フリリク
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ヒーローが嫌い。
英雄気取りで、すべての人を救っているかのような顔で笑っている姿が、反吐が出るほど不快。
救ってもらえなかった人間なんて、ノーカウント。
非表示、そんな人はいませんでした、覚えていませんね、記憶にございません。
嫌いで嫌いで嫌いで、それでも先生とお兄ちゃんが計画のために雄英へ行けと言うのなら、自分の爪を噛み砕いて耐えてみせる。
こんな世界ぶっ壊してくれるなら、なんでもやってやる。
「お前、また薬飲んでるのか」
「相澤先生」
薬を飲んでいたら、一年A組担任教師である相澤消太が現れた。
薬と言っても胃薬で、ヒーロー気取りの子供の相手をしている所為で胃痛が止まらずにいるからいつも飲んでいるだけだ。
周りには頭痛薬と偽っているが。
雄英には、一般教養の教師として潜入するのに成功した。
ヒーロー科や専門科目の教師はヒーローしか就けないが、それ以外は教員免許さえあればなれる。
まぁ、その教員免許は偽造だけれども。
私には、お兄ちゃんのように戦闘力や行動力はないが、勉強は得意であり一般人のふりをする程度の演技力はあった。
世の中、上手くできているものだ。
「頭痛薬も飲み過ぎると体に悪いぞ」
ぶっきらぼうだが優しく言う相澤消太に、「心配してくれてありがとうございます」と返し、「今日は食事に行けますか?」と誘えば照れ臭そうに「まあ」と言われた。
そりゃ、恋人から食事に誘われて喜ばない人間はいないだろう。
相澤消太には、先生の指示で近づき恋人関係となった。
私としても、相澤消太はヒーローの中では比較的嫌いではないが、なぜ相澤消太なのかと先生に聞けば、「彼はね、人に同情しやすいんだよ」と言っていたが、確かに近づいてみて、その言葉がよくわかった。
合理的判断を下すのは、彼が優しく、人の気持ちをよく理解できるからだ。
新任であるからか、なにかと気にかけてくれていた相澤消太と親密になるのに時間はかからなかった。
私の手引きでUSJに侵入したお兄ちゃんたちに負わされた傷も、いまではすっかり癒えている。
食事もそこそこに、おもむろに相澤消太が「俺はお前が好きだよ、読子」と言うので驚いた。
滅多にそういうことを言う人ではないからだ。
「どうしたんですか、急に。消太さんらしくない」
「……いや、言っておかないとなって思ってな。読子、いまから言うことは俺たちの関係を確実に崩す。それでも、聞いてほしい」
「なんですか?」
「内通者は、お前だな」
確信を持った目で言われ内心は苦虫を潰したような顔をしたが、それでも平静を保ち「私が?どうしてですか?」といつもの口調で問いかける。
「お前、爪を噛む癖があるだろ。ストレス溜まって自傷癖に走ってる」
「それは只の癖じゃないですか」
「その癖をするときのお前の目は、憎しみ一色だったぞ」
「……」
本当に、よく見ている。
感心しながら、相澤消太の推理を聞く姿勢に入ると、彼もなにか決意したように話し出した。
「最初は病的な神経質くらいだと、ノイローゼの心配くらいしかしてなかった。が、オールマイトさんが来たとき、指噛みきるんじゃないかって勢いで噛んでただろ」
実際、少し傷ができてた。と、目を軽く伏せて言う相澤消太。
そりゃ、嫌いなものの最上位が目の前に現れたら、指だって噛みきりたくもなる。
「その時、嫌な予感はしていた。けど、予感だけでお前を問い詰める気にはなれなかった。だが、USJ襲撃の時に見た死柄木弔とお前はよく似ていた。粗い画像じゃわかりにくいが、至近距離で見た俺にはわかった……」
「それで?どうして確信を得ていたにも関わらず、長い期間放置していたんですか?消太さんにしては、合理的じゃないですね」
「そうだな、合理性に欠ける。お前を好きになった時点で、俺らしくなかったけどな」
それで結局、彼はなにを言いたいのか。
柄にもなく要領を得ない姿に、もしや既に周囲を包囲されている可能性を考えたが、その時は自害すれば問題ない。
私はコツコツと机の上に置いたケータイを叩きながら、「私をどうしたいんですか?」と結論を急かせば、観念したように「大人しく捕まってほしい」と私の手に軽く自分の手を重ね無理な要求を提示した。
「それを私が大人しく聞くとでも?」
「思ってないさ。お前は、俺を好きじゃないことくらい予想ついてるさ。そんな人間の願いを聞くとは、思ってない……」
諦めたように呟く消太さんの手は、微かに震えている。
「……そうね、ヒーローは嫌い。すべての人を助けましたみたいな顔で笑っているのも、助けた人間の話しかしない偽善的なところも全部嫌い。けど、あなたは比較的好きな嫌いだよ、イレイザー・ヘッド。あなたはすべての人間を救えないことも、自分の正義が押し付けであることを理解している。だから、嫌いだけど好きだよ」
「結局、嫌いなんじゃないか」
「ヒーローってだけで、嫌い。でもね、相澤消太。あなたという男性のことは、深く愛したよ」
する、と重ねられた手に指を絡ませる。
「嘘としか思われないだろうけど、ヒーローじゃない消太さんといた時は楽しかったよ。普通の人生だったら、普通に感じられた幸せなんだって。誰かを憎んで短くなっちゃった爪が嫌いになるくらいには幸せだった」
「俺も幸せだったよ。その綺麗で清潔感のある爪も含めて愛してるさ」
「本当に?うれしい。……それで、私はこれからどうなる」
言いたがらない相澤消太に、話の先を急かせば「逮捕して、敵連合について取り調べ。しばらくは刑務所からは出てこられないだろうな」と、セオリー通りの答え。
私はそっと、絡めていた指をほどき手を引いたが相澤消太は引き止めようとすることはなかった。
「会いに行くし、出てくるまで待ってる」
「ありがとう。……でも、悪いわね。私は捕まらないわ」
私の背後に現れたワープホールに相澤消太は目を見開いた。
ワインを顔にかけ視界を遮る。
「っ!」
「恋は思考を鈍らせるんだよ、相澤消太。合理的じゃないね。次は悪い女に引っ掛からないよう気を付けてね。……サヨウナラ」
ワープホールが閉まるときに、相澤消太が「読子!」と聞いたこともない悲痛な声で私の名前を呼んだことに、胸が痛くなった。
久しぶりの埃っぽいアジトに戻れば、お兄ちゃんがカウンター席でゲームをしながら「帰ってくんのおっせーよ」と文句をたれた。
「慎重に動いてたんだから、しょうがないじゃん」
「慎重に動いてたくせにバレたら意味ねーだろ。今後どうすんだよ」
「大丈夫だよ。後継者は仕立てあげてきたから」
「なら、お前はお役ごめんだな。なら、せめて俺の素材クエストの手伝いくらいしろよ」
「もー、またゲーム?」
兄である死柄木弔に投げ渡されたポータブルゲーム機を起動させながら、隣の席に着いたら「死柄木弔はあなたがいない間、寂しがってたんですよ」と黒霧さんが教えてくれた。
それに対して、「寂しくねーよ」と悪態を吐く姿はやはり安心する。
「潜入はどうでしたか?」
「胃痛、胃痛、胃痛に加えてちょっと普通の恋人体験」
「あのイレイザー・ヘッドとだろ?どうだったんだよ」
「おやおや?妹の恋愛事情が気になっちゃう感じ?」
「うっせーぞ、馬鹿妹」
口では興味本意だと言っているが、私がヒーロー側に行かないかと不安なんだろう。
「そうだね幸せな恋人生活ってこういうことなんだろうなって思った。普通に生きていれば、きっとこれが当たり前なんだったんだろうね。だから……」
「……」
「ヒーローがもっと憎い。この世界を壊したい。私から普通の人生を奪った社会を許さない。犠牲の上に成り立っている平和と幸福なのに、犠牲に目を向けない社会なんて要らない」
それが、消太さんの守りたいものでも、奪われ救われなかった私は絶対に許しはしない。
そう言えば、お兄ちゃんは満足そうに「さーすが、俺の妹だ。最高だよ」と不気味な笑みを浮かべた。
「一緒に壊そうぜ、妹」
「一緒に壊そう、お兄ちゃん」
ごめんね、消太さん。
私はあなたを愛しているけど、あなた一人の愛でこの憎悪は消えやしないの。
お砂糖と素敵なものだけの世界より、私はスパイスだらけのこっちの世界が安心するわ。
「ただいま、お兄ちゃん。黒霧」
「……お帰り」
「お帰りなさい、読子さん」
英雄気取りで、すべての人を救っているかのような顔で笑っている姿が、反吐が出るほど不快。
救ってもらえなかった人間なんて、ノーカウント。
非表示、そんな人はいませんでした、覚えていませんね、記憶にございません。
嫌いで嫌いで嫌いで、それでも先生とお兄ちゃんが計画のために雄英へ行けと言うのなら、自分の爪を噛み砕いて耐えてみせる。
こんな世界ぶっ壊してくれるなら、なんでもやってやる。
「お前、また薬飲んでるのか」
「相澤先生」
薬を飲んでいたら、一年A組担任教師である相澤消太が現れた。
薬と言っても胃薬で、ヒーロー気取りの子供の相手をしている所為で胃痛が止まらずにいるからいつも飲んでいるだけだ。
周りには頭痛薬と偽っているが。
雄英には、一般教養の教師として潜入するのに成功した。
ヒーロー科や専門科目の教師はヒーローしか就けないが、それ以外は教員免許さえあればなれる。
まぁ、その教員免許は偽造だけれども。
私には、お兄ちゃんのように戦闘力や行動力はないが、勉強は得意であり一般人のふりをする程度の演技力はあった。
世の中、上手くできているものだ。
「頭痛薬も飲み過ぎると体に悪いぞ」
ぶっきらぼうだが優しく言う相澤消太に、「心配してくれてありがとうございます」と返し、「今日は食事に行けますか?」と誘えば照れ臭そうに「まあ」と言われた。
そりゃ、恋人から食事に誘われて喜ばない人間はいないだろう。
相澤消太には、先生の指示で近づき恋人関係となった。
私としても、相澤消太はヒーローの中では比較的嫌いではないが、なぜ相澤消太なのかと先生に聞けば、「彼はね、人に同情しやすいんだよ」と言っていたが、確かに近づいてみて、その言葉がよくわかった。
合理的判断を下すのは、彼が優しく、人の気持ちをよく理解できるからだ。
新任であるからか、なにかと気にかけてくれていた相澤消太と親密になるのに時間はかからなかった。
私の手引きでUSJに侵入したお兄ちゃんたちに負わされた傷も、いまではすっかり癒えている。
食事もそこそこに、おもむろに相澤消太が「俺はお前が好きだよ、読子」と言うので驚いた。
滅多にそういうことを言う人ではないからだ。
「どうしたんですか、急に。消太さんらしくない」
「……いや、言っておかないとなって思ってな。読子、いまから言うことは俺たちの関係を確実に崩す。それでも、聞いてほしい」
「なんですか?」
「内通者は、お前だな」
確信を持った目で言われ内心は苦虫を潰したような顔をしたが、それでも平静を保ち「私が?どうしてですか?」といつもの口調で問いかける。
「お前、爪を噛む癖があるだろ。ストレス溜まって自傷癖に走ってる」
「それは只の癖じゃないですか」
「その癖をするときのお前の目は、憎しみ一色だったぞ」
「……」
本当に、よく見ている。
感心しながら、相澤消太の推理を聞く姿勢に入ると、彼もなにか決意したように話し出した。
「最初は病的な神経質くらいだと、ノイローゼの心配くらいしかしてなかった。が、オールマイトさんが来たとき、指噛みきるんじゃないかって勢いで噛んでただろ」
実際、少し傷ができてた。と、目を軽く伏せて言う相澤消太。
そりゃ、嫌いなものの最上位が目の前に現れたら、指だって噛みきりたくもなる。
「その時、嫌な予感はしていた。けど、予感だけでお前を問い詰める気にはなれなかった。だが、USJ襲撃の時に見た死柄木弔とお前はよく似ていた。粗い画像じゃわかりにくいが、至近距離で見た俺にはわかった……」
「それで?どうして確信を得ていたにも関わらず、長い期間放置していたんですか?消太さんにしては、合理的じゃないですね」
「そうだな、合理性に欠ける。お前を好きになった時点で、俺らしくなかったけどな」
それで結局、彼はなにを言いたいのか。
柄にもなく要領を得ない姿に、もしや既に周囲を包囲されている可能性を考えたが、その時は自害すれば問題ない。
私はコツコツと机の上に置いたケータイを叩きながら、「私をどうしたいんですか?」と結論を急かせば、観念したように「大人しく捕まってほしい」と私の手に軽く自分の手を重ね無理な要求を提示した。
「それを私が大人しく聞くとでも?」
「思ってないさ。お前は、俺を好きじゃないことくらい予想ついてるさ。そんな人間の願いを聞くとは、思ってない……」
諦めたように呟く消太さんの手は、微かに震えている。
「……そうね、ヒーローは嫌い。すべての人を助けましたみたいな顔で笑っているのも、助けた人間の話しかしない偽善的なところも全部嫌い。けど、あなたは比較的好きな嫌いだよ、イレイザー・ヘッド。あなたはすべての人間を救えないことも、自分の正義が押し付けであることを理解している。だから、嫌いだけど好きだよ」
「結局、嫌いなんじゃないか」
「ヒーローってだけで、嫌い。でもね、相澤消太。あなたという男性のことは、深く愛したよ」
する、と重ねられた手に指を絡ませる。
「嘘としか思われないだろうけど、ヒーローじゃない消太さんといた時は楽しかったよ。普通の人生だったら、普通に感じられた幸せなんだって。誰かを憎んで短くなっちゃった爪が嫌いになるくらいには幸せだった」
「俺も幸せだったよ。その綺麗で清潔感のある爪も含めて愛してるさ」
「本当に?うれしい。……それで、私はこれからどうなる」
言いたがらない相澤消太に、話の先を急かせば「逮捕して、敵連合について取り調べ。しばらくは刑務所からは出てこられないだろうな」と、セオリー通りの答え。
私はそっと、絡めていた指をほどき手を引いたが相澤消太は引き止めようとすることはなかった。
「会いに行くし、出てくるまで待ってる」
「ありがとう。……でも、悪いわね。私は捕まらないわ」
私の背後に現れたワープホールに相澤消太は目を見開いた。
ワインを顔にかけ視界を遮る。
「っ!」
「恋は思考を鈍らせるんだよ、相澤消太。合理的じゃないね。次は悪い女に引っ掛からないよう気を付けてね。……サヨウナラ」
ワープホールが閉まるときに、相澤消太が「読子!」と聞いたこともない悲痛な声で私の名前を呼んだことに、胸が痛くなった。
久しぶりの埃っぽいアジトに戻れば、お兄ちゃんがカウンター席でゲームをしながら「帰ってくんのおっせーよ」と文句をたれた。
「慎重に動いてたんだから、しょうがないじゃん」
「慎重に動いてたくせにバレたら意味ねーだろ。今後どうすんだよ」
「大丈夫だよ。後継者は仕立てあげてきたから」
「なら、お前はお役ごめんだな。なら、せめて俺の素材クエストの手伝いくらいしろよ」
「もー、またゲーム?」
兄である死柄木弔に投げ渡されたポータブルゲーム機を起動させながら、隣の席に着いたら「死柄木弔はあなたがいない間、寂しがってたんですよ」と黒霧さんが教えてくれた。
それに対して、「寂しくねーよ」と悪態を吐く姿はやはり安心する。
「潜入はどうでしたか?」
「胃痛、胃痛、胃痛に加えてちょっと普通の恋人体験」
「あのイレイザー・ヘッドとだろ?どうだったんだよ」
「おやおや?妹の恋愛事情が気になっちゃう感じ?」
「うっせーぞ、馬鹿妹」
口では興味本意だと言っているが、私がヒーロー側に行かないかと不安なんだろう。
「そうだね幸せな恋人生活ってこういうことなんだろうなって思った。普通に生きていれば、きっとこれが当たり前なんだったんだろうね。だから……」
「……」
「ヒーローがもっと憎い。この世界を壊したい。私から普通の人生を奪った社会を許さない。犠牲の上に成り立っている平和と幸福なのに、犠牲に目を向けない社会なんて要らない」
それが、消太さんの守りたいものでも、奪われ救われなかった私は絶対に許しはしない。
そう言えば、お兄ちゃんは満足そうに「さーすが、俺の妹だ。最高だよ」と不気味な笑みを浮かべた。
「一緒に壊そうぜ、妹」
「一緒に壊そう、お兄ちゃん」
ごめんね、消太さん。
私はあなたを愛しているけど、あなた一人の愛でこの憎悪は消えやしないの。
お砂糖と素敵なものだけの世界より、私はスパイスだらけのこっちの世界が安心するわ。
「ただいま、お兄ちゃん。黒霧」
「……お帰り」
「お帰りなさい、読子さん」
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