呼ばれまして忍者ちゃん!
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
修業が嫌いだった。
争いごとがそもそも嫌いなのに、それを鍛えるということ自体に嫌悪すらあった。
だから、落ちこぼれと言われても私は修行から逃げていた。
その日も、父上から逃げ屋根から相棒の大鷹の曾我部で逃げようとしたときだった。
「でっ!」
横っ腹に石の礫が命中した。
思わず曾我部の足を離してしまい、地面に着地すると見覚えのない男の子が片手に石を持って立っていた。
「だ、誰……」
「誰だと思う」
え、知らない……。とは思うが、この子から放たれる確かな殺気に、逃げなければ殺られると直感し煙幕を使い逃げるが、その煙幕を真っすぐ突っ切って私の懐まで跳んできた。
その手には、いつの間にか握られていたトンファーが。
振り切られたトンファーを寸でのところで回避し、その場から樹に飛び移るも、男の子も追いかけてくる。
ダメだ、絶対に逃げきれない。そう判断し、苦無を取り出しトンファーの一撃を受け止める。
追撃できた蹴りを避け、その脚に手をつき飛び上がり距離をとる。
「やっと、やる気になった?」
「誰だかわからないけど、私、争いは好きじゃないの」
「僕の知ったことじゃないよ。僕はキミを咬み殺す為に来たんだから」
私がなにをした?と思ったが、なにかしすぎているので思い当たる節しかない。なんだ、父上の差し向けた刺客か。
じりじりと距離を詰められ、やるしかないと覚悟を決めた。
苦無から二つの大手裏剣に獲物を変える。
地を蹴り、一撃打ち込むも難なく弾かれる。そのまま、二撃、三撃と打ち込むも遊ぶように軽く受け止められる。
初撃のときから気がついていたが、この子、私より段違いで格上だ。
真正面からでは敵わないならば、忍ならではの術を使おうじゃないか。
振りぬかれたトンファーを受けるふりをし、変わり身の術で背後を取る。
もらった、と確信したが、男の子は身を屈め後ろ蹴りをしてきた。
完全にとったと慢心していた為に、その攻撃を避けきれずもろに受けてしまった。
「がはっ……!」
地に伏した私に、男の子は容赦なくトンファーを振り下ろすが、ここで終わるつもりはない。
ギリギリのところでトンファーを受け止め、腹に一発蹴りをお見舞いするも、それも身を引いてかわされる。
状況が好転したわけではないが、体勢が整えられるだけでもいい。
大きく呼吸をし、思考を整える。
もう一度、奇襲するスキを作るにはどうすればいいのかを、男の子の好戦的な瞳から目をそらさずに考える。
「なにやっとるか、馬鹿娘ー!」
突如として響いた大声に、私も男の子もびくり、と体を震わせた。
声の方を向く前に、上から降ってきた父上に頭を地面に抑えつけられた。
「申し訳ございません、恭弥様!」
恭弥様と呼ばれた男の子が誰かはわからないが、父上がこれだけ畏まるということは、この子は本家の人間……!
先ほどまで、遠慮なく攻撃を打ち込んでしまっていたことを思い出し、血の気が引きながら「も、申し訳ありません……!」と謝ると、「ねえ、その子離して」と恭弥様が言う。
「僕たち、戦ってる途中なんだけど」
「しかし、恭弥様に手をあげるなど、あってはならないことです」
「知らないよ、そんなこと。邪魔するなら、キミから咬み殺す」
「わかりました……」
父上がそっと私の頭を解放したので、改めて男の子、恭弥様を見る。
この人が、本家の方。私は、本家との顔合わせのときも逃げたから、顔は知らないが父上の態度からして逆らってはいけない相手。
そんな相手に立ち向かっていけるか。答えはノーである。
私はその場から逃げ出し、背後から父上の「待たんか、馬鹿娘ー!」という怒声が聞こえてきた。はい、私が馬鹿娘です。
本家の方がなにをしに来たのか知らないが、こんな落ちこぼれに、また会いにこようなどとはもう思わないだろう。
翌日も、私は逃げ出すために軒下に身を隠し、そろそろ出てもいいかなと這い出したところで「見つけた」と声が降ってきた。
上を向くと、廊下にしゃがみ込み、こちらを見下ろしている恭弥様がいた。
「昨日の続きするよ。今日は逃がしてあげないから」
その言葉通り、その日は私が動けなくなるまで戦わされ、それからと言うもの逃げても逃げても、逃走先で待ち伏せをされては戦闘開始のコングが鳴りまくることになる生活が続いた。
私は一度も、恭弥様に勝てたことがなかった。
◆
その年の顔見せで、僕は満月を知った。
正確には、存在を知っただけで会ったことはなかった。
草の者は基本的に主と同じ場所には上がらないが、ある一定の年齢に達した草の者の子供の顔見せの際は、子供とその親が屋敷に上がることを許された。
顔見せ自体に興味はなかったし、僕は従者なんてほしいとも思わなかったけど、骨のありそうな子がいないか見たかった。
けれども、予定していたはずの人数に一人足らず、その子を連れてくるはずだった男が申し訳なさそうに座っているだけだった。
「篠、キミのところの娘はどうしたんだい」
「申し訳ありません、ご当主……。情けないことに、逃げ出しまして……」
「逃げたって、キミからかい?それは随分と優秀な子だね」
「お恥ずかしながら、逃げ足と隠遁の術だけは一流でして」
そんな恥ずかしそうにする篠を見て、他の草の者の一族は嘲笑うような表情をした。
不愉快そうにしていると、父が僕に「恭弥はどう思う」と聞いてきた。
「そうだね。逃げるような草食動物には興味ないけど、礼儀のなってない子には仕置きが必要なんじゃないかな」
そう答えると、父から「なら、それは恭弥に任せてもいいかな」と言われた。
忍の技には興味あったが、どの子も僕が本家の人間だからと言って手を抜くか、相手にすらしない。
僕を知らないその子ならば、追い詰めたら戦えるかも知れない。そんな淡い期待を抱き、草屋敷を訪れると、丁度、屋根から飛び立つ影を見つけた。
聞いていた容姿と一致する気がしたので、手近にあった石を投げつけると、脇腹に直撃して落ちてきた。
最初こそ逃げはしたが、即座に逃げられないと判断すると僕に牙をむき向かってきた。なんだ、草食動物じゃない。この子は、命のやり取りになればちゃんと向かってこられる子だ。
ただ捕まえようとするだけでは本気になれない、お遊びのやりとりでは本気になれない。僕と同じ人間だ。
いい、いいね。咬み殺したい。
興が乗ってきたところに、怒声が響き渡り、上から降ってきた篠に満月は無理矢理平伏させられた。
「申し訳ございません、恭弥様……!」
折角、正体を隠していたのに。と不機嫌になりながら開放するように言ったが、満月はこちらの正体を知った瞬間、またも逃げ出した。
一度興が削がれて、また追いかけるのも面倒なので今日は逃がすことにした。
「うちの馬鹿娘が、大変申し訳ありません。恭弥様」
平身低頭、土下座をして謝る篠に「もういいよ」と声をかける。
「明日から、僕があの子に稽古をつけるから」
「恭弥様自らですか?」
「あの子は命を追い込まないと本気にならないからね。いい玩具を見つけたよ」
争いごとがそもそも嫌いなのに、それを鍛えるということ自体に嫌悪すらあった。
だから、落ちこぼれと言われても私は修行から逃げていた。
その日も、父上から逃げ屋根から相棒の大鷹の曾我部で逃げようとしたときだった。
「でっ!」
横っ腹に石の礫が命中した。
思わず曾我部の足を離してしまい、地面に着地すると見覚えのない男の子が片手に石を持って立っていた。
「だ、誰……」
「誰だと思う」
え、知らない……。とは思うが、この子から放たれる確かな殺気に、逃げなければ殺られると直感し煙幕を使い逃げるが、その煙幕を真っすぐ突っ切って私の懐まで跳んできた。
その手には、いつの間にか握られていたトンファーが。
振り切られたトンファーを寸でのところで回避し、その場から樹に飛び移るも、男の子も追いかけてくる。
ダメだ、絶対に逃げきれない。そう判断し、苦無を取り出しトンファーの一撃を受け止める。
追撃できた蹴りを避け、その脚に手をつき飛び上がり距離をとる。
「やっと、やる気になった?」
「誰だかわからないけど、私、争いは好きじゃないの」
「僕の知ったことじゃないよ。僕はキミを咬み殺す為に来たんだから」
私がなにをした?と思ったが、なにかしすぎているので思い当たる節しかない。なんだ、父上の差し向けた刺客か。
じりじりと距離を詰められ、やるしかないと覚悟を決めた。
苦無から二つの大手裏剣に獲物を変える。
地を蹴り、一撃打ち込むも難なく弾かれる。そのまま、二撃、三撃と打ち込むも遊ぶように軽く受け止められる。
初撃のときから気がついていたが、この子、私より段違いで格上だ。
真正面からでは敵わないならば、忍ならではの術を使おうじゃないか。
振りぬかれたトンファーを受けるふりをし、変わり身の術で背後を取る。
もらった、と確信したが、男の子は身を屈め後ろ蹴りをしてきた。
完全にとったと慢心していた為に、その攻撃を避けきれずもろに受けてしまった。
「がはっ……!」
地に伏した私に、男の子は容赦なくトンファーを振り下ろすが、ここで終わるつもりはない。
ギリギリのところでトンファーを受け止め、腹に一発蹴りをお見舞いするも、それも身を引いてかわされる。
状況が好転したわけではないが、体勢が整えられるだけでもいい。
大きく呼吸をし、思考を整える。
もう一度、奇襲するスキを作るにはどうすればいいのかを、男の子の好戦的な瞳から目をそらさずに考える。
「なにやっとるか、馬鹿娘ー!」
突如として響いた大声に、私も男の子もびくり、と体を震わせた。
声の方を向く前に、上から降ってきた父上に頭を地面に抑えつけられた。
「申し訳ございません、恭弥様!」
恭弥様と呼ばれた男の子が誰かはわからないが、父上がこれだけ畏まるということは、この子は本家の人間……!
先ほどまで、遠慮なく攻撃を打ち込んでしまっていたことを思い出し、血の気が引きながら「も、申し訳ありません……!」と謝ると、「ねえ、その子離して」と恭弥様が言う。
「僕たち、戦ってる途中なんだけど」
「しかし、恭弥様に手をあげるなど、あってはならないことです」
「知らないよ、そんなこと。邪魔するなら、キミから咬み殺す」
「わかりました……」
父上がそっと私の頭を解放したので、改めて男の子、恭弥様を見る。
この人が、本家の方。私は、本家との顔合わせのときも逃げたから、顔は知らないが父上の態度からして逆らってはいけない相手。
そんな相手に立ち向かっていけるか。答えはノーである。
私はその場から逃げ出し、背後から父上の「待たんか、馬鹿娘ー!」という怒声が聞こえてきた。はい、私が馬鹿娘です。
本家の方がなにをしに来たのか知らないが、こんな落ちこぼれに、また会いにこようなどとはもう思わないだろう。
翌日も、私は逃げ出すために軒下に身を隠し、そろそろ出てもいいかなと這い出したところで「見つけた」と声が降ってきた。
上を向くと、廊下にしゃがみ込み、こちらを見下ろしている恭弥様がいた。
「昨日の続きするよ。今日は逃がしてあげないから」
その言葉通り、その日は私が動けなくなるまで戦わされ、それからと言うもの逃げても逃げても、逃走先で待ち伏せをされては戦闘開始のコングが鳴りまくることになる生活が続いた。
私は一度も、恭弥様に勝てたことがなかった。
◆
その年の顔見せで、僕は満月を知った。
正確には、存在を知っただけで会ったことはなかった。
草の者は基本的に主と同じ場所には上がらないが、ある一定の年齢に達した草の者の子供の顔見せの際は、子供とその親が屋敷に上がることを許された。
顔見せ自体に興味はなかったし、僕は従者なんてほしいとも思わなかったけど、骨のありそうな子がいないか見たかった。
けれども、予定していたはずの人数に一人足らず、その子を連れてくるはずだった男が申し訳なさそうに座っているだけだった。
「篠、キミのところの娘はどうしたんだい」
「申し訳ありません、ご当主……。情けないことに、逃げ出しまして……」
「逃げたって、キミからかい?それは随分と優秀な子だね」
「お恥ずかしながら、逃げ足と隠遁の術だけは一流でして」
そんな恥ずかしそうにする篠を見て、他の草の者の一族は嘲笑うような表情をした。
不愉快そうにしていると、父が僕に「恭弥はどう思う」と聞いてきた。
「そうだね。逃げるような草食動物には興味ないけど、礼儀のなってない子には仕置きが必要なんじゃないかな」
そう答えると、父から「なら、それは恭弥に任せてもいいかな」と言われた。
忍の技には興味あったが、どの子も僕が本家の人間だからと言って手を抜くか、相手にすらしない。
僕を知らないその子ならば、追い詰めたら戦えるかも知れない。そんな淡い期待を抱き、草屋敷を訪れると、丁度、屋根から飛び立つ影を見つけた。
聞いていた容姿と一致する気がしたので、手近にあった石を投げつけると、脇腹に直撃して落ちてきた。
最初こそ逃げはしたが、即座に逃げられないと判断すると僕に牙をむき向かってきた。なんだ、草食動物じゃない。この子は、命のやり取りになればちゃんと向かってこられる子だ。
ただ捕まえようとするだけでは本気になれない、お遊びのやりとりでは本気になれない。僕と同じ人間だ。
いい、いいね。咬み殺したい。
興が乗ってきたところに、怒声が響き渡り、上から降ってきた篠に満月は無理矢理平伏させられた。
「申し訳ございません、恭弥様……!」
折角、正体を隠していたのに。と不機嫌になりながら開放するように言ったが、満月はこちらの正体を知った瞬間、またも逃げ出した。
一度興が削がれて、また追いかけるのも面倒なので今日は逃がすことにした。
「うちの馬鹿娘が、大変申し訳ありません。恭弥様」
平身低頭、土下座をして謝る篠に「もういいよ」と声をかける。
「明日から、僕があの子に稽古をつけるから」
「恭弥様自らですか?」
「あの子は命を追い込まないと本気にならないからね。いい玩具を見つけたよ」