並盛の盾 日常小話
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七夕と言えば、短冊で思い思いの願い事を書き、ときには恋人同士のイベントにもなるだろう。
しかし、並盛風紀委員にそのような和気藹々としたイベントはない。
あるのは七夕祭りのショバ代徴収イベントだけである。
ガタガタと一覧表を作成し、記載漏れのある出店者に電話をかけ、怒鳴られながらも情報を聞き出し、完成させた一覧表はマイ・ベイビーと言っても過言ではないだろう。
「当日、活躍するんだぞ……」
刷ってきた一覧表に語りかける私を、ヒバリさんが不審なものを見る目で見てきた。
すみません、疲れると独り言が増える質なもので。
これで当日も記録係やるのか、とげんなりしながら、一応、ダメ元で毎年恒例だが「当日、私いります?」と聞くと、「それ、毎年言わなきゃダメ?」と聞き返されてしまった。
はい、すみません。
当日、バインダーにマイ・ベイビーを挟み、ヒバリさんと草壁さんの後ろを歩く私は、三番目に偉いように見えなくもないだろう。
残念ながら、私は実質背後にいるハンマー持った学ランたちより立場が低い。
「うわー!やめてくれー!」
ショバ代が払えず、無惨に屋台を破壊されるおっちゃんは大変可哀想ではあるが、私にこの暴君を止める術はない。ショバ代バツ、と。
何人かショバ代が払えず、あるいは払おうとせず、屋台が壊されたが例年よりは数は少なめだったと思う。
あとで例年比だして、回収したお金の集計をして入金、記載漏れで反抗した屋台と全体の報告書の作成もしないとな。
「はい、いまの屋台で最後です」
私の報告で、草壁さんが「撤収!」と言うと学ランたちは手際よく撤収していった。
訓練が行き届いている。
ざっと、今年の支払い額の確認と、残った屋台のラインナップを確認していると「お祭り、回るの?」とヒバリさんが聞いてきた。
「ちょっとだけ回ろうと思ってます」
今年はそんなに屋台を破壊していないので、さほど恨みは買っていないだろうし。
なに見に行こうかなー、と一覧表をペラペラめくっていると、いつもならさっさと花火が一番よく見える場所に行っているヒバリさんが側で待っていた。
「あ、大丈夫ですよ。今年もちゃんと、花火始まる前に行きますから」
ショバ代徴収のあとに事後処理をしてから、ヒバリさんと花火を見るのが通例化している。
お祭り回るから、今年は行かないと思われたのかなと思って言ったが、別にヒバリさんは私がいようといなかろうと興味ないだろう。
少し自意識過剰だったかと恥ずかしくなっていると、「当たり前でしょ」と言われた。
「今年は僕も一緒に回ろうかなって思っただけ」
「……ん?」
数秒、言葉を理解しきれずに反応が遅れた。
あの、人の群れが大嫌いなヒバリさんが、お祭りを回る……?!
「ヒバリさん!祭りは祭りでも血祭りじゃないですよ?!」
勘違いしていませんか?!と止めに入る私の腹を蹴って倒し「バカにしてるの?」と怒るヒバリさん。
いや、至極真面目に血祭りと勘違いしていると思っていました。
起き上がりながら、「じゃあ、人が増える前に回りましょうか」と誘えば、「うん」と言いながら手を差し出してきた。
「はぐれないように、繋いであげる」
「はぐれる……」
この、まだ人の入りも疎らな会場で?と思うが、ノーと言ったらまた腹を蹴られて倒される。
意外と骨張って硬いヒバリさんの手を握り、ぶらぶらと回る。
「なにかやりたいものないの?」
「見てるだけで楽しいですよ。あ、でも願い事見ていってもいいですか?」
指さした先には、短冊の吊るされた笹があった。
ヒバリさんは興味なさそうだったが、それでもついて来てくれた。
短冊には多種多様の願い事が書かれていて、読んでいるだけで楽しくなる。切実なものから、無難なもの、突拍子もないものや、奇をてらったものまで。
ニコニコしながら読む私に、ヒバリさんはつまらなそうに「なにが楽しいの?」と聞いてきた。
「愚かな人間の欲望とエゴと見栄を見るのは楽しいじゃないですか」
「想像してたのよりも、随分と邪悪な楽しみ方をするね」
「嘘ですよ。ちゃんと、微笑ましい気持ちで見てますよ」
否定したのに、疑わしそうな目を向けられてしまい、私は大変悲しい。
短冊を眺めていると、丸い字で「王子様に会えますように」と書かれているものを見つけて、懐かしくなった。
「私も子供の頃、王子様に会えますようにって書いたんですよね」
「ふーん。会えたの?」
「そうですね。ディーノくんとかは結構、理想の王子様です……ね……」
「……」
ギリギリとバカ力で握りしめられる手。
私は打撃と切り傷に関しては滅法強いのだが、絞め技系には大変弱く、つまり、この謎に握りしめられている手が痛い。
「ヒ、ヒバリさんは、七夕のときに願い事しなかったんですか?!」
「僕の願いは僕が叶えるからしないよ」
「そっすか……」
話題を変えるために話を振るも、不発に終わってしまい、手を握る力も緩まない。
「あ、じゃあ、私。久しぶりに書きたいんで、手を離してもらってもいいですか?」
我ながら強引にバカ力から逃げようとしたと思う。が、ヒバリさんは口をへの字にしながらも手を開放してくれた。
よーし!よしよし!!
短冊をひとつとり、なにを書こうかなと悩んでいると「そんなに悩むこと?」と不思議そうにヒバリさんが聞いてきた。
「悩みますよ。いいお寿司が食べたいとか、美味しいお酒が飲みたいとか」
「お寿司は僕が食べさせてあげるし、お酒も僕の見てるところなら飲ませてあげるよ」
「マジかよ。ヒバリさん、愛してる」
「そういうこと、軽々しく言わないで」
なんだかんだで硬派なヒバリさんにたしなめられ、なら、なに書こうかなとまたしても悩んでしまう。
「まだ?」
「待ってくださいよ、二つまで絞ったんですから」
「じゃあ、二つ書きなよ。そこから僕が選んであげるから」
「ヤダ」
食い気味に拒否をしてしまい、ただでさえ悪いヒバリさんの機嫌が更に悪くなってしまった。
しかし、嫌なものは嫌なのだ。いくら、頬をつねられても、嫌なものは嫌!
「ヒバリさんにだけは見られたくないんです」
「それは、僕に関係することだから?」
「チガウヨー」
「本当に嘘が下手だよね」
なら、なおさら書いてもらわないとね。と、二枚目の短冊を押し付けてくる。
早く書け、と引きちぎりそうな勢いで頬をつねってくるヒバリさんに根負けし、恥ずかしがりながら願い事を書いていった。
『ヒバリさんと長く一緒にいられますように』
『ヒバリさんと仲良くなれますように』
それを見たヒバリさんが、上機嫌に「ふーん、可愛いこと書くね」と言うから、恥ずかしくて短冊を握りつぶしそうになった。
「そんなに、僕と一緒にいたいの?」
「だって、ヒバリさんが無茶しようとしたとき、誰も止めないじゃないですか。心配なんですよ」
「へぇ……。じゃあ、仲良くしたいってのは?」
「円滑な仕事の為には、円滑な人間関係をですね……」
「本当に?」
「……本当に」
じっ、と見つめてくるヒバリさんに、なにもやましいことがないのに視線が泳いでしまう。
いや、全然、嘘とかではないですし。
もっと気兼ねない関係になれたらな、と思ってますよ。なんか、いまの関係、一緒にいる時間に対してちょっとよそよそしいなと思っているだけですから。
さっさと選んでもらおうと、「どっちにしますか?」と急かすと、短冊を二枚ともとりあげられ「この短冊は、僕が預かるよ」と言われた。
「これは、僕が叶える願い事だからね。星になんて願わせないよ」
そう言って、ヒバリさんは軽い足取りで一度応接室に帰り、わざわざ短冊をラミネートまでしていた。
十年後経っても、その短冊は彼の愛用の栞となって活躍している。
しかし、並盛風紀委員にそのような和気藹々としたイベントはない。
あるのは七夕祭りのショバ代徴収イベントだけである。
ガタガタと一覧表を作成し、記載漏れのある出店者に電話をかけ、怒鳴られながらも情報を聞き出し、完成させた一覧表はマイ・ベイビーと言っても過言ではないだろう。
「当日、活躍するんだぞ……」
刷ってきた一覧表に語りかける私を、ヒバリさんが不審なものを見る目で見てきた。
すみません、疲れると独り言が増える質なもので。
これで当日も記録係やるのか、とげんなりしながら、一応、ダメ元で毎年恒例だが「当日、私いります?」と聞くと、「それ、毎年言わなきゃダメ?」と聞き返されてしまった。
はい、すみません。
当日、バインダーにマイ・ベイビーを挟み、ヒバリさんと草壁さんの後ろを歩く私は、三番目に偉いように見えなくもないだろう。
残念ながら、私は実質背後にいるハンマー持った学ランたちより立場が低い。
「うわー!やめてくれー!」
ショバ代が払えず、無惨に屋台を破壊されるおっちゃんは大変可哀想ではあるが、私にこの暴君を止める術はない。ショバ代バツ、と。
何人かショバ代が払えず、あるいは払おうとせず、屋台が壊されたが例年よりは数は少なめだったと思う。
あとで例年比だして、回収したお金の集計をして入金、記載漏れで反抗した屋台と全体の報告書の作成もしないとな。
「はい、いまの屋台で最後です」
私の報告で、草壁さんが「撤収!」と言うと学ランたちは手際よく撤収していった。
訓練が行き届いている。
ざっと、今年の支払い額の確認と、残った屋台のラインナップを確認していると「お祭り、回るの?」とヒバリさんが聞いてきた。
「ちょっとだけ回ろうと思ってます」
今年はそんなに屋台を破壊していないので、さほど恨みは買っていないだろうし。
なに見に行こうかなー、と一覧表をペラペラめくっていると、いつもならさっさと花火が一番よく見える場所に行っているヒバリさんが側で待っていた。
「あ、大丈夫ですよ。今年もちゃんと、花火始まる前に行きますから」
ショバ代徴収のあとに事後処理をしてから、ヒバリさんと花火を見るのが通例化している。
お祭り回るから、今年は行かないと思われたのかなと思って言ったが、別にヒバリさんは私がいようといなかろうと興味ないだろう。
少し自意識過剰だったかと恥ずかしくなっていると、「当たり前でしょ」と言われた。
「今年は僕も一緒に回ろうかなって思っただけ」
「……ん?」
数秒、言葉を理解しきれずに反応が遅れた。
あの、人の群れが大嫌いなヒバリさんが、お祭りを回る……?!
「ヒバリさん!祭りは祭りでも血祭りじゃないですよ?!」
勘違いしていませんか?!と止めに入る私の腹を蹴って倒し「バカにしてるの?」と怒るヒバリさん。
いや、至極真面目に血祭りと勘違いしていると思っていました。
起き上がりながら、「じゃあ、人が増える前に回りましょうか」と誘えば、「うん」と言いながら手を差し出してきた。
「はぐれないように、繋いであげる」
「はぐれる……」
この、まだ人の入りも疎らな会場で?と思うが、ノーと言ったらまた腹を蹴られて倒される。
意外と骨張って硬いヒバリさんの手を握り、ぶらぶらと回る。
「なにかやりたいものないの?」
「見てるだけで楽しいですよ。あ、でも願い事見ていってもいいですか?」
指さした先には、短冊の吊るされた笹があった。
ヒバリさんは興味なさそうだったが、それでもついて来てくれた。
短冊には多種多様の願い事が書かれていて、読んでいるだけで楽しくなる。切実なものから、無難なもの、突拍子もないものや、奇をてらったものまで。
ニコニコしながら読む私に、ヒバリさんはつまらなそうに「なにが楽しいの?」と聞いてきた。
「愚かな人間の欲望とエゴと見栄を見るのは楽しいじゃないですか」
「想像してたのよりも、随分と邪悪な楽しみ方をするね」
「嘘ですよ。ちゃんと、微笑ましい気持ちで見てますよ」
否定したのに、疑わしそうな目を向けられてしまい、私は大変悲しい。
短冊を眺めていると、丸い字で「王子様に会えますように」と書かれているものを見つけて、懐かしくなった。
「私も子供の頃、王子様に会えますようにって書いたんですよね」
「ふーん。会えたの?」
「そうですね。ディーノくんとかは結構、理想の王子様です……ね……」
「……」
ギリギリとバカ力で握りしめられる手。
私は打撃と切り傷に関しては滅法強いのだが、絞め技系には大変弱く、つまり、この謎に握りしめられている手が痛い。
「ヒ、ヒバリさんは、七夕のときに願い事しなかったんですか?!」
「僕の願いは僕が叶えるからしないよ」
「そっすか……」
話題を変えるために話を振るも、不発に終わってしまい、手を握る力も緩まない。
「あ、じゃあ、私。久しぶりに書きたいんで、手を離してもらってもいいですか?」
我ながら強引にバカ力から逃げようとしたと思う。が、ヒバリさんは口をへの字にしながらも手を開放してくれた。
よーし!よしよし!!
短冊をひとつとり、なにを書こうかなと悩んでいると「そんなに悩むこと?」と不思議そうにヒバリさんが聞いてきた。
「悩みますよ。いいお寿司が食べたいとか、美味しいお酒が飲みたいとか」
「お寿司は僕が食べさせてあげるし、お酒も僕の見てるところなら飲ませてあげるよ」
「マジかよ。ヒバリさん、愛してる」
「そういうこと、軽々しく言わないで」
なんだかんだで硬派なヒバリさんにたしなめられ、なら、なに書こうかなとまたしても悩んでしまう。
「まだ?」
「待ってくださいよ、二つまで絞ったんですから」
「じゃあ、二つ書きなよ。そこから僕が選んであげるから」
「ヤダ」
食い気味に拒否をしてしまい、ただでさえ悪いヒバリさんの機嫌が更に悪くなってしまった。
しかし、嫌なものは嫌なのだ。いくら、頬をつねられても、嫌なものは嫌!
「ヒバリさんにだけは見られたくないんです」
「それは、僕に関係することだから?」
「チガウヨー」
「本当に嘘が下手だよね」
なら、なおさら書いてもらわないとね。と、二枚目の短冊を押し付けてくる。
早く書け、と引きちぎりそうな勢いで頬をつねってくるヒバリさんに根負けし、恥ずかしがりながら願い事を書いていった。
『ヒバリさんと長く一緒にいられますように』
『ヒバリさんと仲良くなれますように』
それを見たヒバリさんが、上機嫌に「ふーん、可愛いこと書くね」と言うから、恥ずかしくて短冊を握りつぶしそうになった。
「そんなに、僕と一緒にいたいの?」
「だって、ヒバリさんが無茶しようとしたとき、誰も止めないじゃないですか。心配なんですよ」
「へぇ……。じゃあ、仲良くしたいってのは?」
「円滑な仕事の為には、円滑な人間関係をですね……」
「本当に?」
「……本当に」
じっ、と見つめてくるヒバリさんに、なにもやましいことがないのに視線が泳いでしまう。
いや、全然、嘘とかではないですし。
もっと気兼ねない関係になれたらな、と思ってますよ。なんか、いまの関係、一緒にいる時間に対してちょっとよそよそしいなと思っているだけですから。
さっさと選んでもらおうと、「どっちにしますか?」と急かすと、短冊を二枚ともとりあげられ「この短冊は、僕が預かるよ」と言われた。
「これは、僕が叶える願い事だからね。星になんて願わせないよ」
そう言って、ヒバリさんは軽い足取りで一度応接室に帰り、わざわざ短冊をラミネートまでしていた。
十年後経っても、その短冊は彼の愛用の栞となって活躍している。