並盛の盾 日常小話
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たまに、無性に辛い物が食べたくなるときがある。
ストレスとかではなく、純粋に辛い物が好きなだけである。
久しぶりにあそこに行くか、と思っていると、ヒバリさんから「今日、お寿司連れて行ってあげる」と言われて困った。
「今日……」
「若桜が今日、早めに上がるから食事作れなくてね。外に食べに行くから、そのついでに」
今日……、と深く悩む私を、ヒバリさんは不審なものを見る目で見てきた。
それもそうだろう。いつもなら、寿司と言われれば喜んでついて行く私が悩んでいるのだから。
今日はなぁ……完全に辛味の口になってしまっているからなぁ……。
「ヒバリさん、今日は遠慮しておきます」
「……なにか、予定あるの」
「激辛を食べに行きます」
私の言葉に、ヒバリさんは「げきから……」と初めて聞いた言葉のように発音した。
ヒバリさん、育ちがよさそうだから激辛とは無縁そうだよな。
「辛いの好きなら、美味しいところ連れて行ってあげるけど」
「そこの辛味は体調悪くなるくらい辛いですか」
「そんなものを店で出すわけないでしょ?」
なら、いいです。と言って帰ろうとしたら、ヒバリさんが一緒について来た。
「寿司屋行くんじゃなかったんですか」
「辛い物食べたくなっただけ」
「じゃあ、一緒に行きます?普通の料理も美味しいですよ」
そう言って案内したそこそこお高い中華料理屋に連れて行くと、ヒバリさんが「ここ、知ってる」と言った。
意外だ。中華とか、あまり食べないと思っていた。
意気揚々と店に入ると、店員さんが私とヒバリさんの顔を見るなり顔を青くして「料理長にお知らせしてまいります」と言って、他の店員さんに案内を任せて厨房に下がった。
ヒバリさんが「僕ならまだしもキミを見て怯えてなかった?」と聞いてきたが、そんなわけないじゃないですか~。こんなか弱い女見て、怯えるわけないでしょ~。
ヒバリさんがいるからか、いつもよりずっとグレードの高い席へ通された。
ヒバリさんにメニューをわたして、私は料理が来るのを待った。
「頼まないの?」
「頼まなくても来るので」
「常連なの?」
「何回か来ただけですけど、毎回料理長からの挑戦状叩きつけられるので」
なにそれ、と訝しみながらヒバリさんが注文をしてしばらく経つと、ヒバリさんのメニューが先に通され、あとから料理長が直々に料理を持ってきてくれた。
真っ赤な、見るからに激辛と言わんばかりの料理に目を輝かせる私と、嫌なものを見る目のヒバリさんと、血走った目の料理長。
「今日は麻婆豆腐なんですね!美味しそう!」
「そう言っていられるのはいまの内ですよ……。さあ、食べてください」
いただきまーす!とレンゲで掬おうとしたら、ヒバリさんに「それ、本当に食べるの?」と聞いてきた。
「食べるに決まってるじゃないですか」
「刺激臭がすごいけど」
「激辛ですからね」
なにを言っているんだ、という顔をする私に、ヒバリさんは「先に僕に少し食べさせて」と言ってツユを少し飲んで天を仰ぎ見た。
あの雲雀恭弥が天を仰ぎ見ている。面白い物を見てしまった。
そんなに辛いかな、と思いながら食べた瞬間、辛味で汗が溢れてくる。
「ん~!おいしい~!シェフ!腕を上げましたね!」
「どうしてだ!今日こそは、ぎゃふんと言わせられる自信があったのに!」
大喜びで激辛麻婆豆腐を食べる私に、ヒバリさんが水を飲みながら「舌が馬鹿なんじゃないの」と言ってきたが、ちゃんと辛味を感じているので正常である。
料理長からの挑戦状は、食べきれば無料な上に杏仁豆腐もついてくるから、大変お得なメニューである。
「シェフ!また来ますね!」
颯爽と席を立つ私に、シェフは「覚えてろ!」と捨て台詞を吐いた。
「シェフったら、照屋なんだから」
「客が言われるセリフじゃないよ」
「私はシェフの料理をこんなに愛してるのに、おかしいですね」
「辛いの好きだったんだね」
知らなかった、と言うヒバリさんに「甘党に見えましたか?」と聞くと「マシュマロみたいな顔してるから」と言うが、どういう意味だ。
「甘党とか辛党と言うより、たんに食べるのが好きですね」
「お寿司も好き?」
「超好きです~。ハンバーグも好きですよ」
「じゃあ、今度、ハンバーグが美味しいお店に連れて行ってあげる」
「やった!ヒバリさん、好き!」
「軽率に言わないで」
◆
「それで、その話とこの死屍累々になんの因果関係があるの」
事務室から担ぎ出されていく部下たちを指さし、恭弥は廊下に正座する私に尋ねてきた。
そうですね、私が辛味チキンが食べたくなって、作ったら食べるかどうか聞いたらみんな食べるって言うから作ったら、あまりの辛さで昏倒したからでしょうか。
つらつらと述べると、恭弥は呆れたように「ハバネロでも使ったの?」と聞くから「いや、デスソースを」と答えたら、頭を引っ叩かれた。はい、すみません。
「どうするの、あの大量の辛味チキン」
「責任もって食べます」
正直、三十代の胃にはきついが、責任はとります。
覚悟を決める私であったが、そんな私に恭弥は「なら、あの人に差し入れしてきたら」と申し出てきた。
「ディーノくんに?私、殺し屋かなにかと思われて撃たれない?そもそも、なんでそんなことするの?」
「あの人のもだえ苦しむ顔が見たい」
純粋な嫌がらせじゃないか。
私が「嫌だ」と拒否したのに、ワクワクした顔の恭弥は辛味チキンの皿を持ってキャバッローネファミリーに向かおうとする。
恭弥の腰に縋りつき、「後生だから、やめてください!」とお願いするも、足腰しっかりした恭弥は私を引きずって苦も無く歩いていく。
「えーっと、なにしに来たんだ。お前ら」
「逃げて、ディーノくん……!」
道中ずっと説得を試みてみたが、恭弥は一切聞く耳を持たなかった。
もう、ディーノくんを逃がすしかない。
「ディーノくん食べちゃダメ!すごく辛いから!」
「純が作った料理だよ。ありがたく食べな」
「お前は手を付けようとしなかっただろ!」
私たちのやりとりを不思議そうに見ていたが、ディーノくんは「純が作ったものなら、なんでも食べるぜ」と言ってくれた。嬉しいけど、やめとけ。
私の忠告も無視して、ディーノくんは辛味チキンをひとくち。そして、膝をついた。
「ディーノくーん!」
「うん……うん……純……。なんで、これを作ったのか聞いていいか……」
「辛いのが好きで、ふと辛い物が食べたくなったからです……」
「そうか……そうか……。うん、自分が食べる分にはいいが、これを人に振る舞ったらダメだぞ……」
あのディーノくんが、必死に怒りを押し殺した声と顔をしていて、泣きそうになった。
だ、だから止めたじゃん……!
「食べなくていいよ……。恭弥が愉快犯で持って来ただけだから……」
「いや、いいよ。食べる」
「無理しないで、ディーノくん」
「いや、絶対に食べる。これ食べられないなんて、愛が足りないだろ?」
「ディーノくん……」
どちらかと言うと、根性。
しかし、私の制止など無視して、ディーノくんは食べるのをやめない。
そして、それを見ていた先ほどまで上機嫌だった恭弥が不満そうにしながら、ひとつ手にして食べ始めた。
え、どうして。
「どうした、恭弥。無理に食べなくてもいいんだぞ?」
「別に。これくらいどうってことないよ」
無理するな!と睨み合う二人を止めるも、なぜかロマーリオさんに「止めるな、嬢ちゃん」と止められた。
「愛を試されてるんだよ、あの二人は」
「そういう趣旨で作ったわけじゃないんですけれども!?」
ストレスとかではなく、純粋に辛い物が好きなだけである。
久しぶりにあそこに行くか、と思っていると、ヒバリさんから「今日、お寿司連れて行ってあげる」と言われて困った。
「今日……」
「若桜が今日、早めに上がるから食事作れなくてね。外に食べに行くから、そのついでに」
今日……、と深く悩む私を、ヒバリさんは不審なものを見る目で見てきた。
それもそうだろう。いつもなら、寿司と言われれば喜んでついて行く私が悩んでいるのだから。
今日はなぁ……完全に辛味の口になってしまっているからなぁ……。
「ヒバリさん、今日は遠慮しておきます」
「……なにか、予定あるの」
「激辛を食べに行きます」
私の言葉に、ヒバリさんは「げきから……」と初めて聞いた言葉のように発音した。
ヒバリさん、育ちがよさそうだから激辛とは無縁そうだよな。
「辛いの好きなら、美味しいところ連れて行ってあげるけど」
「そこの辛味は体調悪くなるくらい辛いですか」
「そんなものを店で出すわけないでしょ?」
なら、いいです。と言って帰ろうとしたら、ヒバリさんが一緒について来た。
「寿司屋行くんじゃなかったんですか」
「辛い物食べたくなっただけ」
「じゃあ、一緒に行きます?普通の料理も美味しいですよ」
そう言って案内したそこそこお高い中華料理屋に連れて行くと、ヒバリさんが「ここ、知ってる」と言った。
意外だ。中華とか、あまり食べないと思っていた。
意気揚々と店に入ると、店員さんが私とヒバリさんの顔を見るなり顔を青くして「料理長にお知らせしてまいります」と言って、他の店員さんに案内を任せて厨房に下がった。
ヒバリさんが「僕ならまだしもキミを見て怯えてなかった?」と聞いてきたが、そんなわけないじゃないですか~。こんなか弱い女見て、怯えるわけないでしょ~。
ヒバリさんがいるからか、いつもよりずっとグレードの高い席へ通された。
ヒバリさんにメニューをわたして、私は料理が来るのを待った。
「頼まないの?」
「頼まなくても来るので」
「常連なの?」
「何回か来ただけですけど、毎回料理長からの挑戦状叩きつけられるので」
なにそれ、と訝しみながらヒバリさんが注文をしてしばらく経つと、ヒバリさんのメニューが先に通され、あとから料理長が直々に料理を持ってきてくれた。
真っ赤な、見るからに激辛と言わんばかりの料理に目を輝かせる私と、嫌なものを見る目のヒバリさんと、血走った目の料理長。
「今日は麻婆豆腐なんですね!美味しそう!」
「そう言っていられるのはいまの内ですよ……。さあ、食べてください」
いただきまーす!とレンゲで掬おうとしたら、ヒバリさんに「それ、本当に食べるの?」と聞いてきた。
「食べるに決まってるじゃないですか」
「刺激臭がすごいけど」
「激辛ですからね」
なにを言っているんだ、という顔をする私に、ヒバリさんは「先に僕に少し食べさせて」と言ってツユを少し飲んで天を仰ぎ見た。
あの雲雀恭弥が天を仰ぎ見ている。面白い物を見てしまった。
そんなに辛いかな、と思いながら食べた瞬間、辛味で汗が溢れてくる。
「ん~!おいしい~!シェフ!腕を上げましたね!」
「どうしてだ!今日こそは、ぎゃふんと言わせられる自信があったのに!」
大喜びで激辛麻婆豆腐を食べる私に、ヒバリさんが水を飲みながら「舌が馬鹿なんじゃないの」と言ってきたが、ちゃんと辛味を感じているので正常である。
料理長からの挑戦状は、食べきれば無料な上に杏仁豆腐もついてくるから、大変お得なメニューである。
「シェフ!また来ますね!」
颯爽と席を立つ私に、シェフは「覚えてろ!」と捨て台詞を吐いた。
「シェフったら、照屋なんだから」
「客が言われるセリフじゃないよ」
「私はシェフの料理をこんなに愛してるのに、おかしいですね」
「辛いの好きだったんだね」
知らなかった、と言うヒバリさんに「甘党に見えましたか?」と聞くと「マシュマロみたいな顔してるから」と言うが、どういう意味だ。
「甘党とか辛党と言うより、たんに食べるのが好きですね」
「お寿司も好き?」
「超好きです~。ハンバーグも好きですよ」
「じゃあ、今度、ハンバーグが美味しいお店に連れて行ってあげる」
「やった!ヒバリさん、好き!」
「軽率に言わないで」
◆
「それで、その話とこの死屍累々になんの因果関係があるの」
事務室から担ぎ出されていく部下たちを指さし、恭弥は廊下に正座する私に尋ねてきた。
そうですね、私が辛味チキンが食べたくなって、作ったら食べるかどうか聞いたらみんな食べるって言うから作ったら、あまりの辛さで昏倒したからでしょうか。
つらつらと述べると、恭弥は呆れたように「ハバネロでも使ったの?」と聞くから「いや、デスソースを」と答えたら、頭を引っ叩かれた。はい、すみません。
「どうするの、あの大量の辛味チキン」
「責任もって食べます」
正直、三十代の胃にはきついが、責任はとります。
覚悟を決める私であったが、そんな私に恭弥は「なら、あの人に差し入れしてきたら」と申し出てきた。
「ディーノくんに?私、殺し屋かなにかと思われて撃たれない?そもそも、なんでそんなことするの?」
「あの人のもだえ苦しむ顔が見たい」
純粋な嫌がらせじゃないか。
私が「嫌だ」と拒否したのに、ワクワクした顔の恭弥は辛味チキンの皿を持ってキャバッローネファミリーに向かおうとする。
恭弥の腰に縋りつき、「後生だから、やめてください!」とお願いするも、足腰しっかりした恭弥は私を引きずって苦も無く歩いていく。
「えーっと、なにしに来たんだ。お前ら」
「逃げて、ディーノくん……!」
道中ずっと説得を試みてみたが、恭弥は一切聞く耳を持たなかった。
もう、ディーノくんを逃がすしかない。
「ディーノくん食べちゃダメ!すごく辛いから!」
「純が作った料理だよ。ありがたく食べな」
「お前は手を付けようとしなかっただろ!」
私たちのやりとりを不思議そうに見ていたが、ディーノくんは「純が作ったものなら、なんでも食べるぜ」と言ってくれた。嬉しいけど、やめとけ。
私の忠告も無視して、ディーノくんは辛味チキンをひとくち。そして、膝をついた。
「ディーノくーん!」
「うん……うん……純……。なんで、これを作ったのか聞いていいか……」
「辛いのが好きで、ふと辛い物が食べたくなったからです……」
「そうか……そうか……。うん、自分が食べる分にはいいが、これを人に振る舞ったらダメだぞ……」
あのディーノくんが、必死に怒りを押し殺した声と顔をしていて、泣きそうになった。
だ、だから止めたじゃん……!
「食べなくていいよ……。恭弥が愉快犯で持って来ただけだから……」
「いや、いいよ。食べる」
「無理しないで、ディーノくん」
「いや、絶対に食べる。これ食べられないなんて、愛が足りないだろ?」
「ディーノくん……」
どちらかと言うと、根性。
しかし、私の制止など無視して、ディーノくんは食べるのをやめない。
そして、それを見ていた先ほどまで上機嫌だった恭弥が不満そうにしながら、ひとつ手にして食べ始めた。
え、どうして。
「どうした、恭弥。無理に食べなくてもいいんだぞ?」
「別に。これくらいどうってことないよ」
無理するな!と睨み合う二人を止めるも、なぜかロマーリオさんに「止めるな、嬢ちゃん」と止められた。
「愛を試されてるんだよ、あの二人は」
「そういう趣旨で作ったわけじゃないんですけれども!?」