「あらあら、佐助君。いらっしゃい。お団子買いに来たの？」
「ううん！今日は、真白ちゃんにお話があるの！」

微かに頬を染めてはにかみ笑いをする佐助という少年を見て、おばあちゃんは「あら、まぁ」と嬉しそうに言った。
何だ、何だ。
告白か？
この次元のガキはおませさんだねぇ。
聞こえないふりをしながら仕事をしていると、おばあちゃんが「真白。佐助君が話があるって」と言った。
私はしっかり猫をかぶりながら「はい、なんでしょう」と静々近寄ると、佐助少年はぐっと身を寄せ「外で話そう？」と言った。
私の腹に苦無を突きつけて。
こいつ、忍か……。
私は怯えたふりをしながら佐助少年について外に出て、路地裏へと連れていかれる。

「あ、あの、私……、何かしましたか……？」

体も声も震わせながら聞くと、苦無をクルクル回しながら「身に覚えないがないわけじゃないだろ？」と、先程までの愛らしい表情を一転させて、冷えきった瞳で私を見つめる。

「何を言われているのか、私にはさっぱり……」
「ふーん、しらばっくれるのね。じゃあ、単刀直入に聞くけど、あんたどこの間者？」
「私は、両親に言われて奉公に来ただけです……」
「あぁ、そう？実はさ、こっちで色々とあんたの足取りを調べたんだけどさ、なーんにもでてこないんだよね。近辺の村に聞いて回ってもあんたを知っている人間はいなかったんだよね。……あんたは、どこから来たの？幽霊さん」

暫く間を置いて、私は盛大に舌打ちをした。

「武田の忍は優秀だって聞いてたけど、こんな一介の団子屋の娘の素性なんか調べるなんて、大層暇人だな」

猫を取っ払い少年に悪態を吐くと、少年はニヤリと笑い「やっと本性見せたね」と言った。

「最近、なにかと物騒だからね。怪しい奴は徹底的に調べてるんだよ」
「あっそ。けど、率直にさっきの質問に答えるなら私は間者じゃない。数ヶ月前に、甲賀の忍に里を壊滅させられてね。これを機に、忍から足を洗う為に頑張ってるお子様だ」
「甲賀の忍に壊滅って事は……あんた、影縛りの忍者な訳？」

その質問に「まあね」と答えると「尚更、このままって訳にはいかないね」と殺気を微かに漏らしながら言うから、私も負けじと「やるか、小僧」と不敵に笑って睨み付ける。
少年と私は静かに武器を取りだし、真正面からぶつかり合おうとしたが、瞬間的に少年が私の視界から消えた。
少年が土塀にぶつかる音、動かないように捕まれた私の頭。
突如として現れた第三者。
腕の先を見ると、精悍な顔付きの男だった。

「おい、こら佐助！誰が殺してこいっつった！」

男の怒鳴り声に、少年が「だからって投げ飛ばさないでよ！」と怒鳴り返した。

「俺は生きて連れてこいって言ったよなぁ？」
「けど……」
「言い訳は聞かねえ。任務をきっちりできねえ忍は三流以下だって教えなかったか？」
「……はい」

男は大人しくなった少年から私に視線を移し、先程まで見せていた厳しい顔つきから、自分の娘を見る父親のような顔で「一緒に来てくれるか？」と言った。
あ、ヤバイ。
その表情、超キュンとする。

「喜んで！」

私の変わり身の早さに、少年が苦虫を噛んだような顔をして舌打ちをした。