「まあ、私は相方がいないので中途半端にしか個性ってやつが使えないんですが」
「相方？」

おじ様の言葉に「座敷童がどういうモノかご存知ですか？」と尋ねれば「家に幸運を呼ぶ女の子供だろ」とおじ様が答える。

「えぇ、えぇ、そうです」

付け加えるならば、座敷童子は二人で行動する事が多いんですよ。
私にも、双子の兄弟がいましたが、時代が時代でしたから双子は不吉という事で名前も付けられず奥座敷に閉じ込められて三歳まで育ちましたが、日照り続きだった為に兄弟は生贄として捧げられました。

「恐らく、兄弟がいれば私の個性もちゃんと使えたのでしょうが、今はもう証明のしようがありません。悲しい話です」

お伽噺をする様な語り口で話し終えると同時に「ご馳走様でした」と感謝を述べてから「お皿洗いして帰りますね」と言いながら、食器をまとめる。
もう、これで雇ってもらうってのは無理だろうなー、と諦めて立ち上がるとおじ様が「家族はどうした」と聞いてきたので、微笑みながら「兄弟以外はむかーし、むかしに死にました」と答える。

「寂しかねェか」
「慣れてしまえばどうという事もありません」

ははっ、と笑って見せればおじ様は頭をかきながら「慣れてる、てのは見ないふりをしてるだけだ」と断言されてしまい、困惑してしまった。
見ないふりを、している？

「人間の寿命だけでも、一人ってのは寂しいもんだ。それを長い時間一人だったんだろ。寄る辺もなく、帰る家もなく、支えてくれる者もなく」

すらすらと紡がれる言葉に、ずっと忘れようとしていた唯一の家族が連れて行かれる瞬間。

――姉様たすけて……！

泣きながら手を伸ばす兄弟はそのまま帰ってこなくて、それからずっと、ずっと私は奥座敷で一人きりで、最後はその家すら追い出されてしまった。
既に個性が発現していた所為か、放浪して迎え入れられた家では商売が上手く行き私が邪魔になれば追い出され、はたまた私がちゃんと商売を上手く行き行かせなければ殴られ、奥座敷に何度も監禁され、殺され……。
目まぐるしく駆け抜ける数百年の記憶。

「そう、ですね……。寂しくないというのは……嘘になりますね……」

上手く立ち回ろうにも、長くは一所に留まれない。
友達も家族も恋人も作れない。
それは、きっと人間なら寂しいと定義するものだろう。

「ならうちにいろ。治崎、お前も文句はねェだろ」

おじ様の言葉に、治崎さんは少し沈黙したのちに小さく溜息を吐いて「わかった」と了承した。
あれだけ疑っていたのに、意外とすんなり受け入れられた事には驚いた。
徹底的に反対されると思っていたので。

「いても、いいのでしたら……」
「いろ、いろ。それに、あのぼったくりアパートにいたらなにに巻き込まれるかわかったもんじゃねェぞ。最近の大江山組はカタギの連中に迷惑かけすぎてるからな」
「道理で、家賃が相場より高い……」

そこまで言ってから「あ、じゃあヤバいな」と思い至る。
私がいたからあのアパートは幸運がそこそこ保証されていたが、あそこを家と定めず尚且つ問題があるとすればその元締めとアパートになにかしら災厄が訪れているだろ。
顔面蒼白で「その大江山組と私の住んでいたアパートは大丈夫でしょうか……？」と震える声で尋ねると同時に、顔のいい男のケータイに着信が入る。

「大江山組の組員が全員、食中毒で緊急搬送のちに全員の死亡が確認されたようです」
「遅かったかぁ……」

その数時間後、私の住んでいたアパートが全焼したという情報が入ってきて、その大江山組とは中々悪事を働いていたようですね、と笑いながら言ったら治崎さんが「オヤジ、考え直した方が……」と忠言した。