店に入りカウンターに座ると、佐助さんが手早く紅茶を入れてくれる。

「本当は一花の仕事なんだから物の配置覚えてよね」

その言葉に憮然としながら紅茶を口に含み「そもそも、経営するお金がないです」と言うと、佐助さんは「ここではお金は必要ないよ」と言う。
そんな上手い話がないと、佐助さんを見ると何かメモを書き「おいで」と言い店の更に奥の勝手口から出ると、其処には中心に大木を置いた庭が広がっていた。
その木の根元まで来ると、徐に根元を掘りメモを埋める。

「なにしてるんですか？」
「まあ、見てな」

佐助さんが上を見上げているので言われるまま私も上を見ると、枝の一部から強力粉やバターが実のようになった。
思わず「は？」と言う私と、なんでも無い様子でフワフワと空中に浮きながら強力粉らを回収していく佐助さん。
そのまま勝手口に向かって歩く佐助さんを追い「どういう原理なんですか？！」と聞くも、佐助さんは笑って「知らない」と言う。

「それ、食べられるんですか？！」
「え、一花、強力粉生で食べるの？」
「そうじゃなくて！」
「大丈夫、大丈夫。今までで、腹壊した奴はいないから」

ケラケラ笑う佐助さんと、木になった食材を訝しげに見つめると、佐助さんが「一花の好きな紅茶クッキー作ってあげるからね」と言う。
紅茶クッキー。
その単語に何か思い出す。

『今日は一花の好きな紅茶クッキー作るわね』
『師匠。俺様も手伝うよ』
『佐助は一花の面倒見てて』
『おかーさん！おししょー！一花も手伝う！』
『はいはい。一花はお師匠と浮遊術の練習しようね』
『れんしゅう！する！』

お母さんの優しい笑顔、抱っこしてくれる佐助さんの暖かさ、紅茶の匂い。
一気に思い出す懐かしくて暖かい思い出に涙がでてくる。
大人げなく、昔の記憶に一人の寂しさが刺激される。
佐助さんはチラリと静かに泣く私に「ここに越してきたら？」と言う。

「二階の居住部分も綺麗にしてあるし」
「でっでも、引っ越し代とか、私出せませんし……。叔母さんに何て説明すれば……」
「そこら辺は俺様に任せなさい。一花がここに来るって一言いえば一瞬だよ。……だから言いな。ここに来たいって」

私は鼻声で「ここに、来たいです」と言うと、佐助さんが空中で指を振ったのとほぼ同時に二階からドスンという音がした。
そしてにこりと笑い「はい、引っ越し完了」と言った。

「二階見ておいで」

言われるまま二階に上がる階段をかけ上がると、そこには私の部屋にあった家具たちが並んでいた。
欠けている物がないか確認するも、洗濯に出した物も揃っていた。
一階に降りてくると、佐助さんに「足りないものはあった？」と聞かれたので首を振る。

「洗濯機は一階のあっちにあるから。お風呂は、銭湯があるからそこに行ってね」
「叔母さん達、驚かないかな……」
「あぁ、大丈夫。記憶操作しといたから」

魔法って便利だ、と染々思っていると佐助さんが微笑みながらこちらを見ている事に気がつく。

「なんですか？」
「ううん。……お帰り、一花」

お帰り、ただ一言に嬉しさが込み上げて、私も自然と笑い「ただいま」と言った。