲んだんじゃないですか?送りますよ」
そう言い体を離そうとするも、白雄様は私から離れようとしない。
「白雄様」
「李鈴。添い寝してくれ」
「今日は随分と甘えてくれますね。普段もそれくらい可愛げがあったらいいんですけどね」
「うるさい」
子供っぽく頬を膨らます白雄様に思わず笑ってしまった。ポンポンと背中を叩きながら「着替えをしてきたらいいですよ」と言えば、嬉しそうに顔を輝かせながら立ち上がり「すぐ用意をしてくる」と言って走り去ってしまった。
やれやれ、顔には出ていなかったけれど、あれはだいぶお酒を飲んでいたな。その所為で、気が弱っていたのだろう。
白雄様は、幼い頃から国を背負うことを義務付けられている所為で、甘えるという事を知らない。故に、不器用なのだ。私といる時とて、抱えているもののほんの表層にすぎない。
「もっと、上手く甘えさせてあげられたらいいんだけどね」
白雄様よりもっと子供の私には難しい事だ。
一週間くらい白雄様の顔を見られず、白雄様に「意外と根に持つな」と言われたが、当たり前だ。危うく、初体験を奪われる所だったのだから。
そう、あれは白雄様のお戯れだったのだ。気にすることはない、と自分に言い聞かせてやっとまともに向き合えるようになったのだから。
今夜は、白雄様の十六歳の誕生会。
呼び出しはかからないだろうと思い風呂に入って部屋に戻り扉を開けると、真っ先に目に飛び込んで来たのは豪奢な礼服を着て私の書物を読んでいる白雄様だった。
「……何してるんですか、白雄様」
脱力する私の問いかけに、白雄様は書物から目を離さずに「お前に用があるから待っていた」と仰った。
「主役が抜け出していいんですか?」
寝台に腰掛けている白雄様の前に椅子を待ってきて座ると、漸く書物を閉じて私の方を見て「意外だな。お前が恋愛小説を読むとはな」と言った。
おいこら、なんで歴史書の奥にしまっておいた本を持っているんだ。羞恥で変な悲鳴がでそうになるのを抑えながら、話を逸らそうと「で、宴会抜け出してまでのご用向きは?」と尋ねると神妙な顔つきで「頼み事が、あってな」と仰る。
「白雄様が私に頼み事ですか?」
聞くに、今日の宴会で来た煌国と同盟関係にある小国の王が自国に留学しないかと誘ってきたそうだ。だが、その小国には色々と黒い噂がある。九割方罠であろうと判断される。
「じゃあ、行かない方がいいんじゃないですか?」
「いや敢えて飛び込み、尻尾を出した所で叩く」
「皇子が、囮ですか?」
心配そうに呟くと、白雄様はニヤリと笑い「心配か?」と尋ねて来た。
心配じゃない訳がない。聞くに、その小国までの距離はかなりある。私の力が及ばない所で白雄様が危険にさらされるのが心配じゃないわけがない。不安そうな顔をしていたのか、白雄様が優しく微笑み頭を撫でながら「大丈夫だ」と言ってくださるのはいいが、子供扱いしないでほしい。
「安心しろ。護衛に紅炎を連れて行く。それに、お前もいるし大丈夫だ」
「私も?」
「そうだ。あまり、人数を連れて行くと怪しまれる。だが、情報を集めてもらいたいし、世話係も欲しい所だ。あとは、もう一人くらい護衛も欲しい。となると、全てを兼ね備えている李鈴が適任だ」
思わず「はぁ?」と言ってしまった。
いや、まぁ、確かに遠くで危険にさらされるのは心配だとは思ったけど、だからと言って働かせすぎだろ。一人三役こなさせるって酷使させすぎではなかろうか。
私は黙って引き出しから算盤を取り出し白雄様に手渡す。白雄様も黙って算盤を受け取り、暫し考えパチパチと珠を弾き私へと返した。
掲示された額に目ん玉飛び出そうになる。こ、これだけあれば高くて手が出せなかったあの本もあの薬草も買える……!
「白雄様!絶対に払ってくださいね!」
興奮気味にそう言うと、白雄様は苦笑しながら「お前がそこまで喜ぶのを見るのは久々だな」と仰った。
「だって、だって……!これだけあったら、あれも買えて、あれも……!あぁ、あれも欲しいし……!」
物欲丸出しな発言に対して、白雄様はしみじみと「お前でも買い物をするんだな」と大変、私に対して失礼な発言をされたが、今は全て許そう。
「買い物か……。李鈴、帰ってきたら一緒に買い物に行かないか?」
「白雄様、何度も言ってるかも知れませんが、何度だって言いますよ。極力、私と好意的な仲であると思われるのは、白雄様のお立場的によくないことです」
そう言うと、白雄様は寂しそうな顔を一瞬して「変装すれば、構わないか?」と尋ねて来た。
「そんなに私と買い物に行きたいんですか?」
呆れながら聞くと、白雄様は素直に「あぁ、凄く行きたい」と仰る。その瞳は、不安で揺らいでいた。
心配になり「なにがそんなに不安なんですか?」と聞けば、白雄様は拳をギュッと握り話始めた。
「戦争に行っている以上、俺はいつ死ぬかわからない。もし、死んだ時、家族だけではなく、お前の事も思い出したいんだ。俺の全てを受け入れてくれた李鈴の事を」
「白雄様……」
「それに、帝位を継承したら今以上に会えなくなる。そうしたら、俺は李鈴との思い出を支えにするしかない!李鈴、俺は不安なんだ!死ぬことも、国を背負うことも、李鈴に会えなくなることも!」
吐き出す様に叫ぶ白雄様が痛ましく、思わず白雄様を抱きしめた。白雄様も不安を埋める様に私を抱きしめ返す。その震える背中をゆっくり撫で「大丈夫ですよ」と語り掛ける。
「白雄様は背負い込みすぎです。十六と言えど、まだ子供です。不安に思う事だって沢山あります。もし、貴方が帝位を継承なさった後に不安に押し潰されそうな日が来たら、いつでも言ってください。私は身分など捨てて貴方に会いに行きます。そして、こうして不安がなくなるまで抱きしめます。思い出も沢山作りましょう。嫌と言う程に」
「あぁ、作ろう……」
「さあ、もう部屋へ戻りましょう。結構、お酒飲んだんじゃないですか?送りますよ」
そう言い体を離そうとするも、白雄様は私から離れようとしない。
「白雄様」
「李鈴。添い寝してくれ」
「今日は随分と甘えてくれますね。普段もそれくらい可愛げがあったらいいんですけどね」
「うるさい」
子供っぽく頬を膨らます白雄様に思わず笑ってしまった。ポンポンと背中を叩きながら「着替えをしてきたらいいですよ」と言えば、嬉しそうに顔を輝かせながら立ち上がり「すぐ用意をしてくる」と言って走り去ってしまった。
やれやれ、顔には出ていなかったけれど、あれはだいぶお酒を飲んでいたな。その所為で、気が弱っていたのだろう。
白雄様は、幼い頃から国を背負うことを義務付けられている所為で、甘えるという事を知らない。故に、不器用なのだ。私といる時とて、抱えているもののほんの表層にすぎない。
「もっと、上手く甘えさせてあげられたらいいんだけどね」
白雄様よりもっと子供の私には難しい事だ。