呼ばれまして忍者ちゃん!
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忍とは、陰日向に徹し、表舞台には立たない、存在しない存在だ。
主の影である私たちは名前すら知られる必要ない。
認識されず、主の為に散ることこそ誉れと教え込まれていたわけだが、いまの私の状況はどうだろうか。
「ちゃおっす、時風」
「げぇっ!リボーン!」
挨拶代わりに放たれた弾丸をギリギリのところで弾くも、早撃ちされた追撃の弾丸をいくつか弾ききれず、頬を掠め、服を割いて肌を切り裂く。
弾丸なんて基本的に直線的だから躱すのも弾くのも簡単だが、リボーンは体が避ける動きをしきれない箇所に撃ち込んでくる。
「毎度思うけど、なんで私、命狙われてるの?!」
なんかした?!と理解の及ばない私に、リボーンは「俺はお前の本気を見てねぇからな」と言う。
私の本気〜?そんなもの見て、どうしたいんだか。
クナイをくるくると回し、「実力なら、ご覧の通りだよ」と言うも、リボーンはいつもの不敵な笑みを消し、「それは本気じゃねぇだろ」と言われた。
「初めて俺と会ったときの殺気はどうした」
「あのときは、恭弥が危険になるかと思っただけで、いまはそんな気はないよ」
「なら、ヒバリを殺せば、やる気だすか?」
「それはまずもってありえない。キミは、恭弥にボンゴレファミリーに入ってほしいと思っている。なのに、殺すわけがない」
なんたって、あの強さだからね。私の本気を見る為だけにそれをするのは、あまりに釣り合いがとれない。
リボーンは、「ヒバリから、お前は追い詰めれば本気を出すと聞いたんだがな」と言うが、まあ、本当の命のやり取りになったら、私も本気で自衛はするさ。
「けど、私はキミに手出しはしない」
「どうしてだ」
「恭弥から手出しするなって言われてるから」
忍にとって、主の命令は絶対だ。
「恭弥が手出しするなと命じる限り、私は手出しはしない」
「もしここで、俺がお前の急所を狙ったとしてもか」
銃口が私の眉間に向けられる。
私はそれを見据え、「好きにすればいい」と言えば、私たちの間に沈黙が流れた。
「お前の覚悟、受け取ったぞ」
「撃たないのか?」
「ああ。……その忠誠心、ボンゴレにやっぱり欲しいな」
「ははっ、私のこれは恭弥限定だから」
なら、なおさらヒバリには入ってもらわないとな。と言って、リボーンは帰っていった。
姿が見えなくなってから、壁に手をつき、安堵の息をつく。
よかった、撃たれなくて……。
強がってはみたけれど、私は本当の本当に、争い事とか痛いのとか怖いことが嫌いだ。本当に、大嫌いだ。一応、感情のコントロールはできるから平気なフリはしているが、無理、勘弁して。
仕事スイッチが入っていないのに、戦えるか、馬鹿野郎。
リボーンが当てる気はないとわかっていても、怖いものは怖いし、痛いものは痛い。
傷の手当をして、破れた服も繕ってから恭弥様のところに行くと、「血の臭いがする」と言われた。
鼻がいいなぁ、もう。
「怪我したの?」
「ちょっと、リボーンに撃たれただけ」
私がそう言うと、恭弥様は不機嫌そうに「なにそれ、ズルい」と言った。
命狙われて、ズルいもヘッタクレもない。
「僕だって、赤ん坊やキミと戦いたい」
「勘弁してよ。こっちは、そんな趣味ないんだから」
と言っても、血の臭いで興奮したのか、恭弥様は舌舐めずりをしながら、私の腰に手を這わしてくる。
恭弥様の愛情と性欲は殺意に変換されるから、本当に厄介だ。
「僕もキミを傷つけたい」
「私が人生で負った傷の三分の二は恭弥によるものだけど、これ以上増やす気?」
「もっと増やさないと、満足なんてできないよ」
これ以上増やさないでくれ、と思っていると、服があり見えない位置の弾丸が掠めた箇所を触られ、少し反応してしまった。
「ここ、痛い?」
「ちょっと痛い。から、あまり触らないでほしい」
と言っているのに、恭弥様は執拗に怪我のある場所を撫でてくる。
痛い……!
「なに、やめて。マジで痛い」
「僕以外に傷つけられるのは、ムカつくんだよね」
「怒ってるの?」
「ちょっと」
そう言うと、傷を掴まれた。
声が出そうになるのをこらえ、私を睨んでいる恭弥様と視線を合わす。
「キミに痛みを与えていいのは僕だけだ」
「無茶言わないでよね……」
「怪我をするのも、死ぬのも許さないよ」
無茶を言う。
恭弥様が死ねと言うまで死ぬ気はないが、私は忍だ。
無茶を押し通してでもやらなければならないことはたくさんある。
「私は恭弥の忍だ。任務で死ぬのが、華ってものだ」
「思ってもないくせに」
よくわかってる、と笑いかけながら、「死にたくはないけど、恭弥の為に死ねるなら本望だ」と口にする私に、恭弥様は「悪い口だね、塞いであげようか」と言う。
そんなことをしなくても、喋るなと言われれば喋らないさ。
「生きて。キミは僕の手で殺すから」
「恭弥がそれを望むなら、いつでも手にかかるよ」
「無抵抗なキミを咬み殺しても、楽しくない」
僕を殺すくらい愛して死んで、と生きてほしいのか死んでほしいのかわからない。
あ、死ぬで思い出した。
「私、しばらく任務で学校来ないから」
「任務なんて、しなくていいんだよ……?」
さっきまで私を咬み殺したくてしかたがないとギラついていた目が、途端に不安そうに揺れた。
普段は咬み殺したい、咬み殺したい、と言うくせに、私が任務で並盛を離れるときくと心配そうにする。
私が無理して忍の仕事をしていると思っているのだろう。その通りである、無理をして仕事をしているのだ。
雲雀の分家が、恐れ多くも恭弥様の命を狙っていると情報があり、その粛清をご当主から賜った。
恭弥様の案件ということもあり、恭弥様直属の部下である私が粛清に乗り出すことになったが、どうもきな臭い。
恭弥様を狙うにしても人数が少ない。こんな心許ない人数で、本当に恭弥様を狙うか?と疑ったが、調査を命じた猪尾の家の者は確かな情報だと言う。
なにもないといいのだが。
闇に潜み反乱分子の根城である分家の屋敷に忍び込む。
手はず通り猪尾の忍たちを配置して、私は頭を叩く。
毒を混ぜた煙玉を室内に落とし、扉を塞げば私の担当は終わり。
生き残ったやつはいないか確認しようと中に入った瞬間、攻撃を受けた。
何人か生き残った、というわけではない。全員生き残っている。
ガスマスクをした敵を見据え、大手裏剣を構える。
「随分と用意がいいな」
「とあるネズミが、忠告してくれてな」
「そのネズミの名前を教えてもらいたいものだな」
私の言葉に、主犯は「会わせてやるよ」と言い指を鳴らすと、粛清に向かったはずの猪尾の忍たちが姿を現した。
「グルだったということか。繁之、主犯は貴様か?」
猪尾で一番実力がある繁之に問いかけると、「そうだと言ったら、どうする」と聞かれるが、そうだな。殺す以外の選択肢なんてもとからなかったな。
「動機は?」
「本家の連中は時風の忍ばかり重宝して、俺たちのことを蔑ろにする。ならば、俺たちを正しく使う者の下につくのが道理だ」
たしかに、ご当主も父を直属とし、恭弥様の兄君も私の妹を直属とし、妹君も私の兄を直属としている。
と言っても、本家が時風の家を選んでいるのは、なにも能力だけではない。あの方々は、「忍っぽくない忍が好き」という、趣味で選んでいるところがある。
「それは、猪尾の総意か」
「父上には聞き入れられなかった。だが、これだけの忍が貴様ら時風が幅を利かせ、自分の存在を無視し続けた本家への不満を募らせているのだ」
そういうしょぼいことを言うから、本家に相手にされないのだけれどな。
中途半端に我欲が強く、中途半端に承認欲求を募らせ、中途半端に視野が狭く、普通に馬鹿。
なにもかもが中途半端な馬鹿。
「はぁ〜。これだから、ド三流は……」
「そのド三流たちに、貴様ら時風は根絶やしにされるのだ。貴様を殺し、貴様を謀反人に仕立て上げれば、時風の忍は責任を取って全員自害するだろう。そうすれば守りは一気に薄くなり、数で叩けば我らの勝ちだ」
作戦が薄い。
時風の忍がいなくなったところで、誰よりも強い本家が残っているのに、数で勝てるわけもないだろ。
「そもそも私は死なないからな」
「この戦力差で勝てるとでも思っているのか?」
「負けるわけないだろ。私は、あの雲雀恭弥と戦って生きてる忍だ。生ぬるい手合わせをしている貴様らに負ける道理がない。それに、恭弥様に死ぬことを許可されてないからな」
「戯言を」
「なら、やってみればいい」
挑発的な笑みを浮かべる私に、分家と忍が同時に襲いかかってきた。
◆
静かになった屋敷内には、血の臭いが充満していた。
反乱分子たちのと、自分のと。
分家の主犯と繁之だけを生かしてはいる。情報を引き出すのに必要だから。
さすがに、無傷とはいかなかったか。帰り、恭弥様には見つからないようにしないとな。
電話を取り出し、父上に電話をする。なにかあったときは、連絡する手はずになっていた。
『満月、なにかあったか』
「猪尾が裏切った。今日、私についてきた連中だけだと言っていたが、事実かわからない。そっちの猪尾も全員捕らえておいてくれ」
『わかった』
「あと、処理班を寄越してくれ。死体が多すぎて処理ができない」
『わかった。盃と桜に連れて行かせる』
電話を切ってから、壁にもたれかかって死体の山を見る。
また、命を狙われたな……。
恭弥様や謎の殺し屋、そして身内。この命に、そんな価値でもあるのか、はたまた前世でなにかをやらかしたか。
ダメだな、血を流しすぎたのと毒が回る感覚で眠くなってきた。
桜たちが来るまで少し寝るかと、増血薬と気休めの解毒剤を飲んで立って眠ることにした。
「ば、ばかー!」
「いっでぇ!」
乾いた音と、頬に鋭い痛みが走り目が覚めると、桜が涙目で私を睨んでいた。
「なにすんの、桜」
「死ぬんじゃありませんわ!お姉様は、私か恭弥様の手で死ぬ以外許さないんだから!」
なんか、聞き覚えのあるセリフだな、と思いながら「死なないよ。疲れたから、寝てただけ」と言ったら、「そんな血塗れで説得力あると思っていますの!」と怒られた。
「まあまあ、桜」
「ですけど、お兄様!」
「そうだな。満月が桜の攻撃を避けられないのは、まずいな。満月、いまの体の具合は?」
桜を抑えながら私に問いかけてきた兄上に、少し考えてから「仕事スイッチ切ったら泣き叫ぶくらい辛い」と答えたら、桜が解放された。
「桜ー。お姉ちゃん連れて帰って、傷の手当と解毒」
「任せてくださいまし!」
桜に無理矢理背負われて草屋敷まで連れて行かれ、風呂で汚れを洗い流された。
うーん、痛い。桜も慎重に汚れを落としてくれているが、痛いものは痛い。
「痛くありませんこと?」
「痛くないよ」
風呂から上がり、桜に薬を塗ってもらい包帯を巻いてもらう。
寝間着に袖を通し帯を締め、桜が調合してくれた解毒薬を仰ぎ飲む。
まっず。
今日は疲れたから、さっさと寝てしまおうとする私に、桜は「どうして逃げませんでしたの」と聞いてきた。
「お姉様の脚でしたら、逃げ切れたはずですわ」
「逃げるのは楽勝だったろうけど、その間に偽の情報が回って本家の手を煩わせたくなかった。殺った方が早かったからな」
「だからって、そんな怪我をしたら恭弥様が悲しむわ……」
どちらかと言うと、キレて暴れそうな印象がある。
怪我が治った直後に、その倍の怪我を負わされそうな、そんな予感がする。
桜には、絶対に恭弥様に言うなよ、と念押ししたのに、「怪我したの?」とキレ気味の電話 is なんで。
「誰に聞いたんですか……」
『僕の兄と妹から』
そこか。たしかに、そこへの情報漏洩は規制していなかったが。わざとリークしたな、あの二人。
『会いに行ったら、迷惑?』
「主の面会を拒む理由はございません」
『ねえ、その喋り方。まさか、まだ仕事スイッチ切れてないの』
「切れていないと言うよりも、切ると痛みで泣き叫ぶので切れない状態です」
『会いに行く』
そう言って電話が切られ、寝て体力を回復していたら遠くからバイクの駆動音がした。
来たか、と思いながら起き上がって待っていると、聞き逃してしまうくらい静かな足音がこちらに向かってくる。
「満月、入るよ」
「はい」
襖が開け放たれたそこには、不機嫌オーラ丸出しの恭弥様が立っていた。
これをいまから相手にするのか、嫌だな……。
布団のそばに腰かけた恭弥様に、「お出迎えできず、申し訳ありません」と謝罪する。
「いいよ、別に。それより、傷はどう。縫ったの?」
「何箇所か」
「……痛みは」
「気を抜けないほどに」
「キミに怪我を負わせた連中は、全員死んだの?」
「全員死にました」
生かしておいた連中も、情報を引き出して死んだ。生きている者は誰もいない。
それを聞いて、恭弥様は不満そうな顔をして「残しておいてよ」と言うが、恭弥様の手を煩わせない為に殺したのだから。
「キミを傷つけて楽に死ぬなんて許せない。キミを傷つけていいのは、僕だけなのに」
「私は、いたぶって殺すのは好みませんので」
「戦うのが嫌いだからでしょ」
「はい」
そう返事をした私の手を握り、恭弥様は「満月。任務なんて、する必要はないんだよ」と言う。
「キミは僕の側にいればいい。無理に戦う必要はない。僕の相手だけをすればいいんだよ」
自分の殺害衝動は抑えられないが、せめて無用な争いとは無縁であってほしいという恭弥様なりの気づかい。
恭弥様の相手が一番厄介なのだが。殺害衝動イコール愛なので、抑えきれないというのも中々問題だ。
「キミは生きてるだけでいい。嫌いなんだろ、痛いのも、怖いのも、争いも。なら、しなくていい。生きて、満月」
揺らぎそうになるくらいの、甘い言葉。
生きているだけでいい。それだけでいいなら、どれだけ楽だろうか。
ただ、普通の人間として生きられたら。
「私は……私は、そう言ってくださるからこそ、貴方の役にたちたいのです……」
「なら、愛してくれればいいよ。僕と同じように、殺したいくらい僕のことを愛して」
「私は貴方に死んでほしくありませんから。私よりずっと、ずっと長く生きてほしいです」
そう言うと、恭弥様は私の左手薬指を握り「いま、すごくキミを殺したくてたまらないよ」と言った。
「いまなら、容易く殺せますよ」
「ダメ。まだ、キミに死んでほしくないから。でも、指だけ噛ませて」
どうして指、とは思ったが私は抵抗せず差し出せば、握られていた左手薬指の根本を噛まれた。
解放された指には、くっきりと歯形がついていて、まるで指輪のようだった。
「この指に跡をつけるのは感心しませんね」
「指輪はめられるより、マシでしょ。どうせ、消えるんだから」
愛しそうに噛み跡を撫でる恭弥様。
「キミの気持ちはできるだけ尊重したい。でも、これだけは守って。必ず生きて帰ってきて。僕の手以外で死なないで」
「はい、私の命は貴方の物ですよ。恭弥様」
主の影である私たちは名前すら知られる必要ない。
認識されず、主の為に散ることこそ誉れと教え込まれていたわけだが、いまの私の状況はどうだろうか。
「ちゃおっす、時風」
「げぇっ!リボーン!」
挨拶代わりに放たれた弾丸をギリギリのところで弾くも、早撃ちされた追撃の弾丸をいくつか弾ききれず、頬を掠め、服を割いて肌を切り裂く。
弾丸なんて基本的に直線的だから躱すのも弾くのも簡単だが、リボーンは体が避ける動きをしきれない箇所に撃ち込んでくる。
「毎度思うけど、なんで私、命狙われてるの?!」
なんかした?!と理解の及ばない私に、リボーンは「俺はお前の本気を見てねぇからな」と言う。
私の本気〜?そんなもの見て、どうしたいんだか。
クナイをくるくると回し、「実力なら、ご覧の通りだよ」と言うも、リボーンはいつもの不敵な笑みを消し、「それは本気じゃねぇだろ」と言われた。
「初めて俺と会ったときの殺気はどうした」
「あのときは、恭弥が危険になるかと思っただけで、いまはそんな気はないよ」
「なら、ヒバリを殺せば、やる気だすか?」
「それはまずもってありえない。キミは、恭弥にボンゴレファミリーに入ってほしいと思っている。なのに、殺すわけがない」
なんたって、あの強さだからね。私の本気を見る為だけにそれをするのは、あまりに釣り合いがとれない。
リボーンは、「ヒバリから、お前は追い詰めれば本気を出すと聞いたんだがな」と言うが、まあ、本当の命のやり取りになったら、私も本気で自衛はするさ。
「けど、私はキミに手出しはしない」
「どうしてだ」
「恭弥から手出しするなって言われてるから」
忍にとって、主の命令は絶対だ。
「恭弥が手出しするなと命じる限り、私は手出しはしない」
「もしここで、俺がお前の急所を狙ったとしてもか」
銃口が私の眉間に向けられる。
私はそれを見据え、「好きにすればいい」と言えば、私たちの間に沈黙が流れた。
「お前の覚悟、受け取ったぞ」
「撃たないのか?」
「ああ。……その忠誠心、ボンゴレにやっぱり欲しいな」
「ははっ、私のこれは恭弥限定だから」
なら、なおさらヒバリには入ってもらわないとな。と言って、リボーンは帰っていった。
姿が見えなくなってから、壁に手をつき、安堵の息をつく。
よかった、撃たれなくて……。
強がってはみたけれど、私は本当の本当に、争い事とか痛いのとか怖いことが嫌いだ。本当に、大嫌いだ。一応、感情のコントロールはできるから平気なフリはしているが、無理、勘弁して。
仕事スイッチが入っていないのに、戦えるか、馬鹿野郎。
リボーンが当てる気はないとわかっていても、怖いものは怖いし、痛いものは痛い。
傷の手当をして、破れた服も繕ってから恭弥様のところに行くと、「血の臭いがする」と言われた。
鼻がいいなぁ、もう。
「怪我したの?」
「ちょっと、リボーンに撃たれただけ」
私がそう言うと、恭弥様は不機嫌そうに「なにそれ、ズルい」と言った。
命狙われて、ズルいもヘッタクレもない。
「僕だって、赤ん坊やキミと戦いたい」
「勘弁してよ。こっちは、そんな趣味ないんだから」
と言っても、血の臭いで興奮したのか、恭弥様は舌舐めずりをしながら、私の腰に手を這わしてくる。
恭弥様の愛情と性欲は殺意に変換されるから、本当に厄介だ。
「僕もキミを傷つけたい」
「私が人生で負った傷の三分の二は恭弥によるものだけど、これ以上増やす気?」
「もっと増やさないと、満足なんてできないよ」
これ以上増やさないでくれ、と思っていると、服があり見えない位置の弾丸が掠めた箇所を触られ、少し反応してしまった。
「ここ、痛い?」
「ちょっと痛い。から、あまり触らないでほしい」
と言っているのに、恭弥様は執拗に怪我のある場所を撫でてくる。
痛い……!
「なに、やめて。マジで痛い」
「僕以外に傷つけられるのは、ムカつくんだよね」
「怒ってるの?」
「ちょっと」
そう言うと、傷を掴まれた。
声が出そうになるのをこらえ、私を睨んでいる恭弥様と視線を合わす。
「キミに痛みを与えていいのは僕だけだ」
「無茶言わないでよね……」
「怪我をするのも、死ぬのも許さないよ」
無茶を言う。
恭弥様が死ねと言うまで死ぬ気はないが、私は忍だ。
無茶を押し通してでもやらなければならないことはたくさんある。
「私は恭弥の忍だ。任務で死ぬのが、華ってものだ」
「思ってもないくせに」
よくわかってる、と笑いかけながら、「死にたくはないけど、恭弥の為に死ねるなら本望だ」と口にする私に、恭弥様は「悪い口だね、塞いであげようか」と言う。
そんなことをしなくても、喋るなと言われれば喋らないさ。
「生きて。キミは僕の手で殺すから」
「恭弥がそれを望むなら、いつでも手にかかるよ」
「無抵抗なキミを咬み殺しても、楽しくない」
僕を殺すくらい愛して死んで、と生きてほしいのか死んでほしいのかわからない。
あ、死ぬで思い出した。
「私、しばらく任務で学校来ないから」
「任務なんて、しなくていいんだよ……?」
さっきまで私を咬み殺したくてしかたがないとギラついていた目が、途端に不安そうに揺れた。
普段は咬み殺したい、咬み殺したい、と言うくせに、私が任務で並盛を離れるときくと心配そうにする。
私が無理して忍の仕事をしていると思っているのだろう。その通りである、無理をして仕事をしているのだ。
雲雀の分家が、恐れ多くも恭弥様の命を狙っていると情報があり、その粛清をご当主から賜った。
恭弥様の案件ということもあり、恭弥様直属の部下である私が粛清に乗り出すことになったが、どうもきな臭い。
恭弥様を狙うにしても人数が少ない。こんな心許ない人数で、本当に恭弥様を狙うか?と疑ったが、調査を命じた猪尾の家の者は確かな情報だと言う。
なにもないといいのだが。
闇に潜み反乱分子の根城である分家の屋敷に忍び込む。
手はず通り猪尾の忍たちを配置して、私は頭を叩く。
毒を混ぜた煙玉を室内に落とし、扉を塞げば私の担当は終わり。
生き残ったやつはいないか確認しようと中に入った瞬間、攻撃を受けた。
何人か生き残った、というわけではない。全員生き残っている。
ガスマスクをした敵を見据え、大手裏剣を構える。
「随分と用意がいいな」
「とあるネズミが、忠告してくれてな」
「そのネズミの名前を教えてもらいたいものだな」
私の言葉に、主犯は「会わせてやるよ」と言い指を鳴らすと、粛清に向かったはずの猪尾の忍たちが姿を現した。
「グルだったということか。繁之、主犯は貴様か?」
猪尾で一番実力がある繁之に問いかけると、「そうだと言ったら、どうする」と聞かれるが、そうだな。殺す以外の選択肢なんてもとからなかったな。
「動機は?」
「本家の連中は時風の忍ばかり重宝して、俺たちのことを蔑ろにする。ならば、俺たちを正しく使う者の下につくのが道理だ」
たしかに、ご当主も父を直属とし、恭弥様の兄君も私の妹を直属とし、妹君も私の兄を直属としている。
と言っても、本家が時風の家を選んでいるのは、なにも能力だけではない。あの方々は、「忍っぽくない忍が好き」という、趣味で選んでいるところがある。
「それは、猪尾の総意か」
「父上には聞き入れられなかった。だが、これだけの忍が貴様ら時風が幅を利かせ、自分の存在を無視し続けた本家への不満を募らせているのだ」
そういうしょぼいことを言うから、本家に相手にされないのだけれどな。
中途半端に我欲が強く、中途半端に承認欲求を募らせ、中途半端に視野が狭く、普通に馬鹿。
なにもかもが中途半端な馬鹿。
「はぁ〜。これだから、ド三流は……」
「そのド三流たちに、貴様ら時風は根絶やしにされるのだ。貴様を殺し、貴様を謀反人に仕立て上げれば、時風の忍は責任を取って全員自害するだろう。そうすれば守りは一気に薄くなり、数で叩けば我らの勝ちだ」
作戦が薄い。
時風の忍がいなくなったところで、誰よりも強い本家が残っているのに、数で勝てるわけもないだろ。
「そもそも私は死なないからな」
「この戦力差で勝てるとでも思っているのか?」
「負けるわけないだろ。私は、あの雲雀恭弥と戦って生きてる忍だ。生ぬるい手合わせをしている貴様らに負ける道理がない。それに、恭弥様に死ぬことを許可されてないからな」
「戯言を」
「なら、やってみればいい」
挑発的な笑みを浮かべる私に、分家と忍が同時に襲いかかってきた。
◆
静かになった屋敷内には、血の臭いが充満していた。
反乱分子たちのと、自分のと。
分家の主犯と繁之だけを生かしてはいる。情報を引き出すのに必要だから。
さすがに、無傷とはいかなかったか。帰り、恭弥様には見つからないようにしないとな。
電話を取り出し、父上に電話をする。なにかあったときは、連絡する手はずになっていた。
『満月、なにかあったか』
「猪尾が裏切った。今日、私についてきた連中だけだと言っていたが、事実かわからない。そっちの猪尾も全員捕らえておいてくれ」
『わかった』
「あと、処理班を寄越してくれ。死体が多すぎて処理ができない」
『わかった。盃と桜に連れて行かせる』
電話を切ってから、壁にもたれかかって死体の山を見る。
また、命を狙われたな……。
恭弥様や謎の殺し屋、そして身内。この命に、そんな価値でもあるのか、はたまた前世でなにかをやらかしたか。
ダメだな、血を流しすぎたのと毒が回る感覚で眠くなってきた。
桜たちが来るまで少し寝るかと、増血薬と気休めの解毒剤を飲んで立って眠ることにした。
「ば、ばかー!」
「いっでぇ!」
乾いた音と、頬に鋭い痛みが走り目が覚めると、桜が涙目で私を睨んでいた。
「なにすんの、桜」
「死ぬんじゃありませんわ!お姉様は、私か恭弥様の手で死ぬ以外許さないんだから!」
なんか、聞き覚えのあるセリフだな、と思いながら「死なないよ。疲れたから、寝てただけ」と言ったら、「そんな血塗れで説得力あると思っていますの!」と怒られた。
「まあまあ、桜」
「ですけど、お兄様!」
「そうだな。満月が桜の攻撃を避けられないのは、まずいな。満月、いまの体の具合は?」
桜を抑えながら私に問いかけてきた兄上に、少し考えてから「仕事スイッチ切ったら泣き叫ぶくらい辛い」と答えたら、桜が解放された。
「桜ー。お姉ちゃん連れて帰って、傷の手当と解毒」
「任せてくださいまし!」
桜に無理矢理背負われて草屋敷まで連れて行かれ、風呂で汚れを洗い流された。
うーん、痛い。桜も慎重に汚れを落としてくれているが、痛いものは痛い。
「痛くありませんこと?」
「痛くないよ」
風呂から上がり、桜に薬を塗ってもらい包帯を巻いてもらう。
寝間着に袖を通し帯を締め、桜が調合してくれた解毒薬を仰ぎ飲む。
まっず。
今日は疲れたから、さっさと寝てしまおうとする私に、桜は「どうして逃げませんでしたの」と聞いてきた。
「お姉様の脚でしたら、逃げ切れたはずですわ」
「逃げるのは楽勝だったろうけど、その間に偽の情報が回って本家の手を煩わせたくなかった。殺った方が早かったからな」
「だからって、そんな怪我をしたら恭弥様が悲しむわ……」
どちらかと言うと、キレて暴れそうな印象がある。
怪我が治った直後に、その倍の怪我を負わされそうな、そんな予感がする。
桜には、絶対に恭弥様に言うなよ、と念押ししたのに、「怪我したの?」とキレ気味の電話 is なんで。
「誰に聞いたんですか……」
『僕の兄と妹から』
そこか。たしかに、そこへの情報漏洩は規制していなかったが。わざとリークしたな、あの二人。
『会いに行ったら、迷惑?』
「主の面会を拒む理由はございません」
『ねえ、その喋り方。まさか、まだ仕事スイッチ切れてないの』
「切れていないと言うよりも、切ると痛みで泣き叫ぶので切れない状態です」
『会いに行く』
そう言って電話が切られ、寝て体力を回復していたら遠くからバイクの駆動音がした。
来たか、と思いながら起き上がって待っていると、聞き逃してしまうくらい静かな足音がこちらに向かってくる。
「満月、入るよ」
「はい」
襖が開け放たれたそこには、不機嫌オーラ丸出しの恭弥様が立っていた。
これをいまから相手にするのか、嫌だな……。
布団のそばに腰かけた恭弥様に、「お出迎えできず、申し訳ありません」と謝罪する。
「いいよ、別に。それより、傷はどう。縫ったの?」
「何箇所か」
「……痛みは」
「気を抜けないほどに」
「キミに怪我を負わせた連中は、全員死んだの?」
「全員死にました」
生かしておいた連中も、情報を引き出して死んだ。生きている者は誰もいない。
それを聞いて、恭弥様は不満そうな顔をして「残しておいてよ」と言うが、恭弥様の手を煩わせない為に殺したのだから。
「キミを傷つけて楽に死ぬなんて許せない。キミを傷つけていいのは、僕だけなのに」
「私は、いたぶって殺すのは好みませんので」
「戦うのが嫌いだからでしょ」
「はい」
そう返事をした私の手を握り、恭弥様は「満月。任務なんて、する必要はないんだよ」と言う。
「キミは僕の側にいればいい。無理に戦う必要はない。僕の相手だけをすればいいんだよ」
自分の殺害衝動は抑えられないが、せめて無用な争いとは無縁であってほしいという恭弥様なりの気づかい。
恭弥様の相手が一番厄介なのだが。殺害衝動イコール愛なので、抑えきれないというのも中々問題だ。
「キミは生きてるだけでいい。嫌いなんだろ、痛いのも、怖いのも、争いも。なら、しなくていい。生きて、満月」
揺らぎそうになるくらいの、甘い言葉。
生きているだけでいい。それだけでいいなら、どれだけ楽だろうか。
ただ、普通の人間として生きられたら。
「私は……私は、そう言ってくださるからこそ、貴方の役にたちたいのです……」
「なら、愛してくれればいいよ。僕と同じように、殺したいくらい僕のことを愛して」
「私は貴方に死んでほしくありませんから。私よりずっと、ずっと長く生きてほしいです」
そう言うと、恭弥様は私の左手薬指を握り「いま、すごくキミを殺したくてたまらないよ」と言った。
「いまなら、容易く殺せますよ」
「ダメ。まだ、キミに死んでほしくないから。でも、指だけ噛ませて」
どうして指、とは思ったが私は抵抗せず差し出せば、握られていた左手薬指の根本を噛まれた。
解放された指には、くっきりと歯形がついていて、まるで指輪のようだった。
「この指に跡をつけるのは感心しませんね」
「指輪はめられるより、マシでしょ。どうせ、消えるんだから」
愛しそうに噛み跡を撫でる恭弥様。
「キミの気持ちはできるだけ尊重したい。でも、これだけは守って。必ず生きて帰ってきて。僕の手以外で死なないで」
「はい、私の命は貴方の物ですよ。恭弥様」