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地味に生きたいだけだった。
それはもう、地味に、気配もなく、存在を認知されることなく、卒業後に「そんな奴、いたっけ?」と言われるくらい、地味に。
しかし、世界はどういうわけか、地味な人間ほど玩具にしたがる人間を一定数用意しているのである。
「地味子~。これ、ヒバリさんにわたしてきなよ~」
「へ?」
クラスのギャルたちに、先ほど選択家庭科で作ったお菓子をヒバリさんにわたして来いと言われた。
正気か、この子たち。
しかし、ここで断るのは地味な女子としてはありえないこと。しどろもどろに一度回避を試みてから、応接室を目指す……わけもなく、私は風紀委員を探した。
ヒバリさんに直接渡すなんて身のほど知らずなことをするわけもない。
私は戦闘なんて大嫌いなのだから。戦わずに済むなら、それが一番いい!なあ、そうだろ!ハスター太郎!
「あ、あの、すみません!」
「なんだ」
威圧的な風紀委員の生徒を呼び止め、口早に「これ、ヒバリさんにわたしてください!」と言い、お菓子を押し付けて逃げようとしたら、「僕にわたしたいなら、僕のところに直接きなよ」と背後から不吉な声がした。
振り向けば、笑みをたたえたヒバリさんが立っていた。
「おいで」
「いえ、あの、私はこれで……」
「僕が“おいで”て言ってるのに聞けないの、満月」
「あ、はい、申し訳ありません、恭弥様」
ばれていた。
そう、ヒバリさん改め恭弥様とは主従関係なのだ。いや、形だけなのだけれども。
私は雲雀家に長年お仕えする忍の一族の一人。
恭弥様とは昔から付き合いがあり、草の者などと交流を持つべきではないと何度申し上げても、草屋敷まで訪れては私に稽古をつけてもらったものだ。
辛かったなぁ……。思い出しただけで、ゲロ吐きそうになる。
稽古と言う名のイジメみたいなものだったからな、あれ。
「お茶淹れて」
「はい」
備え付けの湯沸かし器からお湯をだし黙ってお茶を淹れているが、この沈黙が逆に辛い。
父上からは、並盛に入学したらすぐに恭弥様にご挨拶しろと言われていたが、正直、恭弥様と関わりあいたくなくてご挨拶に行っていなかったのだ。
そのことを咎められなかった理由はわからなかったが、咎められないのであれば、と私はそれから恭弥様から隠れて生きていた。
「どうぞ」
「ありがとう」
草にお礼など、もったいなきお言葉です。と床に正座をしたら、「椅子に座りなよ」と勧められる。
「いえ、草の者が主君と同じ場所に座るなどあってはならないことです」
「なに、僕の言うこと聞けないの?」
「しかし、恭弥様……」
「あと、その口の利き方も気に入らない」
この方は昔から草の者である私に、友人のような振る舞いを強要してくる。
それがバレれば、怒られるのは私だというのに……。
「椅子に座って」
「はい……」
大人しく座れば、機嫌も治り「いい子だね」と言う。
ラッピングを開け、中からお菓子をひとつ取り出して口に含み「うん、美味しい」と言われ、ほっとした。
これで不味いと言われて機嫌でも損ねたら、死の鬼ごっこが始まるところだった。
「お菓子、作れたんだね」
「えっと、はい。家を出てから、趣味の一つとして」
うちの一族は、自活する力を身につける為に、小学生を卒業した時に一人暮らしを義務付けられる。
月々振り込まれる決まった金額から考えて家を探すところから始まるのだ。
「新居の住所、あとでケータイの方に送ってね」
「はい……」
「そういえば、髪伸ばしたんだね」
「ああ、はい。こちらの方が、変装するときにまとめやすいので」
「うん、いいと思うよ。けど、その眼鏡はあまり似合わないかな」
「あまり、目立ちたくないので」
「まあ、それなら仕方がないね」
い、言えない……。髪を伸ばしたのも、眼鏡をしたのも、恭弥様から認識されないようにする為とは言えない。
私がまだ小学生の頃に、恭弥様は先んじて並盛中学へと行かれた。私と同い年だったはずの彼がどういう意図でそうしたのかはわからないが、しばらく私の姿を見なければ認識できなくなるのではという甘い考えであった。
自分では、結構変わったと思ったんだけどな。
「いつから、私が並中に来ているとご存じだったんですか、恭弥様」
「話し方」
「いつから知ってたの、恭弥」
「キミの父親から連絡があったから、知ってた。けど、いくら待っても挨拶に来なかったから、上には適当に言っておいたよ」
私の命を救っていたのは他ならない恭弥様でした、ありがとうございます。不逞の従者でごめんなさい。
「まあ、キミにもなにか理由はあったんでしょ。キミ、あんまり僕に懐いてなかったし」
大体の状況は飲み込んでいるであろう言い方に、本当に申し訳なくなる。挨拶くらいは行った方がよかったかも知れない。
いやでも、本当に恭弥様怖すぎて自分から行くとか無理過ぎた。
「でも、だから今日来てくれて、ちょっと嬉しかったよ」
目を細め、幸せそうに笑う姿に罪悪感で心が死にそうだった。
私はすぐさま土下座をし、「これからは、誠心誠意仕えさせていただきます……!」と言うと、「僕、仕えるとかそういうの嫌いだって言わなかった?」と声が降ってくる。
「しかし……」
「僕がいいって言ったら、いいんだよ。キミはキミのままでいればいい」
「……はい」
いつか言われた私を救った言葉を、恭弥様はいまも変わらず言ってくれる。
「それはそれとして、挨拶に来たんだから、明日からキミ、風紀委員ね」
「言われると思った……」
「察しがいいね。服は、こっちでもう用意してあるから、今日、僕の家に取りに来て」
「はい」
「つまり、一緒に帰ろうってことなんだけど、わかってる?」
「わかってるよ、恭弥」
「そう、ならいいよ」
それはもう、地味に、気配もなく、存在を認知されることなく、卒業後に「そんな奴、いたっけ?」と言われるくらい、地味に。
しかし、世界はどういうわけか、地味な人間ほど玩具にしたがる人間を一定数用意しているのである。
「地味子~。これ、ヒバリさんにわたしてきなよ~」
「へ?」
クラスのギャルたちに、先ほど選択家庭科で作ったお菓子をヒバリさんにわたして来いと言われた。
正気か、この子たち。
しかし、ここで断るのは地味な女子としてはありえないこと。しどろもどろに一度回避を試みてから、応接室を目指す……わけもなく、私は風紀委員を探した。
ヒバリさんに直接渡すなんて身のほど知らずなことをするわけもない。
私は戦闘なんて大嫌いなのだから。戦わずに済むなら、それが一番いい!なあ、そうだろ!ハスター太郎!
「あ、あの、すみません!」
「なんだ」
威圧的な風紀委員の生徒を呼び止め、口早に「これ、ヒバリさんにわたしてください!」と言い、お菓子を押し付けて逃げようとしたら、「僕にわたしたいなら、僕のところに直接きなよ」と背後から不吉な声がした。
振り向けば、笑みをたたえたヒバリさんが立っていた。
「おいで」
「いえ、あの、私はこれで……」
「僕が“おいで”て言ってるのに聞けないの、満月」
「あ、はい、申し訳ありません、恭弥様」
ばれていた。
そう、ヒバリさん改め恭弥様とは主従関係なのだ。いや、形だけなのだけれども。
私は雲雀家に長年お仕えする忍の一族の一人。
恭弥様とは昔から付き合いがあり、草の者などと交流を持つべきではないと何度申し上げても、草屋敷まで訪れては私に稽古をつけてもらったものだ。
辛かったなぁ……。思い出しただけで、ゲロ吐きそうになる。
稽古と言う名のイジメみたいなものだったからな、あれ。
「お茶淹れて」
「はい」
備え付けの湯沸かし器からお湯をだし黙ってお茶を淹れているが、この沈黙が逆に辛い。
父上からは、並盛に入学したらすぐに恭弥様にご挨拶しろと言われていたが、正直、恭弥様と関わりあいたくなくてご挨拶に行っていなかったのだ。
そのことを咎められなかった理由はわからなかったが、咎められないのであれば、と私はそれから恭弥様から隠れて生きていた。
「どうぞ」
「ありがとう」
草にお礼など、もったいなきお言葉です。と床に正座をしたら、「椅子に座りなよ」と勧められる。
「いえ、草の者が主君と同じ場所に座るなどあってはならないことです」
「なに、僕の言うこと聞けないの?」
「しかし、恭弥様……」
「あと、その口の利き方も気に入らない」
この方は昔から草の者である私に、友人のような振る舞いを強要してくる。
それがバレれば、怒られるのは私だというのに……。
「椅子に座って」
「はい……」
大人しく座れば、機嫌も治り「いい子だね」と言う。
ラッピングを開け、中からお菓子をひとつ取り出して口に含み「うん、美味しい」と言われ、ほっとした。
これで不味いと言われて機嫌でも損ねたら、死の鬼ごっこが始まるところだった。
「お菓子、作れたんだね」
「えっと、はい。家を出てから、趣味の一つとして」
うちの一族は、自活する力を身につける為に、小学生を卒業した時に一人暮らしを義務付けられる。
月々振り込まれる決まった金額から考えて家を探すところから始まるのだ。
「新居の住所、あとでケータイの方に送ってね」
「はい……」
「そういえば、髪伸ばしたんだね」
「ああ、はい。こちらの方が、変装するときにまとめやすいので」
「うん、いいと思うよ。けど、その眼鏡はあまり似合わないかな」
「あまり、目立ちたくないので」
「まあ、それなら仕方がないね」
い、言えない……。髪を伸ばしたのも、眼鏡をしたのも、恭弥様から認識されないようにする為とは言えない。
私がまだ小学生の頃に、恭弥様は先んじて並盛中学へと行かれた。私と同い年だったはずの彼がどういう意図でそうしたのかはわからないが、しばらく私の姿を見なければ認識できなくなるのではという甘い考えであった。
自分では、結構変わったと思ったんだけどな。
「いつから、私が並中に来ているとご存じだったんですか、恭弥様」
「話し方」
「いつから知ってたの、恭弥」
「キミの父親から連絡があったから、知ってた。けど、いくら待っても挨拶に来なかったから、上には適当に言っておいたよ」
私の命を救っていたのは他ならない恭弥様でした、ありがとうございます。不逞の従者でごめんなさい。
「まあ、キミにもなにか理由はあったんでしょ。キミ、あんまり僕に懐いてなかったし」
大体の状況は飲み込んでいるであろう言い方に、本当に申し訳なくなる。挨拶くらいは行った方がよかったかも知れない。
いやでも、本当に恭弥様怖すぎて自分から行くとか無理過ぎた。
「でも、だから今日来てくれて、ちょっと嬉しかったよ」
目を細め、幸せそうに笑う姿に罪悪感で心が死にそうだった。
私はすぐさま土下座をし、「これからは、誠心誠意仕えさせていただきます……!」と言うと、「僕、仕えるとかそういうの嫌いだって言わなかった?」と声が降ってくる。
「しかし……」
「僕がいいって言ったら、いいんだよ。キミはキミのままでいればいい」
「……はい」
いつか言われた私を救った言葉を、恭弥様はいまも変わらず言ってくれる。
「それはそれとして、挨拶に来たんだから、明日からキミ、風紀委員ね」
「言われると思った……」
「察しがいいね。服は、こっちでもう用意してあるから、今日、僕の家に取りに来て」
「はい」
「つまり、一緒に帰ろうってことなんだけど、わかってる?」
「わかってるよ、恭弥」
「そう、ならいいよ」
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