並盛の盾 日常小話
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向日葵が揺れている。
一面、向日葵が咲き誇り、こちらを見向きもしないで太陽を見つめ、風に揺れている。
右を見ても左を見ても背の高い向日葵ばかりで、自分がいまどこにいるのかもわからない。
段々と不安になっていると、不意に声がした。
――純
恭弥だ、恭弥が呼んでいる。
行かないと、と走り出すも視界に入るのは向日葵ばかり。
恭弥!恭弥、どこ!行かないで、恭弥!一人にしないで!
邪魔な向日葵を掻き分け、ようやく見つけた恭弥の後ろ姿に抱きつけば、ゆっくりと恭弥が振り向く。
その顔には、大輪の向日葵があった。
――さよらな、純。
「竪谷さん!」
叫びだす瞬間に、誰かの大声でビクリと目が覚めると、池頭ちゃんが心配そうに見ていた。
「きょ、うやは……」
「ヒバリさんなら、さっき帰ってきましたよ。だから起こしに来たら、うなされていて……」
大丈夫ですか?と聞かれ、まだぼんやりする頭には「恭弥のところに行かないと」という考えしかなかった。
走り出す私に、池頭ちゃんがなにか声をかけた気がするが、恭弥のところにいますぐ行きたい私の耳には届かなかった。
恭弥!恭弥、恭弥……!
夢の中のように駆け抜けた先に、恭弥の背中が見える。
「恭弥……!」
「なに、純。いま、僕は機嫌が悪――」
恭弥の言葉も聞こえず抱きつき、「恭弥、恭弥……!」と悪夢を見た子供のように泣き出す私に、恭弥は困惑したように、「どうしたの?」と聞いてきた。
「向日葵がたくさんあって、恭弥が見つからなくて、見つけたら恭弥が向日葵で、さよならって……」
「わからないんだけど。ちょっと落ち着きなよ」
「さよならなんて言わないで、恭弥……」
縋りつく私に、追いかけて来た池頭ちゃんが「落ち着いてください、竪谷さん!」と言いながら、肩を抱いてくれた。
深呼吸してください、と池頭ちゃんに言われるまま深呼吸をすると、「この指、何本に見えますか?」と聞かれる。
「え……三本……」
「じゃあ、さっきまで自分がなにしてたかわかりますか?」
「えっと……仮眠……?」
「では、ここがどこかはわかりますね?」
ここ、どこ……?辺りを見れば向日葵などない、風紀財団のいつもの廊下。
訝しむ恭弥と、心配そうな哲さん、困った顔をする池頭ちゃん。
「池頭ちゃん……短刀とか持ってる?」
拳銃とかでもいいんだけど。
「持っていませんし、持っていたとしてなにをするつもりですか」
「自害」
「尚更ダメです」
そんな、こんな生き恥晒した私に、これ以上まだ生きていけっていうの?酷いよ、池頭ちゃん。
「舌を噛み切るしかないのか……」
「自害しないでください!」
「死なせて、池頭ちゃん……!」
池頭ちゃんの肩口に顔を埋め、恥ずかしさで自害をさせてくれと訴える私に、恭弥が「結局、なんだったの?」と聞いてくる。
聞かないでくれ。
「たぶん悪夢でも見て、寝ぼけていたのかと」
池頭ちゃんの説明に、私は思わず「殺せ!」と叫んだが、恭弥は上機嫌のときにする「ふーん」をしてから、「おいで、純」と言った。
「純さんはいまから自害するので、行きません」
「僕がまだ“おいで”、て言ってるうちに来た方が身の為だよ」
「はい……」
脅し方がインテリヤクザなんだよな。いや、マフィアは海外式ヤクザなので、間違いなくインテリ武闘派ヤクザなんだけど。
とぼとぼと着いていくと、恭弥の執務室に通された。
「お茶淹れるから座ってなよ」
「ああ、いいよ。私がいれるから。帰ってきたばっかりで、疲れてるでしょ」
「そう?ありがとう」
備え付けの湯沸かし器でお湯を沸かし、お茶葉を用意していく。
無心であろうとしたが、どうしても先ほどの醜態を思い出してしまい、「あー!ダメ!死にたい!」と叫びだしてしまう。
この部屋なら、拳銃の一丁くらいはあるよね?!
「僕がいる限り、キミは絶対に死なせないよ」
「わー、かっこいい。でも、いまはその言葉聞きたくない。ほんと……ほんと……うわぁぁぁぁぁぁぁあぁ……」
うめき声を上げながらその場でうずくまる私に、恭弥は上機嫌で「どうしたの、泣く?」と追い打ちをかけてくる。
「ご機嫌で傷口に塩を塗るな!さっき、機嫌悪いって言ったじゃん!」
「キミが可愛いことするから、機嫌がよくなった」
「人の醜態でご機嫌になるんじゃね~!」
お茶に指入れるぞ!と思ったが、それをするとさすがに熱々のお茶を私がかけられかねないので、そっと静かに恭弥のデスクに湯飲みを置き、ローテーブルに自分用のお茶を置いてソファーに倒れこむ。
悪夢見てパニックになるなんて、子供のとき以来だ。
――さよなら、純
夢の中で言われた言葉が、頭から離れない。
「……ねえ、恭弥。さよなら、とか言わないよね」
私の質問に、恭弥は不思議そうに「言うとでも思ってるの?」と聞いてきた。
思ってはいないけれど、もしかしたらということがあるかも知れないじゃないか。
「絶対に言わない?」
「言わないよ。むしろ、それはキミの方が言いそうだけどね」
「いま解雇されたら、本当にしんどいから言わないかな~」
「なに、心配してるのは仕事のことだけなの」
「恭弥も無茶しなくなってきたし、私のお役はごめんかなとは思ってる」
「キミの役目は、僕の側にいることだよ」
だから、一生お役ごめんにはならないよ。と、恭弥は言う。
「というか、キミ。向日葵がどうのって言ってたけど、どんな夢見たの?」
「向日葵畑で迷子になって、恭弥を見つけたと思ったら恭弥が向日葵になって「さよなら」て言う夢」
自分で説明しても、なんだかよくわからない夢を見たなと思う。恭弥、絶対に向日葵とか元気の象徴みたいな花じゃないよ。梅とか菊とかその辺の花だよ。
恭弥も、「変な夢」と言いながら笑った。
「向日葵にさらわれる、なんて怖い話聞いたからかも」
「ふーん、僕が向日葵にさらわれるとでも思ったの」
「絶対に自力で帰ってきそう」
「手土産に向日葵の花束でも持ってきてあげるよ」
「はは、恭弥なら、根元から引き抜いてきそう」
そんな話をした翌朝、恭弥が小輪の向日葵のブーケを持って迎えに来たから思わず笑ってしまった。
「なに、さらわれそうになったの?」
「無謀にも挑んできたから、ブーケにしてあげたよ」
「じゃあ、この十一本の向日葵たちは犠牲となったのか」
涙が出るくらい笑う私に、恭弥は「元気出た?」と聞いてきた。
「うん、出た。ありがとう、恭弥。大好き」
「なにそれ、ブーケへの返答?」
「なんか意味あるの、このブーケ?」
「……はあ、別にないよ」
一面、向日葵が咲き誇り、こちらを見向きもしないで太陽を見つめ、風に揺れている。
右を見ても左を見ても背の高い向日葵ばかりで、自分がいまどこにいるのかもわからない。
段々と不安になっていると、不意に声がした。
――純
恭弥だ、恭弥が呼んでいる。
行かないと、と走り出すも視界に入るのは向日葵ばかり。
恭弥!恭弥、どこ!行かないで、恭弥!一人にしないで!
邪魔な向日葵を掻き分け、ようやく見つけた恭弥の後ろ姿に抱きつけば、ゆっくりと恭弥が振り向く。
その顔には、大輪の向日葵があった。
――さよらな、純。
「竪谷さん!」
叫びだす瞬間に、誰かの大声でビクリと目が覚めると、池頭ちゃんが心配そうに見ていた。
「きょ、うやは……」
「ヒバリさんなら、さっき帰ってきましたよ。だから起こしに来たら、うなされていて……」
大丈夫ですか?と聞かれ、まだぼんやりする頭には「恭弥のところに行かないと」という考えしかなかった。
走り出す私に、池頭ちゃんがなにか声をかけた気がするが、恭弥のところにいますぐ行きたい私の耳には届かなかった。
恭弥!恭弥、恭弥……!
夢の中のように駆け抜けた先に、恭弥の背中が見える。
「恭弥……!」
「なに、純。いま、僕は機嫌が悪――」
恭弥の言葉も聞こえず抱きつき、「恭弥、恭弥……!」と悪夢を見た子供のように泣き出す私に、恭弥は困惑したように、「どうしたの?」と聞いてきた。
「向日葵がたくさんあって、恭弥が見つからなくて、見つけたら恭弥が向日葵で、さよならって……」
「わからないんだけど。ちょっと落ち着きなよ」
「さよならなんて言わないで、恭弥……」
縋りつく私に、追いかけて来た池頭ちゃんが「落ち着いてください、竪谷さん!」と言いながら、肩を抱いてくれた。
深呼吸してください、と池頭ちゃんに言われるまま深呼吸をすると、「この指、何本に見えますか?」と聞かれる。
「え……三本……」
「じゃあ、さっきまで自分がなにしてたかわかりますか?」
「えっと……仮眠……?」
「では、ここがどこかはわかりますね?」
ここ、どこ……?辺りを見れば向日葵などない、風紀財団のいつもの廊下。
訝しむ恭弥と、心配そうな哲さん、困った顔をする池頭ちゃん。
「池頭ちゃん……短刀とか持ってる?」
拳銃とかでもいいんだけど。
「持っていませんし、持っていたとしてなにをするつもりですか」
「自害」
「尚更ダメです」
そんな、こんな生き恥晒した私に、これ以上まだ生きていけっていうの?酷いよ、池頭ちゃん。
「舌を噛み切るしかないのか……」
「自害しないでください!」
「死なせて、池頭ちゃん……!」
池頭ちゃんの肩口に顔を埋め、恥ずかしさで自害をさせてくれと訴える私に、恭弥が「結局、なんだったの?」と聞いてくる。
聞かないでくれ。
「たぶん悪夢でも見て、寝ぼけていたのかと」
池頭ちゃんの説明に、私は思わず「殺せ!」と叫んだが、恭弥は上機嫌のときにする「ふーん」をしてから、「おいで、純」と言った。
「純さんはいまから自害するので、行きません」
「僕がまだ“おいで”、て言ってるうちに来た方が身の為だよ」
「はい……」
脅し方がインテリヤクザなんだよな。いや、マフィアは海外式ヤクザなので、間違いなくインテリ武闘派ヤクザなんだけど。
とぼとぼと着いていくと、恭弥の執務室に通された。
「お茶淹れるから座ってなよ」
「ああ、いいよ。私がいれるから。帰ってきたばっかりで、疲れてるでしょ」
「そう?ありがとう」
備え付けの湯沸かし器でお湯を沸かし、お茶葉を用意していく。
無心であろうとしたが、どうしても先ほどの醜態を思い出してしまい、「あー!ダメ!死にたい!」と叫びだしてしまう。
この部屋なら、拳銃の一丁くらいはあるよね?!
「僕がいる限り、キミは絶対に死なせないよ」
「わー、かっこいい。でも、いまはその言葉聞きたくない。ほんと……ほんと……うわぁぁぁぁぁぁぁあぁ……」
うめき声を上げながらその場でうずくまる私に、恭弥は上機嫌で「どうしたの、泣く?」と追い打ちをかけてくる。
「ご機嫌で傷口に塩を塗るな!さっき、機嫌悪いって言ったじゃん!」
「キミが可愛いことするから、機嫌がよくなった」
「人の醜態でご機嫌になるんじゃね~!」
お茶に指入れるぞ!と思ったが、それをするとさすがに熱々のお茶を私がかけられかねないので、そっと静かに恭弥のデスクに湯飲みを置き、ローテーブルに自分用のお茶を置いてソファーに倒れこむ。
悪夢見てパニックになるなんて、子供のとき以来だ。
――さよなら、純
夢の中で言われた言葉が、頭から離れない。
「……ねえ、恭弥。さよなら、とか言わないよね」
私の質問に、恭弥は不思議そうに「言うとでも思ってるの?」と聞いてきた。
思ってはいないけれど、もしかしたらということがあるかも知れないじゃないか。
「絶対に言わない?」
「言わないよ。むしろ、それはキミの方が言いそうだけどね」
「いま解雇されたら、本当にしんどいから言わないかな~」
「なに、心配してるのは仕事のことだけなの」
「恭弥も無茶しなくなってきたし、私のお役はごめんかなとは思ってる」
「キミの役目は、僕の側にいることだよ」
だから、一生お役ごめんにはならないよ。と、恭弥は言う。
「というか、キミ。向日葵がどうのって言ってたけど、どんな夢見たの?」
「向日葵畑で迷子になって、恭弥を見つけたと思ったら恭弥が向日葵になって「さよなら」て言う夢」
自分で説明しても、なんだかよくわからない夢を見たなと思う。恭弥、絶対に向日葵とか元気の象徴みたいな花じゃないよ。梅とか菊とかその辺の花だよ。
恭弥も、「変な夢」と言いながら笑った。
「向日葵にさらわれる、なんて怖い話聞いたからかも」
「ふーん、僕が向日葵にさらわれるとでも思ったの」
「絶対に自力で帰ってきそう」
「手土産に向日葵の花束でも持ってきてあげるよ」
「はは、恭弥なら、根元から引き抜いてきそう」
そんな話をした翌朝、恭弥が小輪の向日葵のブーケを持って迎えに来たから思わず笑ってしまった。
「なに、さらわれそうになったの?」
「無謀にも挑んできたから、ブーケにしてあげたよ」
「じゃあ、この十一本の向日葵たちは犠牲となったのか」
涙が出るくらい笑う私に、恭弥は「元気出た?」と聞いてきた。
「うん、出た。ありがとう、恭弥。大好き」
「なにそれ、ブーケへの返答?」
「なんか意味あるの、このブーケ?」
「……はあ、別にないよ」