怪怪
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玄野とあいつが出て行ったあと、オヤジといつぶりかの朝食を一緒にとった。
並べられた朝食は、いつも食べる量より確実に多く朝はあまり食欲のない俺から見れば辛い物がある。
それでも、オヤジが食べろと言うなら食べるしかない。
味噌汁に手をつけ、一口飲み込めばしっかりとした煮干しからとった出汁の味がした。
思わず「美味い」と言いそうになるのを堪え、もう一口飲むとオヤジが「美味いだろ」と聞いてくるので「……まぁ」と曖昧に答える。
「なんだ、美味くないか?」
「……不味くはない」
「素直じゃねェな、おめェは。出汁巻き卵も絶品だぞ」
勧められるまま、出汁巻き卵を一口かじればこちらも優しい風味が口いっぱいに広がり「美味い……」と言ってしまい、直ぐに悔しさで眉間に皺が寄った。
腹立たしい美味さに、険しい顔で食べていたら「もっと美味そうな顔して食え」と注意されるも素直に認めるのは嫌だ。
「まぁ、そンだけ食えるなら明日も食っていけ」
「は……?」
そこまで言われて自分が食事を三分の二まで食べている事に気が付き、何だか罠にはまった様な気がして箸がみしりと音をたてた。
「いや……朝は……」
と言い渋るも、箸が止まらないのは事実。
ここ数年、食事なんて朝はパンくらいだったしあとは外食ばかりだったから家で食べる料理の味というのは久方ぶりだし、悔しいが美味い。
それに、こうしてオヤジと食べるのも悪くないとは……思うが……。
「……あまり、あの女とは関わり合いたくない。万が一、情が移ったら処分できない」
「情が移る程度に同情はしてンだろ」
「……」
否定は、しない。
調べられる限りのあいつの過去はあまりにも凄惨だった。
望んでも手に入らない希望への渇望感、善人面した連中に居場所を奪われていく怒り、認められない事への悲しみ。
長い年月、悶え苦しんで自分の感情に蓋をして道化を演じている事は、俺自身がその苦悶を知っているからわかってしまう。
「……もう少し、様子を見させてほしい」
「頑固だな、おめェも。誰に似たんだか」
「間違いなく、オヤジだろ」
いつぶりだろうか、こんな穏やかな朝は。
関わるのも情が移るのもごめんだが、今日くらいはこの朝に免じてあの女へ感謝してもいい気がして来た。
味噌汁のお代わりに、と席を立ったオヤジが直ぐに空の椀のまま帰って来たのでどうしたのか聞いたら楽しそうに「いや、珍しく玄野が楽しそうだったから邪魔しちゃ悪いと思ってな」と言いながら、席に戻った。
あいつ、まさか絆されたんじゃないだろうな、と心配にはなったがあいつは絆されても仕事は冷徹なまでにこなすから大丈夫か……。
食器はそのままでいいらしいが、片付けないのはどうも気になって仕方がないので台所まで持って行くと、洗い物をしている細い背中が直ぐに目に入る。
「……」
あの細い体で何かできるとは思いたくはないが、個性がどういう風に使われるか厳密にまだわからない現状では警戒するに越した事はない。
道化を演じているという点でも、信用はできないのもまた事実。
不意に振り向いたあいつが目を丸くして「食器持ってきてくれたんですか、治崎さん?」という質問に「あぁ」とだけ返し、流しに洗い物を置いていく。
「わざわざ、ありがとうございます」
無邪気な子供の様な笑顔を向けてくるが、やはりどこか胡散臭い。
警戒心を解かせようとする意図が見え隠れする。
「味付け、どうでしたか?」
「不味くはなかった」
「そうですか、よかったです」
俺の物言いに突っかかってくる事なく、受け流す姿は敵意に慣れ切ったという様子。
まぁ、玄野が調べて来たものだけでもこいつが悪意の中で生きて来た事は見て取れるから当たり前の防衛本能なのかも知れない。
「治崎さん、明日は朝ご飯どうしますか?」
道化の瞳に宿る、少しの期待の色に気が付きながらも「いるわけないだろ」と言い捨て台所を出ようとしたら「治崎さん」と呼び止められる。
「なんだ」
「完食してくれて、ありがとうございます」
「ちっ……」
ダメだ、これ以上深入りしてはいけない。
並べられた朝食は、いつも食べる量より確実に多く朝はあまり食欲のない俺から見れば辛い物がある。
それでも、オヤジが食べろと言うなら食べるしかない。
味噌汁に手をつけ、一口飲み込めばしっかりとした煮干しからとった出汁の味がした。
思わず「美味い」と言いそうになるのを堪え、もう一口飲むとオヤジが「美味いだろ」と聞いてくるので「……まぁ」と曖昧に答える。
「なんだ、美味くないか?」
「……不味くはない」
「素直じゃねェな、おめェは。出汁巻き卵も絶品だぞ」
勧められるまま、出汁巻き卵を一口かじればこちらも優しい風味が口いっぱいに広がり「美味い……」と言ってしまい、直ぐに悔しさで眉間に皺が寄った。
腹立たしい美味さに、険しい顔で食べていたら「もっと美味そうな顔して食え」と注意されるも素直に認めるのは嫌だ。
「まぁ、そンだけ食えるなら明日も食っていけ」
「は……?」
そこまで言われて自分が食事を三分の二まで食べている事に気が付き、何だか罠にはまった様な気がして箸がみしりと音をたてた。
「いや……朝は……」
と言い渋るも、箸が止まらないのは事実。
ここ数年、食事なんて朝はパンくらいだったしあとは外食ばかりだったから家で食べる料理の味というのは久方ぶりだし、悔しいが美味い。
それに、こうしてオヤジと食べるのも悪くないとは……思うが……。
「……あまり、あの女とは関わり合いたくない。万が一、情が移ったら処分できない」
「情が移る程度に同情はしてンだろ」
「……」
否定は、しない。
調べられる限りのあいつの過去はあまりにも凄惨だった。
望んでも手に入らない希望への渇望感、善人面した連中に居場所を奪われていく怒り、認められない事への悲しみ。
長い年月、悶え苦しんで自分の感情に蓋をして道化を演じている事は、俺自身がその苦悶を知っているからわかってしまう。
「……もう少し、様子を見させてほしい」
「頑固だな、おめェも。誰に似たんだか」
「間違いなく、オヤジだろ」
いつぶりだろうか、こんな穏やかな朝は。
関わるのも情が移るのもごめんだが、今日くらいはこの朝に免じてあの女へ感謝してもいい気がして来た。
味噌汁のお代わりに、と席を立ったオヤジが直ぐに空の椀のまま帰って来たのでどうしたのか聞いたら楽しそうに「いや、珍しく玄野が楽しそうだったから邪魔しちゃ悪いと思ってな」と言いながら、席に戻った。
あいつ、まさか絆されたんじゃないだろうな、と心配にはなったがあいつは絆されても仕事は冷徹なまでにこなすから大丈夫か……。
食器はそのままでいいらしいが、片付けないのはどうも気になって仕方がないので台所まで持って行くと、洗い物をしている細い背中が直ぐに目に入る。
「……」
あの細い体で何かできるとは思いたくはないが、個性がどういう風に使われるか厳密にまだわからない現状では警戒するに越した事はない。
道化を演じているという点でも、信用はできないのもまた事実。
不意に振り向いたあいつが目を丸くして「食器持ってきてくれたんですか、治崎さん?」という質問に「あぁ」とだけ返し、流しに洗い物を置いていく。
「わざわざ、ありがとうございます」
無邪気な子供の様な笑顔を向けてくるが、やはりどこか胡散臭い。
警戒心を解かせようとする意図が見え隠れする。
「味付け、どうでしたか?」
「不味くはなかった」
「そうですか、よかったです」
俺の物言いに突っかかってくる事なく、受け流す姿は敵意に慣れ切ったという様子。
まぁ、玄野が調べて来たものだけでもこいつが悪意の中で生きて来た事は見て取れるから当たり前の防衛本能なのかも知れない。
「治崎さん、明日は朝ご飯どうしますか?」
道化の瞳に宿る、少しの期待の色に気が付きながらも「いるわけないだろ」と言い捨て台所を出ようとしたら「治崎さん」と呼び止められる。
「なんだ」
「完食してくれて、ありがとうございます」
「ちっ……」
ダメだ、これ以上深入りしてはいけない。