60分一本勝負
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お題「君なんて」
「キミなんて嫌いだよ」
これが友だちや家族、恋人なんて間柄なら悲しくも思うが、言われた相手が泣く子も黙る雲雀恭弥とあっては、悲しみより死を感じるだろうが。
まあ、とは言ってもこの言葉は挨拶のようなものなので、私も「はい、はい」と適当に返しているのだが。
最初の頃は、いつトンファーで殴られるのかと冷や冷やしたものだが、特に殴られるとかはなく、ただ言うだけ言って去って行くのだ。なんなんだろう。
ヒバリさんとは家がご近所で、挨拶をよくするし、両親の帰りが遅い日は家にあげてくれたりする程度には仲がよかったと思っていたが、私が中学に上がってから突然、「キミなんて嫌いだよ」と言われるようになった。
最初の頃はなにかしたかとも思ったが、考えても理由がわからないので諦めた。
嫌いだといいながらも私の能力は評価してくれているようで、ヒバリさんが一人で抱えている書類処理を手伝わされている。
黙々と集中してやっている為、基本的に私とヒバリさんの間で会話はない。
昔はよく話したんだが、中学に上がってからはそんな馴れ馴れしいこともできず、疎遠になったな。
恭弥くん、恭弥くん、と言いながらあとをついて回ったのは懐かしい思い出だ、と懐かしみ笑っていたら、「なに笑ってるの」と不意に声をかけられた。
「あ、ごめん、なんでもないの、恭弥くん!」
「……」
「……」
気を抜いていた所為で、舌に馴染んだ呼び方が飛びだしてしまった
死んだ。さすがに死んだ。
あのヒバリさんを恭弥くんだなんて呼んで、生きていられるわけがない。
すぐに謝ろうとしたら、満面の笑みをヒバリさんは浮かべていた。
その笑顔は怒っているんですか?それとも、喜んでいるんですか?
顔面蒼白な私など気にせず、ヒバリさんは「そう、なんでもないんだ」と言いながら立ち上がり、ソファーに座る私の隣に腰かけた。
「ねえ、もう一回呼んで」
「え、もう一回って……?」
戸惑う私に、ヒバリさんは期待に満ちた目を向けてくる。
乾く唇をゆっくり動かし、「恭弥くん」と呼ぶと嬉しそうに「なに?」と言った。
「キミはその呼び方のほうがいいよ」
「は、はぁ……」
「僕の後ろをカルガモの赤ちゃんみたいにくっついてきてるのが、よく似合う」
「そ……それは小学生のときの話でしてね……」
「僕にとってはいくつになっても可愛いカルガモの赤ちゃんだよ。あと、敬語やめて」
昔のように頭を撫でてくるのが恥ずかしくて、「私だってもう中学生です!」と反論するも、慈愛に満ちた笑みで「そういうムキになるところが、赤ちゃんなんだよ」と言って、撫でるのをやめない。
「僕はカルガモの赤ちゃんなキミが好きだよ」
「え、もしかしてですけど、ヒバリさ、ぐっ!」
唐突に顎を鷲掴まれ、射抜くような表情で見つめられ、「名前、敬語」と端的に不満箇所を述べられた。
「恭弥くん、痛い……」
「ごめんね。それで、もしかして、なに?」
「もしかして、私が余所余所しくしてたのが嫌だったの?」
「嫌だったんじゃないよ。キミが、他の草食動物みたいな態度を取るのが気に食わなかっただけ」
それを世の中では嫌だった、と言うのではないだろうか……。
「どんな危ない場所でもついてきて、僕が戦うところをはしゃぎながら見てるキミが好きだったのに。中学に入ってから、距離を置かれた」
「あ、あー……。なんと言うか、昔は恭弥くんの凄さとか立場とかよくわかってなかったから……」
「わかったから、僕と距離を置いたんだ。ふーん」
気に食わない、と隣からボソッと聞こえて戦慄した。このままでは咬み殺される。
「だ、だってさ、子供の頃だから許されていた部分ってあるじゃん」
「僕はキミが子供だから許していたわけじゃないよ。キミを気に入ってたから、許してたんだ」
「それに、一般生徒が恭弥くんなんて呼んでたら、沽券に関わらない?」
「関わらない」
「えっと……えっと……」
「言い訳しないといけないくらい、僕といたくないの?」
そういうわけではないが、ここで下手に誤魔化しても機嫌を損なうだけだろう。
観念しよう。
「恭弥くんの迷惑になるかな、て思って。私は別に喧嘩が強いわけでもないし、一人で生きていけるタイプでもないから、友だちとも遊ぶし。恭弥くんがそういう、草食動物とか群れをなす人が嫌いって聞いたから、いままで嫌々付き合ってたのかもなって思って……」
「僕が嫌なことを無理にやるタイプだと思ってたの?」
「いや……恭弥くん、嫌なことは嫌って言うから違うかとは思うけど……。なんだかんだで優しいところあるから……」
「嫌だったらそもそも相手しないよ」
大丈夫だよ、と私の頭を抱き寄せて安心させてくれる仕草は、昔となにも変わっていない。
恭弥くんは、昔となにも変わっていないことに安心する。
「じゃあ、恭弥くんって呼んでもいいの?」
「いいよ」
じゃあ、そうする。と言おうとしたが、ここは中学。やはり、上下関係はしっかりしなくてはいけないのではないだろうか。
そのことを恭弥くんに伝えたら、見るからに不機嫌になった。
「なら、なんて呼ぶつもり」
「恭弥先輩とか」
「……」
私の提案に、恭弥くんは無表情で黙り込んでから「まあ、悪くないかな」と口にした。
「でも、学校外ではいつもの呼び方して」
「切り替えるの難しそう」
「がんばって」
「キミなんて嫌いだよ」
これが友だちや家族、恋人なんて間柄なら悲しくも思うが、言われた相手が泣く子も黙る雲雀恭弥とあっては、悲しみより死を感じるだろうが。
まあ、とは言ってもこの言葉は挨拶のようなものなので、私も「はい、はい」と適当に返しているのだが。
最初の頃は、いつトンファーで殴られるのかと冷や冷やしたものだが、特に殴られるとかはなく、ただ言うだけ言って去って行くのだ。なんなんだろう。
ヒバリさんとは家がご近所で、挨拶をよくするし、両親の帰りが遅い日は家にあげてくれたりする程度には仲がよかったと思っていたが、私が中学に上がってから突然、「キミなんて嫌いだよ」と言われるようになった。
最初の頃はなにかしたかとも思ったが、考えても理由がわからないので諦めた。
嫌いだといいながらも私の能力は評価してくれているようで、ヒバリさんが一人で抱えている書類処理を手伝わされている。
黙々と集中してやっている為、基本的に私とヒバリさんの間で会話はない。
昔はよく話したんだが、中学に上がってからはそんな馴れ馴れしいこともできず、疎遠になったな。
恭弥くん、恭弥くん、と言いながらあとをついて回ったのは懐かしい思い出だ、と懐かしみ笑っていたら、「なに笑ってるの」と不意に声をかけられた。
「あ、ごめん、なんでもないの、恭弥くん!」
「……」
「……」
気を抜いていた所為で、舌に馴染んだ呼び方が飛びだしてしまった
死んだ。さすがに死んだ。
あのヒバリさんを恭弥くんだなんて呼んで、生きていられるわけがない。
すぐに謝ろうとしたら、満面の笑みをヒバリさんは浮かべていた。
その笑顔は怒っているんですか?それとも、喜んでいるんですか?
顔面蒼白な私など気にせず、ヒバリさんは「そう、なんでもないんだ」と言いながら立ち上がり、ソファーに座る私の隣に腰かけた。
「ねえ、もう一回呼んで」
「え、もう一回って……?」
戸惑う私に、ヒバリさんは期待に満ちた目を向けてくる。
乾く唇をゆっくり動かし、「恭弥くん」と呼ぶと嬉しそうに「なに?」と言った。
「キミはその呼び方のほうがいいよ」
「は、はぁ……」
「僕の後ろをカルガモの赤ちゃんみたいにくっついてきてるのが、よく似合う」
「そ……それは小学生のときの話でしてね……」
「僕にとってはいくつになっても可愛いカルガモの赤ちゃんだよ。あと、敬語やめて」
昔のように頭を撫でてくるのが恥ずかしくて、「私だってもう中学生です!」と反論するも、慈愛に満ちた笑みで「そういうムキになるところが、赤ちゃんなんだよ」と言って、撫でるのをやめない。
「僕はカルガモの赤ちゃんなキミが好きだよ」
「え、もしかしてですけど、ヒバリさ、ぐっ!」
唐突に顎を鷲掴まれ、射抜くような表情で見つめられ、「名前、敬語」と端的に不満箇所を述べられた。
「恭弥くん、痛い……」
「ごめんね。それで、もしかして、なに?」
「もしかして、私が余所余所しくしてたのが嫌だったの?」
「嫌だったんじゃないよ。キミが、他の草食動物みたいな態度を取るのが気に食わなかっただけ」
それを世の中では嫌だった、と言うのではないだろうか……。
「どんな危ない場所でもついてきて、僕が戦うところをはしゃぎながら見てるキミが好きだったのに。中学に入ってから、距離を置かれた」
「あ、あー……。なんと言うか、昔は恭弥くんの凄さとか立場とかよくわかってなかったから……」
「わかったから、僕と距離を置いたんだ。ふーん」
気に食わない、と隣からボソッと聞こえて戦慄した。このままでは咬み殺される。
「だ、だってさ、子供の頃だから許されていた部分ってあるじゃん」
「僕はキミが子供だから許していたわけじゃないよ。キミを気に入ってたから、許してたんだ」
「それに、一般生徒が恭弥くんなんて呼んでたら、沽券に関わらない?」
「関わらない」
「えっと……えっと……」
「言い訳しないといけないくらい、僕といたくないの?」
そういうわけではないが、ここで下手に誤魔化しても機嫌を損なうだけだろう。
観念しよう。
「恭弥くんの迷惑になるかな、て思って。私は別に喧嘩が強いわけでもないし、一人で生きていけるタイプでもないから、友だちとも遊ぶし。恭弥くんがそういう、草食動物とか群れをなす人が嫌いって聞いたから、いままで嫌々付き合ってたのかもなって思って……」
「僕が嫌なことを無理にやるタイプだと思ってたの?」
「いや……恭弥くん、嫌なことは嫌って言うから違うかとは思うけど……。なんだかんだで優しいところあるから……」
「嫌だったらそもそも相手しないよ」
大丈夫だよ、と私の頭を抱き寄せて安心させてくれる仕草は、昔となにも変わっていない。
恭弥くんは、昔となにも変わっていないことに安心する。
「じゃあ、恭弥くんって呼んでもいいの?」
「いいよ」
じゃあ、そうする。と言おうとしたが、ここは中学。やはり、上下関係はしっかりしなくてはいけないのではないだろうか。
そのことを恭弥くんに伝えたら、見るからに不機嫌になった。
「なら、なんて呼ぶつもり」
「恭弥先輩とか」
「……」
私の提案に、恭弥くんは無表情で黙り込んでから「まあ、悪くないかな」と口にした。
「でも、学校外ではいつもの呼び方して」
「切り替えるの難しそう」
「がんばって」
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