短編
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食事の支度を終え、あとは食す者を待つのみとなったのだが、その二人がいまだ食堂に現れない。
今日、勤めがあるのは離氏と坤氏なのだが、あの二人が呼びに行かずとも起きてきた試しがないのだ。
現世から仕入れた目覚まし時計をいくつも買い与えるが、破壊して止めるので意味はなく。
壊れないよう術をかけるも、師叔が作り出した存在の力に私程度の術で対抗できるはずもない。
致し方なく、離氏と坤氏を起こすことにする。
どちらが起こしやすいかと聞かれると、どちらも寝起きは最悪なのでどっこいどっこいだが、まだ坤氏の方がまし。
「坤氏、朝食ができていますよ。起きていますか?」
「……」
返答なし、そりゃそうだ。
いつものことなので、気にせず部屋と廊下をしきる障子を開けると、ダイナミックな寝姿の坤氏と、壁にめり込んだ目覚まし時計。
今回も耐久チャレンジは失敗に終わった模様。
坤氏の間合いに入らないよう「坤氏!起きなさい!」と声を張り上げるも、むにゃむにゃとするだけ。
近寄ろうにも、下手に近寄ると坤氏は無意識に足技をするので、慎重に動かなければならない。
左右、どちらの足が動くか。
賭けは二分の一の確率。
今日は体制的に左とあたりをつけ、ゆっくりと近づく。
間合いに入った瞬間、坤氏の左足が動いた。
「見切った!」
足を掴み一気に間合いを詰め、追撃がこないように押さえつける。
「起きなさい!」
至近距離から言うと、漸く薄く目を開ける。
「おや、朝からえらくお盛んなことだ」
愉快そうに口角をあげ、私の首に腕を回す坤氏。
「ふざけていないで、早く支度をしてください。今日はお勤めですよ」
「はいはい、わかっていますよ。ですが、あともう少し」
「ダメです。離氏も起こさないといけないんですから」
「床の中で他の男の名を呟くとは、無粋な人だ」
なにを言ってるんだ、コイツ。
冷ややかな私の視線を受け、坤氏はいたずらっ子のように笑い「怖い、怖い」と言いながら、私の首に回していた腕をほどいた。
「ご飯冷める前に来てくださいよ」
「はい、はい」
坤氏の頭を一撫でしてから部屋をあとにする。
離氏も同様に部屋に入る前、声をかけるが無反応。
音を極力たてないよう静かに入室すると、日の光を遮るように布団を蓑虫のように被った離氏。
しかし、体が大きいので足がはみ出ている。
離氏の目覚まし時計は畳にめり込んで、機能を停止している。
「離氏、離氏。朝ですよ」
「……」
反応がない。
「離氏。眠いのはわかりますが、お勤めですよ」
「……」
「離氏。ご飯が冷めてしまいますよ」
「……」
毎度のことながら、声掛けでは反応しない。
離氏も昔は、坤氏のように近づいただけで体が動くような子であったのに、年月を経て「蓑虫になれば抵抗できる」となにやら学習をしたらしく、この形態へと落ち着いてしまった。
離氏の朝は体力勝負だ。
目覚まし時計をめり込ませるパワーで布団を掴んで離さないわけなので、まず私が勝てる見込みはない。
ただ、布団の綱引きと声掛けを続けていれば段々と覚醒して自ら出てくるわけなのだが、それまでが疲れる。
「離氏!このまま起きないと、坤氏に朝食を食べ尽くされますよ!」
わんぱく飯な坤氏は見張っていないと、他の薬売りたちの分も食べかねない。
私がもう一度「離氏!」と言うと、突然抵抗がなくなり反動で後ろにすっ転んでしまった。
「やれやれ、朝から元気ですねぇ」
「好きで元気なわけではありません。今日はお勤めですよ、早く支度をしてください」
「まったく、朝くらいゆっくりさせてほしいものだ」
「ゆっくり出来る時間にアラームをセットしたつもりなんですけどね。誰かさんが、目覚まし時計をこんなにするから」
めり込んだ目覚まし時計を指差すと、白々しく「おや、こいつは誰の仕業やら」と言う。
「あなたですよ、あなた。ほら、もういいですから支度を。本当に坤氏に朝食を全て持っていかれますよ」
「そいつは困る。貴女の料理は私の好物ですからね」
「じゃあ、急いでください」
離氏の頭を軽く撫でてから、坤氏が勝手におかわりをしたりしていないか見張るために食堂へいくと、案の定、他の者のおかずも食べようとしていた。
「こらー!坤氏ー!」
「おやおや。そんなに怒ると、嫁の貰い手がなくなりますよ。あぁ、手遅れでしたか」
「その煽りはやめなさいと、いつも言っているでしょう!」
「怖い、怖い」
ふふ、と猫のように笑う坤氏。
「まったく!離氏や坤氏だけではありませんが、薬売りたちは少し私を舐めすぎではないですか!師叔からもしっかり言ってください!」
憤慨しながら師叔に文句を言うと、師叔は困ったような笑みを浮かべる。
現在は太公望ではなく伏羲という存在なので師叔と呼ぶのはおかしいかも知れないが、私にとっては太公望であろうと伏羲であろうと師叔は師叔なのでそう呼んでいる。
「やつらにとって、お主は生まれたときから世話をしてくれているからのう。つい、甘えてしまうのだろう。お主も、家族や仲間には甘えているからこその態度をとってしまうことはあるであろう?」
「それは……そうですが……」
「それに、現世に行ったときは必ず土産を買ってくるであろうに。それが機嫌取りではなく、お主に喜んでもらいたいという気持ちは、理解しておろう?」
たしかに、帰って来る度に土産を持ってきてくれるし、私が喜べば彼らも嬉しそうな顔をする。
可愛くないかと聞かれれば、可愛い子らだと思っている。
土産話も、あまり現世に行かない私からすればとても楽しいものだ。
「お主が現世に行くときも、誰かしらついて行くのも、お主を他の誰にもとられたくないという気持ちもある」
「師叔はそこまでわかるのですか?」
「まあ……わしが作った存在だからのう……」
なるほど。
創造主だからこそ、理解できる部分というものか。
「しかし、あまり甘えが酷いようであれば、少し説教でもするか」
「……いや、いいです。ぐちぐち言いましたが、吐き出したかっただけです」
「そうか。ならば、柱の影にいるやつらに声をかけてはどうだ?」
師叔が指差す方を見れば、全く隠れる気のない勢いで柱の影から顔を出している離氏と坤氏。
無言で手招きをすると、二人は私のもとへやってきた。
今回はこんなモノノ怪だった、こんな人と出会った、土産はこれでと、いつもの澄まし顔で話してくれる二人の頭を撫でて「ご苦労様です」と労えば、嬉しそうに二人して目を細めて笑うのであった。
これで許してしまうのだから、私もこの子らに甘すぎるかもしれない。
今日、勤めがあるのは離氏と坤氏なのだが、あの二人が呼びに行かずとも起きてきた試しがないのだ。
現世から仕入れた目覚まし時計をいくつも買い与えるが、破壊して止めるので意味はなく。
壊れないよう術をかけるも、師叔が作り出した存在の力に私程度の術で対抗できるはずもない。
致し方なく、離氏と坤氏を起こすことにする。
どちらが起こしやすいかと聞かれると、どちらも寝起きは最悪なのでどっこいどっこいだが、まだ坤氏の方がまし。
「坤氏、朝食ができていますよ。起きていますか?」
「……」
返答なし、そりゃそうだ。
いつものことなので、気にせず部屋と廊下をしきる障子を開けると、ダイナミックな寝姿の坤氏と、壁にめり込んだ目覚まし時計。
今回も耐久チャレンジは失敗に終わった模様。
坤氏の間合いに入らないよう「坤氏!起きなさい!」と声を張り上げるも、むにゃむにゃとするだけ。
近寄ろうにも、下手に近寄ると坤氏は無意識に足技をするので、慎重に動かなければならない。
左右、どちらの足が動くか。
賭けは二分の一の確率。
今日は体制的に左とあたりをつけ、ゆっくりと近づく。
間合いに入った瞬間、坤氏の左足が動いた。
「見切った!」
足を掴み一気に間合いを詰め、追撃がこないように押さえつける。
「起きなさい!」
至近距離から言うと、漸く薄く目を開ける。
「おや、朝からえらくお盛んなことだ」
愉快そうに口角をあげ、私の首に腕を回す坤氏。
「ふざけていないで、早く支度をしてください。今日はお勤めですよ」
「はいはい、わかっていますよ。ですが、あともう少し」
「ダメです。離氏も起こさないといけないんですから」
「床の中で他の男の名を呟くとは、無粋な人だ」
なにを言ってるんだ、コイツ。
冷ややかな私の視線を受け、坤氏はいたずらっ子のように笑い「怖い、怖い」と言いながら、私の首に回していた腕をほどいた。
「ご飯冷める前に来てくださいよ」
「はい、はい」
坤氏の頭を一撫でしてから部屋をあとにする。
離氏も同様に部屋に入る前、声をかけるが無反応。
音を極力たてないよう静かに入室すると、日の光を遮るように布団を蓑虫のように被った離氏。
しかし、体が大きいので足がはみ出ている。
離氏の目覚まし時計は畳にめり込んで、機能を停止している。
「離氏、離氏。朝ですよ」
「……」
反応がない。
「離氏。眠いのはわかりますが、お勤めですよ」
「……」
「離氏。ご飯が冷めてしまいますよ」
「……」
毎度のことながら、声掛けでは反応しない。
離氏も昔は、坤氏のように近づいただけで体が動くような子であったのに、年月を経て「蓑虫になれば抵抗できる」となにやら学習をしたらしく、この形態へと落ち着いてしまった。
離氏の朝は体力勝負だ。
目覚まし時計をめり込ませるパワーで布団を掴んで離さないわけなので、まず私が勝てる見込みはない。
ただ、布団の綱引きと声掛けを続けていれば段々と覚醒して自ら出てくるわけなのだが、それまでが疲れる。
「離氏!このまま起きないと、坤氏に朝食を食べ尽くされますよ!」
わんぱく飯な坤氏は見張っていないと、他の薬売りたちの分も食べかねない。
私がもう一度「離氏!」と言うと、突然抵抗がなくなり反動で後ろにすっ転んでしまった。
「やれやれ、朝から元気ですねぇ」
「好きで元気なわけではありません。今日はお勤めですよ、早く支度をしてください」
「まったく、朝くらいゆっくりさせてほしいものだ」
「ゆっくり出来る時間にアラームをセットしたつもりなんですけどね。誰かさんが、目覚まし時計をこんなにするから」
めり込んだ目覚まし時計を指差すと、白々しく「おや、こいつは誰の仕業やら」と言う。
「あなたですよ、あなた。ほら、もういいですから支度を。本当に坤氏に朝食を全て持っていかれますよ」
「そいつは困る。貴女の料理は私の好物ですからね」
「じゃあ、急いでください」
離氏の頭を軽く撫でてから、坤氏が勝手におかわりをしたりしていないか見張るために食堂へいくと、案の定、他の者のおかずも食べようとしていた。
「こらー!坤氏ー!」
「おやおや。そんなに怒ると、嫁の貰い手がなくなりますよ。あぁ、手遅れでしたか」
「その煽りはやめなさいと、いつも言っているでしょう!」
「怖い、怖い」
ふふ、と猫のように笑う坤氏。
「まったく!離氏や坤氏だけではありませんが、薬売りたちは少し私を舐めすぎではないですか!師叔からもしっかり言ってください!」
憤慨しながら師叔に文句を言うと、師叔は困ったような笑みを浮かべる。
現在は太公望ではなく伏羲という存在なので師叔と呼ぶのはおかしいかも知れないが、私にとっては太公望であろうと伏羲であろうと師叔は師叔なのでそう呼んでいる。
「やつらにとって、お主は生まれたときから世話をしてくれているからのう。つい、甘えてしまうのだろう。お主も、家族や仲間には甘えているからこその態度をとってしまうことはあるであろう?」
「それは……そうですが……」
「それに、現世に行ったときは必ず土産を買ってくるであろうに。それが機嫌取りではなく、お主に喜んでもらいたいという気持ちは、理解しておろう?」
たしかに、帰って来る度に土産を持ってきてくれるし、私が喜べば彼らも嬉しそうな顔をする。
可愛くないかと聞かれれば、可愛い子らだと思っている。
土産話も、あまり現世に行かない私からすればとても楽しいものだ。
「お主が現世に行くときも、誰かしらついて行くのも、お主を他の誰にもとられたくないという気持ちもある」
「師叔はそこまでわかるのですか?」
「まあ……わしが作った存在だからのう……」
なるほど。
創造主だからこそ、理解できる部分というものか。
「しかし、あまり甘えが酷いようであれば、少し説教でもするか」
「……いや、いいです。ぐちぐち言いましたが、吐き出したかっただけです」
「そうか。ならば、柱の影にいるやつらに声をかけてはどうだ?」
師叔が指差す方を見れば、全く隠れる気のない勢いで柱の影から顔を出している離氏と坤氏。
無言で手招きをすると、二人は私のもとへやってきた。
今回はこんなモノノ怪だった、こんな人と出会った、土産はこれでと、いつもの澄まし顔で話してくれる二人の頭を撫でて「ご苦労様です」と労えば、嬉しそうに二人して目を細めて笑うのであった。
これで許してしまうのだから、私もこの子らに甘すぎるかもしれない。
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