並盛の盾 日常小話
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一人暮らしをしていて、一番死を感じる瞬間。それは、風邪である。
こういうときに、助けを求められる友人がいないのは困る。
親に頼ろうにも、家を知られたら最後、家探しが始まりセーラー服が見つかり問い詰められかねない。
連絡先は、家族以外にはヒバリさんと草壁さんとディーノくんとロマーリオさんしかいない。
絶望がダンスしている。
ディーノくんとロマーリオさんは日本にいるかわからないし、ヒバリさんと草壁さん、どちらならマシかと考え、迷わず草壁さんに電話をした。
『おはようございます、竪谷さん。どうされましたか?』
「あの……朝から申し訳ないのですが……風邪薬とお粥と冷却材を買ってきてくれませんか……」
『風邪をひかれたのですか?!』
あまりにも心配をしてくれるので申し訳なくなりながら、「お願いします……」と言えば、「はい、委員長に説明して、すぐに行きます」と言ってくれた。
ヒバリさんに知られると、嫌味を言われそうだから避けたかったが、やはりそうはいかないか。
よろしくお願いします、とお願いして力尽き、寝ないように意識だけは保っていると、ずいぶん早くチャイムが鳴った。
草壁さんだろうとはわかっていたが、防犯の為にインターホンに出ると、画面にヒバリさんが映っており「おぇ……」と緊張からえずいてしまった。
『どういう意味?』
「すみません、気分が優れなくて……。いま開けます……」
フラフラしながらドアガードを外し鍵を開けると、仏頂面のヒバリさんが立っていた。
どうして草壁さんではないのかと、もう一度えずきそうになるのを堪え、「お見舞いに来てくれたんですか?」と手ぶらなヒバリさんに聞く。
あ、どっかに草壁さんが控えてるとかかな、と思ったが、どうも違うようで、「病院行くよ」と言われた。
「着替えられる?着替えられないなら、そのまま行くけど」
この、半袖短パンを公共の場で晒すわけにはいかないという気持ちで、短パンだけはジャージの長ズボンにはき替えた。
五十歩百歩だが、生足晒すよりはマシだ。
ヒバリさんがついているなら、手ぶらでもなんとかなるだろうと思い、なにも持たずに玄関までいけば「下まで歩ける?」と聞かれる。
正直、いま立っていただけで精一杯だが、これ以上は手を煩わせられないと、「気持ち悪い」「死ぬ」でいっぱいな頭で判断し、「行けます」と答えて一歩踏み出した瞬間、目の前にヒバリさんが腰を落とした。
「乗って」
「あ、歩けますよ……」
「そんな状態で階段下りられるわけないでしょ。早く乗って」
反発する気力も残っておらず、倒れ込むようにヒバリさんの背中に乗ると、見た目に似合わず軽々と持ち上げられた。
男の子なんだな、と思いながら落ちないようにしがみつく。
意識が朦朧としすぎていて、気がついたときには個室で横になっていた。
ぼんやりしていると、「起きた?」と声をかけられた。
横を見ると、イスに座ったヒバリさんが本を置いたところだった。
「いてくれたんですか……?」
「一応ね。気分は?」
「さっきよりずいぶんマシになりました」
「そうみたいだね。顔色もよくなってる」
ヒバリさんは薄く笑いながら、「じゃあ、何点か聞いてもいい?」と、経験上「嫌です」と言いたくなる前振りをしてきた。
かと言って、この前振りは疑問形の皮を被った決定事項なので、嫌とは言えない。
はい、どうぞ。
「なんで草壁に連絡したんだい。病欠の連絡なら、普通、僕にするだろ」
「ヒバリさんに、食料や薬を買いに行かせるわけにはいかないので……」
「買いに行かせる前に病院行って」
「ご尤も」
年下にぐうの音も出ない正論を言われてしまうとは。
「それで、風邪引いた理由は検討ついてるの?」
「ナンダロウナー」
すっとボケるも、嘘が下手くそな私の嘘はすぐに見破られ、「検討ついてるんだね」と言われてしまった。
ま、まあ……。
しかし理由を言おうとしない私に、ヒバリさんは黙ってベッドの縁に腰掛け、上から覗き込んできた。
なんだろう、と思っていると「この位置は首が締めやすいね」と不穏なことを言いながら、私の首に手をかける。
「あっ、あっー!昨日シャワー浴びたあとにクーラーつけっぱなしで持ち帰った仕事しながらお酒飲んで床で寝落ちたからかなー!?」
早口で理由を述べれば、ヒバリさんは眉間にシワを寄せた。
「髪、乾かさなかったの?」
「乾かしませんでした……」
「しかも、持ち帰るなって言った仕事持ち帰ったの?」
「気になって持ち帰りました……」
「控えろって言ったお酒も飲んだの?」
「飲みました……」
怒られ役満を白状しながらビクビクする私に、ヒバリさんは「退院したら、僕の家で生活習慣矯正するから」と言う。
うぅー!言われると思ったけど!久しぶりのヒバリプレゼンツ、正しい生活合宿!
「違うんですー!最近は、禁酒してました!でも、昨日はたまたま珍しい清酒を見つけてしまって、ついついしこたま買ってしまってー!」
「酒屋には行ったんでしょ」
「はい」
いや、これはライフワークみたいなもので、ウィンドウショッピングの一環でして。
「しかも、仕事まで持ち帰って……」
「中途半端に終わっちゃって……」
「別にすぐ終わらせないといけないものはわたしてないでしょ」
「気になっちゃって……」
メソメソと言い訳を並べる私に、ヒバリさんは「バカ」と端的に貶した。
「これから、帰りに持ち物検査するから」
「うぇ〜」
「とりあえず、今日はよく休みな」
そう言い、私の頭をひと撫でしてから立ち上がったヒバリさんに、「もう帰っちゃうんですか?」と聞くと「なに?帰ってほしくないの?」と機嫌のいいときにする笑顔で聞いてきた。
「帰ってほしくないって言ったら、考えてあげるよ」
「帰らないでください」
食い気味にお願いすれば、一瞬虚をつかれたような表情をしたが、すぐに満足そうに「素直だね、嫌いじゃないよ」と笑い、イスに座り直した。
「風邪ひくと、寂しくなるタイプなの?」
「元が寂しがり屋なので」
「へぇ、意外」
「子供のときとか、風邪ひくと部屋に一人でいるのが嫌で、毛布持ってソファーで寝てました」
「それでよく治ったね」
自己治癒力が高かったんでしょうね、と言うと、ヒバリさんは「しぶとさは昔からなんだね」と楽しそうに言うが、少々、失礼ではなかろうか。
「ヒバリさんは昔どんな子だったんですか」
「さぁ?興味ないから忘れたよ。あぁ、でも、一人面白い子に会ったのは覚えてるよ。キミに似てるけど、キミよりずっと強くて、ずっとふてぶてしかった」
「それ、確実に私じゃないですよ」
「だろうね。けど、ふてぶてしさは似てきたね」
もしかしたら、未来から来たキミだったのかもね。なんて、非現実的なことをヒバリさんが言うから笑って流したが、まさかその通りだとは当時の私は知る由もなかった。
その後、ヒバリさんは私のワガママを聞いてくれて、面会終了時間までいてくれた。
泊まっていこうか、と言ってくれたが、さすがに備え付けのソファーに寝かせるわけにはいかないので、帰ってもらった。
ヒバリさんが帰って、静まり返った部屋に一人いると、やはり寂しいなと思ってしまい、ヒバリさんに連絡しそうになったが、なんとか堪えた。
さすがに、甘え過ぎである。と自制を利かせたが、翌朝、朝食を取り終わったあとすぐに連絡してしまった。
『なに?』
「今日もお見舞い、来てくれますか?」
『寂しいの?』
「とても寂しいです……」
『キミ、一生風邪ひいてればいいのに』
「そんな、殺生な……」
『いまから行くから、我慢して』
言葉通り、ヒバリさんはすぐに来てくれたので、抱きついたら「本当に、ずっと風邪のままでいてほしいよ」と残念そうに言い、抱きしめてくれた。
こういうときに、助けを求められる友人がいないのは困る。
親に頼ろうにも、家を知られたら最後、家探しが始まりセーラー服が見つかり問い詰められかねない。
連絡先は、家族以外にはヒバリさんと草壁さんとディーノくんとロマーリオさんしかいない。
絶望がダンスしている。
ディーノくんとロマーリオさんは日本にいるかわからないし、ヒバリさんと草壁さん、どちらならマシかと考え、迷わず草壁さんに電話をした。
『おはようございます、竪谷さん。どうされましたか?』
「あの……朝から申し訳ないのですが……風邪薬とお粥と冷却材を買ってきてくれませんか……」
『風邪をひかれたのですか?!』
あまりにも心配をしてくれるので申し訳なくなりながら、「お願いします……」と言えば、「はい、委員長に説明して、すぐに行きます」と言ってくれた。
ヒバリさんに知られると、嫌味を言われそうだから避けたかったが、やはりそうはいかないか。
よろしくお願いします、とお願いして力尽き、寝ないように意識だけは保っていると、ずいぶん早くチャイムが鳴った。
草壁さんだろうとはわかっていたが、防犯の為にインターホンに出ると、画面にヒバリさんが映っており「おぇ……」と緊張からえずいてしまった。
『どういう意味?』
「すみません、気分が優れなくて……。いま開けます……」
フラフラしながらドアガードを外し鍵を開けると、仏頂面のヒバリさんが立っていた。
どうして草壁さんではないのかと、もう一度えずきそうになるのを堪え、「お見舞いに来てくれたんですか?」と手ぶらなヒバリさんに聞く。
あ、どっかに草壁さんが控えてるとかかな、と思ったが、どうも違うようで、「病院行くよ」と言われた。
「着替えられる?着替えられないなら、そのまま行くけど」
この、半袖短パンを公共の場で晒すわけにはいかないという気持ちで、短パンだけはジャージの長ズボンにはき替えた。
五十歩百歩だが、生足晒すよりはマシだ。
ヒバリさんがついているなら、手ぶらでもなんとかなるだろうと思い、なにも持たずに玄関までいけば「下まで歩ける?」と聞かれる。
正直、いま立っていただけで精一杯だが、これ以上は手を煩わせられないと、「気持ち悪い」「死ぬ」でいっぱいな頭で判断し、「行けます」と答えて一歩踏み出した瞬間、目の前にヒバリさんが腰を落とした。
「乗って」
「あ、歩けますよ……」
「そんな状態で階段下りられるわけないでしょ。早く乗って」
反発する気力も残っておらず、倒れ込むようにヒバリさんの背中に乗ると、見た目に似合わず軽々と持ち上げられた。
男の子なんだな、と思いながら落ちないようにしがみつく。
意識が朦朧としすぎていて、気がついたときには個室で横になっていた。
ぼんやりしていると、「起きた?」と声をかけられた。
横を見ると、イスに座ったヒバリさんが本を置いたところだった。
「いてくれたんですか……?」
「一応ね。気分は?」
「さっきよりずいぶんマシになりました」
「そうみたいだね。顔色もよくなってる」
ヒバリさんは薄く笑いながら、「じゃあ、何点か聞いてもいい?」と、経験上「嫌です」と言いたくなる前振りをしてきた。
かと言って、この前振りは疑問形の皮を被った決定事項なので、嫌とは言えない。
はい、どうぞ。
「なんで草壁に連絡したんだい。病欠の連絡なら、普通、僕にするだろ」
「ヒバリさんに、食料や薬を買いに行かせるわけにはいかないので……」
「買いに行かせる前に病院行って」
「ご尤も」
年下にぐうの音も出ない正論を言われてしまうとは。
「それで、風邪引いた理由は検討ついてるの?」
「ナンダロウナー」
すっとボケるも、嘘が下手くそな私の嘘はすぐに見破られ、「検討ついてるんだね」と言われてしまった。
ま、まあ……。
しかし理由を言おうとしない私に、ヒバリさんは黙ってベッドの縁に腰掛け、上から覗き込んできた。
なんだろう、と思っていると「この位置は首が締めやすいね」と不穏なことを言いながら、私の首に手をかける。
「あっ、あっー!昨日シャワー浴びたあとにクーラーつけっぱなしで持ち帰った仕事しながらお酒飲んで床で寝落ちたからかなー!?」
早口で理由を述べれば、ヒバリさんは眉間にシワを寄せた。
「髪、乾かさなかったの?」
「乾かしませんでした……」
「しかも、持ち帰るなって言った仕事持ち帰ったの?」
「気になって持ち帰りました……」
「控えろって言ったお酒も飲んだの?」
「飲みました……」
怒られ役満を白状しながらビクビクする私に、ヒバリさんは「退院したら、僕の家で生活習慣矯正するから」と言う。
うぅー!言われると思ったけど!久しぶりのヒバリプレゼンツ、正しい生活合宿!
「違うんですー!最近は、禁酒してました!でも、昨日はたまたま珍しい清酒を見つけてしまって、ついついしこたま買ってしまってー!」
「酒屋には行ったんでしょ」
「はい」
いや、これはライフワークみたいなもので、ウィンドウショッピングの一環でして。
「しかも、仕事まで持ち帰って……」
「中途半端に終わっちゃって……」
「別にすぐ終わらせないといけないものはわたしてないでしょ」
「気になっちゃって……」
メソメソと言い訳を並べる私に、ヒバリさんは「バカ」と端的に貶した。
「これから、帰りに持ち物検査するから」
「うぇ〜」
「とりあえず、今日はよく休みな」
そう言い、私の頭をひと撫でしてから立ち上がったヒバリさんに、「もう帰っちゃうんですか?」と聞くと「なに?帰ってほしくないの?」と機嫌のいいときにする笑顔で聞いてきた。
「帰ってほしくないって言ったら、考えてあげるよ」
「帰らないでください」
食い気味にお願いすれば、一瞬虚をつかれたような表情をしたが、すぐに満足そうに「素直だね、嫌いじゃないよ」と笑い、イスに座り直した。
「風邪ひくと、寂しくなるタイプなの?」
「元が寂しがり屋なので」
「へぇ、意外」
「子供のときとか、風邪ひくと部屋に一人でいるのが嫌で、毛布持ってソファーで寝てました」
「それでよく治ったね」
自己治癒力が高かったんでしょうね、と言うと、ヒバリさんは「しぶとさは昔からなんだね」と楽しそうに言うが、少々、失礼ではなかろうか。
「ヒバリさんは昔どんな子だったんですか」
「さぁ?興味ないから忘れたよ。あぁ、でも、一人面白い子に会ったのは覚えてるよ。キミに似てるけど、キミよりずっと強くて、ずっとふてぶてしかった」
「それ、確実に私じゃないですよ」
「だろうね。けど、ふてぶてしさは似てきたね」
もしかしたら、未来から来たキミだったのかもね。なんて、非現実的なことをヒバリさんが言うから笑って流したが、まさかその通りだとは当時の私は知る由もなかった。
その後、ヒバリさんは私のワガママを聞いてくれて、面会終了時間までいてくれた。
泊まっていこうか、と言ってくれたが、さすがに備え付けのソファーに寝かせるわけにはいかないので、帰ってもらった。
ヒバリさんが帰って、静まり返った部屋に一人いると、やはり寂しいなと思ってしまい、ヒバリさんに連絡しそうになったが、なんとか堪えた。
さすがに、甘え過ぎである。と自制を利かせたが、翌朝、朝食を取り終わったあとすぐに連絡してしまった。
『なに?』
「今日もお見舞い、来てくれますか?」
『寂しいの?』
「とても寂しいです……」
『キミ、一生風邪ひいてればいいのに』
「そんな、殺生な……」
『いまから行くから、我慢して』
言葉通り、ヒバリさんはすぐに来てくれたので、抱きついたら「本当に、ずっと風邪のままでいてほしいよ」と残念そうに言い、抱きしめてくれた。