並盛の盾 日常小話
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雲雀恭弥+10年
「手、出して」
「怖いからヤダ」
嫌だと言っているのに、ガッチリと私の手首を掴んで離さない恭弥。
私も反抗して手を開かないようにしているが、ギチギチと手首を締め上げられ、段々指先の感覚がなくなってきた。
血がー!
観念して手を開けば、左手薬指にシンプルな指輪をはめられた。形状的に匣を開けるリングではない。極々一般的な指輪だ。
「キミ、僕の奥さんね」
「話を端折ってませんか、恭弥さん?」
面倒くさがって省略しようとする恭弥から事情を聞き出すと、どうやら恭弥にアプローチをしている女性がいて、その人に諦めてもらう為に、今度その女性が開くパーティーで妻役をやってほしいということらしい。
「あまり、ことを荒立てたくないからね」
あの恭弥がことを荒立てたくないと言ったことに、ときの流れを感じた。成長している……。
まあ、恭弥は昔から女、子供には優しいところがあるから、今回もそうなのだろう。
私はファーストコンタクトの際にぶん殴られて、顔面を床に叩きつけられたが。
うーん、許せん。
「まあ、事情はわかったよ。いや、しかし。私にそんなだいそれた役が務まるかなぁ」
「既婚者だと思わせればいいだけだから、面倒だったら黙って側にいるだけでいいから」
既婚者だと思わせるだけでいいのならば、指輪して妻がいますので〜、とか言っておけばよいのでは?と言う私に、恭弥はため息を吐いた。
なんだ、そのため息は。私を馬鹿にしているのか?と思ったが、どうやら面倒くさかったときのことを思い出したようだった。
「やったよ。そしたら、今度は相手を見たいってしつこいから、キミにお願いしてるんだよ」
「なるほどなー。恭弥相手に、よくやるね」
「キミが言えた立場じゃないけどね」
「そうかなー。当日はドレス?」
「着物がいい」
着物好きだね、と言うと「いいでしょ」とそっぽ向かれた。照れてる、照れてる。
じゃあ、着物の手配よろしくねー。と任せたら、絶対に汚すことは許されないであろう、立派な着物が届いた。自己主張するかのように、雲雀と雲の模様入り。
言わないくせに、こういう自己主張は激しいんだよね、あの子。
池頭ちゃんに着付けを手伝ってもらい、恭弥にエスコートされながらパーティー会場に来ると、あっという間に囲まれた。
必死に我慢しているであろうが、隣からあからさまな不機嫌オーラがビシビシ当たる。
なだめるように腕をぎゅっ、と抱きしめると少しイライラが収まったようだ。
「いやぁ、随分と愛らしい奥様ですね」
「年下の奥様ともなると、愛らしさもひとしおでしょ」
年下ということにプライドが滅多刺しになるが、なんとか耐えて、ただただひたすら微笑みを浮かべるだけにしておく。
「悪いけど、妻はシャイでね。あまり、話しかけないでもらえるかな」
「Oh!シャイガール!ジャポーネのレディは可愛らしいですね」
そんな会話をしていると、「よろしくて?」と女性の声がした。
囲んでいた人垣が割れ、一人の美しい女性が現れると、恭弥が「はぁ……出た……」と小さく呟いた。
ということは、彼女が恭弥が迷惑しているという女性か。
「恭弥さん、本日は来てくださりありがとうございます」
恭弥さん、と既婚者とわかっている相手の下の名前を呼んだのは、喧嘩を売ってきたのだろうが。
「一応、出資者の誘いだからね」
「相変わらずつれない。……それで、そちらが奥様?」
「妻の純と申します」
会釈をし頭を上げると、頭の先から足の先まで値踏みをされ、馬鹿にしたように嗤い「随分と、幼い方がお好きなんですね、恭弥さんは」と言った。
お?喧嘩売ってんのか?売ってるよな?こちとら三十迎えた大人の女だぞ?しかし、ことを荒立てたくない恭弥の顔を立て、笑みを浮かべるだけにとどめる。
「妻は紹介したから、僕はもう帰るよ」
「そんな、恭弥さん。せっかく来たのだから、もっといてください」
そう言うと、恭弥の腕に絡みつく女。
お〜?
恭弥も、両腕が空いていたら反射的に殴り飛ばしていただろうというくらい、嫌そうな顔をしている。
おーし、お姉ちゃんに任せとけ。
「恥を知りなさい!」
いままで静かに微笑んでいただけの女が、突然、怒声をあげれば誰でも驚くだろう。
「人様の旦那と知りながらベタベタと。貴女のご両親は、その程度の教養も教えなかったのですね。可哀想に、お里が知れますね」
女は目を見開き怒りを見せたが、すぐに冷静さを取り戻し「なにをそんなに焦ってらっしゃるの、奥様?」と挑発的に笑う。
「たかが、腕に触っているだけじゃないですか。それとも、恭弥さんが腕に触れただけで私になびいてしまうほど、貴女は彼を満足させられてないのかしら?」
「体だけでうちの恭弥を満足させられると思っているなら、あまりにも愚かですね。戦えもしない小娘が、恭弥の気を引けるだなんて思わないでください」
まあ、私も小娘時代は戦えない女で、何故恭弥が私に興味を持ったのかなんて知らないんだけども。
「なら、奥様は戦えるのかしら?まあ、戦えたとしても、丸腰ではなにもできないわよね?」
額に据えられた拳銃。
女を見据えると、勝ち誇ったような顔をしている。
「こんな至近距離じゃあ、避けられないでしょ」
「殺せるものなら殺してみなさい。撃った場合、私もやり返していいと見なします」
「死んだらやり返せないじゃない。馬鹿じゃないの」
「貴女に私は殺せない」
私の言葉に女はゆっくりと撃鉄を引く。
そして、恭弥に向かって「約束、覚えてるかしら。恭弥さん」と話しかけた。
正直、いまのスキで銃口はそらせたが、なにを約束したのか気になるので話の続きを黙って聞く。
「貴方の奥さんを私が殺したら、私と結婚してくれるって」
「ああ、言ったね」
本人に許可なく、なにヤバい約束をしているんだ、この男。私が絶対に死なないと思ってるな、まあ、死なないんだけど。
恭弥はあくびをひとつし、「まあ、キミに純は殺せないよ」と言った。
それを、“撃てない”という意味で捉えたのか、女は引き金を引いた。
額に弾丸が当たったが、私は雷の炎を身にまとっているので、唯の弾丸が効くわけない。
「ば、化け物……!」
そういうのは聞き慣れてるんだよね。
恭弥の腕から離れ、渾身の右ストレートを女の顔面にお見舞いする。
私は恭弥と違って、喧嘩を売ってきた相手が女であろうと容赦なく顔面を狙うよ。
「ほら、立ちなさい。私を殺すんでしょ」
「た、助けて……!」
一発殴っただけで、随分と意気消沈したようだ。
手加減した方なのだけれどな……。
へたりこんだ女に視線を合わせ、「覚えておきなさい」と言う。
「雲雀恭弥の隣には、貴女如き小娘は立てない。私こそ、雲雀恭弥の隣に立てる」
「は、はい……」
「そして、恭弥は私が死んでも私以外を選ばない」
よく覚えておきなさい、と告げれば、女は何度も頷いた。
よろしい、と微笑んでから、恭弥に「行きましょう」と言ってから腕を組んで会場をあとにする。
「僕、ことを荒立てたくないって言わなかったっけ?」
車に乗り込んだら、さっそくの恭弥からの苦言に、「恭弥が暴れるより、マシでしょ」と答える。
もしあそこで私が恭弥の腕を離していたら、彼女は唯で済んだか定かではないし、関係を拗らせかねない。
それに、あそこまでやられっぱなしでは、恭弥の妻はなにをされても許すからOKみたいな認識をされかねない。
立場はわからせないとね。
「私が暴れれば、恭弥が『妻は嫉妬深くてね』とでも言っておけば丸く収まるし、次また手を出したらどうなるかは身を持って知ったでしょ」
「まあね。あれだけキミが大見得切ってくれたんだ。上手くやるよ」
「上手くやるだなんて、大人になったねー」
「馬鹿にしてる?」
「褒めてるんじゃん」
ケタケタと笑うと、恭弥は真面目な顔で「けど、僕も同意するよ」と言うから、「なにが?」と聞き返してしまう。
「僕の隣にはキミしか立てないし、キミが死んでも僕はキミしか選ばない」
「……私は恭弥の隣には立てないし、私が死んだら忘れてほしい」
いつだって私は恭弥の後ろばかり歩いている。守られてばかりで情けなくなる。
「それを決めるのは僕だよ」
恭弥は私の指輪に触れ、「いつか……」まで言ってから静かに抜き取り車を発進させた。
「いつかはいつになったら来るかね」
「うるさいよ」
「手、出して」
「怖いからヤダ」
嫌だと言っているのに、ガッチリと私の手首を掴んで離さない恭弥。
私も反抗して手を開かないようにしているが、ギチギチと手首を締め上げられ、段々指先の感覚がなくなってきた。
血がー!
観念して手を開けば、左手薬指にシンプルな指輪をはめられた。形状的に匣を開けるリングではない。極々一般的な指輪だ。
「キミ、僕の奥さんね」
「話を端折ってませんか、恭弥さん?」
面倒くさがって省略しようとする恭弥から事情を聞き出すと、どうやら恭弥にアプローチをしている女性がいて、その人に諦めてもらう為に、今度その女性が開くパーティーで妻役をやってほしいということらしい。
「あまり、ことを荒立てたくないからね」
あの恭弥がことを荒立てたくないと言ったことに、ときの流れを感じた。成長している……。
まあ、恭弥は昔から女、子供には優しいところがあるから、今回もそうなのだろう。
私はファーストコンタクトの際にぶん殴られて、顔面を床に叩きつけられたが。
うーん、許せん。
「まあ、事情はわかったよ。いや、しかし。私にそんなだいそれた役が務まるかなぁ」
「既婚者だと思わせればいいだけだから、面倒だったら黙って側にいるだけでいいから」
既婚者だと思わせるだけでいいのならば、指輪して妻がいますので〜、とか言っておけばよいのでは?と言う私に、恭弥はため息を吐いた。
なんだ、そのため息は。私を馬鹿にしているのか?と思ったが、どうやら面倒くさかったときのことを思い出したようだった。
「やったよ。そしたら、今度は相手を見たいってしつこいから、キミにお願いしてるんだよ」
「なるほどなー。恭弥相手に、よくやるね」
「キミが言えた立場じゃないけどね」
「そうかなー。当日はドレス?」
「着物がいい」
着物好きだね、と言うと「いいでしょ」とそっぽ向かれた。照れてる、照れてる。
じゃあ、着物の手配よろしくねー。と任せたら、絶対に汚すことは許されないであろう、立派な着物が届いた。自己主張するかのように、雲雀と雲の模様入り。
言わないくせに、こういう自己主張は激しいんだよね、あの子。
池頭ちゃんに着付けを手伝ってもらい、恭弥にエスコートされながらパーティー会場に来ると、あっという間に囲まれた。
必死に我慢しているであろうが、隣からあからさまな不機嫌オーラがビシビシ当たる。
なだめるように腕をぎゅっ、と抱きしめると少しイライラが収まったようだ。
「いやぁ、随分と愛らしい奥様ですね」
「年下の奥様ともなると、愛らしさもひとしおでしょ」
年下ということにプライドが滅多刺しになるが、なんとか耐えて、ただただひたすら微笑みを浮かべるだけにしておく。
「悪いけど、妻はシャイでね。あまり、話しかけないでもらえるかな」
「Oh!シャイガール!ジャポーネのレディは可愛らしいですね」
そんな会話をしていると、「よろしくて?」と女性の声がした。
囲んでいた人垣が割れ、一人の美しい女性が現れると、恭弥が「はぁ……出た……」と小さく呟いた。
ということは、彼女が恭弥が迷惑しているという女性か。
「恭弥さん、本日は来てくださりありがとうございます」
恭弥さん、と既婚者とわかっている相手の下の名前を呼んだのは、喧嘩を売ってきたのだろうが。
「一応、出資者の誘いだからね」
「相変わらずつれない。……それで、そちらが奥様?」
「妻の純と申します」
会釈をし頭を上げると、頭の先から足の先まで値踏みをされ、馬鹿にしたように嗤い「随分と、幼い方がお好きなんですね、恭弥さんは」と言った。
お?喧嘩売ってんのか?売ってるよな?こちとら三十迎えた大人の女だぞ?しかし、ことを荒立てたくない恭弥の顔を立て、笑みを浮かべるだけにとどめる。
「妻は紹介したから、僕はもう帰るよ」
「そんな、恭弥さん。せっかく来たのだから、もっといてください」
そう言うと、恭弥の腕に絡みつく女。
お〜?
恭弥も、両腕が空いていたら反射的に殴り飛ばしていただろうというくらい、嫌そうな顔をしている。
おーし、お姉ちゃんに任せとけ。
「恥を知りなさい!」
いままで静かに微笑んでいただけの女が、突然、怒声をあげれば誰でも驚くだろう。
「人様の旦那と知りながらベタベタと。貴女のご両親は、その程度の教養も教えなかったのですね。可哀想に、お里が知れますね」
女は目を見開き怒りを見せたが、すぐに冷静さを取り戻し「なにをそんなに焦ってらっしゃるの、奥様?」と挑発的に笑う。
「たかが、腕に触っているだけじゃないですか。それとも、恭弥さんが腕に触れただけで私になびいてしまうほど、貴女は彼を満足させられてないのかしら?」
「体だけでうちの恭弥を満足させられると思っているなら、あまりにも愚かですね。戦えもしない小娘が、恭弥の気を引けるだなんて思わないでください」
まあ、私も小娘時代は戦えない女で、何故恭弥が私に興味を持ったのかなんて知らないんだけども。
「なら、奥様は戦えるのかしら?まあ、戦えたとしても、丸腰ではなにもできないわよね?」
額に据えられた拳銃。
女を見据えると、勝ち誇ったような顔をしている。
「こんな至近距離じゃあ、避けられないでしょ」
「殺せるものなら殺してみなさい。撃った場合、私もやり返していいと見なします」
「死んだらやり返せないじゃない。馬鹿じゃないの」
「貴女に私は殺せない」
私の言葉に女はゆっくりと撃鉄を引く。
そして、恭弥に向かって「約束、覚えてるかしら。恭弥さん」と話しかけた。
正直、いまのスキで銃口はそらせたが、なにを約束したのか気になるので話の続きを黙って聞く。
「貴方の奥さんを私が殺したら、私と結婚してくれるって」
「ああ、言ったね」
本人に許可なく、なにヤバい約束をしているんだ、この男。私が絶対に死なないと思ってるな、まあ、死なないんだけど。
恭弥はあくびをひとつし、「まあ、キミに純は殺せないよ」と言った。
それを、“撃てない”という意味で捉えたのか、女は引き金を引いた。
額に弾丸が当たったが、私は雷の炎を身にまとっているので、唯の弾丸が効くわけない。
「ば、化け物……!」
そういうのは聞き慣れてるんだよね。
恭弥の腕から離れ、渾身の右ストレートを女の顔面にお見舞いする。
私は恭弥と違って、喧嘩を売ってきた相手が女であろうと容赦なく顔面を狙うよ。
「ほら、立ちなさい。私を殺すんでしょ」
「た、助けて……!」
一発殴っただけで、随分と意気消沈したようだ。
手加減した方なのだけれどな……。
へたりこんだ女に視線を合わせ、「覚えておきなさい」と言う。
「雲雀恭弥の隣には、貴女如き小娘は立てない。私こそ、雲雀恭弥の隣に立てる」
「は、はい……」
「そして、恭弥は私が死んでも私以外を選ばない」
よく覚えておきなさい、と告げれば、女は何度も頷いた。
よろしい、と微笑んでから、恭弥に「行きましょう」と言ってから腕を組んで会場をあとにする。
「僕、ことを荒立てたくないって言わなかったっけ?」
車に乗り込んだら、さっそくの恭弥からの苦言に、「恭弥が暴れるより、マシでしょ」と答える。
もしあそこで私が恭弥の腕を離していたら、彼女は唯で済んだか定かではないし、関係を拗らせかねない。
それに、あそこまでやられっぱなしでは、恭弥の妻はなにをされても許すからOKみたいな認識をされかねない。
立場はわからせないとね。
「私が暴れれば、恭弥が『妻は嫉妬深くてね』とでも言っておけば丸く収まるし、次また手を出したらどうなるかは身を持って知ったでしょ」
「まあね。あれだけキミが大見得切ってくれたんだ。上手くやるよ」
「上手くやるだなんて、大人になったねー」
「馬鹿にしてる?」
「褒めてるんじゃん」
ケタケタと笑うと、恭弥は真面目な顔で「けど、僕も同意するよ」と言うから、「なにが?」と聞き返してしまう。
「僕の隣にはキミしか立てないし、キミが死んでも僕はキミしか選ばない」
「……私は恭弥の隣には立てないし、私が死んだら忘れてほしい」
いつだって私は恭弥の後ろばかり歩いている。守られてばかりで情けなくなる。
「それを決めるのは僕だよ」
恭弥は私の指輪に触れ、「いつか……」まで言ってから静かに抜き取り車を発進させた。
「いつかはいつになったら来るかね」
「うるさいよ」