ご飯まで奢ってもらい、ほくほくしながら「ただいま戻りましたー」と帰宅すると顔のいい男が迎え入れてくれた。

「お帰りなさい、若。随分とお疲れの様ですね」
「……これと出かければこうなる」
「すみません、こんな豪快なお買い物ひさしぶりでつい嬉しくて」

きゃっきゃする私に治崎さんが「五百年ちょっと生きていて、その落ち着きのなさはなんだ」とジト目を向けて来た。

「そうは言いますけど、見た目に反した言葉づかいって違和感あるじゃないですか。それに、この見た目で昔の口調使うと思春期こじらせてるみたいで恥ずかしくて」

私なりに、今どきの若者を観察した結果のテンションなんですけどダメですかー？と小首を傾げながら尋ねれば、治崎さんは「だとしても落ち着きだけは持て」と言って来た。
しょうがないなー。
ちょっと馬鹿そうな感じの方が、人間って優しくしてくれると思うんだけど上手く行かないなー。
言われたからには従おうと思い、背筋を伸ばし「では、本日はお買い物にお付き合いいただき誠にありがとうございました。治崎様」と落ち着きを払い頭を下げ感謝を述べ、顔を上げると割と引き気味な治崎さんの顔が視界に入る。

「いかがなさいました、治崎様」
「落差が……」
「まぁ……。こちらをお望みではございませんでしたか？」

ご要望通り、落ち着きある態度をとっているではありませんか。
ふふふっ、と細く笑う私から少し距離をとる治崎さん。
いやぁ、失礼だな。小僧。

「まあまあ、二人とも。荷物置いて、とりあえず居間に移動しやせんか？」
「そうですね。いつまでも、治崎様に荷物をお持たせするわけにはいきません。ところで、あなた様のお名前をお伺いしても宜しいでしょうか？」

治崎さんから私の服を受け取る顔のいい男が「玄野といいます」と名乗ってくれたので「畏まりました、玄野様。私は鹿乃子と組長様から名を頂きましたが、お好きにお呼びください」と言えば「これは……確かに落差が辛いですね……」と言い出す始末。

「先程よりも不評なのは気の所為でしょうか？」
「もういい。できるだけ、俺には関わるな」
「畏まりました、そのように配慮致します。それでは、玄野様。荷運び、お手伝い頂けますか？」
「わかりやした」

荷物を持っていただき、部屋まで運んでもらうと「言葉づかい、私はさっきのでいいですよ」と言われる。

「私はそんな堅苦しい言葉づかいしてもらう人間ではありやせんから」
「そうは言いますが、私はこの組で一番の新参者ですし立場的なものでも玄野様より下ですから」

そもそも、極道の世界で女性は男性と対等に扱われないのが常識である。
それを極道の彼が知らないわけないので、これはつまり単に嫌なんだろうな、と思っていたら「疲れるんで止めてください」と本音を言われる。

「くくっ、正直ですねぇ。玄野さん。オッケー、わかりました」

指で丸を作り了承すると、呆れ気味に「本当に落差が凄いですね」と言われる。

「まぁ、だからと言って宜しくしてくださらなくて結構なんで」

玄野さんの言葉に「はい、理解してますよ」とさらっと笑顔で返せば、訝しそうな表情をされる。
はい、その表情も理解できます。

「わかりますよー、その表情。普通、そんな警戒心と敵意をあらわにされたら並大抵の人間は嫌な気分になりますからね。けど、ざーんねん。生きた年月が長すぎるので、その程度は平気なんでーす」
「はぁ……」
「大丈夫ですよ。オヤジさんより、治崎さんより、玄野さんの方が私を警戒してるのもお見通しですので気にしません！」

いえーい、とVサインを作って見せたら目を細めながら「なぜ？」と疑惑の目を向けながら問いかけてくる玄野さんに、指折りあげていく。
元より、極道というデリケートな社会に人を入れるとなれば警戒もします。
それが素性がわからない相手ならば尚更。
あなたが一番、というのは私の情報を今現在あたなが一番多く持っておりそれを分析する時間が一番多い。
故に、警戒する部分が増える。
治崎さんがオヤジさんの防波堤ならば、あなたは更にその外側の防波堤。
より多くの危険を被らなければならない立場ならばこそ、警戒心が増す。

「そういった理屈抜きでも、私は人の敵意に敏感なので」
「無邪気な子供を装って、なんとまあ……とんだ女狐だ……」
「よく言われます、その誉め言葉……。といっても、こういう話をすると身構えられちゃうんですけどねー！」

たはー！と笑って見せるも、玄野さんの表情は険しい。
なら、何故、といった表情の玄野さんに「隠し事はすればする程、疑惑しか生まないですからね」今のうちにそういう面倒事の芽は潰しときたいじゃないですか？

「お互い、仕事や生活の邪魔はされたくないじゃないでしょ？私は衣食住と仕事があれば文句はないので、警戒していただいて構いません。聞きたい事があったらいつでも聞いてくださいね？」
「仕事、好きなんですか？」
「働き者なので」
「座敷童子って、奥座敷で遊んでるんじゃないんですか？」
「奥座敷は……嫌いなんです……」

あそこ、日が射さなくてとても寒いので……嫌いです……。