短編
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「カルエゴ先生も、求愛したことがあるんですか?」
音楽祭に向けて、イルマとプルソンの特訓に付き合っていると、休憩時間にイルマがそう聞いてきた。
休憩時間に無駄なことを聞くなと注意をするも、イルマは「練習に関係のあることなので!」と食い下がる。
「カルエゴ先生のリリス•カーペットの理解度が高いのは、そういう経験があるのかなって。もしそうなら、参考のために聞きたいなと……」
「……」
誰かを、愚かになるほど愛した経験はない。
そうなる前に、自分の気持ちに気がつく前に、すでに俺の恋は終わっていたのだ。
シチロウと俺は、よく同じ時間を過ごしていた。気質が合っていたからだろう。
そしてもう一人。いつも行動を共にしていたのが、苗樫・撫子だった。
淑やかというか、どこか抜けたところのあるやつでついつい世話を焼いていたら懐かれた。
まあ、こいつもこいつで世話好きなところが、そのあたり、俺たち三人は似ているから一緒にいたのだろう。
お互いにそこにある、という関係性は卒業するまで変わらないと思っていたのに、ある日、撫子の一言が俺に余計な感情を覚えさせた。
「実は私、婚約者がいるんだよ」
なにを思ったのか、突然のカミングアウトにシチロウは「そ、そうなんだ……」と言ったが、俺の頭の中では“婚約者”という単語が繰り返し反響した。
「カルエゴくん?」
覗き込んで来た撫子から少し距離をとり、「だからなんだ」とは口にしたが、胸にはぽっかりとした虚無感を覚えていた。
その日一日いつも通りに過ごしていたつもりだが、勘のいいシチロウと撫子に心配をされてしまった。
「カルエゴくん、今日どうしちゃったの?なんか、変だよ?」
心配そうに周りをウロチョロする撫子の頭を掴み「大丈夫だ」と言うも、心配そうな顔は変わらない。
「撫子ちゃん。ちょっと、カルエゴくんと二人で話したいんだけど、いいかな?」
シチロウに言われ、俺とシチロウを交互に見てから「男の子同士だけで話したいときも、あるよね……!」と悔しそうな顔をして走り去っていった。
シチロウに「なんだ?」と問いかけると、「そんなに、撫子ちゃんに婚約者がいたことが、ショックだったの?」と言われ、思わず固まった。
「俺が?なぜ?」
「だって、好きでしょ?撫子ちゃんのこと」
「……は?……はぁ?!」
突拍子もない話に、柄にもなく大声をだした俺に動じず、「見てればわかるよ」と言われさらに動揺する。
俺が、そんなにわかりやすく好意を寄せているだと?
「いや……いや、そんなまさか……」
「じゃあ、嫌じゃなかったの?」
嫌かどうかと聞かれれば、嫌だという感情はあったかも知れない。
俺以上に、あいつが安心してすごせる場所はシチロウ以外にはいないという自負があったのに、ぽっと出のどこの馬の骨とも知れん男に横から掻っ攫われ不愉快になるなという方が無理だ!
「俺が……俺があのふわふわ綿毛を……?」
驚愕の事実に打ちひしがれる俺に、「どうするの、カルエゴくん」と聞いてくるシチロウ。
「そうだな。今からあいつの婚約者とやらを調べ上げ、ズタズタにする」
「自覚した途端、過激になるね?!ダメだよ!」
「冗談だ。……あいつがわざわざ言ってきたということは、関係は良好なのだろう。ならば、俺からとやかく言うことはない」
「カルエゴくん……」
「しかし、あいつを泣かせたときには容赦なく八つ裂きにする」
こうして、俺の恋は燃え上がる前に鎮火された。
期待に満ちたイルマに、「ない」と答えれば肩を落とした。
もしここで、「ある」と答えても参考になる話でもなく、イルマ自身が導き出した答えでなければ意味がない。
イルマたちの指導を終え職員室へと戻ると、撫子とシチロウが「お疲れ様」と迎え入れた。
「また待ってたのか」
「いやぁ、やっぱり頑張ってる友人は労いたいじゃん?ねー?シチロウくん?」
「そうだね」
「頑張っているのは、生徒たちだ」
「カルエゴくんも頑張ってるよ」
諦めたというのに、笑顔と言葉を向けられるたびに鼓動がいつもより速くなる。
わたされたカモミールティーを受け取り、ただなんとなく「婚約者とは上手くいっているのか?」と聞いてみた。
聞いてどうする。
上手くいっていると言われ傷つくのは明白だ。
それでも、もしかしたらと思ってしまう、未練がましい自分がいる。
俺の質問に撫子は数秒考えてから、微笑んで首を傾げて見せた。
普通なら、この動作は肯定とみなされるだろうが、長年の付き合いでわかる。
これは、笑ってこの場を誤魔化そうとしている仕草だ。
「なにを誤魔化そうとしている……」
「え、えっと、その……。婚約者ってなんの話?」
目を泳がせるわけでもなく、純粋になんの話をしているのかわからないという顔に、職員室が極寒と化した。
怒りで我を失いかけている俺に代わり、シチロウが「昔、婚約者がいるって言ったよね?」と聞けば、ようやく思い出したのか、「あー!あれ!」と声を上げる。
「あれねー!よく覚えてたね!あのときは、シチロウくんもカルエゴくんも大人で、私だけ子供みたいで嫌だったんだよね。だから、大人っぽさをだす為に言ったんだけど、完全に滑ってたよねー!二人とも、全然信じてない顔だったもん!」
恥ずかしい、と口にしてはいるが顔が一切恥ずかしがっておらず、そして悪いとも思ってないのが手にとるようにわかって、頭の血管が切れそうだ。
「撫子ちゃん。僕たち、実はその嘘ずっと信じてたんだけど……」
「え゛っ」
「正直、あのときは距離を置くべきかって考えた」
「なんで?!」
「ほら、恋人がいるのに男友達とばっかりいるのは問題かなって」
「私、危うく友人二人をなくすところだった?!」
「うん、まあ……」
シチロウの言葉に「ごめんねー!そんなつもりじゃなかったのー!」と、シチロウの腕に抱きついて謝る撫子に、シチロウは「僕よりカルエゴくんに謝りな」と流すが、いまは待ってくれ。と願っても、撫子はシチロウにしたように抱きついてこようとするので、頭を鷲掴み停止させる。
「待て、撫子。いま、お前を八つ裂きにしてケルベロスのエサにしないよう理性を保ってる」
「激おこじゃん!」
音楽祭に向けて、イルマとプルソンの特訓に付き合っていると、休憩時間にイルマがそう聞いてきた。
休憩時間に無駄なことを聞くなと注意をするも、イルマは「練習に関係のあることなので!」と食い下がる。
「カルエゴ先生のリリス•カーペットの理解度が高いのは、そういう経験があるのかなって。もしそうなら、参考のために聞きたいなと……」
「……」
誰かを、愚かになるほど愛した経験はない。
そうなる前に、自分の気持ちに気がつく前に、すでに俺の恋は終わっていたのだ。
シチロウと俺は、よく同じ時間を過ごしていた。気質が合っていたからだろう。
そしてもう一人。いつも行動を共にしていたのが、苗樫・撫子だった。
淑やかというか、どこか抜けたところのあるやつでついつい世話を焼いていたら懐かれた。
まあ、こいつもこいつで世話好きなところが、そのあたり、俺たち三人は似ているから一緒にいたのだろう。
お互いにそこにある、という関係性は卒業するまで変わらないと思っていたのに、ある日、撫子の一言が俺に余計な感情を覚えさせた。
「実は私、婚約者がいるんだよ」
なにを思ったのか、突然のカミングアウトにシチロウは「そ、そうなんだ……」と言ったが、俺の頭の中では“婚約者”という単語が繰り返し反響した。
「カルエゴくん?」
覗き込んで来た撫子から少し距離をとり、「だからなんだ」とは口にしたが、胸にはぽっかりとした虚無感を覚えていた。
その日一日いつも通りに過ごしていたつもりだが、勘のいいシチロウと撫子に心配をされてしまった。
「カルエゴくん、今日どうしちゃったの?なんか、変だよ?」
心配そうに周りをウロチョロする撫子の頭を掴み「大丈夫だ」と言うも、心配そうな顔は変わらない。
「撫子ちゃん。ちょっと、カルエゴくんと二人で話したいんだけど、いいかな?」
シチロウに言われ、俺とシチロウを交互に見てから「男の子同士だけで話したいときも、あるよね……!」と悔しそうな顔をして走り去っていった。
シチロウに「なんだ?」と問いかけると、「そんなに、撫子ちゃんに婚約者がいたことが、ショックだったの?」と言われ、思わず固まった。
「俺が?なぜ?」
「だって、好きでしょ?撫子ちゃんのこと」
「……は?……はぁ?!」
突拍子もない話に、柄にもなく大声をだした俺に動じず、「見てればわかるよ」と言われさらに動揺する。
俺が、そんなにわかりやすく好意を寄せているだと?
「いや……いや、そんなまさか……」
「じゃあ、嫌じゃなかったの?」
嫌かどうかと聞かれれば、嫌だという感情はあったかも知れない。
俺以上に、あいつが安心してすごせる場所はシチロウ以外にはいないという自負があったのに、ぽっと出のどこの馬の骨とも知れん男に横から掻っ攫われ不愉快になるなという方が無理だ!
「俺が……俺があのふわふわ綿毛を……?」
驚愕の事実に打ちひしがれる俺に、「どうするの、カルエゴくん」と聞いてくるシチロウ。
「そうだな。今からあいつの婚約者とやらを調べ上げ、ズタズタにする」
「自覚した途端、過激になるね?!ダメだよ!」
「冗談だ。……あいつがわざわざ言ってきたということは、関係は良好なのだろう。ならば、俺からとやかく言うことはない」
「カルエゴくん……」
「しかし、あいつを泣かせたときには容赦なく八つ裂きにする」
こうして、俺の恋は燃え上がる前に鎮火された。
期待に満ちたイルマに、「ない」と答えれば肩を落とした。
もしここで、「ある」と答えても参考になる話でもなく、イルマ自身が導き出した答えでなければ意味がない。
イルマたちの指導を終え職員室へと戻ると、撫子とシチロウが「お疲れ様」と迎え入れた。
「また待ってたのか」
「いやぁ、やっぱり頑張ってる友人は労いたいじゃん?ねー?シチロウくん?」
「そうだね」
「頑張っているのは、生徒たちだ」
「カルエゴくんも頑張ってるよ」
諦めたというのに、笑顔と言葉を向けられるたびに鼓動がいつもより速くなる。
わたされたカモミールティーを受け取り、ただなんとなく「婚約者とは上手くいっているのか?」と聞いてみた。
聞いてどうする。
上手くいっていると言われ傷つくのは明白だ。
それでも、もしかしたらと思ってしまう、未練がましい自分がいる。
俺の質問に撫子は数秒考えてから、微笑んで首を傾げて見せた。
普通なら、この動作は肯定とみなされるだろうが、長年の付き合いでわかる。
これは、笑ってこの場を誤魔化そうとしている仕草だ。
「なにを誤魔化そうとしている……」
「え、えっと、その……。婚約者ってなんの話?」
目を泳がせるわけでもなく、純粋になんの話をしているのかわからないという顔に、職員室が極寒と化した。
怒りで我を失いかけている俺に代わり、シチロウが「昔、婚約者がいるって言ったよね?」と聞けば、ようやく思い出したのか、「あー!あれ!」と声を上げる。
「あれねー!よく覚えてたね!あのときは、シチロウくんもカルエゴくんも大人で、私だけ子供みたいで嫌だったんだよね。だから、大人っぽさをだす為に言ったんだけど、完全に滑ってたよねー!二人とも、全然信じてない顔だったもん!」
恥ずかしい、と口にしてはいるが顔が一切恥ずかしがっておらず、そして悪いとも思ってないのが手にとるようにわかって、頭の血管が切れそうだ。
「撫子ちゃん。僕たち、実はその嘘ずっと信じてたんだけど……」
「え゛っ」
「正直、あのときは距離を置くべきかって考えた」
「なんで?!」
「ほら、恋人がいるのに男友達とばっかりいるのは問題かなって」
「私、危うく友人二人をなくすところだった?!」
「うん、まあ……」
シチロウの言葉に「ごめんねー!そんなつもりじゃなかったのー!」と、シチロウの腕に抱きついて謝る撫子に、シチロウは「僕よりカルエゴくんに謝りな」と流すが、いまは待ってくれ。と願っても、撫子はシチロウにしたように抱きついてこようとするので、頭を鷲掴み停止させる。
「待て、撫子。いま、お前を八つ裂きにしてケルベロスのエサにしないよう理性を保ってる」
「激おこじゃん!」