並盛の盾 日常小話
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ふと、カレンダーを目にして、その日付になにか既視感を覚えた。
この年月日、なにかあった気がする……。なんだったか……。と人がなにか重要なことを思い出そうとしているのに、恭弥が「暇してるなら、ちょっとヴァリアーまでお使い行ってきて」と、書類を押し付けてきた。
なにか、忘れているとヤバいことがあった気がするんだ。なにか、恭弥に伝えなければいけないことがあった気がするんだ。
あとちょっとで出てきそうな“なにか”が出てこず、気がつけばヴァリアー本部まで来ていた。
ここ、怖いから近づきたくないんだけどなぁ。
書類の内容からして、平隊員にわたしたら怒られそうだし、かと言って上層部でただ受け取ってくれそうな人も、ちゃんと届けてくれそうな人も一人しかいない。
スクアーロさん!スクアーロさんはどこだ!
「純じゃん。なーにやってんの?」
「ひょぇっ……」
思い切り肩を抱かれ、変な声がでてしまった。
目深な前髪にチェシャ猫のような笑み。ベルさん……!一番絡まれると厄介なのに見つかった!
逃げようとするも、逃さないとばかりに首に腕を絡ませてくる。締まる、締まる。
「すみません。私、この書類を届けに来ただけなので、すぐ帰ります」
「そう言うなって。ちょっとくらい遊んで帰れよ」
あんたの遊びは、人を的にしたナイフ投げでしょうが!とは、怖すぎず言えず、「いや、あの……」と他部署の体育会系の先輩にウザ絡みされる後輩みたいな反応しかできなかったが、はっ!このウザ絡み、記憶にあるぞ!
そう、あれは忘れもしない(忘れていた)十年前……!などと思いだしている間に、目の前が煙にまかれ、私は懐かしい並盛の地を踏んでいた。
そう、そうであった。夢だと思って忘れていたが、十年前の今日、私は壊れた十年バズーカに巻き込まれて一週間ほど、十年前から帰れなかったのだ。
あのとき、随分とベルさんと恭弥に可愛がられたものだな……。
「さて、どうするか……」
一週間も帰れないとなると、衣食住を確保しなくてはいけないが、生憎と、お使いに出ただけなのでキャッシュはユーロしかなく、日本円換算で一万ほど。
これでは、一週間も生き延びられない。
事情を知っているのは沢田くんだけだし、沢田くんに事情を説明して、しばらく泊めてもらえないか交渉しよう。
ダメだった場合は、ランボくんのファミリーから生活費をせしめる。
いまの時間だと、沢田くんたちは学校だろうと当たりをつけて校門で張っていたら、まあ、当然と言えば当然だが風紀委員に捕まった。
くっ、しかし、十年後の私では同一人物とはわかってもらえない……!
「不審人物がいるって聞いたから来たのに、なにやってるんですか、竪谷さん」
「あ、あれ〜?なんで、私だってわかるの?」
「そんな、服装と髪型ちょっと変えただけでわからなくなるわけないでしょ」
十年という月日を経たのに、なぜ……?と困惑する私だったが、確かな殺気を感じ、思わずその場から身を引いてしまった。
鋭い空を切る音と、燦めく磨きこまれた銀。
「きょ……!」
うや、と言いかけたが畳み掛けるように、腹に蹴りを入れられた。
痛くはないが、このままでは悪い方向にことが進むのは明白。
一時撤退して、沢田家の前で待とうと決め、逃げ出そうとするが、あの恭弥が一度攻撃を避け、活きよく動き回る獲物を逃がすはずもない。
無言でどんどん間合いを詰められ、最終的にはドロップキックを決められ、マウントを取られた。
正直、炎を纏わない十年前の恭弥の攻撃など蚊ほどのダメージもないだろうし、十年経って私も恭弥やベルさんから如何に逃げるかは学んだ。
つまり、この状況からも逃げようと思えば逃げられてしまう。
でも、逃げても追いかけてくるだろうな、こいつ。
「お、お兄さん……。話し合いましょうよ……」
恭弥に話し合いという平和的解決を試みる日が来るとは思わなかった。
まあ、応じるとは思わないが。と半ば諦めていたが、恭弥は真っ直ぐな瞳で「キミは、誰なの」と聞いてきた。
「気配は竪谷だけど、あの子より一センチ身長も高いし、痩せてる。雰囲気も、あの子より鋭い。何者?」
そこまで私を見ているという事実に、ときめけばいいのか、怯えればいいのか。
言っても信じてもらえないとはわかりつつも、「私は、十年後の竪谷純です」と言えば、目を丸くして「十年経っても、その成りなの?」と言った。
煩いわよ、並盛の妖怪。
「信じて、恭弥」
「……信じるよ」
「本当に?!なんで?!」
思わず驚いてしまうと、平手をされた。どうして……。
「キミが信じてほしいって言ったんだろ」
「いや、そうだけども……」
それでまさか、信じてもらえるとは思わないじゃないか。私だったら、十年後の恭弥が同じことを言っても、一ミリだって信じない。そして、平手をされていたんだろうな。
恭弥は私の上から退くと、私の手を掴み立ち上がらせてから、もう一発平手をしてきた。
「どうして……」
「なんで、まず僕を頼らなかったの」
「だからそれは、信じてもらえないと思って……」
私の言い分に、恭弥は唇をへの字にしながら黙り込む。納得はできるけど、納得できないという理不尽極まりない顔だな、これは。
ぶすっ、とする恭弥に「まあ、それはさておき、しばらくの生活費を工面してほしいなぁ……なんて」と無理を承知でお願いしたら、さらに不機嫌さが増した。
「なんで怒ってるの。お金せびったから?」
「うるさい、自分で考えて」
「もー。恭弥、本当にそういうとこ直したほうがいいよ。十年後も、怒った理由絶対に言わないんだもん」
「鈍いキミが悪い」
なんだよ、それー。と言いながら、諦めて沢田家に行こうとしたらローキックを入れられ、前のめりに倒れた。
なにしやがる、この野郎。痛くなくても、衝撃はそこそこあるんだからな。
「なに?キミの脳みそはお飾りなの?」
「あんまりだ……」
私になにをさせたいんだ、お前は……。
こういうときは、なんだったかな。過去の経験上、私になにか言わせたいけど、自分の口からそれをしろと言いたくないときだよな。
起点が、「恭弥を頼らなかった」こと。
ああ、つまり、そういうことか。
「恭弥。私、一週間くらい行くあてがないんだけど、助けてくれない?」
「最初からそう言いなよ。ほら、おいで。タダでなんて助けてあげないから、ちゃんと働きなよ」
「はい、恭弥」
そう返事をすると、恭弥がぽつりと「ねぇ、キミは十年後も僕の隣にいるの?」と聞いてきた。
「隣だなんて、おこがましい!私は、後ろからくっついて行ってるだけだよ」
私の返答に満足したのか、恭弥は柔らかく笑う。
「それでいいよ。キミは、僕の後ろで震えているのがお似合いだよ」
「なにその酷い言われよう」
「お似合いだから仕方がないだろ」
上機嫌で先を歩く恭弥を見て、本当に昔からよくわからない人だと、染み染み思った。
この年月日、なにかあった気がする……。なんだったか……。と人がなにか重要なことを思い出そうとしているのに、恭弥が「暇してるなら、ちょっとヴァリアーまでお使い行ってきて」と、書類を押し付けてきた。
なにか、忘れているとヤバいことがあった気がするんだ。なにか、恭弥に伝えなければいけないことがあった気がするんだ。
あとちょっとで出てきそうな“なにか”が出てこず、気がつけばヴァリアー本部まで来ていた。
ここ、怖いから近づきたくないんだけどなぁ。
書類の内容からして、平隊員にわたしたら怒られそうだし、かと言って上層部でただ受け取ってくれそうな人も、ちゃんと届けてくれそうな人も一人しかいない。
スクアーロさん!スクアーロさんはどこだ!
「純じゃん。なーにやってんの?」
「ひょぇっ……」
思い切り肩を抱かれ、変な声がでてしまった。
目深な前髪にチェシャ猫のような笑み。ベルさん……!一番絡まれると厄介なのに見つかった!
逃げようとするも、逃さないとばかりに首に腕を絡ませてくる。締まる、締まる。
「すみません。私、この書類を届けに来ただけなので、すぐ帰ります」
「そう言うなって。ちょっとくらい遊んで帰れよ」
あんたの遊びは、人を的にしたナイフ投げでしょうが!とは、怖すぎず言えず、「いや、あの……」と他部署の体育会系の先輩にウザ絡みされる後輩みたいな反応しかできなかったが、はっ!このウザ絡み、記憶にあるぞ!
そう、あれは忘れもしない(忘れていた)十年前……!などと思いだしている間に、目の前が煙にまかれ、私は懐かしい並盛の地を踏んでいた。
そう、そうであった。夢だと思って忘れていたが、十年前の今日、私は壊れた十年バズーカに巻き込まれて一週間ほど、十年前から帰れなかったのだ。
あのとき、随分とベルさんと恭弥に可愛がられたものだな……。
「さて、どうするか……」
一週間も帰れないとなると、衣食住を確保しなくてはいけないが、生憎と、お使いに出ただけなのでキャッシュはユーロしかなく、日本円換算で一万ほど。
これでは、一週間も生き延びられない。
事情を知っているのは沢田くんだけだし、沢田くんに事情を説明して、しばらく泊めてもらえないか交渉しよう。
ダメだった場合は、ランボくんのファミリーから生活費をせしめる。
いまの時間だと、沢田くんたちは学校だろうと当たりをつけて校門で張っていたら、まあ、当然と言えば当然だが風紀委員に捕まった。
くっ、しかし、十年後の私では同一人物とはわかってもらえない……!
「不審人物がいるって聞いたから来たのに、なにやってるんですか、竪谷さん」
「あ、あれ〜?なんで、私だってわかるの?」
「そんな、服装と髪型ちょっと変えただけでわからなくなるわけないでしょ」
十年という月日を経たのに、なぜ……?と困惑する私だったが、確かな殺気を感じ、思わずその場から身を引いてしまった。
鋭い空を切る音と、燦めく磨きこまれた銀。
「きょ……!」
うや、と言いかけたが畳み掛けるように、腹に蹴りを入れられた。
痛くはないが、このままでは悪い方向にことが進むのは明白。
一時撤退して、沢田家の前で待とうと決め、逃げ出そうとするが、あの恭弥が一度攻撃を避け、活きよく動き回る獲物を逃がすはずもない。
無言でどんどん間合いを詰められ、最終的にはドロップキックを決められ、マウントを取られた。
正直、炎を纏わない十年前の恭弥の攻撃など蚊ほどのダメージもないだろうし、十年経って私も恭弥やベルさんから如何に逃げるかは学んだ。
つまり、この状況からも逃げようと思えば逃げられてしまう。
でも、逃げても追いかけてくるだろうな、こいつ。
「お、お兄さん……。話し合いましょうよ……」
恭弥に話し合いという平和的解決を試みる日が来るとは思わなかった。
まあ、応じるとは思わないが。と半ば諦めていたが、恭弥は真っ直ぐな瞳で「キミは、誰なの」と聞いてきた。
「気配は竪谷だけど、あの子より一センチ身長も高いし、痩せてる。雰囲気も、あの子より鋭い。何者?」
そこまで私を見ているという事実に、ときめけばいいのか、怯えればいいのか。
言っても信じてもらえないとはわかりつつも、「私は、十年後の竪谷純です」と言えば、目を丸くして「十年経っても、その成りなの?」と言った。
煩いわよ、並盛の妖怪。
「信じて、恭弥」
「……信じるよ」
「本当に?!なんで?!」
思わず驚いてしまうと、平手をされた。どうして……。
「キミが信じてほしいって言ったんだろ」
「いや、そうだけども……」
それでまさか、信じてもらえるとは思わないじゃないか。私だったら、十年後の恭弥が同じことを言っても、一ミリだって信じない。そして、平手をされていたんだろうな。
恭弥は私の上から退くと、私の手を掴み立ち上がらせてから、もう一発平手をしてきた。
「どうして……」
「なんで、まず僕を頼らなかったの」
「だからそれは、信じてもらえないと思って……」
私の言い分に、恭弥は唇をへの字にしながら黙り込む。納得はできるけど、納得できないという理不尽極まりない顔だな、これは。
ぶすっ、とする恭弥に「まあ、それはさておき、しばらくの生活費を工面してほしいなぁ……なんて」と無理を承知でお願いしたら、さらに不機嫌さが増した。
「なんで怒ってるの。お金せびったから?」
「うるさい、自分で考えて」
「もー。恭弥、本当にそういうとこ直したほうがいいよ。十年後も、怒った理由絶対に言わないんだもん」
「鈍いキミが悪い」
なんだよ、それー。と言いながら、諦めて沢田家に行こうとしたらローキックを入れられ、前のめりに倒れた。
なにしやがる、この野郎。痛くなくても、衝撃はそこそこあるんだからな。
「なに?キミの脳みそはお飾りなの?」
「あんまりだ……」
私になにをさせたいんだ、お前は……。
こういうときは、なんだったかな。過去の経験上、私になにか言わせたいけど、自分の口からそれをしろと言いたくないときだよな。
起点が、「恭弥を頼らなかった」こと。
ああ、つまり、そういうことか。
「恭弥。私、一週間くらい行くあてがないんだけど、助けてくれない?」
「最初からそう言いなよ。ほら、おいで。タダでなんて助けてあげないから、ちゃんと働きなよ」
「はい、恭弥」
そう返事をすると、恭弥がぽつりと「ねぇ、キミは十年後も僕の隣にいるの?」と聞いてきた。
「隣だなんて、おこがましい!私は、後ろからくっついて行ってるだけだよ」
私の返答に満足したのか、恭弥は柔らかく笑う。
「それでいいよ。キミは、僕の後ろで震えているのがお似合いだよ」
「なにその酷い言われよう」
「お似合いだから仕方がないだろ」
上機嫌で先を歩く恭弥を見て、本当に昔からよくわからない人だと、染み染み思った。