「魔法使いの修業ってなにするんですか？」

私の問いかけに、佐助さんは「何がしたい？」と質問で返してきた。
何がしたいと聞かれても、魔法使いがする事なんてそんなにイメージできない。
ゲームだと、炎を操ったり回復したりとかしているが日常生活でそんなものは使わない。
あとは何だろうか。
空を飛ぶとか？
それは便利そうだな。
交通費も浮く。
なので「空が飛びたいです」と申告すると、佐助さんは盛大に笑い出した。

「なんですか、その爆笑は」
「だって……！初めて修業するって時も『一花！おそらとびたい！』て言ってたから……！あー、懐かしい……」

目尻の涙を拭きながら、遠くを見つめながら過去を懐かしむ佐助さん。
私は、自分の変わり映えしない発想に遠くを見つめた。

「じゃあ、店の外に出ようか」

そう言い、ドアの側に立てかけてあった箒を取り外へと出ていく佐助さんの背中を追い私も外へと出た。

「じゃあ、まずは箒を使った浮遊術ね。慣れてきたら、箒なしでも飛べるよ」
「マジか」

それは凄く心ときめく。
手渡された箒に跨り、佐助さんの指示に従う。

「いい？魔力っていう液体を箒に注ぎ込むイメージで、そのまま浮きあがる姿を想像するんだよ」

ゆっくりと箒に液体が行きわたるイメージをすると、自分の中から流動体の何かが箒に纏う様に出ていくのが分かる。
そのまま浮き上がるイメージをしたのだが、私の想像していたゆっくりとした浮き上がり方ではなく、急速に上へと飛び上がった。

「ちょっと待ってー！」

そのまま雲を突き抜けた辺りで、上昇し続けていた私は何かに思い切り頭がぶつかり、次は急降下だった。
何にぶつかったのか分からないが、なにか柔らかい物にぶつかった気がするけれどそれが何か気にするよりも、落下し続けている事に悲鳴をあげるしかできない。
半泣きの私の側に、佐助さんが身一つで飛んできて「一センチしか浮かべなかった一花がこんなに飛べるなんて……。俺様感激！」と、本当にどうでもいい事を言い出した。

「そんなのどうでもいいから助けろー！」
「はいはい」

佐助さんはお座なりの返事をすると、掬い上げるように私を抱き留め空中で停泊する。
私は、また落ちたくないので佐助さんにしっかりと抱きつく。

「まぁ、こんだけ飛べるならあとは訓練だね」
「もうやだぁ……」
「はいはい、根性根性」

涙目の私に、佐助さんは根性論を押し付けてくる。
ふわふわとゆっくり降下していると「おい、テメェか？」と男の人の声がした。
こんな場所で？と思いながら首だけで振り向くと、青い着物に右目に眼帯をした男の人を担いだ、オールバックに着物、頬の傷と堅気には見えない男の人が空中に浮かんでいた。

「だ、誰……？」
「右目の旦那、コンニチハー。あれ？独眼竜、どうしたの？」

右目の旦那と呼ばれたオールバックの人が少し考え、ふっと息を吐き「そいつが政宗様の股間にぶつかって痛みのあまり気絶されたんだ」と苦々しく言った。

「一花が？独眼竜の股間に？ぶっ……はははははは！」

大笑いの佐助さんを、右目の旦那さんが「死にてぇのか、猿飛ぃ！」とドスのきいた声で怒鳴りつけた。