蘭の嫁
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今月は重いかも知れない。
なにも手につかず、怠惰に横になりながら下腹部の痛みから意識をそらす。
大丈夫、痛くない……。痛くない……。
口呼吸をしながら、精神と肉体の安定をはかる。
今日はもうなんもしない。絶対にだ。そう誓ったのに、私のケータイがジャイアンのテーマソングをかき鳴らした。
無理、むり、ムリ。いまは無理なんです、電話しないでください。
一度目のコールは無視したが、またジャイアンのテーマソングが流れ始めた。
わかった、出るよ。出ればいいんでしょ。
ずるずるとソファーからおり、電話に出る。
「はい……」
『電話に出るの遅えぞー。美夜子、いま暇だろ?』
「いや、暇では……」
『うるせえな。いいから、いまから送る場所に来いよな。じゃっ』
「……」
ぶつり、と切れたケータイを呆然と見ていたら、今度はメッセージが届く。
調べれば、そこはキャバクラのようだった。
ジャイアンが風俗遊びをするのは構わないが、そこに私を巻き込むことが気に食わない。
そんなに、私を見目麗しい女共の目の前に引きずり出して、笑いものにしたいのか……?
そのとき私は、月一の悪魔により怒りが振り切れた。
「……殺そう」
私は、最低限の格好に着替えて家をフラフラと出た。
朦朧とする意識の中、頭が痛くなるような電飾を掲げたキャバクラに足を踏み入れると、ボーイが止めに来る。
「お客様。本日は、当店貸し切りとなっております」
「……をだせ」
「え?」
「灰谷蘭をだせ……」
私の鬼気迫る形相と蘭の普段の行いから、ボーイが修羅場のにおいを察知し「お引取りください!」と声を荒らげた。
誰が帰るか。ここまで来たんだ。蘭の息の根を止めるまで、帰らねえぞ。
押し通ろうとする私の肩を掴み、ボーイはなおも「お引取りください!」と言う。
「おい、どうかしたか?」
「九井様!い、いえ……!すぐに帰らせますので!」
「帰らすって……。美夜子か?」
奥から出てきた九井さんが、私を見てそう問いかけてきた。
「すげえ顔してるけど、どうしたんだ……?」
「蘭をだせ、いますぐにだ。あいつの息の根を止める」
「いや、マジでなにがあったんだよ……」
並々ならぬ殺気を感じた九井さんは、まずは落ち着かせようとするが、いまの私の殺意は誰にも止められない。
「そりゃ、キャバクラに嫁を呼びつけるのはどうかと思うけどよ」
「それはどうでもいいんだわ……。ただ、人が体調悪いってのに、私のことを笑い者にすることがただ、ただ、許せない……」
「体調悪いのか?なら蘭には俺から言っておくし、送ってやるからマジで落ち着け」
理性的に説得を試みる九井さんには悪いが、いまの私には理性的な会話は不可能である。
頭の中は、“殺す”でいっぱいなのだ。
私の行く手を阻む九井さんに対しても殺意が芽生え始めた頃、お気楽な声がした。
「九井ー。どーかしたかー」
「あっ!馬鹿!」
上機嫌に酔った蘭。
私は九井さんを押しのけ、蘭の前に立つ。
「あー、美夜子じゃん。来てたなら、連絡よこ」
「気をつけー!」
「は?」
「脚を肩幅に開け!」
蘭は私の大声に戸惑いながらも、肩幅に脚を開いた。
よし!と頷き、次の瞬間、蘭の股間を蹴り上げた。
「〜〜〜〜っ!」
「うわ……」
声にならない蘭の悲鳴を聞きながら、人がいる席に行くと、竜胆くん、三途さん、マイキーさん。それから、見たことない人が三人いた。
が、しかし!いまは挨拶をしてる時間も惜しい!
机の上に置かれたボトルを掴み、ラッパ飲みをする。
「あー……」
「美夜子……?」
「ヤクでもやってんのか?」
ドン引く面々を無視し、ボトルをバッドのように持ち痛みがまだ引かずうずくまる蘭に大股で歩み寄る。
「鶴蝶、ヤバい。止めろ」
「わかった、マイキー」
羽交い締めにされても、なんとか男の人の腕から抜け出そうと暴言を吐きながら暴れまわる。
「離せ!ボケカスが!ぶっ殺すぞ!」
「おう、おう、落ち着けって、嫁……。なにそんなにキレてんだよ」
「美夜子。そんなに、キャバクラ呼び出されたの嫌だったのか?」
「うるせー!オマエら全員、片玉にされてえか!」
私の暴言に怯え半分、ドン引き半分な目で見てくる面々を押し退け、マイキーさんが目の前に来た。
そして、九井さんに「美夜子、なんか言ってたか?」と聞く。
「えっと、体調悪いって」
「そっか。美夜子、お腹痛い?」
その問いかけに、昂っていた感情が落ち着きアドレナリンで誤魔化していた痛みが一気に来て、子供みたいに「お腹痛いよぉ……」と泣き出してしまった。
それを見て、三途さんと目に傷がある人が「あー、なるほどな」と納得した声を出す。
「うん、お腹痛いのによく頑張って来たな」
「マイキー、俺ロキソニン買って来ます」
「ああ。あと、生姜の飲み物とかミルク」
「うっす」
「美夜子、横になろうか」
「煙草くせえけど、上着やる」
手際よく私を落ち着かせてくれるマイキーさんたちを見て、他の面々はキョトン顔をするだけ。
マイキーさんはベソベソと泣く私に膝枕をしてくれて、ゆっくりと肩を叩き「もうちょっと頑張れ」と励ましてくれる。
「えっと、美夜子?大丈夫か?」
「いま、オマエの顔を見たくない」
私の一言に、蘭が泣きそうな顔をしたが泣きたいくらい辛いのはこっちだ。
鶴蝶さんに引っ張られ、私の視界から消えた蘭の代わりに竜胆くんが視界に入り、「なにがあったんだ?」と聞いてくる。
「……」
「美夜子、俺から言っても大丈夫か?」
「なんでもいい……」
投げやりに答えると、マイキーさんが「女が体調悪くてキレてるときなんて、生理って相場が決まってるだろ」と言うと、竜胆くんが「え、こんなキレるもんなの?」と聞いた。
「生理が重いときは、男が金玉蹴り飛ばされた痛みをずっと感じてんだぞ。そもそも、内臓が剥がれてるんだから、痛いに決まってんだろ。そんなときに、こんなところ呼びつけられたら、キレんだろうが」
「兄貴が悪い」
「蘭が悪いな」
「なにをどう見ても蘭が悪い」
「反省しろ、バカ」
「俺が悪いです、ごめんなさい……」
満場一致で蘭の責任となり、遠くから蘭が「美夜子、本当にごめん」と言っているのが聞こえた。
知らん、許さん。
「マイキー、ロキソニンと生姜湯と牛乳、あとホッカイロ買ってきました」
「三途、ありがとう。明司、水ついで」
「ん」
「美夜子。生姜湯とホットミルク、どっち飲みてえ?」
「ホットミルク……」
「んー。すぐ作ってきてやるからな」
「美夜子、おら水だ。ロキソニン飲め。起きられるか?」
明司さんに手伝ってもらいながら起き上がり、ロキソニンを飲み、すぐマイキーさんの膝に戻る。
「ホットミルク飲んだら帰ろうな」
「うん……」
「蘭と帰れるか?」
「蘭と帰るくらいなら、一人で帰る」
そう言うと「うっ……!」という蘭の声が聞こえ、竜胆くんが「兄貴、自業自得」と冷たく言った。
「じゃあ、竜胆に送ってもらうか?」
「蘭と同じ顔見たくない」
「兄貴のバカ!」
「なら、三途に送らせようか?」
「……うん」
「ダメダメダメ!三途はダメだって美夜子!なにされるかわかんねえって!俺、ちゃんと謝るし、労るから!俺と帰ろ!」
「生理中の女に手だすわけねえだろうが」
いつものクソデカボイス三途さんが、私に気を使って声をひそめてくれているのが、嬉しすぎる。
「ほら、ホットミルク持ってきてやったぞ」
「ありがとう……」
「三途、これ飲み終わったら、美夜子送ってやって」
「うっす」
「マイキー!俺の嫁なんだから、俺が……!」
「蘭は、生理中の女の扱いを勉強してから帰れ」
うまい具合に蘭を引き止めてくれるマイキーさんに感謝し、三途さんに付き添われ帰宅した。
「一人で大丈夫か?不安なら、蘭が帰ってくるまでいるぞ?」
「私一人で蘭と対峙したら、蘭のこと刺しますけど大丈夫だと思いますか?」
「んな脅し使わなくても、いてやるっての。とりあえず、蘭には落ち着くまで帰ってくんなって言っとくから、安心しろ」
あの雑な三途さんに労られ、また涙が出てくると「もう寝ろ」とベッドに寝かしつけられた。
寝付くまで、手握っててやるからな。と言って、三途さんは私の手を優しく握ってくれて、それに安心して眠りについていた。
◆
拝啓、とーちゃん、かーちゃん。
昨日の記憶がありません。
ジャイアンから呼び出しの電話があって、ぶっ殺してやる、と思ったあたりから記憶がない。
しかし、部屋で普通に寝ているということは、呼び出しに応じなかったということか。
やばいなぁ、絶対に怒ってんじゃん。
どうやって機嫌取ろうかな……、と考えながらリビングにでると、三途さんが「おう、起きたか。おはよう」と言ってくれた。
なんでこの人がいるんだ?
「どうやって入ったんですか?」
「は?どうやって、て……オマエ、昨日のこと覚えてねえの?」
この言い方、なにかをやらかしたな?
顔を青くしながら、「なにしました、私……」と聞けば「覚えてねえなら、その方がいい」と言って教えてくれない。
やだやだ、怖い。
「飯作ったから、顔洗ってこい」
「あ、はい……」
とりあえず落ち着く為に顔を洗ったが、まったく落ち着かない。
え?殺した?私、ジャイアン殺した?それを、三途さんは隠している?
「はわ……はわわ……」
「おい、美夜子。飯冷めんぞ」
「ぷぇ……」
「いや、なに泣きそうになってんだよ……」
「だって……私は蘭ちゃんを殺して……」
「殺してねえって。オマエに殺されるほど、蘭は雑魚じゃねえよ」
いいから、飯食え。と言われ、席に着いたらそれはもう立派な和食が並べられた。
は?え、これ三途さんが作った?
「えー……一生味噌汁作って欲しい……」
「蘭に殺されるからやめろ」
そういえば、ジャイアンはどうしたのかと聞けば、「さあな。泣いてるかも知れねえぞ」と言われ、さらに謎が深まった。
あのジャイアンが泣いているだと?どういう状況だ?
「気になるなら、連絡してやれ。オマエから連絡あるまで、連絡すんなって言ってあるから」
「マジでどんな状況なんですか」
あまり、私からジャイアンに連絡するのはよくない気もするが、三途さんがああいうのだから私から連絡を取るしかないのか。
メールで「元気ですか?」と送ると、ものの数分でケータイが鳴った。
『美夜子……?』
「はい。どうしたんですか?めちゃくちゃ元気ないじゃないですか」
『昨日のあとで、元気になれるわけないだろ……』
覚えていない、と口にしそうだったが、ここで迂闊に本当のことを言うとマウントをとられそうな気がしたので、「そうですね」と適当に合わせておく。
『美夜子がそんなに辛いって知らなくてさ……。マイキーと明司にすげえ怒られた』
「いえ、反省してくれたならいいです」
『反省した。だから、家帰ってもいいか?美夜子に会いたい』
「反省してくれたなら、いつでも帰ってきてください。ここは蘭ちゃんの家なんですから」
『ありがとう。帰る』
通話を終了し、三途さんに向き直る。
「蘭ちゃんが帰ってくる前に、あらましを説明してください」
「オマエ、本当に変な度胸はあるよな」
私があらましを知って、震えながらプレフェミンを買うまであと少し。
なにも手につかず、怠惰に横になりながら下腹部の痛みから意識をそらす。
大丈夫、痛くない……。痛くない……。
口呼吸をしながら、精神と肉体の安定をはかる。
今日はもうなんもしない。絶対にだ。そう誓ったのに、私のケータイがジャイアンのテーマソングをかき鳴らした。
無理、むり、ムリ。いまは無理なんです、電話しないでください。
一度目のコールは無視したが、またジャイアンのテーマソングが流れ始めた。
わかった、出るよ。出ればいいんでしょ。
ずるずるとソファーからおり、電話に出る。
「はい……」
『電話に出るの遅えぞー。美夜子、いま暇だろ?』
「いや、暇では……」
『うるせえな。いいから、いまから送る場所に来いよな。じゃっ』
「……」
ぶつり、と切れたケータイを呆然と見ていたら、今度はメッセージが届く。
調べれば、そこはキャバクラのようだった。
ジャイアンが風俗遊びをするのは構わないが、そこに私を巻き込むことが気に食わない。
そんなに、私を見目麗しい女共の目の前に引きずり出して、笑いものにしたいのか……?
そのとき私は、月一の悪魔により怒りが振り切れた。
「……殺そう」
私は、最低限の格好に着替えて家をフラフラと出た。
朦朧とする意識の中、頭が痛くなるような電飾を掲げたキャバクラに足を踏み入れると、ボーイが止めに来る。
「お客様。本日は、当店貸し切りとなっております」
「……をだせ」
「え?」
「灰谷蘭をだせ……」
私の鬼気迫る形相と蘭の普段の行いから、ボーイが修羅場のにおいを察知し「お引取りください!」と声を荒らげた。
誰が帰るか。ここまで来たんだ。蘭の息の根を止めるまで、帰らねえぞ。
押し通ろうとする私の肩を掴み、ボーイはなおも「お引取りください!」と言う。
「おい、どうかしたか?」
「九井様!い、いえ……!すぐに帰らせますので!」
「帰らすって……。美夜子か?」
奥から出てきた九井さんが、私を見てそう問いかけてきた。
「すげえ顔してるけど、どうしたんだ……?」
「蘭をだせ、いますぐにだ。あいつの息の根を止める」
「いや、マジでなにがあったんだよ……」
並々ならぬ殺気を感じた九井さんは、まずは落ち着かせようとするが、いまの私の殺意は誰にも止められない。
「そりゃ、キャバクラに嫁を呼びつけるのはどうかと思うけどよ」
「それはどうでもいいんだわ……。ただ、人が体調悪いってのに、私のことを笑い者にすることがただ、ただ、許せない……」
「体調悪いのか?なら蘭には俺から言っておくし、送ってやるからマジで落ち着け」
理性的に説得を試みる九井さんには悪いが、いまの私には理性的な会話は不可能である。
頭の中は、“殺す”でいっぱいなのだ。
私の行く手を阻む九井さんに対しても殺意が芽生え始めた頃、お気楽な声がした。
「九井ー。どーかしたかー」
「あっ!馬鹿!」
上機嫌に酔った蘭。
私は九井さんを押しのけ、蘭の前に立つ。
「あー、美夜子じゃん。来てたなら、連絡よこ」
「気をつけー!」
「は?」
「脚を肩幅に開け!」
蘭は私の大声に戸惑いながらも、肩幅に脚を開いた。
よし!と頷き、次の瞬間、蘭の股間を蹴り上げた。
「〜〜〜〜っ!」
「うわ……」
声にならない蘭の悲鳴を聞きながら、人がいる席に行くと、竜胆くん、三途さん、マイキーさん。それから、見たことない人が三人いた。
が、しかし!いまは挨拶をしてる時間も惜しい!
机の上に置かれたボトルを掴み、ラッパ飲みをする。
「あー……」
「美夜子……?」
「ヤクでもやってんのか?」
ドン引く面々を無視し、ボトルをバッドのように持ち痛みがまだ引かずうずくまる蘭に大股で歩み寄る。
「鶴蝶、ヤバい。止めろ」
「わかった、マイキー」
羽交い締めにされても、なんとか男の人の腕から抜け出そうと暴言を吐きながら暴れまわる。
「離せ!ボケカスが!ぶっ殺すぞ!」
「おう、おう、落ち着けって、嫁……。なにそんなにキレてんだよ」
「美夜子。そんなに、キャバクラ呼び出されたの嫌だったのか?」
「うるせー!オマエら全員、片玉にされてえか!」
私の暴言に怯え半分、ドン引き半分な目で見てくる面々を押し退け、マイキーさんが目の前に来た。
そして、九井さんに「美夜子、なんか言ってたか?」と聞く。
「えっと、体調悪いって」
「そっか。美夜子、お腹痛い?」
その問いかけに、昂っていた感情が落ち着きアドレナリンで誤魔化していた痛みが一気に来て、子供みたいに「お腹痛いよぉ……」と泣き出してしまった。
それを見て、三途さんと目に傷がある人が「あー、なるほどな」と納得した声を出す。
「うん、お腹痛いのによく頑張って来たな」
「マイキー、俺ロキソニン買って来ます」
「ああ。あと、生姜の飲み物とかミルク」
「うっす」
「美夜子、横になろうか」
「煙草くせえけど、上着やる」
手際よく私を落ち着かせてくれるマイキーさんたちを見て、他の面々はキョトン顔をするだけ。
マイキーさんはベソベソと泣く私に膝枕をしてくれて、ゆっくりと肩を叩き「もうちょっと頑張れ」と励ましてくれる。
「えっと、美夜子?大丈夫か?」
「いま、オマエの顔を見たくない」
私の一言に、蘭が泣きそうな顔をしたが泣きたいくらい辛いのはこっちだ。
鶴蝶さんに引っ張られ、私の視界から消えた蘭の代わりに竜胆くんが視界に入り、「なにがあったんだ?」と聞いてくる。
「……」
「美夜子、俺から言っても大丈夫か?」
「なんでもいい……」
投げやりに答えると、マイキーさんが「女が体調悪くてキレてるときなんて、生理って相場が決まってるだろ」と言うと、竜胆くんが「え、こんなキレるもんなの?」と聞いた。
「生理が重いときは、男が金玉蹴り飛ばされた痛みをずっと感じてんだぞ。そもそも、内臓が剥がれてるんだから、痛いに決まってんだろ。そんなときに、こんなところ呼びつけられたら、キレんだろうが」
「兄貴が悪い」
「蘭が悪いな」
「なにをどう見ても蘭が悪い」
「反省しろ、バカ」
「俺が悪いです、ごめんなさい……」
満場一致で蘭の責任となり、遠くから蘭が「美夜子、本当にごめん」と言っているのが聞こえた。
知らん、許さん。
「マイキー、ロキソニンと生姜湯と牛乳、あとホッカイロ買ってきました」
「三途、ありがとう。明司、水ついで」
「ん」
「美夜子。生姜湯とホットミルク、どっち飲みてえ?」
「ホットミルク……」
「んー。すぐ作ってきてやるからな」
「美夜子、おら水だ。ロキソニン飲め。起きられるか?」
明司さんに手伝ってもらいながら起き上がり、ロキソニンを飲み、すぐマイキーさんの膝に戻る。
「ホットミルク飲んだら帰ろうな」
「うん……」
「蘭と帰れるか?」
「蘭と帰るくらいなら、一人で帰る」
そう言うと「うっ……!」という蘭の声が聞こえ、竜胆くんが「兄貴、自業自得」と冷たく言った。
「じゃあ、竜胆に送ってもらうか?」
「蘭と同じ顔見たくない」
「兄貴のバカ!」
「なら、三途に送らせようか?」
「……うん」
「ダメダメダメ!三途はダメだって美夜子!なにされるかわかんねえって!俺、ちゃんと謝るし、労るから!俺と帰ろ!」
「生理中の女に手だすわけねえだろうが」
いつものクソデカボイス三途さんが、私に気を使って声をひそめてくれているのが、嬉しすぎる。
「ほら、ホットミルク持ってきてやったぞ」
「ありがとう……」
「三途、これ飲み終わったら、美夜子送ってやって」
「うっす」
「マイキー!俺の嫁なんだから、俺が……!」
「蘭は、生理中の女の扱いを勉強してから帰れ」
うまい具合に蘭を引き止めてくれるマイキーさんに感謝し、三途さんに付き添われ帰宅した。
「一人で大丈夫か?不安なら、蘭が帰ってくるまでいるぞ?」
「私一人で蘭と対峙したら、蘭のこと刺しますけど大丈夫だと思いますか?」
「んな脅し使わなくても、いてやるっての。とりあえず、蘭には落ち着くまで帰ってくんなって言っとくから、安心しろ」
あの雑な三途さんに労られ、また涙が出てくると「もう寝ろ」とベッドに寝かしつけられた。
寝付くまで、手握っててやるからな。と言って、三途さんは私の手を優しく握ってくれて、それに安心して眠りについていた。
◆
拝啓、とーちゃん、かーちゃん。
昨日の記憶がありません。
ジャイアンから呼び出しの電話があって、ぶっ殺してやる、と思ったあたりから記憶がない。
しかし、部屋で普通に寝ているということは、呼び出しに応じなかったということか。
やばいなぁ、絶対に怒ってんじゃん。
どうやって機嫌取ろうかな……、と考えながらリビングにでると、三途さんが「おう、起きたか。おはよう」と言ってくれた。
なんでこの人がいるんだ?
「どうやって入ったんですか?」
「は?どうやって、て……オマエ、昨日のこと覚えてねえの?」
この言い方、なにかをやらかしたな?
顔を青くしながら、「なにしました、私……」と聞けば「覚えてねえなら、その方がいい」と言って教えてくれない。
やだやだ、怖い。
「飯作ったから、顔洗ってこい」
「あ、はい……」
とりあえず落ち着く為に顔を洗ったが、まったく落ち着かない。
え?殺した?私、ジャイアン殺した?それを、三途さんは隠している?
「はわ……はわわ……」
「おい、美夜子。飯冷めんぞ」
「ぷぇ……」
「いや、なに泣きそうになってんだよ……」
「だって……私は蘭ちゃんを殺して……」
「殺してねえって。オマエに殺されるほど、蘭は雑魚じゃねえよ」
いいから、飯食え。と言われ、席に着いたらそれはもう立派な和食が並べられた。
は?え、これ三途さんが作った?
「えー……一生味噌汁作って欲しい……」
「蘭に殺されるからやめろ」
そういえば、ジャイアンはどうしたのかと聞けば、「さあな。泣いてるかも知れねえぞ」と言われ、さらに謎が深まった。
あのジャイアンが泣いているだと?どういう状況だ?
「気になるなら、連絡してやれ。オマエから連絡あるまで、連絡すんなって言ってあるから」
「マジでどんな状況なんですか」
あまり、私からジャイアンに連絡するのはよくない気もするが、三途さんがああいうのだから私から連絡を取るしかないのか。
メールで「元気ですか?」と送ると、ものの数分でケータイが鳴った。
『美夜子……?』
「はい。どうしたんですか?めちゃくちゃ元気ないじゃないですか」
『昨日のあとで、元気になれるわけないだろ……』
覚えていない、と口にしそうだったが、ここで迂闊に本当のことを言うとマウントをとられそうな気がしたので、「そうですね」と適当に合わせておく。
『美夜子がそんなに辛いって知らなくてさ……。マイキーと明司にすげえ怒られた』
「いえ、反省してくれたならいいです」
『反省した。だから、家帰ってもいいか?美夜子に会いたい』
「反省してくれたなら、いつでも帰ってきてください。ここは蘭ちゃんの家なんですから」
『ありがとう。帰る』
通話を終了し、三途さんに向き直る。
「蘭ちゃんが帰ってくる前に、あらましを説明してください」
「オマエ、本当に変な度胸はあるよな」
私があらましを知って、震えながらプレフェミンを買うまであと少し。