並盛の盾 日常小話
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池頭ちゃんは基本的に私にお願いをしない。
私が頼りないのもあるだろうが、彼女も私の下で働くだけあり、自己犠牲をしてしまうタイプだ。
その頼ることができない性分の池頭ちゃんが、頭を下げてきた。
な、なんだ、退職のお願いか?と怯える私に、池頭ちゃんは「お願いがあります、竪谷さん」と切り出す。
「実は、親戚の子を一日預かることになったのですが、どうしても終わらせないといけない仕事があって……」
「うん、うん。どうする?連れてくる?それとも、お休みする?仕事代わるよ」
「代われない量の業務量抱えてる人が、なに言ってるんですか」
「さーせん」
素直に謝ると、池頭ちゃんが仕切り直すように咳払いをして「連れてきてもよければ、連れてくるのですが……。ご迷惑ではありませんか?」と伺ってくる。
謙虚な子だな、と思いながら「いいよ」と言えば安心したような表情をした。
そんなことで、私がダメだなんて言うわけ無いじゃん。
翌日やって来た小学校低学年くらいの女の子。
池頭ちゃんに似て人見知りのようなので、率先して「はじめまして〜」と柔らかめに挨拶をすると、小さい声で「はじめまして……」と返してくれた。
「こら、由美香。ちゃんとご挨拶して」
「大丈夫、大丈夫。できてたよ。由美香ちゃん、今日はよろしくね」
「は、はい……。お邪魔しないようにします……」
気にしなくてもいいとは思うが、こういう子は嫌でも気にしてしまうだろう。
まあ、一日だけだしね、と割り切ってお菓子とお茶を机に置き、本を読むのが好きだと聞いていたので、事前に買い集めていた本を持ってきたら目を輝かせた。
「欲しいのあったら、持って帰っていいからね」
「い、いいんですか?」
「由美香ちゃんの為に買ったからね」
そう言うと、由美香ちゃんは嬉しそうに本を選び始めた。
うん、うん。たくさん読みなさい。
しかし、こうも人見知りだと、恭弥なんかと対面した日には泣いてしまうんではなかろうか。
恭弥、今日は来ないといいな……。
事前に連絡入れておくか、と完全によかれと思って電話したのだが。
「あ、恭弥。今日、うちの執務室に来ないでね」
『なにやらかしたの』
自分の信頼が割と地に落ちていることを忘れていたので、自ら恭弥を呼び寄せてしまった気がする。
「あの、本当になにもしてないの。池頭ちゃんの親戚の子が来てるから、怖がらせたくないから来ないでって言ってるだけで……」
『どういう意味?』
「恭弥の顔が怖いって意味……あっ」
余計なことを言ってしまい、「いまから行くから、覚悟しなよ」と電話口でもわかるほどに怒っている。
由美香ちゃんには、「いまから怖いお兄さんが来るけど、すぐ出て行かせるから」と安心させる為に言ったのだが、逆に怖がらせてしまった。
「はっ!殺気!」
と感じた瞬間、恭弥が目を吊り上げて入室した。
その手にはすでにトンファーが握られていた。
「ちょっと運動しようか、純」
「外でやろう!外で!子供が泣くから!」
そう言うと、ソファーの方に視線を移し由美香ちゃんを司会に収めると、静かに由美香ちゃんへ近寄る。
トンファーを机に置き、なにをするのかと思えば、由美香ちゃんを天井すれすれまで投げた。
「な……なにやってるの恭弥さん?!」
「なにって、遊んでるの」
「由美香ちゃん“で”?!」
「子供“と”。僕だって、子供と遊べる」
どこをどう見ても、遊ぶではなかった。
そりゃ、やんちゃキッズなら大喜びだが、由美香ちゃんは大人しいキッズだから恐怖以外の何者でもない。
ほら、見ろ!ちょっと泣きそうだ!
「あー!ちょっと、貸して、恭弥!怖かったね、由美香ちゃん〜?」
「こわかった……」
私の腕の中で震える由美香ちゃんをあやし、恭弥に「子供をあんな高さまで投げない!」と叱ると、納得行かない、という顔をするも泣きそうな由美香ちゃんを見て、少ししょぼくれながら由美香ちゃんに「ごめんね」とちゃんと謝った。
うむ!えらい!
「許せなかったら、許さなくていいよ。由美香ちゃん」
「えっ!?あ、大丈夫、です……」
「よかったね、許してもらえて」
「うん……」
一通り恭弥を叱ってから、由美香ちゃんをソファーにおろして、池頭ちゃんたちに「ちょっとシバかれてくるねー」と告げ、恭弥を連れて外に出た。
「しゃっー!かかってこーい!」
「……」
「恭弥?」
なにかもの憂いげに建物を見つめる恭弥に声をかけると、「キミ、子供好きなの?」と聞いてきた。
「え、別に。可もなく不可もなく」
「でも、本とかちゃんと用意してたよね」
「それは、まあ、好き嫌いと言うより、暇を持て余したら可哀想だなという善意」
そう答えると、恭弥は「ふーん」と言う。
おうおう、聞いといてなんだそのそっけない態度は。切なくなるだろ。
「なに?私が子供好きだったら意外だった?」
「いや、イメージ通り。キミ、風紀委員に入ってなかったら保育士になってそうな感じだったし。だから……」
だから、いまこうしてマフィアと繋がりがある仕事をさせていることに、変な罪悪感を覚えているのだろうなと、察しがついた。
定期的に責任を感じるの、やめてほしいな。
「私はいま、こうして働けてることに後悔はないよ」
「そう……」
そう、と言うくせにまったく腑に落ちていない顔をしている。
まったく、もう。
「そういう未来があったかも知れないけど、私はいまの状況に不満はない。いままで出会えてよかった、と思える人たちばかりだよ。勿論、その中には恭弥もいるんだから」
だから、そんな顔しないで。と随分と距離ができた恭弥の頭を撫でると、私の肩に頭を乗せ、「ごめんね」と言う。謝らないでよ。
「私は幸せだよ、恭弥」
「うん……。ねえ、もし、子供が好きなら……僕と……」
そこまで言って煮えきらない恭弥にイタズラ心が疼き、「僕と、なに〜?恭弥く〜ん?」と煽ったら、クソデカため息をつき「キミのそういうところ、本当に嫌い」と言われてしまった。
嫌いじゃないくせに。
私が頼りないのもあるだろうが、彼女も私の下で働くだけあり、自己犠牲をしてしまうタイプだ。
その頼ることができない性分の池頭ちゃんが、頭を下げてきた。
な、なんだ、退職のお願いか?と怯える私に、池頭ちゃんは「お願いがあります、竪谷さん」と切り出す。
「実は、親戚の子を一日預かることになったのですが、どうしても終わらせないといけない仕事があって……」
「うん、うん。どうする?連れてくる?それとも、お休みする?仕事代わるよ」
「代われない量の業務量抱えてる人が、なに言ってるんですか」
「さーせん」
素直に謝ると、池頭ちゃんが仕切り直すように咳払いをして「連れてきてもよければ、連れてくるのですが……。ご迷惑ではありませんか?」と伺ってくる。
謙虚な子だな、と思いながら「いいよ」と言えば安心したような表情をした。
そんなことで、私がダメだなんて言うわけ無いじゃん。
翌日やって来た小学校低学年くらいの女の子。
池頭ちゃんに似て人見知りのようなので、率先して「はじめまして〜」と柔らかめに挨拶をすると、小さい声で「はじめまして……」と返してくれた。
「こら、由美香。ちゃんとご挨拶して」
「大丈夫、大丈夫。できてたよ。由美香ちゃん、今日はよろしくね」
「は、はい……。お邪魔しないようにします……」
気にしなくてもいいとは思うが、こういう子は嫌でも気にしてしまうだろう。
まあ、一日だけだしね、と割り切ってお菓子とお茶を机に置き、本を読むのが好きだと聞いていたので、事前に買い集めていた本を持ってきたら目を輝かせた。
「欲しいのあったら、持って帰っていいからね」
「い、いいんですか?」
「由美香ちゃんの為に買ったからね」
そう言うと、由美香ちゃんは嬉しそうに本を選び始めた。
うん、うん。たくさん読みなさい。
しかし、こうも人見知りだと、恭弥なんかと対面した日には泣いてしまうんではなかろうか。
恭弥、今日は来ないといいな……。
事前に連絡入れておくか、と完全によかれと思って電話したのだが。
「あ、恭弥。今日、うちの執務室に来ないでね」
『なにやらかしたの』
自分の信頼が割と地に落ちていることを忘れていたので、自ら恭弥を呼び寄せてしまった気がする。
「あの、本当になにもしてないの。池頭ちゃんの親戚の子が来てるから、怖がらせたくないから来ないでって言ってるだけで……」
『どういう意味?』
「恭弥の顔が怖いって意味……あっ」
余計なことを言ってしまい、「いまから行くから、覚悟しなよ」と電話口でもわかるほどに怒っている。
由美香ちゃんには、「いまから怖いお兄さんが来るけど、すぐ出て行かせるから」と安心させる為に言ったのだが、逆に怖がらせてしまった。
「はっ!殺気!」
と感じた瞬間、恭弥が目を吊り上げて入室した。
その手にはすでにトンファーが握られていた。
「ちょっと運動しようか、純」
「外でやろう!外で!子供が泣くから!」
そう言うと、ソファーの方に視線を移し由美香ちゃんを司会に収めると、静かに由美香ちゃんへ近寄る。
トンファーを机に置き、なにをするのかと思えば、由美香ちゃんを天井すれすれまで投げた。
「な……なにやってるの恭弥さん?!」
「なにって、遊んでるの」
「由美香ちゃん“で”?!」
「子供“と”。僕だって、子供と遊べる」
どこをどう見ても、遊ぶではなかった。
そりゃ、やんちゃキッズなら大喜びだが、由美香ちゃんは大人しいキッズだから恐怖以外の何者でもない。
ほら、見ろ!ちょっと泣きそうだ!
「あー!ちょっと、貸して、恭弥!怖かったね、由美香ちゃん〜?」
「こわかった……」
私の腕の中で震える由美香ちゃんをあやし、恭弥に「子供をあんな高さまで投げない!」と叱ると、納得行かない、という顔をするも泣きそうな由美香ちゃんを見て、少ししょぼくれながら由美香ちゃんに「ごめんね」とちゃんと謝った。
うむ!えらい!
「許せなかったら、許さなくていいよ。由美香ちゃん」
「えっ!?あ、大丈夫、です……」
「よかったね、許してもらえて」
「うん……」
一通り恭弥を叱ってから、由美香ちゃんをソファーにおろして、池頭ちゃんたちに「ちょっとシバかれてくるねー」と告げ、恭弥を連れて外に出た。
「しゃっー!かかってこーい!」
「……」
「恭弥?」
なにかもの憂いげに建物を見つめる恭弥に声をかけると、「キミ、子供好きなの?」と聞いてきた。
「え、別に。可もなく不可もなく」
「でも、本とかちゃんと用意してたよね」
「それは、まあ、好き嫌いと言うより、暇を持て余したら可哀想だなという善意」
そう答えると、恭弥は「ふーん」と言う。
おうおう、聞いといてなんだそのそっけない態度は。切なくなるだろ。
「なに?私が子供好きだったら意外だった?」
「いや、イメージ通り。キミ、風紀委員に入ってなかったら保育士になってそうな感じだったし。だから……」
だから、いまこうしてマフィアと繋がりがある仕事をさせていることに、変な罪悪感を覚えているのだろうなと、察しがついた。
定期的に責任を感じるの、やめてほしいな。
「私はいま、こうして働けてることに後悔はないよ」
「そう……」
そう、と言うくせにまったく腑に落ちていない顔をしている。
まったく、もう。
「そういう未来があったかも知れないけど、私はいまの状況に不満はない。いままで出会えてよかった、と思える人たちばかりだよ。勿論、その中には恭弥もいるんだから」
だから、そんな顔しないで。と随分と距離ができた恭弥の頭を撫でると、私の肩に頭を乗せ、「ごめんね」と言う。謝らないでよ。
「私は幸せだよ、恭弥」
「うん……。ねえ、もし、子供が好きなら……僕と……」
そこまで言って煮えきらない恭弥にイタズラ心が疼き、「僕と、なに〜?恭弥く〜ん?」と煽ったら、クソデカため息をつき「キミのそういうところ、本当に嫌い」と言われてしまった。
嫌いじゃないくせに。