楽しい軟禁生活
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前の席になったやつの髪が綺麗で、授業中はいつもいじっていた。
そいつは嫌な顔をせず、それをいつも受け入れてくれた。
「佐野くん、髪いじるの好きだね」
そう、初めて声をかけられた。
「うん……。御堂の髪、触り心地よくて好き。触られるの、嫌か?」
「ううん、嫌じゃないよ」
「そっか、よかった」
それから、御堂とはなんとなく話すようになった。
話すと言っても、俺の話に御堂が相づちを返すばかりで、御堂の話を聞いたことがなかった。
だから、「御堂の話も聞かせて?」と言うと、珍しく困ったように笑い「話せることが、なにもないから」と言った。
「私、話すの得意じゃないし、毎日変わりないから」
朝起きて、ご飯食べて、学校行って、帰って、お風呂入って、ご飯食べて、宿題して、寝る。それだけ。
寂しそうに笑う御堂に、「じゃあ、昨日なに食べた?」と聞くと、きょとんとした表情をしてから、「えっと…、オムライスとオニオンスープ」と答える。
「へー、美味そう。自分で作ったの?」
「うん。うち、お母さんがいないから」
「そっかー。じゃあ、料理上手いのか?」
「普通じゃないかな」
「たしか、御堂って弁当だよな?自分で作ってるの?」
「うん。あ、でもたまに購買でパン、食べてる」
「なにパン好き?」
「コロッケパン」
そこまで話して「話すことあるじゃん」と言うと、御堂はハニカミ笑いをして「本当だ」と言うから可愛いなと思った。
次の日、昼前に登校すると、珍しく御堂の方から俺に話しかけてきた。
「佐野くん、おはよう」
「おはよう、御堂。どうかしたか?」
「うん、これ渡そうと思って」
差し出されたのは、御堂がいつも食べてる弁当より大きめの弁当箱。
「昨日、話聞いてくれたお礼」
「俺はなんもしてないけどな。でも、ありがとう」
「うん。あと、これも、もしよかったら……」
控えめに差し出された一冊のノート。
受け取り、「なに、これ?」と聞くと、恥ずかしそうに「交換日記。もし、迷惑じゃなかったら……」と言う。
「俺と交換日記?」
「その、佐野くんともっと話したいけど、佐野くん学校来ないときあるから。そのときの話とかも聞けたらなって……思って……」
不安そうに見つめてくる御堂に、安心させるように笑ってやり、「いいぜ」と言えば嬉しそうに笑った。
それから、俺と御堂の交換日記は始まり、俺も御堂に日記を渡したくて学校に行く頻度が増えた。
俺にしてはまめに日記も書いたし、御堂が嬉しそうに受け取る姿を見ると俺も嬉しかった。
けど、場地が死んだ日はそんな気にもなれず、しばらく日記を書かなかったが、御堂はなにも聞いてこなかった。
俺はただ、無心で御堂の髪をくるくるといじるだけ。
「なにかあった?」
放課後、帰らずにボーッとしている俺に御堂が声をかけてきた。
「古い友だちが死んだ」
俺はただそれだけ言うと、御堂は「そっか」とだけ言った。
御堂は深くは聞いてこず、ただ黙ってそこに座っているだけ。でも、それが逆にありがたかった。
経緯を話せと言われても、いまの俺にそんな気力はなかった。いま、立っているだけで精一杯なのだ。
「御堂。手、握ってて、て言ったら笑う?」
「笑わないよ」
御堂はそう言い、俺の差し出した手を静かに握ってくれた。
初めて触る御堂のてはすべすべしていて、小さかった。
「あんま、弱いとこは見せたくないんだ」
「……佐野くん。人にはさ、色んな顔があるんだよ」
「……」
「家族に見せる顔、友だちに見せる顔、好きな人に見せる顔、嫌いな人に見せる顔。全部違うと思う」
「……」
「佐野くんが私にどんな顔を見せてるのかわからないけど、佐野くんが弱いところを見せられない相手なら、見せなくてもいいと思う。でも、私は東京卍會の総長としての佐野くんや、無敵のマイキーとしての佐野くんじゃなくて、友だちの佐野くんとして接してるから」
「……」
その言葉で、いままであった息苦しさがなくなった気がした。
息が、できる。
御堂が見ているのは、強い俺ではない。
「ありがとう、御堂」
「私はなにもしてないよ」
きっと、俺はこのとき御堂に恋をした。
俺が息をできる場所。
総長じゃない、無敵のマイキーじゃない。ただの佐野万次郎としていてもいい場所。
それから、中学を卒業するまでは交換日記は続いたが、御堂は普通の生徒だったからちゃんとした高校に行ったし、俺がいまいる場所に御堂を巻き込みたくなくて御堂とは疎遠になった。
それでも、俺は何年も御堂との交換日記を捨てられず、ボロボロになるまで読み返し、その度に会いたいと思ってしまった。
もう、大切な人は巻き込まない。そう決めたんだ。
梵天という組織になり、調べようと思えば御堂がいまどうしているかはわかる。
でも、そんなことをしたら最後、俺は御堂のいまを壊してしまう。絶対に。
だから、一生関わらないのだと決めていたのに、会うはずのない場所で再会してしまった。
髪は短くなって、男みたいな身なりにをしていたが、見間違えるはずがない。
会いたくて仕方がなかった人。
一瞬迷いはしたが、それでも我慢ができず俺は御堂を買っていた。
側にいてくれ、御堂。息ができないんだ。
そんな、走馬灯のような夢から覚める。
目を開けると、そこには静かに寝息をたてる悠がいた。
「悠」
頬を撫でても起きず、軽くキスをしても起きない。
眠る悠を抱きしめ直し、ここに悠がいることを確かめる。
ああ、息ができる。
そいつは嫌な顔をせず、それをいつも受け入れてくれた。
「佐野くん、髪いじるの好きだね」
そう、初めて声をかけられた。
「うん……。御堂の髪、触り心地よくて好き。触られるの、嫌か?」
「ううん、嫌じゃないよ」
「そっか、よかった」
それから、御堂とはなんとなく話すようになった。
話すと言っても、俺の話に御堂が相づちを返すばかりで、御堂の話を聞いたことがなかった。
だから、「御堂の話も聞かせて?」と言うと、珍しく困ったように笑い「話せることが、なにもないから」と言った。
「私、話すの得意じゃないし、毎日変わりないから」
朝起きて、ご飯食べて、学校行って、帰って、お風呂入って、ご飯食べて、宿題して、寝る。それだけ。
寂しそうに笑う御堂に、「じゃあ、昨日なに食べた?」と聞くと、きょとんとした表情をしてから、「えっと…、オムライスとオニオンスープ」と答える。
「へー、美味そう。自分で作ったの?」
「うん。うち、お母さんがいないから」
「そっかー。じゃあ、料理上手いのか?」
「普通じゃないかな」
「たしか、御堂って弁当だよな?自分で作ってるの?」
「うん。あ、でもたまに購買でパン、食べてる」
「なにパン好き?」
「コロッケパン」
そこまで話して「話すことあるじゃん」と言うと、御堂はハニカミ笑いをして「本当だ」と言うから可愛いなと思った。
次の日、昼前に登校すると、珍しく御堂の方から俺に話しかけてきた。
「佐野くん、おはよう」
「おはよう、御堂。どうかしたか?」
「うん、これ渡そうと思って」
差し出されたのは、御堂がいつも食べてる弁当より大きめの弁当箱。
「昨日、話聞いてくれたお礼」
「俺はなんもしてないけどな。でも、ありがとう」
「うん。あと、これも、もしよかったら……」
控えめに差し出された一冊のノート。
受け取り、「なに、これ?」と聞くと、恥ずかしそうに「交換日記。もし、迷惑じゃなかったら……」と言う。
「俺と交換日記?」
「その、佐野くんともっと話したいけど、佐野くん学校来ないときあるから。そのときの話とかも聞けたらなって……思って……」
不安そうに見つめてくる御堂に、安心させるように笑ってやり、「いいぜ」と言えば嬉しそうに笑った。
それから、俺と御堂の交換日記は始まり、俺も御堂に日記を渡したくて学校に行く頻度が増えた。
俺にしてはまめに日記も書いたし、御堂が嬉しそうに受け取る姿を見ると俺も嬉しかった。
けど、場地が死んだ日はそんな気にもなれず、しばらく日記を書かなかったが、御堂はなにも聞いてこなかった。
俺はただ、無心で御堂の髪をくるくるといじるだけ。
「なにかあった?」
放課後、帰らずにボーッとしている俺に御堂が声をかけてきた。
「古い友だちが死んだ」
俺はただそれだけ言うと、御堂は「そっか」とだけ言った。
御堂は深くは聞いてこず、ただ黙ってそこに座っているだけ。でも、それが逆にありがたかった。
経緯を話せと言われても、いまの俺にそんな気力はなかった。いま、立っているだけで精一杯なのだ。
「御堂。手、握ってて、て言ったら笑う?」
「笑わないよ」
御堂はそう言い、俺の差し出した手を静かに握ってくれた。
初めて触る御堂のてはすべすべしていて、小さかった。
「あんま、弱いとこは見せたくないんだ」
「……佐野くん。人にはさ、色んな顔があるんだよ」
「……」
「家族に見せる顔、友だちに見せる顔、好きな人に見せる顔、嫌いな人に見せる顔。全部違うと思う」
「……」
「佐野くんが私にどんな顔を見せてるのかわからないけど、佐野くんが弱いところを見せられない相手なら、見せなくてもいいと思う。でも、私は東京卍會の総長としての佐野くんや、無敵のマイキーとしての佐野くんじゃなくて、友だちの佐野くんとして接してるから」
「……」
その言葉で、いままであった息苦しさがなくなった気がした。
息が、できる。
御堂が見ているのは、強い俺ではない。
「ありがとう、御堂」
「私はなにもしてないよ」
きっと、俺はこのとき御堂に恋をした。
俺が息をできる場所。
総長じゃない、無敵のマイキーじゃない。ただの佐野万次郎としていてもいい場所。
それから、中学を卒業するまでは交換日記は続いたが、御堂は普通の生徒だったからちゃんとした高校に行ったし、俺がいまいる場所に御堂を巻き込みたくなくて御堂とは疎遠になった。
それでも、俺は何年も御堂との交換日記を捨てられず、ボロボロになるまで読み返し、その度に会いたいと思ってしまった。
もう、大切な人は巻き込まない。そう決めたんだ。
梵天という組織になり、調べようと思えば御堂がいまどうしているかはわかる。
でも、そんなことをしたら最後、俺は御堂のいまを壊してしまう。絶対に。
だから、一生関わらないのだと決めていたのに、会うはずのない場所で再会してしまった。
髪は短くなって、男みたいな身なりにをしていたが、見間違えるはずがない。
会いたくて仕方がなかった人。
一瞬迷いはしたが、それでも我慢ができず俺は御堂を買っていた。
側にいてくれ、御堂。息ができないんだ。
そんな、走馬灯のような夢から覚める。
目を開けると、そこには静かに寝息をたてる悠がいた。
「悠」
頬を撫でても起きず、軽くキスをしても起きない。
眠る悠を抱きしめ直し、ここに悠がいることを確かめる。
ああ、息ができる。