皇子と私
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ふと気が付くと、太陽は沈みきり月明かりが暗い部屋を照らしていた。
随分、作業に没頭していたようだ。
いつもなら、白雄様付きの従者が来る時間になっても誰も来なかったから、時間も忘れてしまっていた。
月の位置からして今日はもう呼び出しは来ないと予測し、宮廷魔導師専用の浴場で一日の疲れを落として髪を乾かし、さて寝ようとした時だった。
荒々しい足音をたてながら、人の気配が近付いてきた。
押し入りかと、近くに置いてある剣に手を伸ばし臨戦態勢をとると、ノックも何もなしに扉が勢いよく開き、扉は勢いのまま壁に叩き付けられた。
鞘から刀身を引き抜き構えると、そこには月明かりでも分かるほどに険しい顔をした肌着姿の白雄様が仁王立ちしていた。
「白雄様……?」
こんな夜更けにどうしたのかと、鞘に剣を戻しながら聞くが返事はなく真っ直ぐと寝台の側に立つ私に向かって歩き、勢いのまま抱き付かれた。
支えきれずに寝台へと尻餅をつき、なんだなんだと目を白黒させていると、白雄様が細い声で「李鈴」と名を呼んだ。
「ど、どうしたんですか、白雄様?」
問いかけても、ただ細く「李鈴」と私の名を呼ぶだけで答えは返ってこない。
答えの代わりに、名を呼ぶ度に抱き締める力がどんどん強くなっていき、そろそろ絞め殺されそうだ。
「は、白雄様……!痛い!」
流石に悲鳴をあげると、力を緩めてはくれたがそれでも抱き締めるのはやめてくれない。
こういう時、どうすればいいのか……。
とりあえず、背中を撫でながら「お茶、淹れますか?」と聞くと、漸く「頼む」と返答してくれた。
ゆっくりと体を離した白雄様を寝台に座らせ、蝋燭に明かりを灯す。
白雄様の顔色は、ふいていて窺い知れない。
お茶を淹れている間も、白雄様はずっと黙りこみ俯いていた。
「白雄様、お茶が入りましたよ」
そっと手渡し、自分用に愛用の茶杯を取りだし注ぎ、部屋に唯一存在する椅子を白雄様の前に置き、そこに腰掛ける。
暫くお互いに無言でお茶をちびちび飲んでいたが、重い沈黙に堪えきれず「今日は姫たちの所に行ったんじゃないんですか?」と聞くと「正室の所に行った」と仰った。
「そうですか。姫様は喜んだんじゃないですか?」
「あぁ、喜んでいた……。喜んで、お前のことを悪く話していた」
聞くに、正室の姫様が白雄様にこんこんと私や一族に纏わる悪評を吹き込んだらしい。
毒薬を作っているだの、白雄様に取り入って国家転覆を企んでいるだとか。
まあ、よく聞く噂だ。
私自身、もっと酷い話は聞く。
「それで、腹がたって部屋を出て来た」
「えぇ……。それで、どうして私の部屋に来たんですか」
「勢い」
勢い余りすぎでしょうが。
正室の姫様の部屋から私の部屋まで、だいぶ距離ありますけど。
「お前のことをよくも知らずに悪く語るのが許せなかった」
「本当に、白雄様はお優しいですね。大丈夫ですよ。私は誓って、白雄様を、国を裏切りません。だから、気になさらないでください」
空になった茶杯を白雄様から受け取り、部屋まで送るから戻ろうと促すも、白雄様は首をふるばかり。
部屋に戻らずして何処で寝るのかと尋ねると、白雄様は「ここで寝る」と仰り、私の寝台に上がり布団をいそいそと被り横になられた。
「私の唯一の寝床なんですけど。私に何処で寝ろって言うんですか」
そう尋ねると、白雄様は少し詰めて一人分の場所を作ると「こい、李鈴。寒い」と仰る。
頭痛を覚えながら断ろうとするも、白雄様の「李鈴」というすがるような子供の声で呼ばれてしまえば嫌とは言えない。
諦めて白雄様の隣に少し距離をとって横になると、その隙間すら許さないと言わんばかりに私の体を抱き寄せた。
「あーあ、皇子と寝所を共にしたなんて知れたら、本当に命狙われちゃいますよ」
「お前なら、大丈夫だ……。……李鈴。お前は、態度も大きいし口も悪いし小言も多い」
「なんですか、突然。喧嘩なら買いますよ」
「だが、それすらも愛しいくらいお前が可愛い……。大人ぶってるが子供らしい所や、たまに見せる控え目な笑顔や、文句を言いつつも俺の我儘に付き合ってくれる優しさが……好き……だ……」
「どうしました、本当に」
心配になり聞くも、安らかな寝息だけが返ってくる。
うーん、気になるが忘れよう。
自分の匂いと白雄様の匂いとが混じりあうのを感じながら、私も目を閉じた。
随分、作業に没頭していたようだ。
いつもなら、白雄様付きの従者が来る時間になっても誰も来なかったから、時間も忘れてしまっていた。
月の位置からして今日はもう呼び出しは来ないと予測し、宮廷魔導師専用の浴場で一日の疲れを落として髪を乾かし、さて寝ようとした時だった。
荒々しい足音をたてながら、人の気配が近付いてきた。
押し入りかと、近くに置いてある剣に手を伸ばし臨戦態勢をとると、ノックも何もなしに扉が勢いよく開き、扉は勢いのまま壁に叩き付けられた。
鞘から刀身を引き抜き構えると、そこには月明かりでも分かるほどに険しい顔をした肌着姿の白雄様が仁王立ちしていた。
「白雄様……?」
こんな夜更けにどうしたのかと、鞘に剣を戻しながら聞くが返事はなく真っ直ぐと寝台の側に立つ私に向かって歩き、勢いのまま抱き付かれた。
支えきれずに寝台へと尻餅をつき、なんだなんだと目を白黒させていると、白雄様が細い声で「李鈴」と名を呼んだ。
「ど、どうしたんですか、白雄様?」
問いかけても、ただ細く「李鈴」と私の名を呼ぶだけで答えは返ってこない。
答えの代わりに、名を呼ぶ度に抱き締める力がどんどん強くなっていき、そろそろ絞め殺されそうだ。
「は、白雄様……!痛い!」
流石に悲鳴をあげると、力を緩めてはくれたがそれでも抱き締めるのはやめてくれない。
こういう時、どうすればいいのか……。
とりあえず、背中を撫でながら「お茶、淹れますか?」と聞くと、漸く「頼む」と返答してくれた。
ゆっくりと体を離した白雄様を寝台に座らせ、蝋燭に明かりを灯す。
白雄様の顔色は、ふいていて窺い知れない。
お茶を淹れている間も、白雄様はずっと黙りこみ俯いていた。
「白雄様、お茶が入りましたよ」
そっと手渡し、自分用に愛用の茶杯を取りだし注ぎ、部屋に唯一存在する椅子を白雄様の前に置き、そこに腰掛ける。
暫くお互いに無言でお茶をちびちび飲んでいたが、重い沈黙に堪えきれず「今日は姫たちの所に行ったんじゃないんですか?」と聞くと「正室の所に行った」と仰った。
「そうですか。姫様は喜んだんじゃないですか?」
「あぁ、喜んでいた……。喜んで、お前のことを悪く話していた」
聞くに、正室の姫様が白雄様にこんこんと私や一族に纏わる悪評を吹き込んだらしい。
毒薬を作っているだの、白雄様に取り入って国家転覆を企んでいるだとか。
まあ、よく聞く噂だ。
私自身、もっと酷い話は聞く。
「それで、腹がたって部屋を出て来た」
「えぇ……。それで、どうして私の部屋に来たんですか」
「勢い」
勢い余りすぎでしょうが。
正室の姫様の部屋から私の部屋まで、だいぶ距離ありますけど。
「お前のことをよくも知らずに悪く語るのが許せなかった」
「本当に、白雄様はお優しいですね。大丈夫ですよ。私は誓って、白雄様を、国を裏切りません。だから、気になさらないでください」
空になった茶杯を白雄様から受け取り、部屋まで送るから戻ろうと促すも、白雄様は首をふるばかり。
部屋に戻らずして何処で寝るのかと尋ねると、白雄様は「ここで寝る」と仰り、私の寝台に上がり布団をいそいそと被り横になられた。
「私の唯一の寝床なんですけど。私に何処で寝ろって言うんですか」
そう尋ねると、白雄様は少し詰めて一人分の場所を作ると「こい、李鈴。寒い」と仰る。
頭痛を覚えながら断ろうとするも、白雄様の「李鈴」というすがるような子供の声で呼ばれてしまえば嫌とは言えない。
諦めて白雄様の隣に少し距離をとって横になると、その隙間すら許さないと言わんばかりに私の体を抱き寄せた。
「あーあ、皇子と寝所を共にしたなんて知れたら、本当に命狙われちゃいますよ」
「お前なら、大丈夫だ……。……李鈴。お前は、態度も大きいし口も悪いし小言も多い」
「なんですか、突然。喧嘩なら買いますよ」
「だが、それすらも愛しいくらいお前が可愛い……。大人ぶってるが子供らしい所や、たまに見せる控え目な笑顔や、文句を言いつつも俺の我儘に付き合ってくれる優しさが……好き……だ……」
「どうしました、本当に」
心配になり聞くも、安らかな寝息だけが返ってくる。
うーん、気になるが忘れよう。
自分の匂いと白雄様の匂いとが混じりあうのを感じながら、私も目を閉じた。