並盛の盾 日常小話
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これは、まだ私が並盛中生だった頃の話。
「あの、よかったら、今度のお祭り。一緒に行きませんか?」
クラスメートの男子にそう声をかけられた。
風紀委員に入れられてからは、クラスメートからは遠巻きにされ恋も友情もままならなかった。その私に、春!
顔は、まあ、そんなにタイプではなかったが、風紀委員以外の繋がりに飢えていた私は、即オッケーをだしていた。
その日のお祭りは、確かショバ代を巻き上げる為に風紀委員が出動するらしかったが、私はヒバリさんに「邪魔だから来なくていいよ」と言われているので、大手を振って祭りに行ける。
足手まといでよかったー!と浮かれ調子で書類処理をしていたら、ヒバリさんに「気持ちが悪いくらい機嫌がいいね」と声をかけられた。
嫌味にも反応せず、「そーれーがー!聞いて驚いてくださいよー!」と浮かれ調子のまま話し出そうとしたら、嫌なものを見る目をされてしまった。
「聞く気が失せるんだけど」
「聞いてくださいよ」
「聞いてほしいの?」
「聞いてほしいです」
調子に乗って厚かましいお願いをする私に、ヒバリさんは深々とため息をついてから、デスクチェアに背中を預けて聞く体制をとってくれた。
私も書類と電卓を机に置き、先ほどあったことを話した。
「ついに!ついに!私にも春がきたのですよ、ヒバリさん!」
「キミ、お祭りの記録係ね」
「なんて?」
大興奮で語る私に告げられた言葉に、脳みそがすぐについて行かなかった。いや、ついて行っても、この予定潰しには「なんて?」しか返せないだろう。
ヒバリさんは書類の山から、お祭りの出店申請書をとりだし、「はい、これ。当日までに、出し物と責任者、払ったかどうかのチェック欄とかエクセルで作っておいて」と言い出す。
「あの、ヒバリさん……。私、見回り行かなくていいって……」
「気が変わった」
「あんまりだ!」
ヒバリさんの気がコロコロ変わるのはいつものことだが、今回ばかりはあんまりだ!としか言いようがない。
文句を言いたいし、絶対に行きたくない。どうする、私……!どうする……!
このとき、私は中学三年生。考えつくのは当然だが、「当日仮病使おう」だった。
当日は仮病を使って見回りを欠席し、人が増えてきた頃合いに、相手と落ち合えばいい。
群れを嫌うヒバリさんが、ごった返すお祭り会場に近寄るとは思えない。ふっ、群れ嫌いが仇となりましたね、ヒバリさん……。
内心悪い顔をしながら、貸与されたパソコンで当日のチェック表を作っていたら、ヒバリさんが静かに近寄り、無言で絞め技をかけてきた。
「どうして?!」
「キミがろくでもないことを目論んでるのも、絞め技はじわじわ効くことも知ってるんだよ、僕は」
「な、なにも目論んでおりません……!」
「もし当日休みでもしたら、キミも相手もタダじゃおかないよ」
見抜かれてーら!
なぜわかった!と絞め技的にも動揺的にも青くなる私に、「僕がキミの浅い考えを見抜けないとでも思った?」と言われ、しょんぼりしてしまった。
まあ、実行しますけど!
「ヒバリさん……実は風邪をひきまして……」
『嘘ついてない?』
「本当なんです……信じてください……」
ゲホゲホと弱々しいシナを作る私に、ヒバリさんは「あとでお見舞いに行くから、覚悟してなよ」と言って電話を切った。
来るのか、うちに……。いや、そんなまさか……。あの忙しい雲雀恭弥が、イチ生徒のお見舞いに来る……?ないない!そう結論づけ、浴衣を着てウキウキで神社まで来ると、目的の相手が友人たちと話しているのを見つけた。
「お待たせーー」
「だから、あいつと仲よくしとけば、俺のバックには風紀委員がいるんだぜ!て、好き放題できるんだぜ?仲よくしといて損はないって!それに、あいつ女だし殴り合いとかからっきしっぽいから、殴って言うことも聞かせられるし」
誰の話をしているのかなんて、言われなくてもわかっている。
悔しいとか、悲しいとかよりも、私の春を踏みにじったことへの怒りが遥かに勝った。絶対に、ヒバリさんにチクってやると、憤激したまま踵を返そうとしたら、視界にいた男子たちが悲鳴を上げながら爆速で地面に倒れ伏した。
ヒバリさん……?!なんで、こんな往来激しい場所にいるの?!と驚いている間も、ヒバリさんは私をお祭りに誘った男子を念入りに殴りつけている。
このスキに逃げよ、と人混みに紛れようとしたが、既に見つかっていたようで、「そこから一歩でも動いたら、咬み殺すよ」と言われた。
動かなくても咬み殺すくせに……。
ヒバリさんは男子を放り投げると、こちらに歩み寄ってきた。冷や汗が止まらない。
「やぁ。風邪は治ったのかい?」
「お、おかげさまでぇ……!それで、お仕事まだあるかなって思って来たんですけどぉ……!」
「浴衣着て?」
「ヒバリさんが喜ぶかなぁ……て……」
言い訳があまりにも苦しすぎる。なんだよ、ヒバリさんが喜ぶかなぁ、て。喜ぶわけないだろ、あの雲雀恭弥だぞ。
いつ、どの瞬間にトンファーが振り下ろされるのかとひやひやしながら足元を見ていると、「顔上げて、ちゃんと見せて」と言われ、恐る恐る顔を上げれば、機嫌のいいときにだけ見せる笑みを浮かべていた。
このタイミングで、その笑顔は怖い。
「うん、いいと思うよ」
「あ、ありがとうございます……」
「おいで。仕事はもう終わったけど、しばらく僕に付き合って」
お祭り回りたかったな、とは思うが、ガッチリ手を掴まれては逃げるのは不可能。
手を引かれるまま、神社の裏山に来た。
「ここが一番、綺麗に花火が見えるんだ」
ほら、とヒバリさんが空を指さした瞬間、花火が打ち上がり、空に大輪の花が咲く。
「わー、綺麗ー」
空を見上げる私に、ヒバリさんは「次はちゃんと仕事してね」と釘を刺してくる。
「やっぱり、誤魔化されてくれませんよね」
「あれで誤魔化せてるつもりだったの?」
「いえ、全然……」
「だろうね。まあ、風紀委員を利用しようとした草食動物も咬み殺せたし、キミの浴衣に免じて許してあげるよ」
「浴衣着てきてよかった……!」
サンキュー、お祖母ちゃんが買ってくれた浴衣……!
無事に家に帰ってから、いっぱいお祖母ちゃんの肩を揉んだ。
「あの、よかったら、今度のお祭り。一緒に行きませんか?」
クラスメートの男子にそう声をかけられた。
風紀委員に入れられてからは、クラスメートからは遠巻きにされ恋も友情もままならなかった。その私に、春!
顔は、まあ、そんなにタイプではなかったが、風紀委員以外の繋がりに飢えていた私は、即オッケーをだしていた。
その日のお祭りは、確かショバ代を巻き上げる為に風紀委員が出動するらしかったが、私はヒバリさんに「邪魔だから来なくていいよ」と言われているので、大手を振って祭りに行ける。
足手まといでよかったー!と浮かれ調子で書類処理をしていたら、ヒバリさんに「気持ちが悪いくらい機嫌がいいね」と声をかけられた。
嫌味にも反応せず、「そーれーがー!聞いて驚いてくださいよー!」と浮かれ調子のまま話し出そうとしたら、嫌なものを見る目をされてしまった。
「聞く気が失せるんだけど」
「聞いてくださいよ」
「聞いてほしいの?」
「聞いてほしいです」
調子に乗って厚かましいお願いをする私に、ヒバリさんは深々とため息をついてから、デスクチェアに背中を預けて聞く体制をとってくれた。
私も書類と電卓を机に置き、先ほどあったことを話した。
「ついに!ついに!私にも春がきたのですよ、ヒバリさん!」
「キミ、お祭りの記録係ね」
「なんて?」
大興奮で語る私に告げられた言葉に、脳みそがすぐについて行かなかった。いや、ついて行っても、この予定潰しには「なんて?」しか返せないだろう。
ヒバリさんは書類の山から、お祭りの出店申請書をとりだし、「はい、これ。当日までに、出し物と責任者、払ったかどうかのチェック欄とかエクセルで作っておいて」と言い出す。
「あの、ヒバリさん……。私、見回り行かなくていいって……」
「気が変わった」
「あんまりだ!」
ヒバリさんの気がコロコロ変わるのはいつものことだが、今回ばかりはあんまりだ!としか言いようがない。
文句を言いたいし、絶対に行きたくない。どうする、私……!どうする……!
このとき、私は中学三年生。考えつくのは当然だが、「当日仮病使おう」だった。
当日は仮病を使って見回りを欠席し、人が増えてきた頃合いに、相手と落ち合えばいい。
群れを嫌うヒバリさんが、ごった返すお祭り会場に近寄るとは思えない。ふっ、群れ嫌いが仇となりましたね、ヒバリさん……。
内心悪い顔をしながら、貸与されたパソコンで当日のチェック表を作っていたら、ヒバリさんが静かに近寄り、無言で絞め技をかけてきた。
「どうして?!」
「キミがろくでもないことを目論んでるのも、絞め技はじわじわ効くことも知ってるんだよ、僕は」
「な、なにも目論んでおりません……!」
「もし当日休みでもしたら、キミも相手もタダじゃおかないよ」
見抜かれてーら!
なぜわかった!と絞め技的にも動揺的にも青くなる私に、「僕がキミの浅い考えを見抜けないとでも思った?」と言われ、しょんぼりしてしまった。
まあ、実行しますけど!
「ヒバリさん……実は風邪をひきまして……」
『嘘ついてない?』
「本当なんです……信じてください……」
ゲホゲホと弱々しいシナを作る私に、ヒバリさんは「あとでお見舞いに行くから、覚悟してなよ」と言って電話を切った。
来るのか、うちに……。いや、そんなまさか……。あの忙しい雲雀恭弥が、イチ生徒のお見舞いに来る……?ないない!そう結論づけ、浴衣を着てウキウキで神社まで来ると、目的の相手が友人たちと話しているのを見つけた。
「お待たせーー」
「だから、あいつと仲よくしとけば、俺のバックには風紀委員がいるんだぜ!て、好き放題できるんだぜ?仲よくしといて損はないって!それに、あいつ女だし殴り合いとかからっきしっぽいから、殴って言うことも聞かせられるし」
誰の話をしているのかなんて、言われなくてもわかっている。
悔しいとか、悲しいとかよりも、私の春を踏みにじったことへの怒りが遥かに勝った。絶対に、ヒバリさんにチクってやると、憤激したまま踵を返そうとしたら、視界にいた男子たちが悲鳴を上げながら爆速で地面に倒れ伏した。
ヒバリさん……?!なんで、こんな往来激しい場所にいるの?!と驚いている間も、ヒバリさんは私をお祭りに誘った男子を念入りに殴りつけている。
このスキに逃げよ、と人混みに紛れようとしたが、既に見つかっていたようで、「そこから一歩でも動いたら、咬み殺すよ」と言われた。
動かなくても咬み殺すくせに……。
ヒバリさんは男子を放り投げると、こちらに歩み寄ってきた。冷や汗が止まらない。
「やぁ。風邪は治ったのかい?」
「お、おかげさまでぇ……!それで、お仕事まだあるかなって思って来たんですけどぉ……!」
「浴衣着て?」
「ヒバリさんが喜ぶかなぁ……て……」
言い訳があまりにも苦しすぎる。なんだよ、ヒバリさんが喜ぶかなぁ、て。喜ぶわけないだろ、あの雲雀恭弥だぞ。
いつ、どの瞬間にトンファーが振り下ろされるのかとひやひやしながら足元を見ていると、「顔上げて、ちゃんと見せて」と言われ、恐る恐る顔を上げれば、機嫌のいいときにだけ見せる笑みを浮かべていた。
このタイミングで、その笑顔は怖い。
「うん、いいと思うよ」
「あ、ありがとうございます……」
「おいで。仕事はもう終わったけど、しばらく僕に付き合って」
お祭り回りたかったな、とは思うが、ガッチリ手を掴まれては逃げるのは不可能。
手を引かれるまま、神社の裏山に来た。
「ここが一番、綺麗に花火が見えるんだ」
ほら、とヒバリさんが空を指さした瞬間、花火が打ち上がり、空に大輪の花が咲く。
「わー、綺麗ー」
空を見上げる私に、ヒバリさんは「次はちゃんと仕事してね」と釘を刺してくる。
「やっぱり、誤魔化されてくれませんよね」
「あれで誤魔化せてるつもりだったの?」
「いえ、全然……」
「だろうね。まあ、風紀委員を利用しようとした草食動物も咬み殺せたし、キミの浴衣に免じて許してあげるよ」
「浴衣着てきてよかった……!」
サンキュー、お祖母ちゃんが買ってくれた浴衣……!
無事に家に帰ってから、いっぱいお祖母ちゃんの肩を揉んだ。