蘭の嫁
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「は〜?見合い〜?」
発端はよくある、親から持ち出された見合い話だった。
二十代後半で恋人も作らず、ゲーム実況をしている娘を心配してのことだろうが、はっきり言って余計なお世話である。
誰しも必ず、人生のパートナーがほしいわけではない。
私のように、一人が好きな人間もいることを忘れるな。
姉ちゃんが結婚マウントを取ってくるのは甚だムカつくけれど、だからと言って結婚したいとは思えない。
だから速攻断ったのに、見合い相手に弱みでも握られているのかというくらい、父ちゃんが引き下がらない。
「頼む、会うだけでいいから!」
「なに?相手に浮気の現場でも握られた?」
「……」
「握られとるんかい!」
つか、その歳で浮気をするのか、貴様は。
バレちまえ、と思うが父ちゃんにはしこたまお小遣いを貰いまくり甘やかされて育ったので、私も父ちゃんには甘い。
まあ、浮気はクソだが。
「もー。会うだけだからね?」
「ありがとう、美夜子!今度、ゲーム買ってやるからな!」
「やった〜!父ちゃん大好き〜!」
新しいゲームを買ってもらえることに喜びすぎて、私はお相手の写真を見るのを忘れていた。
まあ、どうせお断りするからいいか〜。くらいの気持ちで、レンタル着物店で振袖を着付けてもらい、バカ高そうな料亭へと連れてこられた。
来る途中、父ちゃんから相手の情報として、取引先の社長だということ聞いた。
ある程度、失礼のないように振る舞おうと一応は思い、案内された部屋に入ればまだ来ていないようだ。
待つのか……、と既に帰りたい欲駆られる私を父ちゃんが宥めるが、さすがに三十分の遅刻は帰られても文句は言えないだろ。ウチナータイムを生きてんのか、相手の男は。
「よし、帰ろう」
「待って、美夜子!もうちょっと!もうちょっと、待とう?!」
「やだ!帰る!」
「父さんと母さんが離婚してもいいのか?!」
「それは自業自得!」
もう待ってられるか!と帰ろうとして障子に手をかけると、同じタイミングで障子が開いた。
そこには、高身長な紫の髪に黒メッシュのサラリーマンが立っていた。
え、頭の色やばっ。とガン見していると、サラリーマンはへらりと笑い、「どうしたー?トイレか?」と最低な質問をしてきた。
帰ろうとしていた、と言いたいが、根が陰キャな私はこの圧倒的パリピ寄り男に自分の意見を言えず、ゴニョゴニョと「や……その……」と口ごもる。
「なに?聞こえねえけど?」
「あの……その……帰ろうかなって……」
勇気を振り絞って言うと、ウチナータイム男は笑顔のまま顔を近づけてきて、「俺が来てねえのに帰ろうとしたなんて言わねえよなぁ……?」と瞬時に無表情へ切り替え地を這うような低い声で言った。ない玉がヒュンする。
こ、この横暴な感じ、中学、高校と絡んできた三編みジャイアンに似ている……!
「なぁ、よく聞こえねえから、ちゃんと、ハッキリ、どこに行こうとしてたか、言ってみろ?」
ゆっくりと言葉を区切って言うのがより一層怖く、震え上がりながら「どこにも行きましぇん……!」と答えると、またニッコリ笑い「だよなー?お前はそんな悪い子じゃないもんなー?」と言う。
悪い子?とあたかも私を知っているかのような口調に疑問を持ったが、私の脇を通って席についたので、私も父ちゃんの隣に座りなおす。
しかし、すぐに「お前は出ていけ」と父ちゃんにUSBメモリーを投げ渡し命令した。
待って、父ちゃん!こんな紫ジャイアンと二人きりにしないで!父ちゃん!父ちゃん!ああ、父ちゃん!浮気バレろ!
無情にも行ってしまった父ちゃんに呪いを撒き散らしながら、目の前で微笑んでいる男をどうしたものかと考える。
下手に刺激をすると、さっきの無表情低音ボイスがくる。
やだ、もう……。早く帰りたい……。と震えていると、「相変わらず、小動物みたいに怯えてんな。オマエ」と言われた。
「え……?どこかでお会いしましたっけ?」
こんな衝撃的な髪色の男、そうそう忘れるはずないのだが……。と思う私に、紫ジャイアンは「あ?」とドスの利いた声で威嚇してきた。
「あああああ!!すみません!!私、人の顔と名前覚えるのが苦手で!!」
慌てて弁明にならない弁明をすると、紫ジャイアンは「そういえば、そうだったな」と懐かしそうに、ケラケラと笑った。
生き残った……!
「俺はオマエのそういう、他人に深入りしねえとこが気に入ってたんだもんな」
「は、はぁ……」
「けどさ……主人の顔忘れるってどういうことだぁ……?」
またも地に落ちた声色に、この人の感情ジェットコースターかよ、と思ってしまった。
いや、しかし、主人……?ジャイアン……?気に入った……?
「っ!灰谷蘭!」
「呼び捨てにしてんじゃねえぞ、美夜子」
似ているどころの話じゃない!正真正銘、三編みジャイアンこと灰谷蘭本人だ!
完全に三編みの印象が強すぎて顔面なんて忘れていた。
ヤバヤバのヤバな相手ではないか!
愕然と目の前の人物を見つめると、私の表情がお気に召したのか、ニコニコと上機嫌に微笑む。
「な、なんで……?偶然……?」
「オマエの父親の弱み握ってるんだから、偶然なわけないだろ。馬鹿だなー、美夜子は」
愛しいものを見るような目で見られているが、完全に嘗められている。
しかし、わざととしても理由がわからない。
「なんで、わざわざ私なんかとお見合いを……?」
「んー?実はさ、この間、女と遊んでたら勘違いしたらしくてよ、あれこれ聞いてきて、うぜえなー、て思ってたらオマエのこと思い出したんだよな。なんにも聞いてこねえし、勘違いもしねえし、反応はおもしれえしで。そしたら、「あ、結婚しよ」てなった」
はーーーーーん?話が追いつかねえなあ?どんな流れでそんな発想になるんだ?
敵に見つかったリスのように固まる私に、ジャイアンは「もちろん、結婚してくれるよなー?」と言うが、嫌に決まってるだろ!
結婚という行為がまずもって嫌なのに、人生で一番関わり合いたくない人間と結婚なんて尚更嫌!ノーサンキュー!
言え、陰キャ!言わないと、コイツはゴリ押してくるぞ!
「い、嫌……」
「んー?なんて?もう一回、俺の目見て言ってみろ、美夜子」
目を見て……、と視線を合わせるが、二秒も持たなかった。
あの、無邪気に凶悪な目と視線を合わせるなんて無理だ……!
「おら、言ってみろ。まあ、言ったあとの無事は保証してやらねえけどな」
怖い、助けて。
「い……」
「い?」
「いいです……」
陰キャ、元ヤンに勝てず。
はー、私の快適独り身ライフ終わりなのか。こんにちは、奴隷ライフ。
意気消沈する私に、ジャイアンは「別に、オマエにとっても悪い条件じゃねえと思うぞ」と宣う。
「条件?」
「俺はオマエの生活に基本的に干渉しない、俺はたまにしか帰らない、生活費から娯楽費まで好きなだけ出してやる、仕事辞めたきゃ辞めていい、家は高層マンション」
「好き、愛してる。結婚しましょう」
華麗なまでの手の平返しに、ジャイアンは「あっはっはっはっ!オマエのそういうとこ、超好き」と言う。
だって、だって、生活干渉されないで、ジャイアンもたまにしか帰ってこない、その上、仕事せずにお金使いたい放題なんて最高。
それって、なんてパトロン?
「いや、実質パトロンだな?灰谷さん、もう一度聞くんですけど、なんで結婚しようとか思ったんですか?」
「俺のことはなんて呼べって言ったか、忘れたのかなー?」
「ら、蘭ちゃん……」
「よしよし。んー、そうだな。ヤるだけなら、セフレはいくらでもいんだけどよ」
「息をするようにクズみたいな発言しますね」
「あ?なんか言ったか?」
「言ってません」
「黙って聞いてろ。……セフレ共みたく、ベタベタしてこねえ、肉体関係なしで落ち着ける場所がほしいんだよな」
「ええ?!そんな、人間みたいな感情あったんですか?!」
「総入れ歯にされてえのか、美夜子」
「ごめんなさい」
つい、あのジャイアンが人間みたいなことを言うので、口を滑らせてしまった。
危ない、危ない。こいつは、女だろうと容赦なくぶん殴る男だ。私は何回かそれで意識が飛んだことがある。
「けど、それなら結婚という枠組みに収まる必要はないのでは?私のパトロンになればいいのでは?」
「オマエのそういう強欲でがめついとこ好きだよ。そうだなー、強いて言うなら俺のものが他の奴に取られたら、ムカつくなー、て思ったから」
そんな小学生みたいな理由で、結婚という大事なことを決めたのか。
「勿論、結婚したら俺が飽きるまで離婚もしねえし不倫も許さねえからな」
「自分はセフレいるのに……」
「俺はいいの」
理不尽だとは思うが、学生時代からこの理不尽さは当たり前だった。
そもそも、私は誰かと恋愛なんてするつもりはないし、金を出してくれて好きにさせてくれるなんて好条件で、誰かになびくつもりはない。
「わかりました、よろしくお願いします」
「じゃあ、このあと一緒に役所に書類出しに行こうな」
書類?と聞く私に、ジャイアンは記入も判も全て済ませた、完成形の婚姻届をだした。
「どうせ、オマエは断らねえと思ったから、作ってきてやったぜ」
「あ、はい。ありがとうございます……」
そのあと、料亭からジャイアンの車で役所に向かい届出をした。
さっさと振袖返して帰ろうと考える私に、ジャイアンは「美夜子は馬鹿だな」と突然馬鹿にしてきた。
「俺がなんの仕事してるか聞かないなんて」
「会社の社長さんじゃないんですか?」
「んー。社長さん“も”やってる」
「へー、兼業してるんですねー」
興味がないので適当に流したら、「馬鹿可愛い♡」と完全に嘗めきられた声色で言われた。
発端はよくある、親から持ち出された見合い話だった。
二十代後半で恋人も作らず、ゲーム実況をしている娘を心配してのことだろうが、はっきり言って余計なお世話である。
誰しも必ず、人生のパートナーがほしいわけではない。
私のように、一人が好きな人間もいることを忘れるな。
姉ちゃんが結婚マウントを取ってくるのは甚だムカつくけれど、だからと言って結婚したいとは思えない。
だから速攻断ったのに、見合い相手に弱みでも握られているのかというくらい、父ちゃんが引き下がらない。
「頼む、会うだけでいいから!」
「なに?相手に浮気の現場でも握られた?」
「……」
「握られとるんかい!」
つか、その歳で浮気をするのか、貴様は。
バレちまえ、と思うが父ちゃんにはしこたまお小遣いを貰いまくり甘やかされて育ったので、私も父ちゃんには甘い。
まあ、浮気はクソだが。
「もー。会うだけだからね?」
「ありがとう、美夜子!今度、ゲーム買ってやるからな!」
「やった〜!父ちゃん大好き〜!」
新しいゲームを買ってもらえることに喜びすぎて、私はお相手の写真を見るのを忘れていた。
まあ、どうせお断りするからいいか〜。くらいの気持ちで、レンタル着物店で振袖を着付けてもらい、バカ高そうな料亭へと連れてこられた。
来る途中、父ちゃんから相手の情報として、取引先の社長だということ聞いた。
ある程度、失礼のないように振る舞おうと一応は思い、案内された部屋に入ればまだ来ていないようだ。
待つのか……、と既に帰りたい欲駆られる私を父ちゃんが宥めるが、さすがに三十分の遅刻は帰られても文句は言えないだろ。ウチナータイムを生きてんのか、相手の男は。
「よし、帰ろう」
「待って、美夜子!もうちょっと!もうちょっと、待とう?!」
「やだ!帰る!」
「父さんと母さんが離婚してもいいのか?!」
「それは自業自得!」
もう待ってられるか!と帰ろうとして障子に手をかけると、同じタイミングで障子が開いた。
そこには、高身長な紫の髪に黒メッシュのサラリーマンが立っていた。
え、頭の色やばっ。とガン見していると、サラリーマンはへらりと笑い、「どうしたー?トイレか?」と最低な質問をしてきた。
帰ろうとしていた、と言いたいが、根が陰キャな私はこの圧倒的パリピ寄り男に自分の意見を言えず、ゴニョゴニョと「や……その……」と口ごもる。
「なに?聞こえねえけど?」
「あの……その……帰ろうかなって……」
勇気を振り絞って言うと、ウチナータイム男は笑顔のまま顔を近づけてきて、「俺が来てねえのに帰ろうとしたなんて言わねえよなぁ……?」と瞬時に無表情へ切り替え地を這うような低い声で言った。ない玉がヒュンする。
こ、この横暴な感じ、中学、高校と絡んできた三編みジャイアンに似ている……!
「なぁ、よく聞こえねえから、ちゃんと、ハッキリ、どこに行こうとしてたか、言ってみろ?」
ゆっくりと言葉を区切って言うのがより一層怖く、震え上がりながら「どこにも行きましぇん……!」と答えると、またニッコリ笑い「だよなー?お前はそんな悪い子じゃないもんなー?」と言う。
悪い子?とあたかも私を知っているかのような口調に疑問を持ったが、私の脇を通って席についたので、私も父ちゃんの隣に座りなおす。
しかし、すぐに「お前は出ていけ」と父ちゃんにUSBメモリーを投げ渡し命令した。
待って、父ちゃん!こんな紫ジャイアンと二人きりにしないで!父ちゃん!父ちゃん!ああ、父ちゃん!浮気バレろ!
無情にも行ってしまった父ちゃんに呪いを撒き散らしながら、目の前で微笑んでいる男をどうしたものかと考える。
下手に刺激をすると、さっきの無表情低音ボイスがくる。
やだ、もう……。早く帰りたい……。と震えていると、「相変わらず、小動物みたいに怯えてんな。オマエ」と言われた。
「え……?どこかでお会いしましたっけ?」
こんな衝撃的な髪色の男、そうそう忘れるはずないのだが……。と思う私に、紫ジャイアンは「あ?」とドスの利いた声で威嚇してきた。
「あああああ!!すみません!!私、人の顔と名前覚えるのが苦手で!!」
慌てて弁明にならない弁明をすると、紫ジャイアンは「そういえば、そうだったな」と懐かしそうに、ケラケラと笑った。
生き残った……!
「俺はオマエのそういう、他人に深入りしねえとこが気に入ってたんだもんな」
「は、はぁ……」
「けどさ……主人の顔忘れるってどういうことだぁ……?」
またも地に落ちた声色に、この人の感情ジェットコースターかよ、と思ってしまった。
いや、しかし、主人……?ジャイアン……?気に入った……?
「っ!灰谷蘭!」
「呼び捨てにしてんじゃねえぞ、美夜子」
似ているどころの話じゃない!正真正銘、三編みジャイアンこと灰谷蘭本人だ!
完全に三編みの印象が強すぎて顔面なんて忘れていた。
ヤバヤバのヤバな相手ではないか!
愕然と目の前の人物を見つめると、私の表情がお気に召したのか、ニコニコと上機嫌に微笑む。
「な、なんで……?偶然……?」
「オマエの父親の弱み握ってるんだから、偶然なわけないだろ。馬鹿だなー、美夜子は」
愛しいものを見るような目で見られているが、完全に嘗められている。
しかし、わざととしても理由がわからない。
「なんで、わざわざ私なんかとお見合いを……?」
「んー?実はさ、この間、女と遊んでたら勘違いしたらしくてよ、あれこれ聞いてきて、うぜえなー、て思ってたらオマエのこと思い出したんだよな。なんにも聞いてこねえし、勘違いもしねえし、反応はおもしれえしで。そしたら、「あ、結婚しよ」てなった」
はーーーーーん?話が追いつかねえなあ?どんな流れでそんな発想になるんだ?
敵に見つかったリスのように固まる私に、ジャイアンは「もちろん、結婚してくれるよなー?」と言うが、嫌に決まってるだろ!
結婚という行為がまずもって嫌なのに、人生で一番関わり合いたくない人間と結婚なんて尚更嫌!ノーサンキュー!
言え、陰キャ!言わないと、コイツはゴリ押してくるぞ!
「い、嫌……」
「んー?なんて?もう一回、俺の目見て言ってみろ、美夜子」
目を見て……、と視線を合わせるが、二秒も持たなかった。
あの、無邪気に凶悪な目と視線を合わせるなんて無理だ……!
「おら、言ってみろ。まあ、言ったあとの無事は保証してやらねえけどな」
怖い、助けて。
「い……」
「い?」
「いいです……」
陰キャ、元ヤンに勝てず。
はー、私の快適独り身ライフ終わりなのか。こんにちは、奴隷ライフ。
意気消沈する私に、ジャイアンは「別に、オマエにとっても悪い条件じゃねえと思うぞ」と宣う。
「条件?」
「俺はオマエの生活に基本的に干渉しない、俺はたまにしか帰らない、生活費から娯楽費まで好きなだけ出してやる、仕事辞めたきゃ辞めていい、家は高層マンション」
「好き、愛してる。結婚しましょう」
華麗なまでの手の平返しに、ジャイアンは「あっはっはっはっ!オマエのそういうとこ、超好き」と言う。
だって、だって、生活干渉されないで、ジャイアンもたまにしか帰ってこない、その上、仕事せずにお金使いたい放題なんて最高。
それって、なんてパトロン?
「いや、実質パトロンだな?灰谷さん、もう一度聞くんですけど、なんで結婚しようとか思ったんですか?」
「俺のことはなんて呼べって言ったか、忘れたのかなー?」
「ら、蘭ちゃん……」
「よしよし。んー、そうだな。ヤるだけなら、セフレはいくらでもいんだけどよ」
「息をするようにクズみたいな発言しますね」
「あ?なんか言ったか?」
「言ってません」
「黙って聞いてろ。……セフレ共みたく、ベタベタしてこねえ、肉体関係なしで落ち着ける場所がほしいんだよな」
「ええ?!そんな、人間みたいな感情あったんですか?!」
「総入れ歯にされてえのか、美夜子」
「ごめんなさい」
つい、あのジャイアンが人間みたいなことを言うので、口を滑らせてしまった。
危ない、危ない。こいつは、女だろうと容赦なくぶん殴る男だ。私は何回かそれで意識が飛んだことがある。
「けど、それなら結婚という枠組みに収まる必要はないのでは?私のパトロンになればいいのでは?」
「オマエのそういう強欲でがめついとこ好きだよ。そうだなー、強いて言うなら俺のものが他の奴に取られたら、ムカつくなー、て思ったから」
そんな小学生みたいな理由で、結婚という大事なことを決めたのか。
「勿論、結婚したら俺が飽きるまで離婚もしねえし不倫も許さねえからな」
「自分はセフレいるのに……」
「俺はいいの」
理不尽だとは思うが、学生時代からこの理不尽さは当たり前だった。
そもそも、私は誰かと恋愛なんてするつもりはないし、金を出してくれて好きにさせてくれるなんて好条件で、誰かになびくつもりはない。
「わかりました、よろしくお願いします」
「じゃあ、このあと一緒に役所に書類出しに行こうな」
書類?と聞く私に、ジャイアンは記入も判も全て済ませた、完成形の婚姻届をだした。
「どうせ、オマエは断らねえと思ったから、作ってきてやったぜ」
「あ、はい。ありがとうございます……」
そのあと、料亭からジャイアンの車で役所に向かい届出をした。
さっさと振袖返して帰ろうと考える私に、ジャイアンは「美夜子は馬鹿だな」と突然馬鹿にしてきた。
「俺がなんの仕事してるか聞かないなんて」
「会社の社長さんじゃないんですか?」
「んー。社長さん“も”やってる」
「へー、兼業してるんですねー」
興味がないので適当に流したら、「馬鹿可愛い♡」と完全に嘗めきられた声色で言われた。
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