第八次元にて忍はじめました
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もしも、またもとの世界に戻れると言われたとき、私はどうするのだろうか。
止まる選択をするのか、戻る選択をするのか。
幸村様は立派にご成長された。
やや、無鉄砲なところはあるが、そこは上手く佐助がコントロールしている。
乱世以外で生きていくのは難しい性格ではあるが、あの人はきっと乱世の中で咲き誇り散っていくから、大丈夫だ。
いや、なにが大丈夫なんだよ、という話だが意味もなく生き長らえるよりはましという話だ。
佐助も、自分の限界値を理解するようになった。
いまでも度々無茶はするが、自分が倒れたらどうなるかくらいはわかっているみたいだから、まあ、いいだろう。
丹波様には、私と佐助で幸村様を支えるようにと言われたが、幸村様を支えるのは佐助だけで十分だ。
そして、佐助は私の支えがなくとも歩いていける。
私は、絶対に必要な存在ではない。
「そんなキミに朗報だ」
「出たな、くそポンコツ神様」
いつぞや、私の人生を文字通り台無しにしお遊び感覚でこの世界に送り込んだ神様が、またもや現れた。
人が幸村様かばって重症負っているであろうときになんの用だ、ポンコツ。
イライラする私に神様は意に介さずにこやかに、「戻れるよ」と言った。
「キミの人生履歴書が修復できた」
「は?五億年も経っていませんが?」
「キミのいた次元といまいる次元では、時の流れが違うんだよ」
そういうことは先に言ってくれないかな、ポンコツ。
けど、そうか。戻れるのか。
「どうする。すぐにでも戻るかい?どのみち、キミの現在の肉体は近く停止するけど」
「死ぬってこと?」
「そういうことかな」
「死んでから戻ることは?」
「そうなると、“転生”となって戻ることはできなくなる」
お役所仕事だなぁ、と文句をたれる私に「お役所だから」と返す神様は、もう一度「どうする?」と聞いてきた。
もとの世界にそこまで未練があるかと聞かれると、そんなにないんだよね。
いまみたく、精一杯生きなければ後悔するような世界ではなく、なんとなくでも生きていける世界だったから。
こっちは……。
「ちょっと、精一杯生きてから死にたいかな」
私の答えに、神様は「わかった、精一杯生きなさい」とだけ言った。
遠退いた意識の向こう側から、「真白!答えろ、真白!」という幸村様の喧しい声と、体が痛む感覚が戻ってきて思わず、「うるせぇ!」と血を吐きながら叫んでしまった。
いや、本当にうるさかったから。
「真白!」
「あー、危なかった。彼岸が見えてた」
「そういう冗談、旦那が泣くからやめてくれない?ほら、旦那。怪我人の傷に障るから、出た、出た」
佐助は幸村様を救護場の陣幕から押し出してから戻ってくると、「しぶといやつ」と笑った。
口の中の血を吐き捨て、体を起こそうと動かそうとしたが、傷の具合から無理そうだった。
「佐助、なんで私を連れて戻ってきた。どう見ても、これ以上使える状態じゃないだろ」
「仕方がないだろ。旦那が連れ帰れってうるさかったんだから」
たしなめるより、回収した方がはやかったのだと佐助は言うが、はたして本当だろうか。
まあ、私もサヨナラも言わずに別れることにならなくてよかった、とは思っている。
血が足りなくてくらくらする頭で、「どうせ死ぬから、薬は他のやつに使ってよね」と言えば、抑揚なく「わかってるよ」と返ってきた。
「遺言聞いとく?」
「遺すものなんてあるの?」
「あったら忍なんてやってねえよ」
鼻で嗤えば、「自分で言っといて」て鼻で嗤われた。
こういう会話も最後だと思うと、感慨深いねえ。
「ところで、動ける?最後にひと働きしてほしいんだけど」
「鬼かよー」
「できるの、できないの?」
「やるわよ、やるわよ」
できる、できないじゃなくて、やれってんでしょ。はい、はい。鎮痛剤くれー!
鎮痛剤を飲み、痛覚をバカにしてから起き上がり染々と、「ふてぶてしくなったわよね、あんた」と感想を漏らす。
「昔は、切羽詰まって余裕なかったのに」
「誰かさんがイビってくれたおかげでね」
「あらあら、可哀想な佐助くん」
誰かさんが誰かだなんてわかっているが、あえてからかえば「死にかけのくせに減らない口だね」と、嫌味を言える成長っぷりに誰かさんは感激してるわよ。
「まあ、その分甘やかしてもらったけどね。真白に甘やかされるのは嫌いじゃなかった」
「じゃあ、最後にめいっぱい甘やかしてやろうか?」
腕を広げれば、迷うことなく飛び込んでくる。
大きくなった体を抱き締めれば、か細く「死なないでくれ、真白」と言われるが、私の命運は決まっているし、無理なことくらい佐助にもわかっているはずだ。
「精一杯、少しくらい役に立つよ。佐助」
「うん……」
私の人生最後の戦は、佐助たちとは別行動だった。
佐助は幸村様と一緒に行動しないといけないから、私のフォローにはまわれない。
そして、私が幸村様の側にいると幸村様が変な気づかいをしてしまう。
なので、別行動。
私の攻撃は一撃殺ではあるが、この怪我ではそう長くはないであろう。
鎮痛剤も切れて、アドレナリンでなんとかやりきっている状態ではあったが、槍で四方から貫かれてはもうダメだろう。
くそ、若くして死ぬどころの若さじゃないっての。
「っ!」
嫌に生々しい終わりの夢から覚め、乱れた呼吸を整える。
ここ最近ずっと見ていた悪夢とでも言えばいいのか、そんな夢の終わりだと直感した。
血みどろな夢だったな、と冷や汗を拭っていると「真白ー!起きてるー?」と母さんの声がした。
「起きてるー!」
若干かすれる声で答え、もぞもぞと着替えをする。
今日は引っ越しの日で、立ち会いは父に任せて母と先に新居へと向かうことになっている。
友だちと別れるのは寂しいけど、丁度中学卒業と同時だったからよかった。
新居への期待で、思わず鼻唄を歌ってしまう。
「おやすみなさい お眠りなさい バラと撫子に囲まれ 布団の中へお入り 朝が来て 神の意志により 貴方はまた目覚める おやすみなさい お眠りなさい 天使達に見守られ キリストの子の木を夢見ん 安らかに眠れ 夢の楽園の中で」
それを聞いた母が、「ブラームスの子守唄なんて、よく知ってるわね」と感心して言った。
「ブラームスの子守唄っていうの?」
「知らずに歌ってたの?」
おかしそうに笑う母さんをチラリと見てから、自分でもどうして聞いたことのない曲を歌えたのか不思議だ。
まるで、何度も歌っていたかのように思える。
どうしてだろう。
悶々としている間に新居へと着き、母さんに「荷物つくまで散歩でもしてな」と言われたので、辺りをぶらぶらしながらまた、ブラームスの子守唄を歌っていた。
「おやすみなさい お眠りなさい バラと撫子に囲まれ 布団の中へお入り 朝が来て 神の意志により 貴方はまた目覚める おやすみなさい お眠りなさい 天使達に見守られ キリストの子の木を夢見ん 安らかに眠れ 夢の楽園の中で」
懐かしい気分になる曲を口ずさんでいると、前を歩いていた学ランの学生二人が勢いよく振り向く。
そのまま、こちらを凝視するので私も視線をそらせずにいたら、赤い鉢巻きをした男子が大股で近づいてきた。
「その曲、どうして!」
「ど、どうして、とは?」
動揺してGoogleのような返しをしてしまった。
いや、そう返すしかないだろ。
「旦那、落ち着いて」
もう一人の男子が止めに入り、真剣な顔で「どこかで会ったことない?」と聞いてきて、ナンパか?と思ったが、私もこの二人には既視感がある。
「……夢で?」
口にしてから、「なんだ、お前。眠れる森の美女気取りか?」と恥ずかしくなった。
いや、でも本当に夢で見た二人だ。
これが未来予知!とまでは思わないが、不思議なこともあるものだな。
のんきな私にたいして、二人は沈痛な表情を浮かべている。
えー?なに?なんなの?
「……奇遇だね!俺様たちも、おたくのこと夢に見たんだよ!」
「佐助……」
「よかったらさ、これもなにかの縁だしアドレス交換しない?」
「そ、そうでござる!よしなにしてくだされ!」
ケータイ片手に詰め寄ってくる男子二人にビビりながらも、冷静に「いや、そういうナンパはお断りです」と断れば、鉢巻きが悲しそうに眉尻をさげた。
わんちゃん。
「じゃあ、名前は?ここら辺住んでるの?」
「秘匿します」
「ここら辺じゃ見ないから、最近引っ越してきたとか?あ、そういえば近所に新しい家が建ったから、そこの子?」
「存じ上げません」
「学校は?高校生?」
引かないヘアバンに、ついカッとなり「しつけえ!」と怒鳴ってしまい、いけないと思い謝ろうとしたが、ヘアバンも鉢巻きもなにやら嬉しそうに表情を緩ませている。
うわ、特殊性癖野郎だ……。
「私、用事があるんで!」
駆け足で逃げ出した私の背中に、「逃げても無駄だからね、真白ー!見つけだしてあげるからー!」という声が投げ掛けられた。
いや、なんでお前、私の名前知ってるんだよ!こわっ!
数日後、本当に住所特定して「先日助けていただいたハリネズミです」と挨拶に来た佐助には恐怖を覚えた。
幸村がうしろで不安そうな顔をしていなかったら、警察呼んでたわ。
「はあ、私がキミら二人と前世で出会っていたと」
にわかには信じられない話をされ、信じがたいがどうにも信じてしまうのは夢の所為か、幸村が語ったからかはわからないが、とにかく私は信じた。
「かと言って、記憶のない私はもう別人みたいなものでしょ。そこまでこだわる理由がわからないんだよなあ」
「そ、それは……」
「いや、基本的に顔と性格が一緒なら同一人物なんで、その状態のお前に甘やかされたい」
答えが見つからない幸村に対して、佐助の欲望に忠実な返答に、「忍なら感情を隠せ」と思わず突っ込んでしまった。
いや、もう忍ではないからいいんだろうけど。
「俺様は不知火真白て人間に甘えたいし、旦那はまた一緒にいたい。これ以上になにか理由が必要なわけ?」
あまりにふてぶてしい態度に「せやな」となりかけたが、ならんな。
納得がいかない私に、佐助は「まあ、あんたが納得しようがしまいが、俺様たちはあんたにつきまとうから。覚悟しなよ」と、嫌な笑みを浮かべた。
「猿飛佐助。覚えといてよね」
「真田幸村だ!覚えてくれ!」
こうして、見ず知らずの男子二人になつかれたわけだが、どういうわけか嫌な気持ちがまったくないのは前世補正だろうか。
「ま、いっか」
止まる選択をするのか、戻る選択をするのか。
幸村様は立派にご成長された。
やや、無鉄砲なところはあるが、そこは上手く佐助がコントロールしている。
乱世以外で生きていくのは難しい性格ではあるが、あの人はきっと乱世の中で咲き誇り散っていくから、大丈夫だ。
いや、なにが大丈夫なんだよ、という話だが意味もなく生き長らえるよりはましという話だ。
佐助も、自分の限界値を理解するようになった。
いまでも度々無茶はするが、自分が倒れたらどうなるかくらいはわかっているみたいだから、まあ、いいだろう。
丹波様には、私と佐助で幸村様を支えるようにと言われたが、幸村様を支えるのは佐助だけで十分だ。
そして、佐助は私の支えがなくとも歩いていける。
私は、絶対に必要な存在ではない。
「そんなキミに朗報だ」
「出たな、くそポンコツ神様」
いつぞや、私の人生を文字通り台無しにしお遊び感覚でこの世界に送り込んだ神様が、またもや現れた。
人が幸村様かばって重症負っているであろうときになんの用だ、ポンコツ。
イライラする私に神様は意に介さずにこやかに、「戻れるよ」と言った。
「キミの人生履歴書が修復できた」
「は?五億年も経っていませんが?」
「キミのいた次元といまいる次元では、時の流れが違うんだよ」
そういうことは先に言ってくれないかな、ポンコツ。
けど、そうか。戻れるのか。
「どうする。すぐにでも戻るかい?どのみち、キミの現在の肉体は近く停止するけど」
「死ぬってこと?」
「そういうことかな」
「死んでから戻ることは?」
「そうなると、“転生”となって戻ることはできなくなる」
お役所仕事だなぁ、と文句をたれる私に「お役所だから」と返す神様は、もう一度「どうする?」と聞いてきた。
もとの世界にそこまで未練があるかと聞かれると、そんなにないんだよね。
いまみたく、精一杯生きなければ後悔するような世界ではなく、なんとなくでも生きていける世界だったから。
こっちは……。
「ちょっと、精一杯生きてから死にたいかな」
私の答えに、神様は「わかった、精一杯生きなさい」とだけ言った。
遠退いた意識の向こう側から、「真白!答えろ、真白!」という幸村様の喧しい声と、体が痛む感覚が戻ってきて思わず、「うるせぇ!」と血を吐きながら叫んでしまった。
いや、本当にうるさかったから。
「真白!」
「あー、危なかった。彼岸が見えてた」
「そういう冗談、旦那が泣くからやめてくれない?ほら、旦那。怪我人の傷に障るから、出た、出た」
佐助は幸村様を救護場の陣幕から押し出してから戻ってくると、「しぶといやつ」と笑った。
口の中の血を吐き捨て、体を起こそうと動かそうとしたが、傷の具合から無理そうだった。
「佐助、なんで私を連れて戻ってきた。どう見ても、これ以上使える状態じゃないだろ」
「仕方がないだろ。旦那が連れ帰れってうるさかったんだから」
たしなめるより、回収した方がはやかったのだと佐助は言うが、はたして本当だろうか。
まあ、私もサヨナラも言わずに別れることにならなくてよかった、とは思っている。
血が足りなくてくらくらする頭で、「どうせ死ぬから、薬は他のやつに使ってよね」と言えば、抑揚なく「わかってるよ」と返ってきた。
「遺言聞いとく?」
「遺すものなんてあるの?」
「あったら忍なんてやってねえよ」
鼻で嗤えば、「自分で言っといて」て鼻で嗤われた。
こういう会話も最後だと思うと、感慨深いねえ。
「ところで、動ける?最後にひと働きしてほしいんだけど」
「鬼かよー」
「できるの、できないの?」
「やるわよ、やるわよ」
できる、できないじゃなくて、やれってんでしょ。はい、はい。鎮痛剤くれー!
鎮痛剤を飲み、痛覚をバカにしてから起き上がり染々と、「ふてぶてしくなったわよね、あんた」と感想を漏らす。
「昔は、切羽詰まって余裕なかったのに」
「誰かさんがイビってくれたおかげでね」
「あらあら、可哀想な佐助くん」
誰かさんが誰かだなんてわかっているが、あえてからかえば「死にかけのくせに減らない口だね」と、嫌味を言える成長っぷりに誰かさんは感激してるわよ。
「まあ、その分甘やかしてもらったけどね。真白に甘やかされるのは嫌いじゃなかった」
「じゃあ、最後にめいっぱい甘やかしてやろうか?」
腕を広げれば、迷うことなく飛び込んでくる。
大きくなった体を抱き締めれば、か細く「死なないでくれ、真白」と言われるが、私の命運は決まっているし、無理なことくらい佐助にもわかっているはずだ。
「精一杯、少しくらい役に立つよ。佐助」
「うん……」
私の人生最後の戦は、佐助たちとは別行動だった。
佐助は幸村様と一緒に行動しないといけないから、私のフォローにはまわれない。
そして、私が幸村様の側にいると幸村様が変な気づかいをしてしまう。
なので、別行動。
私の攻撃は一撃殺ではあるが、この怪我ではそう長くはないであろう。
鎮痛剤も切れて、アドレナリンでなんとかやりきっている状態ではあったが、槍で四方から貫かれてはもうダメだろう。
くそ、若くして死ぬどころの若さじゃないっての。
「っ!」
嫌に生々しい終わりの夢から覚め、乱れた呼吸を整える。
ここ最近ずっと見ていた悪夢とでも言えばいいのか、そんな夢の終わりだと直感した。
血みどろな夢だったな、と冷や汗を拭っていると「真白ー!起きてるー?」と母さんの声がした。
「起きてるー!」
若干かすれる声で答え、もぞもぞと着替えをする。
今日は引っ越しの日で、立ち会いは父に任せて母と先に新居へと向かうことになっている。
友だちと別れるのは寂しいけど、丁度中学卒業と同時だったからよかった。
新居への期待で、思わず鼻唄を歌ってしまう。
「おやすみなさい お眠りなさい バラと撫子に囲まれ 布団の中へお入り 朝が来て 神の意志により 貴方はまた目覚める おやすみなさい お眠りなさい 天使達に見守られ キリストの子の木を夢見ん 安らかに眠れ 夢の楽園の中で」
それを聞いた母が、「ブラームスの子守唄なんて、よく知ってるわね」と感心して言った。
「ブラームスの子守唄っていうの?」
「知らずに歌ってたの?」
おかしそうに笑う母さんをチラリと見てから、自分でもどうして聞いたことのない曲を歌えたのか不思議だ。
まるで、何度も歌っていたかのように思える。
どうしてだろう。
悶々としている間に新居へと着き、母さんに「荷物つくまで散歩でもしてな」と言われたので、辺りをぶらぶらしながらまた、ブラームスの子守唄を歌っていた。
「おやすみなさい お眠りなさい バラと撫子に囲まれ 布団の中へお入り 朝が来て 神の意志により 貴方はまた目覚める おやすみなさい お眠りなさい 天使達に見守られ キリストの子の木を夢見ん 安らかに眠れ 夢の楽園の中で」
懐かしい気分になる曲を口ずさんでいると、前を歩いていた学ランの学生二人が勢いよく振り向く。
そのまま、こちらを凝視するので私も視線をそらせずにいたら、赤い鉢巻きをした男子が大股で近づいてきた。
「その曲、どうして!」
「ど、どうして、とは?」
動揺してGoogleのような返しをしてしまった。
いや、そう返すしかないだろ。
「旦那、落ち着いて」
もう一人の男子が止めに入り、真剣な顔で「どこかで会ったことない?」と聞いてきて、ナンパか?と思ったが、私もこの二人には既視感がある。
「……夢で?」
口にしてから、「なんだ、お前。眠れる森の美女気取りか?」と恥ずかしくなった。
いや、でも本当に夢で見た二人だ。
これが未来予知!とまでは思わないが、不思議なこともあるものだな。
のんきな私にたいして、二人は沈痛な表情を浮かべている。
えー?なに?なんなの?
「……奇遇だね!俺様たちも、おたくのこと夢に見たんだよ!」
「佐助……」
「よかったらさ、これもなにかの縁だしアドレス交換しない?」
「そ、そうでござる!よしなにしてくだされ!」
ケータイ片手に詰め寄ってくる男子二人にビビりながらも、冷静に「いや、そういうナンパはお断りです」と断れば、鉢巻きが悲しそうに眉尻をさげた。
わんちゃん。
「じゃあ、名前は?ここら辺住んでるの?」
「秘匿します」
「ここら辺じゃ見ないから、最近引っ越してきたとか?あ、そういえば近所に新しい家が建ったから、そこの子?」
「存じ上げません」
「学校は?高校生?」
引かないヘアバンに、ついカッとなり「しつけえ!」と怒鳴ってしまい、いけないと思い謝ろうとしたが、ヘアバンも鉢巻きもなにやら嬉しそうに表情を緩ませている。
うわ、特殊性癖野郎だ……。
「私、用事があるんで!」
駆け足で逃げ出した私の背中に、「逃げても無駄だからね、真白ー!見つけだしてあげるからー!」という声が投げ掛けられた。
いや、なんでお前、私の名前知ってるんだよ!こわっ!
数日後、本当に住所特定して「先日助けていただいたハリネズミです」と挨拶に来た佐助には恐怖を覚えた。
幸村がうしろで不安そうな顔をしていなかったら、警察呼んでたわ。
「はあ、私がキミら二人と前世で出会っていたと」
にわかには信じられない話をされ、信じがたいがどうにも信じてしまうのは夢の所為か、幸村が語ったからかはわからないが、とにかく私は信じた。
「かと言って、記憶のない私はもう別人みたいなものでしょ。そこまでこだわる理由がわからないんだよなあ」
「そ、それは……」
「いや、基本的に顔と性格が一緒なら同一人物なんで、その状態のお前に甘やかされたい」
答えが見つからない幸村に対して、佐助の欲望に忠実な返答に、「忍なら感情を隠せ」と思わず突っ込んでしまった。
いや、もう忍ではないからいいんだろうけど。
「俺様は不知火真白て人間に甘えたいし、旦那はまた一緒にいたい。これ以上になにか理由が必要なわけ?」
あまりにふてぶてしい態度に「せやな」となりかけたが、ならんな。
納得がいかない私に、佐助は「まあ、あんたが納得しようがしまいが、俺様たちはあんたにつきまとうから。覚悟しなよ」と、嫌な笑みを浮かべた。
「猿飛佐助。覚えといてよね」
「真田幸村だ!覚えてくれ!」
こうして、見ず知らずの男子二人になつかれたわけだが、どういうわけか嫌な気持ちがまったくないのは前世補正だろうか。
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