並盛の盾 日常小話
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ヒバリさんは恐怖の対象ではあるが、なんだかんだでモテる。
学生のときは、危険な男に惹かれるものである。わかる、わかる。
そして、そのモテっぷりがわかるイベント。そう、バレンタイン。その日一日、私は女子に追われることになるのだ。
なぜか?愚問である。ヒバリさん宛のチョコレートを押しつけられるからだ。
中学に在籍していたときも、成人してヒバリさんに風紀委員に引きずり戻されてからも、この年は毎度校舎という校舎を駆け回り、応接室に逃げ込んでいた。
たぶん、預かったら引き取ってはくれるとは思う。
人の好意に対しては、なんだかんだで優しい受け答えをする人だから。
だが、わたすなら直接わたしてくれ。
「そんなに、僕にチョコレートわたさせたくないの?」
なんだか上機嫌なヒバリさんに聞かれ、ほとほと疲れながら「個人的にわたすなら、干渉しませんよ」と言う。
「私を間に挟むなってだけです。私、思いを人に託すのって嫌いなんですよ。不誠実じゃないですか」
「本音は?」
「ウザがり始めたヒバリさんから八つ当たりされるのは私だから」
イライラしているときのヒバリさんの対応は私の係なのだから、危機回避として受け取らない。
サンドバッグになって吹き飛ぶのは、痛くはないがまあまあ怖い。
ほら、どのくらいで痛みがくるかなんて、わからないじゃん?
「それはそうと、ヒバリさん。こちら、お納めください」
「なにこれ」
「賄賂チョコです」
「ネーミングが最悪なんだけど」
とは言いつつも、パカリ、と箱を開けて中身を確認し「悪くないんじゃない」と言ったから、ガッツポーズをした。
わざわざ、高級デパ地下まで足を運び、揉みくちゃにされながら買ってきた甲斐があった。
草壁さんたちの分は買えなかったが、その分、別の催事で買ったチョコレートを差し入れした。
ランクは下がるし小さいが、受け取ってくれ。
「なんで、賄賂チョコなの?」
「あわよくば、ボーナス上がらないかなって思って」
「そんな不自由するような給料じゃないでしょ?」
「ヒバリさん、金はいくらあっても足りないんですよ」
老後とか、と言う私にヒバリさんは「その歳で老後気にしてるの?」と言ったが、老後はいつ気にしてもよいのだ。
ヒバリさんはチョコを眺めながら、「手作りなら、考えてもよかったんだけどね」と言うが、無理を言う。
「オーブントースター置くスペースがないですよ」
「置くスペースの作れる部屋に住めば」
「必要ないですし」
「……」
「……台所貸してくれるなら、作りますけど」
「いいよ」
了承がでたので、買い物をしてからヒバリさんの家に行くと、台所ですでにチョコを食べていた。
よく見れば私がわたした物ではないようで、誰かからあのあと貰ったのだろう。
直接わたすとは、中々肝の座った女子だ。女子かどうかは知らないけど。
よかったですね、と声をかけると「嫉妬した?」と聞いてくるから、素で「なんで?」と聞き返したらぶすくれられた。
「それで、なに作るの?」
「紅茶クッキーです」
「なんで?」
「作りたてのクッキーは世界一美味しいからです」
あとは、作るのがとても簡単だから。
手際よく生地を作り、ポコポコと型を抜いていく私に、「作り慣れてるね」とヒバリさんが感心したように褒めてくれるから、調子に乗って「実家にいたときは、毎週作ってましたからね」と言ったら、「僕、食べた記憶ないけど」とキレられた。
どうして……。
「自分の為に作りましたから……」
「バレンタインのときも市販のやつだった」
「それは、作ったそばから食べていたからですね」
「……」
「……すみません」
なに一つ私が悪くなくても、謝らなくてはならないときがある。
雲雀恭弥とは、そういう男だ。
焼き待ちの間、暇なので「クッキー好きなんですか?」と聞いたのだが、機嫌をすっかり損ねてしまったからか、「別に」と素気なく返されてしまった。
「クッキーは特別好きじゃないけど、キミが僕の為に作ってくれるのは好きだよ」
「群れるのは嫌いなのに、奉仕されるのは好きなんですね」
「キミのそういう所は嫌いだよ……」
どういう所?となっていると、オーブントースターが焼き上がりを知らせたので、ミトンをつけてトレーを取り出し、雑に皿に乗せる。
第二陣をセットしている間に、ヒバリさんは一つ口にする。
「うん、悪くないんじゃない」
「よかったです」
「また、作ってよね」
「いいですよ」
なんて会話をしてから、ちょくちょく作っていたな。という昔話を思い出したということは、疲れているな。
パソコンから顔を上げ、「竪谷さんの息抜きクッキング、クッキー編。食べる人ー」と聞くと、誰も声を発さずに手を上げた。
風紀財団の事務方は、人数が少ないのでいつも多忙である。
「というか、竪谷さん。息抜きするなら、寝てください」
事務方で一番私に厳しい池頭ちゃんの言葉を無視し、クッキー食べるまで休憩を言い渡し、散歩がてら材料を買いに出たらディーノくんに遭遇した。
「やあやあ、ディーノくん。暇してるの?」
「暇はしてねえけど、なんかあったか?」
「いや、息抜きにクッキー焼くから、あとでお裾分けに行こうか?」
「息抜きの前に寝ろ♡」
「やだ♡」
なぜ皆して、私を寝かしたがるのだろうか。私が寝ないからです、はい。解散。
「味の希望とかあるなら聞くよ」
「紅茶クッキーとか、久しぶりに食べたいな」
「ごめんねー。そのフレーバーは、雲雀恭弥専用なんだよー」
「それは手出しすると面倒だな」
「ディーノくんには、初恋の味レモンクッキーをオススメするよ」
初恋キラーっぽいし、と言うと「なんでか奪っちまうんだよな」と冗談なのか本当なのか気になることを言う。
こんな王子様フェイスに遭遇したら、大抵の女児なんて恋に落ちるでしょ。
私も出会うタイミングが違っていたら、恋に落ちていただろう。
「純の初恋って、誰なんだ?」
「イタリア旅行で会った、ドジな男の子」
「そういうのがタイプなのか?」
「放っておけなかったのと、一生懸命なところが可愛かった」
私はどうも、強い男よりも庇護欲くすぐってくる男に対して弱いようだ。
守られるより守りたい、と熱く語る私に、ディーノくんは「俺はどうしても守っちまうなあ、お前のこと」と肩を落とす。
「背中を預けて貰いたいけど、ディーノくんも恭弥もすぐ私の心配するんだから」
「しょうがねえだろ、心配なんだから」
慈しみを込めた瞳で私の頭を撫でるディーノくんを見て、愛されているのを実感する。
きっと、ディーノくんと一緒になったら更に大事にしてもらえると思うが、私はマフィアのボスの正妻という器ではない。そんなことになったら、毎日緊張で死にそうになるだろう。
「ディーノくんが一般人ならお付き合いしたのになあ」
「いまの俺じゃ、不満か?」
「余計な要素が多すぎるかな」
でも、ディーノくんのことは好きだよ!と元気に言うと、「なら、正妻の話受けてくれよ」と言われるが、それはそれ、これはこれ。
あまり長話をすると、池頭ちゃんに「買い物もできないなら寝てください」と言われてしまうので、会話を切り上げて買い物を済ませて帰ると、池頭ちゃんに「どこほっつき歩いてたんですか。お茶の準備できないじゃないですか」と言われた。
池頭ちゃんは私に厳しいが、誰よりも私が作る物を楽しみにしてくれる、いい子なのだ。
池頭ちゃんにお茶の準備をお願いしてクッキーを焼き上げて執務室に持っていくと、事務員たちが作業の手を止めて集まってくる。
ふふ、キミら、さては休まなかったな?この上司あって、この部下たちと恭弥に言われかねないな……。
「ちょっと私、恭弥にお裾分けしてくるね」
「そのまま十五時間くらい帰ってこないでください」
「直帰しろってことかな、池頭ちゃん?」
やだよー!帰ってくるよー!と言って、クッキーの乗った皿を持って恭弥の執務室をノックすると、「どうぞ」と返ってきた。
「息抜きにクッキー作ったから持ってきたよ」
「寝ろ」
ここまで寝かしつけられそうになると、なにがなんでも寝たくなくなるな。
しかし、ここで反抗するとチョークスリーパーで落とされ、強制的に寝かしつけられるのは学習済みなので、「へー、へー」と適当に返事をしながら皿を置いて帰ろうとしたら、「待ちなよ」と引き止められた。
「キミ最近、事務員に有給消化しろって煩いらしいね」
「まあね。うちの子たち、有給全然消化しないからさ」
「それにあたり、キミの有給を調べたんだけど」
「なんで」
「人に休めと言うなら、それなりに消化してるんだろうなって思ったんだけどね。なに、この日数の余り方」
出された私の有給残数が書かれた書類に、視線が泳ぐ。
「キミに有給の許諾権は与えたはずだから、自由に有給とれるのに、おかしいね?」
「い、いや、半休で使ってる、よ?」
「気絶したときに使ってるだけでしょ」
冷え冷えとした恭弥の視線から逃げつつ言い訳をするも、見抜かれてしまった。
恭弥はため息を吐いて、「下手に権利を与えたのが裏目に出たね」と言う。
「キミ、明日から二十日間休んで」
「長い、長い、長い」
「旅館の手配はしておくから」
「えーん!やだ、やだ!せめて、財団にはいさせてよー!」
「仕事するからダメ」
ケータイを取り出した恭弥を止めようとするも、抱き込まれ身動きがとれない。
「二十日も恭弥たちと離れ離れなんて、耐えられないー!」
「……まあ、そういうことなら」
私の魂の叫びを聞き届けた恭弥により、財団での有給消化が認められた。
まあ、財団、お風呂も旅館並だし、トレーニング施設もあるし、恭弥にお願いすれば料理器具も揃えてくれるから、下手な旅館より休息できるんだよな。目の前に仕事がなければ。
この辺りは酒も料理も美味しいし、しばらく仕事はみんなに任せてゆっくりするか。
「お菓子いっぱい作るから、食べてね。恭弥」
「洋菓子ばっかりはやめてよ」
「じゃあ、蒸し器買って」
「はい、はい」
学生のときは、危険な男に惹かれるものである。わかる、わかる。
そして、そのモテっぷりがわかるイベント。そう、バレンタイン。その日一日、私は女子に追われることになるのだ。
なぜか?愚問である。ヒバリさん宛のチョコレートを押しつけられるからだ。
中学に在籍していたときも、成人してヒバリさんに風紀委員に引きずり戻されてからも、この年は毎度校舎という校舎を駆け回り、応接室に逃げ込んでいた。
たぶん、預かったら引き取ってはくれるとは思う。
人の好意に対しては、なんだかんだで優しい受け答えをする人だから。
だが、わたすなら直接わたしてくれ。
「そんなに、僕にチョコレートわたさせたくないの?」
なんだか上機嫌なヒバリさんに聞かれ、ほとほと疲れながら「個人的にわたすなら、干渉しませんよ」と言う。
「私を間に挟むなってだけです。私、思いを人に託すのって嫌いなんですよ。不誠実じゃないですか」
「本音は?」
「ウザがり始めたヒバリさんから八つ当たりされるのは私だから」
イライラしているときのヒバリさんの対応は私の係なのだから、危機回避として受け取らない。
サンドバッグになって吹き飛ぶのは、痛くはないがまあまあ怖い。
ほら、どのくらいで痛みがくるかなんて、わからないじゃん?
「それはそうと、ヒバリさん。こちら、お納めください」
「なにこれ」
「賄賂チョコです」
「ネーミングが最悪なんだけど」
とは言いつつも、パカリ、と箱を開けて中身を確認し「悪くないんじゃない」と言ったから、ガッツポーズをした。
わざわざ、高級デパ地下まで足を運び、揉みくちゃにされながら買ってきた甲斐があった。
草壁さんたちの分は買えなかったが、その分、別の催事で買ったチョコレートを差し入れした。
ランクは下がるし小さいが、受け取ってくれ。
「なんで、賄賂チョコなの?」
「あわよくば、ボーナス上がらないかなって思って」
「そんな不自由するような給料じゃないでしょ?」
「ヒバリさん、金はいくらあっても足りないんですよ」
老後とか、と言う私にヒバリさんは「その歳で老後気にしてるの?」と言ったが、老後はいつ気にしてもよいのだ。
ヒバリさんはチョコを眺めながら、「手作りなら、考えてもよかったんだけどね」と言うが、無理を言う。
「オーブントースター置くスペースがないですよ」
「置くスペースの作れる部屋に住めば」
「必要ないですし」
「……」
「……台所貸してくれるなら、作りますけど」
「いいよ」
了承がでたので、買い物をしてからヒバリさんの家に行くと、台所ですでにチョコを食べていた。
よく見れば私がわたした物ではないようで、誰かからあのあと貰ったのだろう。
直接わたすとは、中々肝の座った女子だ。女子かどうかは知らないけど。
よかったですね、と声をかけると「嫉妬した?」と聞いてくるから、素で「なんで?」と聞き返したらぶすくれられた。
「それで、なに作るの?」
「紅茶クッキーです」
「なんで?」
「作りたてのクッキーは世界一美味しいからです」
あとは、作るのがとても簡単だから。
手際よく生地を作り、ポコポコと型を抜いていく私に、「作り慣れてるね」とヒバリさんが感心したように褒めてくれるから、調子に乗って「実家にいたときは、毎週作ってましたからね」と言ったら、「僕、食べた記憶ないけど」とキレられた。
どうして……。
「自分の為に作りましたから……」
「バレンタインのときも市販のやつだった」
「それは、作ったそばから食べていたからですね」
「……」
「……すみません」
なに一つ私が悪くなくても、謝らなくてはならないときがある。
雲雀恭弥とは、そういう男だ。
焼き待ちの間、暇なので「クッキー好きなんですか?」と聞いたのだが、機嫌をすっかり損ねてしまったからか、「別に」と素気なく返されてしまった。
「クッキーは特別好きじゃないけど、キミが僕の為に作ってくれるのは好きだよ」
「群れるのは嫌いなのに、奉仕されるのは好きなんですね」
「キミのそういう所は嫌いだよ……」
どういう所?となっていると、オーブントースターが焼き上がりを知らせたので、ミトンをつけてトレーを取り出し、雑に皿に乗せる。
第二陣をセットしている間に、ヒバリさんは一つ口にする。
「うん、悪くないんじゃない」
「よかったです」
「また、作ってよね」
「いいですよ」
なんて会話をしてから、ちょくちょく作っていたな。という昔話を思い出したということは、疲れているな。
パソコンから顔を上げ、「竪谷さんの息抜きクッキング、クッキー編。食べる人ー」と聞くと、誰も声を発さずに手を上げた。
風紀財団の事務方は、人数が少ないのでいつも多忙である。
「というか、竪谷さん。息抜きするなら、寝てください」
事務方で一番私に厳しい池頭ちゃんの言葉を無視し、クッキー食べるまで休憩を言い渡し、散歩がてら材料を買いに出たらディーノくんに遭遇した。
「やあやあ、ディーノくん。暇してるの?」
「暇はしてねえけど、なんかあったか?」
「いや、息抜きにクッキー焼くから、あとでお裾分けに行こうか?」
「息抜きの前に寝ろ♡」
「やだ♡」
なぜ皆して、私を寝かしたがるのだろうか。私が寝ないからです、はい。解散。
「味の希望とかあるなら聞くよ」
「紅茶クッキーとか、久しぶりに食べたいな」
「ごめんねー。そのフレーバーは、雲雀恭弥専用なんだよー」
「それは手出しすると面倒だな」
「ディーノくんには、初恋の味レモンクッキーをオススメするよ」
初恋キラーっぽいし、と言うと「なんでか奪っちまうんだよな」と冗談なのか本当なのか気になることを言う。
こんな王子様フェイスに遭遇したら、大抵の女児なんて恋に落ちるでしょ。
私も出会うタイミングが違っていたら、恋に落ちていただろう。
「純の初恋って、誰なんだ?」
「イタリア旅行で会った、ドジな男の子」
「そういうのがタイプなのか?」
「放っておけなかったのと、一生懸命なところが可愛かった」
私はどうも、強い男よりも庇護欲くすぐってくる男に対して弱いようだ。
守られるより守りたい、と熱く語る私に、ディーノくんは「俺はどうしても守っちまうなあ、お前のこと」と肩を落とす。
「背中を預けて貰いたいけど、ディーノくんも恭弥もすぐ私の心配するんだから」
「しょうがねえだろ、心配なんだから」
慈しみを込めた瞳で私の頭を撫でるディーノくんを見て、愛されているのを実感する。
きっと、ディーノくんと一緒になったら更に大事にしてもらえると思うが、私はマフィアのボスの正妻という器ではない。そんなことになったら、毎日緊張で死にそうになるだろう。
「ディーノくんが一般人ならお付き合いしたのになあ」
「いまの俺じゃ、不満か?」
「余計な要素が多すぎるかな」
でも、ディーノくんのことは好きだよ!と元気に言うと、「なら、正妻の話受けてくれよ」と言われるが、それはそれ、これはこれ。
あまり長話をすると、池頭ちゃんに「買い物もできないなら寝てください」と言われてしまうので、会話を切り上げて買い物を済ませて帰ると、池頭ちゃんに「どこほっつき歩いてたんですか。お茶の準備できないじゃないですか」と言われた。
池頭ちゃんは私に厳しいが、誰よりも私が作る物を楽しみにしてくれる、いい子なのだ。
池頭ちゃんにお茶の準備をお願いしてクッキーを焼き上げて執務室に持っていくと、事務員たちが作業の手を止めて集まってくる。
ふふ、キミら、さては休まなかったな?この上司あって、この部下たちと恭弥に言われかねないな……。
「ちょっと私、恭弥にお裾分けしてくるね」
「そのまま十五時間くらい帰ってこないでください」
「直帰しろってことかな、池頭ちゃん?」
やだよー!帰ってくるよー!と言って、クッキーの乗った皿を持って恭弥の執務室をノックすると、「どうぞ」と返ってきた。
「息抜きにクッキー作ったから持ってきたよ」
「寝ろ」
ここまで寝かしつけられそうになると、なにがなんでも寝たくなくなるな。
しかし、ここで反抗するとチョークスリーパーで落とされ、強制的に寝かしつけられるのは学習済みなので、「へー、へー」と適当に返事をしながら皿を置いて帰ろうとしたら、「待ちなよ」と引き止められた。
「キミ最近、事務員に有給消化しろって煩いらしいね」
「まあね。うちの子たち、有給全然消化しないからさ」
「それにあたり、キミの有給を調べたんだけど」
「なんで」
「人に休めと言うなら、それなりに消化してるんだろうなって思ったんだけどね。なに、この日数の余り方」
出された私の有給残数が書かれた書類に、視線が泳ぐ。
「キミに有給の許諾権は与えたはずだから、自由に有給とれるのに、おかしいね?」
「い、いや、半休で使ってる、よ?」
「気絶したときに使ってるだけでしょ」
冷え冷えとした恭弥の視線から逃げつつ言い訳をするも、見抜かれてしまった。
恭弥はため息を吐いて、「下手に権利を与えたのが裏目に出たね」と言う。
「キミ、明日から二十日間休んで」
「長い、長い、長い」
「旅館の手配はしておくから」
「えーん!やだ、やだ!せめて、財団にはいさせてよー!」
「仕事するからダメ」
ケータイを取り出した恭弥を止めようとするも、抱き込まれ身動きがとれない。
「二十日も恭弥たちと離れ離れなんて、耐えられないー!」
「……まあ、そういうことなら」
私の魂の叫びを聞き届けた恭弥により、財団での有給消化が認められた。
まあ、財団、お風呂も旅館並だし、トレーニング施設もあるし、恭弥にお願いすれば料理器具も揃えてくれるから、下手な旅館より休息できるんだよな。目の前に仕事がなければ。
この辺りは酒も料理も美味しいし、しばらく仕事はみんなに任せてゆっくりするか。
「お菓子いっぱい作るから、食べてね。恭弥」
「洋菓子ばっかりはやめてよ」
「じゃあ、蒸し器買って」
「はい、はい」