短編
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「放課後デートしよ」
そんな誘いをされたら、彼女であれば喜んだことだろう。
好きな相手と学校以外で過ごす、つまりいつもより長く好きな相手といられる至福のとき。
簡単に浮かれてしまうような、甘美な誘いであろう。
しかし、まあ、それは“恋人”とか“好きな人”とか好意を抱いている相手に限る。
絶対に、話したこともない相手に対して感じるものではない。
誰だ、お前……。
いや、存じ上げてはいる。
友人が熱をあげている猿飛佐助さんというのは知っているが、私は彼と面識はなく、デートに誘われる間柄ではない。
誰かと間違えてるのかも知れない、と友人に説明して我々の友情にヒビが入らないようにはしたが、放課後、猿飛さんがしっかり教室まで迎えに来た。
「お待たせ、行こう」
爽やかな笑みを浮かべて、さりげなく荷物を人質にとられてしまった。
私で間違いないということ?
「あの、猿飛さん?」
「佐助って呼んで」
「いや、でも私たち話すの初めてですよね?」
そう問いかけると、笑顔をそのままに瞳孔が開いた気がした。
「その話は、お茶しながらしようか」
「え?ちょっと、待って!」
腕をつかまれ、こちらの話も聞かず私の腕を引き歩きだす。
力では敵わず、なす術もなく駅前のカフェへと引きずり込まれ、私が好きなメニューを手早く注文し、ボックス席の奥へ押し込まれ、逃げられないように隣へ座られた。
やだ、怖い……。
「あの、猿飛さ――」
「佐助」
「……猿飛さ――」
「佐助」
圧力のある笑顔で何度も遮られ、恐怖しかない。
致し方なく「佐助」と呼ぶと、嬉しそうに顔をほころばせ「なーに?」とようやく返事をしてくれた。
「違ったら申し訳ないのですが、私たち話したことないですよね……?」
「あるよ」
「どこでですか?」
「ずーっと昔」
ずっと昔、ということは子供の頃に会ったということか?
けど、私はこんな綺麗な顔をした人は知らない。
いや、でも、男子って子供のときと思春期では容姿がだいぶ変わるし、そもそも子供の頃の友だちの顔など覚えていない。
「ヒントのお話がほしい」
「えー?仕方がないなー。俺様たちは、山で出会ったんだよ」
山?
夏休み、祖父母の家に遊びに行き山でボーイ・ミーツ・ガールか。
はたまた、子供会か家族でキャンプに行ったときのボーイ・ミーツ・ガールか。
祖父母は母方も父方も今も昔も都内在住だし、子供会にも加入していないし、うちはインドア派しかいないからそもそもキャンプという選択肢は入ってこない。
……山?
オンラインゲームは基本的にソロ活だし。
…………山?
何一つ山での出会いがヒットしない。
「山……?」
「もー、鈍いなぁ」
「いや、本当に記憶にない……。消された?」
「消してないよ」
それはそうだが。
人の記憶を人が消せるわけがない。
なんとか思い出そうとする私に、猿飛さんは語って聞かせてくれた。
「俺様はある山に住んでいてね。小さい神社の神様をしてたんだ。でも、どんどん人はお詣りに来なくなるし、しまいには神主も来なくなった。このまま誰も信仰してくれなくて、神様じゃなくなるんだなぁ、て思ってたときにあんたが、あんただけが俺様を信仰してくれた。あんただけが俺様の話相手で、あんたがいたから俺様は形を成せた。だから、欲しくなった。なのに、ある日突然いなくなっちゃったから、探したんだ。体が崩れても、自分がなにかもわからなくなりそうでも、あんたに会うって気持ちだけでずっと探してた。見つけたときは直ぐに連れ帰りたかった。でもまた俺様のこと見つけてほしくて我慢した。けど、あんたはいつになっても見つけてくれなくて痺れきらしちゃったんだ」
なんでもないかの様に語るから、思わず「なるほど」と言いそうになったが、内容はどう聞いても電波である。
ますます怖くなってきた。
「ねえ、だからさ、一緒に山へ帰ろう。それで、一緒に暮らそう」
手を優しく握られ、優しい声色で山に誘われる。
「……そなたは森で、私はタタラ場で暮らそう」
「いまそういう冗談はいらない」
「はい、すみません」
誤魔化されてくれないか。
いや、そもそもその参拝者絶対に私じゃない~。
確かに寺社仏閣は好きだけど、山に分け入ってまで参拝はしない。
いや、電波さんだから捏造の可能性が大だけど~。
「それ、本当に私ですか?」
「あんただよ。だって、ほら、魂の形が一緒だ。俺様は見間違えないよ」
「魂の形?」
「そう。器が変わっても、魂は変わらない」
「……え、それもしかして、佐助の会った私は死んでません?」
私の質問に猿飛さんは「まあ、人間は三百年強も生きられないからね」と当たり前の常識を口にする。
「いやいやいや!だったら別人でしょ、それ!私と山へ帰っても、意味なくないですか?!」
混乱する私に、猿飛さんは理解できないという顔で「魂が同じなら、同一人物でしょ。器なんて、どうでもいいんだよ」と反論する。
「違うでしょ?!記憶とか、人生とかで人間って色々変わってくるもんでしょ?!」
「そんなの、無理矢理思い出させることもできるし、消すのは簡単だよ」
大丈夫、大丈夫!と、子供を諭すような口調だがどう聞いても“危ない人”の発言。
もうこれ以上は付き合ってられないと、ケータイを取り出し「そこ退いてください、じゃないと警察呼びますよ」と脅すも、猿飛さんは笑顔を浮かべるだけ。
「本気ですよ、退いてください」
「嫌なの?」
「嫌です、すごく。意味もわからないですし」
強く拒絶を露にし睨み付けると、猿飛さんの顔から一切の表情が消えた。
「なら、もういいよ」
無機質な声で軽く突き放されたと思えば、椅子の感触が消え浮遊感に襲われる。
どすん、とお尻から地面に落ちるとそこは見渡す限り木ばかりで、背後には朽ち果てた鳥居と荒れ果てた神社。
そして、壊れた日本人形のような姿の猿飛さんがうっすら笑みを浮かべて佇んでいた。
「優しく、したかったんだけどね。あんたが受け入れてくれないなら、仕方がないよね」
「た、すけて……」
「もう、無理だよ。助からない。大丈夫、あんたが不自由ないようにするからさ。幸せでしょ?人間は不自由しないのが幸せなんでしょ?」
「やだ……帰して……家に帰して!」
ヒステリックに叫んでも猿飛さんは気味の悪い薄い笑みを消さず、構わず私を抱きしめ「あんたの家はここだよ」と耳元で囁く。
「幸せだね」
そんな誘いをされたら、彼女であれば喜んだことだろう。
好きな相手と学校以外で過ごす、つまりいつもより長く好きな相手といられる至福のとき。
簡単に浮かれてしまうような、甘美な誘いであろう。
しかし、まあ、それは“恋人”とか“好きな人”とか好意を抱いている相手に限る。
絶対に、話したこともない相手に対して感じるものではない。
誰だ、お前……。
いや、存じ上げてはいる。
友人が熱をあげている猿飛佐助さんというのは知っているが、私は彼と面識はなく、デートに誘われる間柄ではない。
誰かと間違えてるのかも知れない、と友人に説明して我々の友情にヒビが入らないようにはしたが、放課後、猿飛さんがしっかり教室まで迎えに来た。
「お待たせ、行こう」
爽やかな笑みを浮かべて、さりげなく荷物を人質にとられてしまった。
私で間違いないということ?
「あの、猿飛さん?」
「佐助って呼んで」
「いや、でも私たち話すの初めてですよね?」
そう問いかけると、笑顔をそのままに瞳孔が開いた気がした。
「その話は、お茶しながらしようか」
「え?ちょっと、待って!」
腕をつかまれ、こちらの話も聞かず私の腕を引き歩きだす。
力では敵わず、なす術もなく駅前のカフェへと引きずり込まれ、私が好きなメニューを手早く注文し、ボックス席の奥へ押し込まれ、逃げられないように隣へ座られた。
やだ、怖い……。
「あの、猿飛さ――」
「佐助」
「……猿飛さ――」
「佐助」
圧力のある笑顔で何度も遮られ、恐怖しかない。
致し方なく「佐助」と呼ぶと、嬉しそうに顔をほころばせ「なーに?」とようやく返事をしてくれた。
「違ったら申し訳ないのですが、私たち話したことないですよね……?」
「あるよ」
「どこでですか?」
「ずーっと昔」
ずっと昔、ということは子供の頃に会ったということか?
けど、私はこんな綺麗な顔をした人は知らない。
いや、でも、男子って子供のときと思春期では容姿がだいぶ変わるし、そもそも子供の頃の友だちの顔など覚えていない。
「ヒントのお話がほしい」
「えー?仕方がないなー。俺様たちは、山で出会ったんだよ」
山?
夏休み、祖父母の家に遊びに行き山でボーイ・ミーツ・ガールか。
はたまた、子供会か家族でキャンプに行ったときのボーイ・ミーツ・ガールか。
祖父母は母方も父方も今も昔も都内在住だし、子供会にも加入していないし、うちはインドア派しかいないからそもそもキャンプという選択肢は入ってこない。
……山?
オンラインゲームは基本的にソロ活だし。
…………山?
何一つ山での出会いがヒットしない。
「山……?」
「もー、鈍いなぁ」
「いや、本当に記憶にない……。消された?」
「消してないよ」
それはそうだが。
人の記憶を人が消せるわけがない。
なんとか思い出そうとする私に、猿飛さんは語って聞かせてくれた。
「俺様はある山に住んでいてね。小さい神社の神様をしてたんだ。でも、どんどん人はお詣りに来なくなるし、しまいには神主も来なくなった。このまま誰も信仰してくれなくて、神様じゃなくなるんだなぁ、て思ってたときにあんたが、あんただけが俺様を信仰してくれた。あんただけが俺様の話相手で、あんたがいたから俺様は形を成せた。だから、欲しくなった。なのに、ある日突然いなくなっちゃったから、探したんだ。体が崩れても、自分がなにかもわからなくなりそうでも、あんたに会うって気持ちだけでずっと探してた。見つけたときは直ぐに連れ帰りたかった。でもまた俺様のこと見つけてほしくて我慢した。けど、あんたはいつになっても見つけてくれなくて痺れきらしちゃったんだ」
なんでもないかの様に語るから、思わず「なるほど」と言いそうになったが、内容はどう聞いても電波である。
ますます怖くなってきた。
「ねえ、だからさ、一緒に山へ帰ろう。それで、一緒に暮らそう」
手を優しく握られ、優しい声色で山に誘われる。
「……そなたは森で、私はタタラ場で暮らそう」
「いまそういう冗談はいらない」
「はい、すみません」
誤魔化されてくれないか。
いや、そもそもその参拝者絶対に私じゃない~。
確かに寺社仏閣は好きだけど、山に分け入ってまで参拝はしない。
いや、電波さんだから捏造の可能性が大だけど~。
「それ、本当に私ですか?」
「あんただよ。だって、ほら、魂の形が一緒だ。俺様は見間違えないよ」
「魂の形?」
「そう。器が変わっても、魂は変わらない」
「……え、それもしかして、佐助の会った私は死んでません?」
私の質問に猿飛さんは「まあ、人間は三百年強も生きられないからね」と当たり前の常識を口にする。
「いやいやいや!だったら別人でしょ、それ!私と山へ帰っても、意味なくないですか?!」
混乱する私に、猿飛さんは理解できないという顔で「魂が同じなら、同一人物でしょ。器なんて、どうでもいいんだよ」と反論する。
「違うでしょ?!記憶とか、人生とかで人間って色々変わってくるもんでしょ?!」
「そんなの、無理矢理思い出させることもできるし、消すのは簡単だよ」
大丈夫、大丈夫!と、子供を諭すような口調だがどう聞いても“危ない人”の発言。
もうこれ以上は付き合ってられないと、ケータイを取り出し「そこ退いてください、じゃないと警察呼びますよ」と脅すも、猿飛さんは笑顔を浮かべるだけ。
「本気ですよ、退いてください」
「嫌なの?」
「嫌です、すごく。意味もわからないですし」
強く拒絶を露にし睨み付けると、猿飛さんの顔から一切の表情が消えた。
「なら、もういいよ」
無機質な声で軽く突き放されたと思えば、椅子の感触が消え浮遊感に襲われる。
どすん、とお尻から地面に落ちるとそこは見渡す限り木ばかりで、背後には朽ち果てた鳥居と荒れ果てた神社。
そして、壊れた日本人形のような姿の猿飛さんがうっすら笑みを浮かべて佇んでいた。
「優しく、したかったんだけどね。あんたが受け入れてくれないなら、仕方がないよね」
「た、すけて……」
「もう、無理だよ。助からない。大丈夫、あんたが不自由ないようにするからさ。幸せでしょ?人間は不自由しないのが幸せなんでしょ?」
「やだ……帰して……家に帰して!」
ヒステリックに叫んでも猿飛さんは気味の悪い薄い笑みを消さず、構わず私を抱きしめ「あんたの家はここだよ」と耳元で囁く。
「幸せだね」