今日もなんやかんやでやらかしました
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私の国には神隠し、というものがある。
山や海で、何の前触れもなく人が消えることを指す。
神にみそめられ連れていかれたとか、逆に怒りを買ったとか理由は様々だが、私は次元の狭間説を推す。
神の話など、大抵は人間側が都合良く作り上げたものが多い。
勝手に消えたのを、神のせいにされてたまるかと思うのは、やはり自分が半分神だからだろうか。
この国は、神が造りし国と言われている。
人も元々は神であったと言われており、年月を重ねるうちに神の力が失われていったらしい。
しかし時折神返りと言われる、神の力を強く発現させた人間が生まれることがある。
そういう人間は、悪戯に人心を惑わせるとして、政府の下、管理される。
まあ「衣食住と命の保障はしてやるから言うことを聞け」と、政府の言うがまま勉強したり、祝詞をあげたり、神事をおこなったり。
一番多いのは、薬剤作り。
神自ら薬草を摘み調剤している薬は、経済の要。
特に特殊な何かがあるわけでもないが、神が作ったというだけでバカ売れである。
人間は愚かだ……。
そんなわけで前説が長くなったが、何が言いたいかというと神隠しはあるが、やはり神の所業ではなかったんだなあということ。
薬草を取りに行って、見事に滑落して気がついた時には見知らぬ場所にいた。
ガヤガヤと騒がしい室内には、同じ服を着た人間が。
はー、これは別次元に飛んだということか。
私の服はというと、いつも通りの作業着ともも引きで、滑落の際についた土がさらに見すぼらしさを際立てる。
こちらを見てヒソヒソと話され居心地が悪くなり、さっさと立ち去ろうとすると腕を引かれ「どこに行くつもりだ」と言われた。
全体的に白黒の男が私の腕を掴んで目を丸くしている。
「貴様、なんだその格好は」
「あー、えっと……」
なんと説明したものかとしどろもどろになっていると、「式典服に着替えろ。そもそも、なんだその汚い格好は!」と怒られた。
「んー、えっと。すみません、自分、間違えて入ってきちゃったみたいで」
「なに馬鹿なことを言っている。ここは、間違って入ってこられる場所じゃない」
「えーあー……んー。すみません、でも本当に自分は関係ないので」
なので、腕離してもらえないですか?と言っても、不審者を見る目をで見られるだけ。
まあ、このまま番所に突き出された方が楽かもしれないと、変に抵抗せずに身を任せようとしたら「おお、ここにいたか」と少し幼いが落ち着きを感じる声がした。
声の方を向くと、愛らしい少年が立っていた。
「なんじゃ、お主。また着替えを忘れたのか。そそっかしいやつじゃのお」
「え?」
「仕方あるまい。シルバーの服を借りよ」
「いや、あの」
何か言おうとする前に、少年が何かを振ると一瞬で身綺麗になり周りと同じ服になっていた。
「ほれ、行くぞ。クルーウェル。うちの者が心配をかけたな」
「どんなそそっかしさだ。ヴァンルージュ、しっかり見張っておけ」
「うむ、わかった」
白黒の男が立ち去ってから少年に「あの……」と声をかけると、やれやれ、といったそぶりでこちらを向き「まったく」と切り出す。
「まったく。マレウスに仕えるためにきたのではないのか?」
「まれ……?」
「まあ、忘れてしまったものはしかたない。ここからはしっかり気を引き締めるんじゃぞ」
「え?は?」
なにか、盛大な勘違いをされている気がする。
これはどうしたら……。
致し方なく流れに身を身を任せていると、「ルキくん前へ」と呼ばれた。
なぜ名前が、と思っていたら「早く行かんか」と少年に背中を押される。
促されるまま、鏡の前に立つと仮面のようなものが現れた。
「汝の名を告げよ」
「……ルキ」
「汝の魂の形は……ディアソムニア」
そう告げられると元の場所に戻るように言われ、なにがなんだかわからないまま少年の元へと戻ると、銀髪の男と緑髪の男が増えていた。
誰だ。
「おお、ルキ。やはり、ディアソムニアであったか」
「お前か……。リリア様の手を煩わせるなど言語道断!恥を知れ!」
突然の大声に驚くも、更に大声で「そこ!うるさいぞ!」と怒鳴られる。
「本来ならば茨の谷に帰れと言いたいところだが、リリア様が入学できるように手配してくださったのだ。しっかりと、お仕えしろ」
話がわけのわからない方へと行きそうなので、わかったふりをしつつ「すみません、お手洗いへ」と断って部屋を抜け出す。
逃げないと、このままではなにか誤解されたまま身動きが取れなくなってしまう。
駆け足でこの場所から抜け出そうとするが、ダメだ迷った。
飛んで行けば早いが、いかんせん私は飛行術がてんでダメだ。
どうしよう、と途方に暮れていると「そこで何をしている」と声をかけられた。
顔をあげると、背の高い男が立っていた。
その頭にはツノが生えており、一目で自分と同じ存在だとわかった。
「あなたも、間違ってこっちに来ちゃった人?」
「間違ってこっちに来た?」
その反応だけで、私のように間違ってこっちに来た人間ではないことがわかり、「なんでもない」と言って立ちあがろうとしたら、身を屈めて私と視線をあわせて「お前は妖精ではないのか?」と聞いてきた。
「僕たちと同じ気配がするが、少し違うな。お前はなんの妖精なんだ?」
「妖精。こっちでは、私のような存在を妖精というんだね」
「その口ぶりだと、まるで違う世界から来たかのようだな」
「隠すようなことじゃないけど、たぶんそう。気がついたら、この世界にいた。で、あれよあれよという間に“でぃあそむにあ”?ていう魂の形ってなってた」
「ふむ、僕の寮なのか」
「でも、手違いだしバレた時が怖いから逃げようとしてるんだけど、迷っちゃって」
よかったら、出口まで案内してくれないかな。とお願いする私に、男は思案顔で「このまま学園に通えばいいだろ」と言う。
「いや、だからバレた時がね」
「その時は、僕が何とかしてやろう。行く場所がないのだろう?ならば、同胞として僕が面倒を見てやろう」
ほら、行くぞ。と言いながら歩き出す男について行くかどうか悩んだが、たしかに行き場がないのは事実だ。
この態度からして、この男はそれなりに高い立場の人間。
その人間が面倒を見てくれると言うならば、厚意に甘えよう。
大人しくついていくと、鏡が何枚もある部屋についた。
そのうちの一枚の鏡面に入っていく男に倣い入ると、次の景色はおどろどろしい城のような建物。
空も暗雲立ち込めている。
少し身を引く私を見て、男は愉快そうに「怖ければ後ろに隠れていても構わないぞ」と言うが、驚いただけで怖いわけではない。
男について行き中に入ると、聞いたことのある声で「若様!」と部屋中に響いた。
「ご無事でしたか!」
「散歩に行ってきただけだ。リリア、散歩の成果だ」
そう言い、後ろにいる私の背中を押して前にだすと、少年と目があった。
「おお!どこに行ったのかと思ったぞ」
「すみません、トイレに迷って」
「で、マレウスに助けられたと」
「はい……」
恥ずかしがる私であったが、恥ずかしさなんて吹き飛ぶ勢いで「この痴れ者がー!」と緑髪の男が怒鳴る。
怒声が反響している。
男はワナワナと震えながら、「若様に迷惑をかけるなど万死に値する!表に出ろ!」と私の腕を引っ張って外に投げ出した。
「マジカルペンを構えろ!」
「まじか……?」
「ほれ、ルキ。お主のマジカルペンじゃ」
少年に手渡された宝石のついた短い棒をもち立ち上がると、「決闘だ!」と告げられる。
そうか、さっきのツノの男はそんなにも立場が上の者だったか。
こちらの魔法がどんなものかはわからないが、宝石に魔力を流し込み使うのは同じのようだ。
「行くぞ!」
男は威勢よく火球を撃ち込んでくるが、その程度の威力と数ならば容易に制圧できる。
しかし、ここは敢えて受け止めよう。
マジカルペンとやらを一振し、装束へと着替えをし火球を真正面から受け止めると、服を軽く焦がした。
さすがに丸焦げは困るので、軽い水の加護を与えた服にして正解だったな。
「ふんっ!倒れなかったことは評価してやる。しかし、守るだけでは勝てないぞ!」
「いいえ、これは戦いではありません」
「なに?」
「高位の者に無礼を働いたことへの罰と、わたくしは捉えております。故に、理由が変わらぬ限りわたくしからは反撃も回避もいたしません」
まあ、ヤバそうだったら守りには入るけど。
私としては、「悪いことしたから、ちゃんと罰受けるよ」という姿勢だったのだが、どうもそう受け止められなかったようで、相手は怒りを露にする。
「お前!この僕に弱者を一方的に攻撃させるつもりか!」
「これは罰です。許す、と言葉を頂戴しない限りわたくしからは攻撃いたしません」
「くっ……!」
自分でもなかなか卑怯な言い方ではあるなと思っている。
元よりこの戦いは一方的なものを想定はされていない。
お互いに力比べをして、力量差と立場を理解させることが主たる目的だろう。
それが、ただ慈悲深く許さなければ無抵抗の者を一方的になぶり続けなければならない。
けれども、どちらも誇りが許さない。
ジレンマのなか男が動けなくなっていると、外野から「ならば、僕が許そう」と声がかかる。
声の主は、ツノを持った男。たしか、若様と呼ばれていた高位の者。
「僕が許せば、なにも問題はないだろ?」
「若様がお許しになるなら……」
「その上で命令だ、異界の同胞よ。僕にお前の力を示せ」
「力?」
「そうだ。お前がか弱き同胞であれば、より手厚く保護せねばならないだろう?」
うーん、じんわり馬鹿にされている感じはあるが、力量を知りたいというのであればやるしかない。
「承知つかまつりました」
宝石部分を下にし、マジカルペンをひと撫ですると、鉾先鈴へと姿を変える。
――しゃん
涼やかな音が鳴り、背後に魔法陣があらわれる。
「召喚術式 展開 ルキオオワタツミ神力供給」
――しゃん
――しゃん
――しゃん
鈴を鳴らし舞を踊れば、魔法陣の輝きが増す。
「水龍召喚」
鉾先を男に向けると、魔法陣からあらわれた水龍が迷うことなく男へと突っ込んでいく。
男は避けようとするが、水龍はしつこく狙い最後には男に牙をたてた。
「ぐっ……!」
「ハクオウ、殺すな」
「……」
水龍は「わかっている」といった様子で、くわえていた男を地上におろした。
もう攻撃してこないだろうとは思うが、終わりといわれない限り気は抜けない。
それに、男の目はまだ戦意を失っていない。
うーん、私の世界では初手で勝てないと判断したら終わるのだが、この世界はそうではないらしい。
ここで負ければ男が廃る。なるほど、なるほど。
「戦意を削ぐなら顔面を狙え!」
問答無用で相手の左頬を殴り付ける。
戦意が失くならないならば、戦意を削ぐのみ。
水龍では殺傷力が高すぎる。ならば殴る蹴るべし。
呆気にとられている男の鼻っ柱めがけて拳を打ち出すが寸でのところでかわされ、代わりに左頬を殴られた。
「ってぇ……。なかなか力強く素晴らしい拳ですね……」
「お前こそ、その細腕でいいものを持っている」
「やはり、こうでないといけませんね。……力量はかるってんなら、ステゴロだろ!かかってこい!」
「受けて立つ!」
山や海で、何の前触れもなく人が消えることを指す。
神にみそめられ連れていかれたとか、逆に怒りを買ったとか理由は様々だが、私は次元の狭間説を推す。
神の話など、大抵は人間側が都合良く作り上げたものが多い。
勝手に消えたのを、神のせいにされてたまるかと思うのは、やはり自分が半分神だからだろうか。
この国は、神が造りし国と言われている。
人も元々は神であったと言われており、年月を重ねるうちに神の力が失われていったらしい。
しかし時折神返りと言われる、神の力を強く発現させた人間が生まれることがある。
そういう人間は、悪戯に人心を惑わせるとして、政府の下、管理される。
まあ「衣食住と命の保障はしてやるから言うことを聞け」と、政府の言うがまま勉強したり、祝詞をあげたり、神事をおこなったり。
一番多いのは、薬剤作り。
神自ら薬草を摘み調剤している薬は、経済の要。
特に特殊な何かがあるわけでもないが、神が作ったというだけでバカ売れである。
人間は愚かだ……。
そんなわけで前説が長くなったが、何が言いたいかというと神隠しはあるが、やはり神の所業ではなかったんだなあということ。
薬草を取りに行って、見事に滑落して気がついた時には見知らぬ場所にいた。
ガヤガヤと騒がしい室内には、同じ服を着た人間が。
はー、これは別次元に飛んだということか。
私の服はというと、いつも通りの作業着ともも引きで、滑落の際についた土がさらに見すぼらしさを際立てる。
こちらを見てヒソヒソと話され居心地が悪くなり、さっさと立ち去ろうとすると腕を引かれ「どこに行くつもりだ」と言われた。
全体的に白黒の男が私の腕を掴んで目を丸くしている。
「貴様、なんだその格好は」
「あー、えっと……」
なんと説明したものかとしどろもどろになっていると、「式典服に着替えろ。そもそも、なんだその汚い格好は!」と怒られた。
「んー、えっと。すみません、自分、間違えて入ってきちゃったみたいで」
「なに馬鹿なことを言っている。ここは、間違って入ってこられる場所じゃない」
「えーあー……んー。すみません、でも本当に自分は関係ないので」
なので、腕離してもらえないですか?と言っても、不審者を見る目をで見られるだけ。
まあ、このまま番所に突き出された方が楽かもしれないと、変に抵抗せずに身を任せようとしたら「おお、ここにいたか」と少し幼いが落ち着きを感じる声がした。
声の方を向くと、愛らしい少年が立っていた。
「なんじゃ、お主。また着替えを忘れたのか。そそっかしいやつじゃのお」
「え?」
「仕方あるまい。シルバーの服を借りよ」
「いや、あの」
何か言おうとする前に、少年が何かを振ると一瞬で身綺麗になり周りと同じ服になっていた。
「ほれ、行くぞ。クルーウェル。うちの者が心配をかけたな」
「どんなそそっかしさだ。ヴァンルージュ、しっかり見張っておけ」
「うむ、わかった」
白黒の男が立ち去ってから少年に「あの……」と声をかけると、やれやれ、といったそぶりでこちらを向き「まったく」と切り出す。
「まったく。マレウスに仕えるためにきたのではないのか?」
「まれ……?」
「まあ、忘れてしまったものはしかたない。ここからはしっかり気を引き締めるんじゃぞ」
「え?は?」
なにか、盛大な勘違いをされている気がする。
これはどうしたら……。
致し方なく流れに身を身を任せていると、「ルキくん前へ」と呼ばれた。
なぜ名前が、と思っていたら「早く行かんか」と少年に背中を押される。
促されるまま、鏡の前に立つと仮面のようなものが現れた。
「汝の名を告げよ」
「……ルキ」
「汝の魂の形は……ディアソムニア」
そう告げられると元の場所に戻るように言われ、なにがなんだかわからないまま少年の元へと戻ると、銀髪の男と緑髪の男が増えていた。
誰だ。
「おお、ルキ。やはり、ディアソムニアであったか」
「お前か……。リリア様の手を煩わせるなど言語道断!恥を知れ!」
突然の大声に驚くも、更に大声で「そこ!うるさいぞ!」と怒鳴られる。
「本来ならば茨の谷に帰れと言いたいところだが、リリア様が入学できるように手配してくださったのだ。しっかりと、お仕えしろ」
話がわけのわからない方へと行きそうなので、わかったふりをしつつ「すみません、お手洗いへ」と断って部屋を抜け出す。
逃げないと、このままではなにか誤解されたまま身動きが取れなくなってしまう。
駆け足でこの場所から抜け出そうとするが、ダメだ迷った。
飛んで行けば早いが、いかんせん私は飛行術がてんでダメだ。
どうしよう、と途方に暮れていると「そこで何をしている」と声をかけられた。
顔をあげると、背の高い男が立っていた。
その頭にはツノが生えており、一目で自分と同じ存在だとわかった。
「あなたも、間違ってこっちに来ちゃった人?」
「間違ってこっちに来た?」
その反応だけで、私のように間違ってこっちに来た人間ではないことがわかり、「なんでもない」と言って立ちあがろうとしたら、身を屈めて私と視線をあわせて「お前は妖精ではないのか?」と聞いてきた。
「僕たちと同じ気配がするが、少し違うな。お前はなんの妖精なんだ?」
「妖精。こっちでは、私のような存在を妖精というんだね」
「その口ぶりだと、まるで違う世界から来たかのようだな」
「隠すようなことじゃないけど、たぶんそう。気がついたら、この世界にいた。で、あれよあれよという間に“でぃあそむにあ”?ていう魂の形ってなってた」
「ふむ、僕の寮なのか」
「でも、手違いだしバレた時が怖いから逃げようとしてるんだけど、迷っちゃって」
よかったら、出口まで案内してくれないかな。とお願いする私に、男は思案顔で「このまま学園に通えばいいだろ」と言う。
「いや、だからバレた時がね」
「その時は、僕が何とかしてやろう。行く場所がないのだろう?ならば、同胞として僕が面倒を見てやろう」
ほら、行くぞ。と言いながら歩き出す男について行くかどうか悩んだが、たしかに行き場がないのは事実だ。
この態度からして、この男はそれなりに高い立場の人間。
その人間が面倒を見てくれると言うならば、厚意に甘えよう。
大人しくついていくと、鏡が何枚もある部屋についた。
そのうちの一枚の鏡面に入っていく男に倣い入ると、次の景色はおどろどろしい城のような建物。
空も暗雲立ち込めている。
少し身を引く私を見て、男は愉快そうに「怖ければ後ろに隠れていても構わないぞ」と言うが、驚いただけで怖いわけではない。
男について行き中に入ると、聞いたことのある声で「若様!」と部屋中に響いた。
「ご無事でしたか!」
「散歩に行ってきただけだ。リリア、散歩の成果だ」
そう言い、後ろにいる私の背中を押して前にだすと、少年と目があった。
「おお!どこに行ったのかと思ったぞ」
「すみません、トイレに迷って」
「で、マレウスに助けられたと」
「はい……」
恥ずかしがる私であったが、恥ずかしさなんて吹き飛ぶ勢いで「この痴れ者がー!」と緑髪の男が怒鳴る。
怒声が反響している。
男はワナワナと震えながら、「若様に迷惑をかけるなど万死に値する!表に出ろ!」と私の腕を引っ張って外に投げ出した。
「マジカルペンを構えろ!」
「まじか……?」
「ほれ、ルキ。お主のマジカルペンじゃ」
少年に手渡された宝石のついた短い棒をもち立ち上がると、「決闘だ!」と告げられる。
そうか、さっきのツノの男はそんなにも立場が上の者だったか。
こちらの魔法がどんなものかはわからないが、宝石に魔力を流し込み使うのは同じのようだ。
「行くぞ!」
男は威勢よく火球を撃ち込んでくるが、その程度の威力と数ならば容易に制圧できる。
しかし、ここは敢えて受け止めよう。
マジカルペンとやらを一振し、装束へと着替えをし火球を真正面から受け止めると、服を軽く焦がした。
さすがに丸焦げは困るので、軽い水の加護を与えた服にして正解だったな。
「ふんっ!倒れなかったことは評価してやる。しかし、守るだけでは勝てないぞ!」
「いいえ、これは戦いではありません」
「なに?」
「高位の者に無礼を働いたことへの罰と、わたくしは捉えております。故に、理由が変わらぬ限りわたくしからは反撃も回避もいたしません」
まあ、ヤバそうだったら守りには入るけど。
私としては、「悪いことしたから、ちゃんと罰受けるよ」という姿勢だったのだが、どうもそう受け止められなかったようで、相手は怒りを露にする。
「お前!この僕に弱者を一方的に攻撃させるつもりか!」
「これは罰です。許す、と言葉を頂戴しない限りわたくしからは攻撃いたしません」
「くっ……!」
自分でもなかなか卑怯な言い方ではあるなと思っている。
元よりこの戦いは一方的なものを想定はされていない。
お互いに力比べをして、力量差と立場を理解させることが主たる目的だろう。
それが、ただ慈悲深く許さなければ無抵抗の者を一方的になぶり続けなければならない。
けれども、どちらも誇りが許さない。
ジレンマのなか男が動けなくなっていると、外野から「ならば、僕が許そう」と声がかかる。
声の主は、ツノを持った男。たしか、若様と呼ばれていた高位の者。
「僕が許せば、なにも問題はないだろ?」
「若様がお許しになるなら……」
「その上で命令だ、異界の同胞よ。僕にお前の力を示せ」
「力?」
「そうだ。お前がか弱き同胞であれば、より手厚く保護せねばならないだろう?」
うーん、じんわり馬鹿にされている感じはあるが、力量を知りたいというのであればやるしかない。
「承知つかまつりました」
宝石部分を下にし、マジカルペンをひと撫ですると、鉾先鈴へと姿を変える。
――しゃん
涼やかな音が鳴り、背後に魔法陣があらわれる。
「召喚術式 展開 ルキオオワタツミ神力供給」
――しゃん
――しゃん
――しゃん
鈴を鳴らし舞を踊れば、魔法陣の輝きが増す。
「水龍召喚」
鉾先を男に向けると、魔法陣からあらわれた水龍が迷うことなく男へと突っ込んでいく。
男は避けようとするが、水龍はしつこく狙い最後には男に牙をたてた。
「ぐっ……!」
「ハクオウ、殺すな」
「……」
水龍は「わかっている」といった様子で、くわえていた男を地上におろした。
もう攻撃してこないだろうとは思うが、終わりといわれない限り気は抜けない。
それに、男の目はまだ戦意を失っていない。
うーん、私の世界では初手で勝てないと判断したら終わるのだが、この世界はそうではないらしい。
ここで負ければ男が廃る。なるほど、なるほど。
「戦意を削ぐなら顔面を狙え!」
問答無用で相手の左頬を殴り付ける。
戦意が失くならないならば、戦意を削ぐのみ。
水龍では殺傷力が高すぎる。ならば殴る蹴るべし。
呆気にとられている男の鼻っ柱めがけて拳を打ち出すが寸でのところでかわされ、代わりに左頬を殴られた。
「ってぇ……。なかなか力強く素晴らしい拳ですね……」
「お前こそ、その細腕でいいものを持っている」
「やはり、こうでないといけませんね。……力量はかるってんなら、ステゴロだろ!かかってこい!」
「受けて立つ!」
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