皇子と私
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呪い師、占い師、魔導師、まあ私の職業を指し示すならそんな言葉だろう。
煌国に昔から仕えている宮廷魔導師の一族が私の家系だ。
城の人間からは、部屋に籠って何やら怪しい事をしている怪しい一族と言われているが、私の一族は魔導師だからと言って体力強化を怠らずに、一般兵に交じって剣の稽古もしている武闘派魔導師だ。
まあ、確かに魔術の研究もしているので怪しいことには変わりないけれど。
今日も研究に一段落つき、さて、寝るかとしていた時だった。
研究室の扉を二度叩く音がした。
扉を開くと、白雄様付きの従者が「白雄様がお呼びです」と言った。
またか、と思いながら「直ぐに行きますとお伝えください」と言って一度帰らせ、私は凝り固まった肩を解しながら、いつものお茶の用意をする。
私が五歳で宮廷魔導師見習いとして城に入り、趣味でお茶を淹れているのを白雄様に見つかってからと言うもの、夜な夜なお茶を淹れるために呼び出されるようになった。
そんな呼び出しも七年目か。
三年目辺りから遠慮がなくなり、マッサージまでやらされている。
気兼ねない関係と言えば聞こえはいいが、歳の近い女がこうも頻繁に第一皇子の部屋に出入りするのはあまり宜しくないだろうし、正室や側室の姫たちは心中穏やかではないだろう。
今日こそガツンと言ってやろうと、茶器一式を持ち白雄様のお部屋へと赴き、足で二度ほど扉を叩く。
失礼だとは重々承知だが如何せん茶器で両手が塞がっているのだから許して欲しい。
暫くして、従者がゆっくりと扉を開けてくれた。
私が中に入ると、一礼して名も知らぬ従者は部屋から去っていく。
「白雄様。李鈴参りました」
「あぁ。茶釜は用意してある」
白雄様は手元の書から目を逸らさず、茶釜を指差す。
取り立てて気にすることなく「プーアル茶でいいですか?」と聞くと「いや、岳西翠蘭をいれてくれ」と仰られた。
岳西翠蘭は緑茶で、朝などに目を覚ますために飲むお茶だ。
そんな物を寝る前に飲んでどうするんですか、と咎めると「今日は徹夜するからな」と仰る。
「仕事熱心なのは大変よろしいですが、体はしっかり休めなくてはいけませんよ」
そう言うと「いや、これは仕事じゃない。白蓮の戦術の宿題の添削だ」と返ってくる。
相変わらず白蓮様の戦術は無茶苦茶らしく、白雄様は渋い顔をされている。
「それは今日でなくてもよいでしょ。添削は逃げませんよ」
「いや、徹夜するのはこれの所為じゃない」
じゃあ、何でですか?と問いかけると「李鈴。枕投げをするぞ」と白蓮様の戦術書を置いて真っ直ぐな瞳で微笑まれた。
私はそれを聞き流し、「プーアル茶淹れますね」とだけ返す。
「それでは寝てしまうだろ!」
「お疲れのようですし」
「嫌だ!お前がうんと言うまで、絶対に飲まないからな!」
「では、私は部屋に帰らせていただきます」
重い茶器一式を持ち出ていこうとしたが、素早く私の襟首を掴んで引き止める白雄様。
「こんな頼み事、李鈴にしかできないんだ!」
「ご弟妹となされればいいじゃないですか」
それこそ、白蓮様なんて喜んで参加するんじゃないですか。
そう言うと、白雄様は「弟妹たちの前ではかっこいい兄上でいたい」と力強く仰った。
呆れながら「今年で十五でしょ。子供じゃないんですから」と言うと、白雄様がぼそりと「若年寄り」と言ったのを私は聞き逃さなかった。
「……かっこつけ魔」
「……精神的年増」
「よーし、かかってこい!クソガキが!」
「年下のお前に言われたくないな!」
結局、枕投げは開戦することになる。
初めは正しい枕投げだったが、枕の半数が布と羽毛と化した辺りから枕で相手を殴っていたし、枕が全て布と羽毛となった頃にはただの取っ組み合いになっていた。
そして気が付けば朝を迎えていたのだった。
夜通し相手を罵りながら暴れていた所為で瀕死の私をよそに、元気な白雄様が「茶を淹れてくれ」と仰った。
くそぅ……体力お化けめ……。
煌国に昔から仕えている宮廷魔導師の一族が私の家系だ。
城の人間からは、部屋に籠って何やら怪しい事をしている怪しい一族と言われているが、私の一族は魔導師だからと言って体力強化を怠らずに、一般兵に交じって剣の稽古もしている武闘派魔導師だ。
まあ、確かに魔術の研究もしているので怪しいことには変わりないけれど。
今日も研究に一段落つき、さて、寝るかとしていた時だった。
研究室の扉を二度叩く音がした。
扉を開くと、白雄様付きの従者が「白雄様がお呼びです」と言った。
またか、と思いながら「直ぐに行きますとお伝えください」と言って一度帰らせ、私は凝り固まった肩を解しながら、いつものお茶の用意をする。
私が五歳で宮廷魔導師見習いとして城に入り、趣味でお茶を淹れているのを白雄様に見つかってからと言うもの、夜な夜なお茶を淹れるために呼び出されるようになった。
そんな呼び出しも七年目か。
三年目辺りから遠慮がなくなり、マッサージまでやらされている。
気兼ねない関係と言えば聞こえはいいが、歳の近い女がこうも頻繁に第一皇子の部屋に出入りするのはあまり宜しくないだろうし、正室や側室の姫たちは心中穏やかではないだろう。
今日こそガツンと言ってやろうと、茶器一式を持ち白雄様のお部屋へと赴き、足で二度ほど扉を叩く。
失礼だとは重々承知だが如何せん茶器で両手が塞がっているのだから許して欲しい。
暫くして、従者がゆっくりと扉を開けてくれた。
私が中に入ると、一礼して名も知らぬ従者は部屋から去っていく。
「白雄様。李鈴参りました」
「あぁ。茶釜は用意してある」
白雄様は手元の書から目を逸らさず、茶釜を指差す。
取り立てて気にすることなく「プーアル茶でいいですか?」と聞くと「いや、岳西翠蘭をいれてくれ」と仰られた。
岳西翠蘭は緑茶で、朝などに目を覚ますために飲むお茶だ。
そんな物を寝る前に飲んでどうするんですか、と咎めると「今日は徹夜するからな」と仰る。
「仕事熱心なのは大変よろしいですが、体はしっかり休めなくてはいけませんよ」
そう言うと「いや、これは仕事じゃない。白蓮の戦術の宿題の添削だ」と返ってくる。
相変わらず白蓮様の戦術は無茶苦茶らしく、白雄様は渋い顔をされている。
「それは今日でなくてもよいでしょ。添削は逃げませんよ」
「いや、徹夜するのはこれの所為じゃない」
じゃあ、何でですか?と問いかけると「李鈴。枕投げをするぞ」と白蓮様の戦術書を置いて真っ直ぐな瞳で微笑まれた。
私はそれを聞き流し、「プーアル茶淹れますね」とだけ返す。
「それでは寝てしまうだろ!」
「お疲れのようですし」
「嫌だ!お前がうんと言うまで、絶対に飲まないからな!」
「では、私は部屋に帰らせていただきます」
重い茶器一式を持ち出ていこうとしたが、素早く私の襟首を掴んで引き止める白雄様。
「こんな頼み事、李鈴にしかできないんだ!」
「ご弟妹となされればいいじゃないですか」
それこそ、白蓮様なんて喜んで参加するんじゃないですか。
そう言うと、白雄様は「弟妹たちの前ではかっこいい兄上でいたい」と力強く仰った。
呆れながら「今年で十五でしょ。子供じゃないんですから」と言うと、白雄様がぼそりと「若年寄り」と言ったのを私は聞き逃さなかった。
「……かっこつけ魔」
「……精神的年増」
「よーし、かかってこい!クソガキが!」
「年下のお前に言われたくないな!」
結局、枕投げは開戦することになる。
初めは正しい枕投げだったが、枕の半数が布と羽毛と化した辺りから枕で相手を殴っていたし、枕が全て布と羽毛となった頃にはただの取っ組み合いになっていた。
そして気が付けば朝を迎えていたのだった。
夜通し相手を罵りながら暴れていた所為で瀕死の私をよそに、元気な白雄様が「茶を淹れてくれ」と仰った。
くそぅ……体力お化けめ……。
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