楽しい軟禁生活
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俺が暴れ馬と呼ばれていた時代。
喧嘩して腹が減って、ぼーっとしていたら「大丈夫?」と鈴を転がすような、澄んだ声がした。
それだけでも、「あー、好きだな」なんて思っていたのに、顔を上げて姿を確認した瞬間、恋に落ちる音がした。
「?」
カスミソウのような清純な印象を受ける顔と、美しい髪。
簡単に折れそうな華奢な手足。
一目惚れなんて、中身を見ていない最低な惚れ方だと千壽は言っていたが、こんな儚く美しい人の性格が悪いわけがない。
「どこか痛い?」
「あ……いや……大丈夫っす……」
「そっか、よかった。これ、よかったら使って」
差し出された、変哲もない絆創膏。
その気遣いが嬉しくて、柄にもなく照れてしまった。
「それじゃあね」
「えっ、あっ!ちょっと待ってください!」
「どうかした?」
勢いで引き止めてしまったが、なにも考えていなかった。
「あ、その……これのお礼したいんで、名前と学校教えてくれないですか!」
カスミソウのような人は、「そんな、いいよ」と言うが、ここで引けない俺は、「義理は通します!」と普段通しもしない義理を通そうとすると、その人は名前と学校を教えてくれた。
「悠さん、マイキーと同じ学校なんすね」
「佐野くんの知り合い?」
「マイキーを知ってるんですか?」
こんな、不良とは縁遠い人からマイキーの名前が出てくるとは思っておらず、俺が不良だとバレたことに一瞬冷や冷やしたが、悠さんは怯えるでも嫌悪するでもなく、優しく「無茶はしちゃダメだよ」とだけ言ってくれた。
無理、好きだ。
翌日、俺は学校をサボって、悠さんに似合いそうなブレスレットを探しに行った。
女にプレゼントなんて初めてだから、喜んでもらえるかわかんねえけど、悠さんならきっと喜んでくれる。
その足でマイキーと悠さんの学校まで行き、校門で悠さんを待っていたら、見つけた。
俺のカスミソウ。
「悠さん!」
「あ、昨日の」
「春千夜です!あの、これ昨日のお礼です!」
プレゼント包装されたブレスレットを受け取ると、悠さんは柔らかく笑い、「ありがとう」と言ってくれた。
「あの、マックも奢ります!一緒に行きましょ!」
「奢ってくれなくていいよ。それくらい、自分で払えるから」
「悠さんが金なさそうとか思ってないですよ!ただ、その……カッコいいとこ見せたくて……」
俺の言葉に、悠さんは「男の子だね」と小さく笑ってから「他のところで見せてほしいかな」と言った。
悠さんにとって、俺は子供にしか見えていないことが悲しくはあったが、ここから男を見せてやる!
と、意気込んだ矢先に、マイキーと歩いている悠さんを見つけた。
マイキーを見る悠さんの目は、俺に向ける目とは違い恋する目だった。
初恋は実らない。そういうものだ。
普通ならここは悲しむべきなのだろうが、俺の好きな女が俺の好きな男に惚れているという事実に歓喜した。
好きと好きが一緒になったら、最高じゃねえか。絶対に、なにがなんでも悠さんの恋は実らせる。邪魔するやつは全員ぶっ殺す。
マイキーも悠さんのことを好きな目をしていて、あと一息だったのに、結局二人は付き合うことはなかった。
マイキーが、「御堂を巻き込みたくない」と言うなら、それに従うまで。
そうだ、そうだよな。
悠さんのように、穢れを知らない美しい人は一生そのままであるべきだ。
俺の中で悠さんは神聖なものとなり、梵天という組織ができあがったあとも俺の中で輝き続けた。
だから、だから、だから、気が付かなかった。こんな場所にいるとは思わなかった。こんなことになっているなんて認めたくなかった。
梵天傘下のキャバクラにいた幸薄そうな黒服が悠さんだなんて、信じたくなかった。
美しかった長い髪もなくなり、女神の微笑みは未亡人の憂いへと変わり、柔らかな雰囲気は陰鬱としたものになっていた。
マイキーが名前を呼ぶまで、ちゃんと声を聞くまで、気が付かなかった。
悠さんがマイキーに連れられ店を出たあと、俺は頭がグチャグチャだった。
なんで、なんで、なんでですか、悠さん。あなたはもっと幸せにならなきゃいけない。ここにいちゃいけない。なのに、なのに、なのに。
「殺そう……」
あんな不幸せな顔をするくらいなら、きっと悠さんも死んだ方がいいに決まっている。
そうだ、殺そう……。
しかし、悠さんはマイキーに守られていて手が出せない。
なんとか、外に引きずり出して会えないかと探っていたら、マイキーから招集をかけられ向かうと、そこには、あの陰鬱な雰囲気が嘘のようになくなった悠さんがいた。
幸せそうに笑っている。なら、殺す必要はない。あなたが笑っているなら……。と思ったが、ダメだ。殺さないにしても、悠さんは日陰にいるべき人じゃない。
だから、必死に罵倒して怖がらせようとするのに、なぜか悠さんは笑って流す。
それどころか、段々俺に遠慮がなくなってきて、それはそれで嬉しいけど、そうじゃないんです!
怖がってください、普通の生活がいいって言ってください!
そんな、無邪気に笑わないでください……!
じゃないと、俺はあなたとこのまま過ごしたくなってしまうから……!
「あー……?」
バッドトリップなのかグッドトリップなのかわかんねえ夢から覚めると、薄汚え部屋で後ろ手に拘束されていた。
人がトんでるときに、縛るんじゃねえよ、クソが。
まあ、こんな緩い拘束くらいわけねえけどな。
簡単に縄から抜け出し、辺りを見渡す。
「お、いいもん見ーつけた」
こんな危ねえもん、置いとくなんてなぁ。と、部屋の片隅にある鉄パイプを手に取り、素振りをする。
ドアの影に隠れ、敵が来るのを舌舐めずりしながら待っていると、足音が近づき扉が開いた。
一人は女を担ぎ、もう一人は手ぶら。
「梵天の幹部と、佐野万次郎の女が手に入りゃこっちのもんだ」
「さしもの、無敵のマイキーも女子トイレには入ってこなかったな」
楽しそうに話す男の一人の後頭部を、フルスイングでぶっ叩く。
驚いて振り向いた男の頭に鉄パイプを振り下ろせば動かなくなった。
まあ、手加減したから死んじゃいねえだろ。
竜胆呼んでさっさとスクラップにするか、と鉄パイプを捨てて男共が持っていたチャカで手足を撃ち抜き、隠してあったケータイを取り出しコールをする。
何気なく足元に転がっている女に目を向けた。
「悠さん?!」
ぐったりと横たわるその人は、確かに俺の大切な人。
ケータイを放り出し、悠さんを抱き起こす。
外傷は見当たらない、呼吸も正常、瞳孔も異常なし。
「よかった……」
安心して泣き出しそうになっていると、悠さんが呻きながら目を開けた。
「さんず……さん……?」
「悠さん!ああ、よかった!大丈夫ですか?!気分悪くないですか?!変なことされてませんか?!あなたになにかあったら、俺は……俺は……!」
ボロボロと泣きながら悠さんの手を握る俺を、悠さんが目を丸めて見つめる。
「悠さん……!悠さん……!」
「さ、三途さん。落ち着いて」
「落ち着けるわけないじゃないですか!悠さん、やっぱりあなたはここにいたらダメだ……。もっと日の当たる場所で、安全な幸せを咲かせてください……」
お願いします、と懇願する俺に、悠さんは落ち着いた声で「私は、万次郎くんと生きるって決めたから」と言う。
「マイキーのことを愛してくれてるんですか……?」
「愛してるよ、ずっと昔から」
深い愛情の色が声からする。
悠さんは、マイキーとのことを腹括って向き合ってくれている。
「あなたが覚悟を決めているなら、俺も覚悟決めます。あなたとマイキーは、俺が絶対に守ります。俺が、二人の幸せを守ります」
「三途さん……」
まさに感動的な近いのシーン。
それをぶち壊すように、蘭と竜胆の笑い声がケータイから響いた。
『やだー!春千夜くんかっこいー!』
『俺が絶対に守ります!無理、ウケる!』
一気に気分が悪くなる。
「うっせーぞ、テメーら!さっさと迎えに来い!GPSで場所分かんだろうが!」
『三途、そこに悠もいるのか』
「マイキー!はい!悠さんは無事っす!」
『なに馴れ馴れしく名前呼んでんだ、オマエ?』
「すんません……」
『すぐ、そっちに行く。それまで、悠のこと絶対に守れ』
「はい、命にかけて守ります」
マイキーとの電話が切れ、悠さんに向き直り「いままで、すみませんでした」と土下座をして謝る。
「あなたに、カタギの世界に戻りたいと思わせる為とはいえ、失礼な態度をとりました」
「そんな畏まらないでほしいです。三途さんなりに、考えてくれたことですよね」
「はい……」
「なら、いいです」
相変わらずの優しさで、俺の中で悠さんへの恋心がまた育ち始める。
好きです、悠さん。
「ところで、三途さんって春千夜っていうんですね」
「はい、それがどうかしましたか?」
「いや、もしかして、もしかしなくても、中学のときにブレスレットくれませんでした?私に」
「……は?」
悠さんが俺に気が付かないのは、俺のことなんて覚えていないからだと思っていた。
「悠さん、俺のこと覚えててくれたんですか……?」
「はい。目がキラキラした子だなって思っていたので、三途さんだとは思わなかったです」
「それ、遠回しに俺の目が死んでるって言ってませんか?」
「瞳孔開ききった印象しかなかったです」
まあ、はい。薬キメて瞳孔は開いてますけど。
「普通、俺の印象って言ったら口の傷じゃないですか?」
この傷で、何度となくイチャモンをつけられてきた。
俺と言えば、口の傷だという自負はある。
それでも悠さんは、「私は目の方が印象に残ってました」と言ってくれる。
「絶対に、マイキー共々幸せにします……」
「よろしくお願いします」
「それはそうと、悠さん。できれば、その……。昔みたいに話してくれると、嬉しいです」
俺のお願いに、悠さんは「わかった」とすんなり受け入れてくれた。
しかし、喜ぶ俺に悠さんは「じゃあ、春千夜くんも、さんな堅苦しい喋り方しないでほしいかな」と言ってくる。
「せっかく、お友だちになれたんだから、私に別れろって言ってたときみたいな話し方してほしい」
「えっ!いや、それは……!というか、俺のこと友だちって思ってたんですか?!」
「違うの?」
悲しそうに眉を下げる悠さん。瞬時に「永遠に友だちです!」と大肯定をする。悠さんの言うことは絶対!
「じゃあ……御堂……。……これでいいのかよ」
「なんで苗字に戻ったの」
「名前で呼んだら、マイキーにぶっ殺されるだろうが!」
「万次郎くん説得したら、呼んでくれるんだね!がんばるよ!」
「がんばるんじゃねえ!」
◆
「おー、ヤク中。御堂ちゃんに変なことしてねえだろうな」
「するわけねーだろ!」
迎えに来た蘭たちに悪態を吐いていると、マイキーが「悠!」と言って悠さんに駆け寄った。
「悪い、俺がちゃんと見てなかった所為で。怪我はねえか?」
「大丈夫。春千夜くんが、助けてくれたから」
「春千夜くん……?」
マイキーがこっちを殺意のこもった目で見てくる。
悠さん……!
「三途、あとで話聞くからな」
「うっす……」
生きてられっかな、俺……。
「なあ、悠。さっきの、直接聞きたい」
「さっきの?」
「俺と生きてくって、愛してるって……」
「あ、あー。ちょっとオーディエンスが多いから、帰ってからじゃダメ?」
「帰ったら、いっぱい聞かせて」
「ゔぇぁ〜!好きと好きがイチャついて大好きになってる〜!」
「ヤク中うるせえよ」
喧嘩して腹が減って、ぼーっとしていたら「大丈夫?」と鈴を転がすような、澄んだ声がした。
それだけでも、「あー、好きだな」なんて思っていたのに、顔を上げて姿を確認した瞬間、恋に落ちる音がした。
「?」
カスミソウのような清純な印象を受ける顔と、美しい髪。
簡単に折れそうな華奢な手足。
一目惚れなんて、中身を見ていない最低な惚れ方だと千壽は言っていたが、こんな儚く美しい人の性格が悪いわけがない。
「どこか痛い?」
「あ……いや……大丈夫っす……」
「そっか、よかった。これ、よかったら使って」
差し出された、変哲もない絆創膏。
その気遣いが嬉しくて、柄にもなく照れてしまった。
「それじゃあね」
「えっ、あっ!ちょっと待ってください!」
「どうかした?」
勢いで引き止めてしまったが、なにも考えていなかった。
「あ、その……これのお礼したいんで、名前と学校教えてくれないですか!」
カスミソウのような人は、「そんな、いいよ」と言うが、ここで引けない俺は、「義理は通します!」と普段通しもしない義理を通そうとすると、その人は名前と学校を教えてくれた。
「悠さん、マイキーと同じ学校なんすね」
「佐野くんの知り合い?」
「マイキーを知ってるんですか?」
こんな、不良とは縁遠い人からマイキーの名前が出てくるとは思っておらず、俺が不良だとバレたことに一瞬冷や冷やしたが、悠さんは怯えるでも嫌悪するでもなく、優しく「無茶はしちゃダメだよ」とだけ言ってくれた。
無理、好きだ。
翌日、俺は学校をサボって、悠さんに似合いそうなブレスレットを探しに行った。
女にプレゼントなんて初めてだから、喜んでもらえるかわかんねえけど、悠さんならきっと喜んでくれる。
その足でマイキーと悠さんの学校まで行き、校門で悠さんを待っていたら、見つけた。
俺のカスミソウ。
「悠さん!」
「あ、昨日の」
「春千夜です!あの、これ昨日のお礼です!」
プレゼント包装されたブレスレットを受け取ると、悠さんは柔らかく笑い、「ありがとう」と言ってくれた。
「あの、マックも奢ります!一緒に行きましょ!」
「奢ってくれなくていいよ。それくらい、自分で払えるから」
「悠さんが金なさそうとか思ってないですよ!ただ、その……カッコいいとこ見せたくて……」
俺の言葉に、悠さんは「男の子だね」と小さく笑ってから「他のところで見せてほしいかな」と言った。
悠さんにとって、俺は子供にしか見えていないことが悲しくはあったが、ここから男を見せてやる!
と、意気込んだ矢先に、マイキーと歩いている悠さんを見つけた。
マイキーを見る悠さんの目は、俺に向ける目とは違い恋する目だった。
初恋は実らない。そういうものだ。
普通ならここは悲しむべきなのだろうが、俺の好きな女が俺の好きな男に惚れているという事実に歓喜した。
好きと好きが一緒になったら、最高じゃねえか。絶対に、なにがなんでも悠さんの恋は実らせる。邪魔するやつは全員ぶっ殺す。
マイキーも悠さんのことを好きな目をしていて、あと一息だったのに、結局二人は付き合うことはなかった。
マイキーが、「御堂を巻き込みたくない」と言うなら、それに従うまで。
そうだ、そうだよな。
悠さんのように、穢れを知らない美しい人は一生そのままであるべきだ。
俺の中で悠さんは神聖なものとなり、梵天という組織ができあがったあとも俺の中で輝き続けた。
だから、だから、だから、気が付かなかった。こんな場所にいるとは思わなかった。こんなことになっているなんて認めたくなかった。
梵天傘下のキャバクラにいた幸薄そうな黒服が悠さんだなんて、信じたくなかった。
美しかった長い髪もなくなり、女神の微笑みは未亡人の憂いへと変わり、柔らかな雰囲気は陰鬱としたものになっていた。
マイキーが名前を呼ぶまで、ちゃんと声を聞くまで、気が付かなかった。
悠さんがマイキーに連れられ店を出たあと、俺は頭がグチャグチャだった。
なんで、なんで、なんでですか、悠さん。あなたはもっと幸せにならなきゃいけない。ここにいちゃいけない。なのに、なのに、なのに。
「殺そう……」
あんな不幸せな顔をするくらいなら、きっと悠さんも死んだ方がいいに決まっている。
そうだ、殺そう……。
しかし、悠さんはマイキーに守られていて手が出せない。
なんとか、外に引きずり出して会えないかと探っていたら、マイキーから招集をかけられ向かうと、そこには、あの陰鬱な雰囲気が嘘のようになくなった悠さんがいた。
幸せそうに笑っている。なら、殺す必要はない。あなたが笑っているなら……。と思ったが、ダメだ。殺さないにしても、悠さんは日陰にいるべき人じゃない。
だから、必死に罵倒して怖がらせようとするのに、なぜか悠さんは笑って流す。
それどころか、段々俺に遠慮がなくなってきて、それはそれで嬉しいけど、そうじゃないんです!
怖がってください、普通の生活がいいって言ってください!
そんな、無邪気に笑わないでください……!
じゃないと、俺はあなたとこのまま過ごしたくなってしまうから……!
「あー……?」
バッドトリップなのかグッドトリップなのかわかんねえ夢から覚めると、薄汚え部屋で後ろ手に拘束されていた。
人がトんでるときに、縛るんじゃねえよ、クソが。
まあ、こんな緩い拘束くらいわけねえけどな。
簡単に縄から抜け出し、辺りを見渡す。
「お、いいもん見ーつけた」
こんな危ねえもん、置いとくなんてなぁ。と、部屋の片隅にある鉄パイプを手に取り、素振りをする。
ドアの影に隠れ、敵が来るのを舌舐めずりしながら待っていると、足音が近づき扉が開いた。
一人は女を担ぎ、もう一人は手ぶら。
「梵天の幹部と、佐野万次郎の女が手に入りゃこっちのもんだ」
「さしもの、無敵のマイキーも女子トイレには入ってこなかったな」
楽しそうに話す男の一人の後頭部を、フルスイングでぶっ叩く。
驚いて振り向いた男の頭に鉄パイプを振り下ろせば動かなくなった。
まあ、手加減したから死んじゃいねえだろ。
竜胆呼んでさっさとスクラップにするか、と鉄パイプを捨てて男共が持っていたチャカで手足を撃ち抜き、隠してあったケータイを取り出しコールをする。
何気なく足元に転がっている女に目を向けた。
「悠さん?!」
ぐったりと横たわるその人は、確かに俺の大切な人。
ケータイを放り出し、悠さんを抱き起こす。
外傷は見当たらない、呼吸も正常、瞳孔も異常なし。
「よかった……」
安心して泣き出しそうになっていると、悠さんが呻きながら目を開けた。
「さんず……さん……?」
「悠さん!ああ、よかった!大丈夫ですか?!気分悪くないですか?!変なことされてませんか?!あなたになにかあったら、俺は……俺は……!」
ボロボロと泣きながら悠さんの手を握る俺を、悠さんが目を丸めて見つめる。
「悠さん……!悠さん……!」
「さ、三途さん。落ち着いて」
「落ち着けるわけないじゃないですか!悠さん、やっぱりあなたはここにいたらダメだ……。もっと日の当たる場所で、安全な幸せを咲かせてください……」
お願いします、と懇願する俺に、悠さんは落ち着いた声で「私は、万次郎くんと生きるって決めたから」と言う。
「マイキーのことを愛してくれてるんですか……?」
「愛してるよ、ずっと昔から」
深い愛情の色が声からする。
悠さんは、マイキーとのことを腹括って向き合ってくれている。
「あなたが覚悟を決めているなら、俺も覚悟決めます。あなたとマイキーは、俺が絶対に守ります。俺が、二人の幸せを守ります」
「三途さん……」
まさに感動的な近いのシーン。
それをぶち壊すように、蘭と竜胆の笑い声がケータイから響いた。
『やだー!春千夜くんかっこいー!』
『俺が絶対に守ります!無理、ウケる!』
一気に気分が悪くなる。
「うっせーぞ、テメーら!さっさと迎えに来い!GPSで場所分かんだろうが!」
『三途、そこに悠もいるのか』
「マイキー!はい!悠さんは無事っす!」
『なに馴れ馴れしく名前呼んでんだ、オマエ?』
「すんません……」
『すぐ、そっちに行く。それまで、悠のこと絶対に守れ』
「はい、命にかけて守ります」
マイキーとの電話が切れ、悠さんに向き直り「いままで、すみませんでした」と土下座をして謝る。
「あなたに、カタギの世界に戻りたいと思わせる為とはいえ、失礼な態度をとりました」
「そんな畏まらないでほしいです。三途さんなりに、考えてくれたことですよね」
「はい……」
「なら、いいです」
相変わらずの優しさで、俺の中で悠さんへの恋心がまた育ち始める。
好きです、悠さん。
「ところで、三途さんって春千夜っていうんですね」
「はい、それがどうかしましたか?」
「いや、もしかして、もしかしなくても、中学のときにブレスレットくれませんでした?私に」
「……は?」
悠さんが俺に気が付かないのは、俺のことなんて覚えていないからだと思っていた。
「悠さん、俺のこと覚えててくれたんですか……?」
「はい。目がキラキラした子だなって思っていたので、三途さんだとは思わなかったです」
「それ、遠回しに俺の目が死んでるって言ってませんか?」
「瞳孔開ききった印象しかなかったです」
まあ、はい。薬キメて瞳孔は開いてますけど。
「普通、俺の印象って言ったら口の傷じゃないですか?」
この傷で、何度となくイチャモンをつけられてきた。
俺と言えば、口の傷だという自負はある。
それでも悠さんは、「私は目の方が印象に残ってました」と言ってくれる。
「絶対に、マイキー共々幸せにします……」
「よろしくお願いします」
「それはそうと、悠さん。できれば、その……。昔みたいに話してくれると、嬉しいです」
俺のお願いに、悠さんは「わかった」とすんなり受け入れてくれた。
しかし、喜ぶ俺に悠さんは「じゃあ、春千夜くんも、さんな堅苦しい喋り方しないでほしいかな」と言ってくる。
「せっかく、お友だちになれたんだから、私に別れろって言ってたときみたいな話し方してほしい」
「えっ!いや、それは……!というか、俺のこと友だちって思ってたんですか?!」
「違うの?」
悲しそうに眉を下げる悠さん。瞬時に「永遠に友だちです!」と大肯定をする。悠さんの言うことは絶対!
「じゃあ……御堂……。……これでいいのかよ」
「なんで苗字に戻ったの」
「名前で呼んだら、マイキーにぶっ殺されるだろうが!」
「万次郎くん説得したら、呼んでくれるんだね!がんばるよ!」
「がんばるんじゃねえ!」
◆
「おー、ヤク中。御堂ちゃんに変なことしてねえだろうな」
「するわけねーだろ!」
迎えに来た蘭たちに悪態を吐いていると、マイキーが「悠!」と言って悠さんに駆け寄った。
「悪い、俺がちゃんと見てなかった所為で。怪我はねえか?」
「大丈夫。春千夜くんが、助けてくれたから」
「春千夜くん……?」
マイキーがこっちを殺意のこもった目で見てくる。
悠さん……!
「三途、あとで話聞くからな」
「うっす……」
生きてられっかな、俺……。
「なあ、悠。さっきの、直接聞きたい」
「さっきの?」
「俺と生きてくって、愛してるって……」
「あ、あー。ちょっとオーディエンスが多いから、帰ってからじゃダメ?」
「帰ったら、いっぱい聞かせて」
「ゔぇぁ〜!好きと好きがイチャついて大好きになってる〜!」
「ヤク中うるせえよ」
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