並盛の盾 日常小話
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マイナスX年とプラス十年
まもなく梅雨入り。
そわそわとする私に、ヒバリさんが「梅雨、好きなの?」と聞いてきた。
正直、梅雨はまったく好きではないが、梅雨入りということは間もなくあれが来る。
「明日から衣替えじゃないですか!」
冬服のスタンダードなセーラー服に対して、夏服は可愛いデザインのセーラー服なのだ。
私は、このセーラー服を着たくて並盛に入ったと言っても過言ではない。
明日が楽しみだな、と鼻唄を歌う私に「スカートは膝下、黒のタイツとカーディガン着用」と地獄みたいなスタイルを掲示してきた。
冬のスタイルでは?
「あの、それ、暑さで倒れません?」
「風紀委員が風紀乱さないで」
どこが乱れるのだ。
私はヒバリさんが来る前から通常の夏服を着て歩き回っていたが、風紀が乱れたことは一度たりともない。
「……風紀が乱れなければいいんですね」
「……まあ」
なら、別にそんな暑苦しい格好しなくても問題ない、と判断し堂々と翌日は去年と同じスタイルで登校したら、ヒバリさんにチョークスリーパーを決められた。
「僕の言いつけを平然と無視するなんて、いい度胸だね」
「私だって可愛い制服を女子中学生らしく着こなしたいんじゃー!」
「そういうことは、僕を倒してから言ってくれる?」
無理じゃん!私は只々頑丈な一般生徒だぞ!並盛最強に勝てるわけないでしょ!
「私の夏服で乱れる風紀なんてないですよ!」
「乱れる」
「乱れません!」
「乱れる」
お互いに引こうとせず、このままでは私が折れて暑苦しい格好をさせられてしまう。
それだけは嫌なので、私は一つ立案した。
「じゃあ、今日一日風紀が乱れたら言うこと聞きます」
「なら、『可愛い』て言われたらアウトね」
「乱れラインがあまりにも厳しすぎないですか?!」
お父さんもビックリですよ!と、お父さんの前に私がビックリしていると、ジト目で「言われる自信があるってこと?」と聞いてくる。
そ、それは……。
「ないです……」
「それはそれで悲しくならない?」
悲しいが、そんなわざわざ私に「可愛いね」なんて声をかけてくる人間はいないだろう。
悲しくはなるが、私の快適夏ライフの為ならば多少の悲しみは乗り越えてみせる。
そして対決の火蓋は切って落とされたが、当たり前だがいつも通りの日常であった。
放課後に応接室に乗り込み、ヒバリさんにそのことを報告したら、「可哀想に……」と珍しく憐れまれた。
「くっ……!しかし、約束は約束ですからね!」
「わかってるよ、ズルはしていないみたいだしね」
なら!と前のめりに言質をとろうとしたら、「可愛いよ」と言われた。ヒバリさんに。
「なんて?」
「可愛いよ」
ぽかん、とする私にヒバリさんは少し笑いながら「これで、僕の言うこと聞くよね?」と言うが、そんな反則技で納得するわけないでしょうが。
「異議あり!」
「認めない」
「聞いてよ〜!だって、そんな、ヒバリさんが草食動物を可愛いと思う感情を持ってるわけないじゃないですか!つまり、可愛いというのは嘘です!」
「人の感情を勝手に否定しないでくれる」
「なら、どう可愛いか言ってみてくださいよ!」
詰め寄る私をヒバリさんは数秒見つめてから視線をそらし、「言わない」と逃げた。
はい、やはり嘘である。あの雲雀恭弥が女子の夏服に可愛いなどという人間らしい感情を抱くわけがない。
「そこまでして、私に露出を控えさせたいんですか!」
「はぁ……。というか、この茶番に付き合ってあげただけ、ありがたいと思ってよね」
「どういう意味ですか」
「この並盛の秩序は僕だってことを、忘れてないかな?」
そういえばそうだったな、とはたと気がつく。
ヒバリさんがあまり私には強要はしてこないから忘れがちだが、並盛の秩序はヒバリさんであり、ヒバリさんの敷く秩序を守るからこそ、ヒバリさんに守ってもらえている。
そのヒバリさんに楯突くということは、なにかあっても守ってもらえないということになる。
「うぇ……わかりましたよ……」
しおしおと、カーディガン、タイツ、膝下丈を受け入れると、ヒバリさんは「……カーディガンは薄手の買ってあげるから」と言ってくれた。
薄手のカーディガンなだけでも、ありがたい。
「じゃあ、帰り一緒に買いに行きましょうね。あ、でも私デザインにはこだわりますからね」
「それくらいは選ばせてあげるよ」
「わーい、役得、役得」
喜ぶ私に、ヒバリさんは「本当に可愛いと思ってるよ」と言うが、もういいですよ、それ。
◆
ふと、私がまだ弱々で若かった時代の話を思い出し、恭弥に「私の夏服姿、好きだったでしょ」と聞いてみた。
「なに。好きだって言ったら着てくれるの」
「恭弥くんはさぁ、もう少し相手の年齢を考えて物を言った方がいいよ」
二十代までならまだ冗談で済まされるけど、それ以上は冗談じゃ済まされないんだよ。苦笑いの域なんだよ。そう説く私の頭の先から爪先まで見てから、「まだ大丈夫じゃない?」と言う。
「そんなん言うなら、恭弥にも学ラン着せるからね」
「いいよ」
「了承しないで」
さては、疲れてるな。
「哲に用意させるから」
「やめろ、やめろ、やめろ。着ないからな」
いい歳した大人、しかも片方組織のトップがコスプレして仕事とか笑われるぞ。
主に、六道くんと隼人くんに。
私の制止を無視して哲さんに連絡をしようとしたので、「わかった、わかった!個人的に着るから!」と了承した。
さすがに組織のトップがコスプレしているのは、部下も恭弥信者も可哀想だ。
「言ったね」
笑みを浮かべる恭弥に、謀りやがったなコイツ……。と思うが、恭弥はやると言ったことは絶対にやらせる男だ。
はい、はい、着ますよ。着ればいいんでしょ。
観念して、数日後に届いた懐かしの一式に袖を通し鏡の前に立つが、やはり、十代、二十代の輝きはないな。
「どうですか、“ヒバリさん”」
嫌がらせでよそよそしい呼び方をするも、相当、制服姿がお気に召したのか、いい笑顔で「うん、悪くないんじゃない」と言う。
ご機嫌なら、いいよ。もう。
「ねぇ、純」
「なに」
「可愛いよ」
「照れるじゃん……」
まもなく梅雨入り。
そわそわとする私に、ヒバリさんが「梅雨、好きなの?」と聞いてきた。
正直、梅雨はまったく好きではないが、梅雨入りということは間もなくあれが来る。
「明日から衣替えじゃないですか!」
冬服のスタンダードなセーラー服に対して、夏服は可愛いデザインのセーラー服なのだ。
私は、このセーラー服を着たくて並盛に入ったと言っても過言ではない。
明日が楽しみだな、と鼻唄を歌う私に「スカートは膝下、黒のタイツとカーディガン着用」と地獄みたいなスタイルを掲示してきた。
冬のスタイルでは?
「あの、それ、暑さで倒れません?」
「風紀委員が風紀乱さないで」
どこが乱れるのだ。
私はヒバリさんが来る前から通常の夏服を着て歩き回っていたが、風紀が乱れたことは一度たりともない。
「……風紀が乱れなければいいんですね」
「……まあ」
なら、別にそんな暑苦しい格好しなくても問題ない、と判断し堂々と翌日は去年と同じスタイルで登校したら、ヒバリさんにチョークスリーパーを決められた。
「僕の言いつけを平然と無視するなんて、いい度胸だね」
「私だって可愛い制服を女子中学生らしく着こなしたいんじゃー!」
「そういうことは、僕を倒してから言ってくれる?」
無理じゃん!私は只々頑丈な一般生徒だぞ!並盛最強に勝てるわけないでしょ!
「私の夏服で乱れる風紀なんてないですよ!」
「乱れる」
「乱れません!」
「乱れる」
お互いに引こうとせず、このままでは私が折れて暑苦しい格好をさせられてしまう。
それだけは嫌なので、私は一つ立案した。
「じゃあ、今日一日風紀が乱れたら言うこと聞きます」
「なら、『可愛い』て言われたらアウトね」
「乱れラインがあまりにも厳しすぎないですか?!」
お父さんもビックリですよ!と、お父さんの前に私がビックリしていると、ジト目で「言われる自信があるってこと?」と聞いてくる。
そ、それは……。
「ないです……」
「それはそれで悲しくならない?」
悲しいが、そんなわざわざ私に「可愛いね」なんて声をかけてくる人間はいないだろう。
悲しくはなるが、私の快適夏ライフの為ならば多少の悲しみは乗り越えてみせる。
そして対決の火蓋は切って落とされたが、当たり前だがいつも通りの日常であった。
放課後に応接室に乗り込み、ヒバリさんにそのことを報告したら、「可哀想に……」と珍しく憐れまれた。
「くっ……!しかし、約束は約束ですからね!」
「わかってるよ、ズルはしていないみたいだしね」
なら!と前のめりに言質をとろうとしたら、「可愛いよ」と言われた。ヒバリさんに。
「なんて?」
「可愛いよ」
ぽかん、とする私にヒバリさんは少し笑いながら「これで、僕の言うこと聞くよね?」と言うが、そんな反則技で納得するわけないでしょうが。
「異議あり!」
「認めない」
「聞いてよ〜!だって、そんな、ヒバリさんが草食動物を可愛いと思う感情を持ってるわけないじゃないですか!つまり、可愛いというのは嘘です!」
「人の感情を勝手に否定しないでくれる」
「なら、どう可愛いか言ってみてくださいよ!」
詰め寄る私をヒバリさんは数秒見つめてから視線をそらし、「言わない」と逃げた。
はい、やはり嘘である。あの雲雀恭弥が女子の夏服に可愛いなどという人間らしい感情を抱くわけがない。
「そこまでして、私に露出を控えさせたいんですか!」
「はぁ……。というか、この茶番に付き合ってあげただけ、ありがたいと思ってよね」
「どういう意味ですか」
「この並盛の秩序は僕だってことを、忘れてないかな?」
そういえばそうだったな、とはたと気がつく。
ヒバリさんがあまり私には強要はしてこないから忘れがちだが、並盛の秩序はヒバリさんであり、ヒバリさんの敷く秩序を守るからこそ、ヒバリさんに守ってもらえている。
そのヒバリさんに楯突くということは、なにかあっても守ってもらえないということになる。
「うぇ……わかりましたよ……」
しおしおと、カーディガン、タイツ、膝下丈を受け入れると、ヒバリさんは「……カーディガンは薄手の買ってあげるから」と言ってくれた。
薄手のカーディガンなだけでも、ありがたい。
「じゃあ、帰り一緒に買いに行きましょうね。あ、でも私デザインにはこだわりますからね」
「それくらいは選ばせてあげるよ」
「わーい、役得、役得」
喜ぶ私に、ヒバリさんは「本当に可愛いと思ってるよ」と言うが、もういいですよ、それ。
◆
ふと、私がまだ弱々で若かった時代の話を思い出し、恭弥に「私の夏服姿、好きだったでしょ」と聞いてみた。
「なに。好きだって言ったら着てくれるの」
「恭弥くんはさぁ、もう少し相手の年齢を考えて物を言った方がいいよ」
二十代までならまだ冗談で済まされるけど、それ以上は冗談じゃ済まされないんだよ。苦笑いの域なんだよ。そう説く私の頭の先から爪先まで見てから、「まだ大丈夫じゃない?」と言う。
「そんなん言うなら、恭弥にも学ラン着せるからね」
「いいよ」
「了承しないで」
さては、疲れてるな。
「哲に用意させるから」
「やめろ、やめろ、やめろ。着ないからな」
いい歳した大人、しかも片方組織のトップがコスプレして仕事とか笑われるぞ。
主に、六道くんと隼人くんに。
私の制止を無視して哲さんに連絡をしようとしたので、「わかった、わかった!個人的に着るから!」と了承した。
さすがに組織のトップがコスプレしているのは、部下も恭弥信者も可哀想だ。
「言ったね」
笑みを浮かべる恭弥に、謀りやがったなコイツ……。と思うが、恭弥はやると言ったことは絶対にやらせる男だ。
はい、はい、着ますよ。着ればいいんでしょ。
観念して、数日後に届いた懐かしの一式に袖を通し鏡の前に立つが、やはり、十代、二十代の輝きはないな。
「どうですか、“ヒバリさん”」
嫌がらせでよそよそしい呼び方をするも、相当、制服姿がお気に召したのか、いい笑顔で「うん、悪くないんじゃない」と言う。
ご機嫌なら、いいよ。もう。
「ねぇ、純」
「なに」
「可愛いよ」
「照れるじゃん……」