※消えてしまった完結長編「妖サドンデス」の話です。
佐助が妖狐です。

「名前とイチャラブしたい……」

虚ろな目で呟いた佐助さんに、真田さんが「む、苗字殿。佐助がいつもの病に」と冷静に言った。
私も「もう、そんな時期ですか」とお茶を啜りながら答えると、伊達さんが「他人事みたいに言うな」とツッコミを入れるが知った事じゃない。

「そう言われても、今は繁忙期ですケアサービスできませんし」

佐助さんと私が抜ければ、真田さんと勝家さんは必然的にお留守番係りになる。
あの二人、お互いに距離感とれなさすぎて噛み合わないからなぁ……。
生身の人間だけでできる程度の仕事が、今の時期はあまりないのだ。
伊達さんが一人で全部片付けてくれるなら、別問題ですけどねー。
私の言葉に、難しい顔をして黙りこむ伊達さん。
この虚無状態の佐助さんでも使えない事はないが、始終冒頭のようなうわ言を聞かされるのは嫌なのだろう。
結局、「一日だ。一日で回復させてこい」と決断をくだす。

「まさか、自費だなんて言いませんよねー？け・い・ひ、で落ちますよね？」

指で丸を作れば、頬をひきつらせながら「随分と、図々しい性格になったな……」と言われた。

「師匠のお陰ですよ。で？経費ですよね、勿論？」
「ちっ……無駄遣いすんなよ……」
「Thank You master」

真田さんと日程調整をして、何とか一日予定を空けられたので虚無状態の佐助さんに何処に行きたいか尋ねれば、「公園で日向ぼっこしたり、名前ちゃんが作ったお弁当食べたり、美術館行ったりしたい」と何だかほんわかしたプランを口にする。
私の作ったお弁当の部分で、真田さんと伊達さんが「ヒュッ……！」と変な呼吸をしたが、聞かなかった事にしよう。

「じゃあ、その日までお仕事頑張りましょう？」
「うん……」

めそっ、とする佐助さんを励まし約束の日となったが、出来上がったお弁当を見て我ながらヤバいなと思った。
恐らく、人間が口にしたら卒倒するだろう。
まぁ、それはつまり佐助さん好みという事なので今回ばかりは大正解と言えよう。
試しに伊達さんと真田さんに出来映えを写真で送ったら「食材に謝れバカ野郎！」「彩りが独創的でよいと思いまする」と両極端な感想を頂いた。
真田さん、優しい。
あまりのんびりしていると、佐助さんが迎えに来かねないので待ち合わせ場所へ急げば可愛いお姉さんに囲まれた佐助さん。
伊達さんや真田さんと待ち合わせする時もそうだけど、声かけにくいんだよな。
まぁ、佐助さんの場合は一瞬でこちらに気が付いてくれるので声をかける必要はないのだけれど。

「名前ちゃん！」

顔を輝かせて駆け寄ってきた佐助さんに「お待たせしました」と言えば「ううん、大丈夫。今日のデートのシミュレーションしてたから」と若干怖い返しをされた。
苦笑いで受け流していたら、お姉さんたちが「妹さんですか？」と聞いてくるので、やはり客観的に見ても兄妹に見えるんだな。

「違うよ、俺様の彼女」

いつもなら否定する所だが、今日は一日佐助さんのモチベーションを上げないといけないので黙っていたら「どうしたの、名前ちゃん？！否定しないの？！」と逆に驚かれてしまった。
そのあとも、私から手を繋いだりと優しくしていたら「俺様が知ってる名前ちゃんはそんな事しません！」と泣かれた。
佐助さん、私の対応に慣れきってしまったのかと思うと、少し申し訳ない気持ちになった。