短編
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マイキーの場合
「撫子、明日暇?」
「うーん、三途のクソ野郎が押し付けてきた仕事に目処がつくから、空くっちゃ空く」
マジ、あいつ事務仕事苦手すぎるだろ。
それで、明日なにかあるの?と聞くと、「遊園地行かないか?」と言われた。
「遊園地?いいけど、突然だね」
「行きたくなった」
本当に突然だなぁ、と思いながら「いいよ、空けとく」と言った瞬間、三途が「撫子ー!書類よろー!」と仕事を持ってきた。
三途に事情を説明して自分でやるように言おうとしたが、その前にマイキーの上段蹴りが決まっていた。
「自分でやれ」
「はい、ずみまぜん……」
可哀想に。
翌日、一緒に有名な遊園地へと来た。
遊園地となれば、どこに行こうかなどと話し合うものだが、マイキーは私の手をとり真っ直ぐとあるアトラクションに向かった。
ホラーハウスだ。
「マイキー、ここ入りたかったの?」
「ん」
マイキーがホラーハウス好きとは意外だった。
私はこういうのはあまり驚かないタイプなのだが、マイキーの興を削ぐことはしたくない。
「怖かったら、手握っていいぞ」
「ありがとう」
差し出されたマイキーの手を握る。
がんばって驚こう、と努力をしようとはしたのだが、驚くポイントがわからずオロオロしている間に出口をくぐっていた。
「……怖くなかったか?」
「ご、ごめん……。あまり……」
「そっか……」
残念そうにするマイキーに、もう一度「ごめん」と謝る。
「楽しみにしてたのに、なんか興を削いじゃって」
「雑誌には、ここに来ればいいって書いてあったんだよ」
「雑誌?」
そう聞くと、マイキーは女子が読む雑誌の名前を口にした。
誰に買わせに行ったんだろう……。三途かな……。
「そこに、ここ来れば相手と距離が縮まるって」
あ、あー……。一般的な女子じゃないからなぁ、私……。
なんせ蘭に、「事故物件一週間住んどけ」と言われて何度となく事故物件に住み、本物の怪奇現象と遭遇している。
「でも、そんなことしなくても、私とマイキーの距離は近いじゃん」
ね?と言うと、マイキーは顔を近づけて「足りない、もっと」と言う。
下手な吊り橋効果より、こういうのの方が効果あるってわかっててやってるのかな。
「そんなお手軽に縮めないでよ。ちゃんと、マイキーが考えて」
「俺が?」
「うん。とりあえず、今日はデート楽しもう」
「デート、なのか?」
「違うの?」
「……ううん、デート。行こう。手、離すなよ」
「うん、もちろん」
九井の場合
「蓮月、仕事」
「この、書類の山に囲まれた私が見えないと?」
「俺はその倍の仕事に囲まれてるけどな。まあ、だからこそ、気晴らしになる仕事持ってきたんだけど?」
気晴らしだあ?と嫌な顔をする私に、「今度作るアトラクションの下見なんだが、行きたくないならいい」と、くるり、と背を向けた九井に飛びつき「行きます!行かせてください!」と懇願する。
「シャバの空気が吸いたい!」
「なら、出かけるぞ」
わーい、なんのアトラクションだろうなー。
和むやつがいいなー。と思っていたのに、連れてこられたのは陰鬱とした雰囲気の廃墟。
「なにこれ」
「廃墟」
「見りゃわかるわ」
これのどこが、気晴らしになる仕事じゃ。
むしろ、気分が滅入るわ。
「廃墟に見えるが、安全性をクリアしたお化け屋敷だ」
「お化け屋敷……」
「クオリティーチェックが、今日の仕事」
来たことを後悔する私に、九井は馬鹿にした表情で「怖かったら、しがみついててもいいぞ」と言うから、カチーン、ときてしまった。
絶対に怖がってやらないからな。
中に入ると廃墟風にしているだけあって、瓦礫があったり、天井や床も崩れているところがある。
本当に大丈夫か?という顔をしていたのか、「崩れねえよ」と九井が言ってきた。
「ちゃんと計算して崩してあるからな」
「へー」
「奥行くぞ」
「うん」
九井について順路を進みながら、このお化け屋敷のコンセプトを聞く。
「廃墟で肝試しはしてえけど、危険なことはしたくねえっていう連中を狙ってる」
「なるほどねー。ジェットコースターみたいな感じ……!」
足元に転がっていた物に躓いて、思い切り九井に抱きついてしまった。
「なるほどな。こういうハプニングも、ウケそうだな」
「怪我されたら、訴えられるよ」
「なら、誓約書も用意するか」
そういうと、九井は私の肩を抱き寄せた。
なに?と聞くと、「転けられたら、困るからな」となんでもない顔をする。
「それにしても、部屋すごい荒れっぷりだね。あれも、計画的に荒らしてあるの?」
「いや、三途と蘭と竜胆に好きにしろっつっただけ」
made in 梵天……。
蘭の場合
「撫子ー、廃墟探検行こうぜー」
「行かない」
「オマエにその選択肢があると思ってんのか?」
ならば、なぜ選択肢があるような聞き方をするのか。
考えるだけ無駄である。相手は理不尽の権化、灰谷蘭だぞ。
へーへー、行けばいいんでしょ、と蘭に言われるまま梵天管理の廃墟へと車を走らせる。
「いまなんか物音しなかったか?」
「人影が通ったな」
「見てみろよ、この人形。怖くね?」
蘭自身、まったくもって怖いとか思っていないのだろうな、というのが声からも表情からも読み取れる。
なにがしたいんだろう、と思いなが聞き流していると、不意に真顔で「ビビれよ」と言われた。
嘘じゃん。
「なんの為にオマエ連れてきたと思ってんだよ。オマエの恐怖に慄いた顔で、元気だそうと思ったのによお」
文句の内容がイチャモンすぎるだろ。
「そういうのは、霊障系事故物件に仮住まい何回もさせられてる私に求めない方がいいと思うよ……」
「……それもそうだな」
つまらなそうにする蘭に、「用事済んだなら帰ろうよ」と言うと、突然閃いた顔をして「鬼ごっこしようぜ!」と言いながらチャカを取り出した。
鬼ごっこにチャカは使わねえんだわな〜。
「じゃあ、俺が鬼な。死んだら、撫子の負け」
「負けとかの話じゃないんだわ」
「ほら、早く逃げろー」
「やってらんない」
そう言って帰ろうとした瞬間、足元に銃弾がめり込んだ。
「……」
「なに帰ろうとしてんだよ。遊ぼうぜ、撫子」
こちらにしっかりと銃口を向けた蘭の目は、本気のそれだった。
ダメだ、本気で逃げないと死ぬ。
一目散に出口へ向かって走り出したが、車の鍵、蘭に預けてなかった?!
鍵を入れておくポケットがないからと、不用意すぎた!
森の中に逃げ、必死に走ろうとするが脚がもつれて上手く走れない。その上、蘭が発砲してくるから、恐怖は増していく。
「っで!」
盛大に転け、無様に地を這う私に蘭が追いつき「ゲームセットだな、撫子」と言って、私の額に銃口を突きつけてきた。
「た……たすけて……」
「んー?それが物を頼む態度かー?」
「たすけ、て、ください……」
「えらい、えらい。でも、やーだ」
じゃあな、撫子。
死んだ、と思ったが、拳銃からはカチン、と高い音しかしなかった。
「残念、弾切れだ」
「……」
「あー、遊んだら疲れた。帰ろうぜ、撫子」
この日、私は灰谷蘭という男に恐怖を覚えた。
幽霊より、生きた人間より、あの男の方が怖い。
竜胆の場合
「……」
「……」
事務所に、なんかくしゃっとした顔の竜胆がいた。
関わらんとこ、と思って「お疲れ様ー」と最低限の挨拶をして通り過ぎようとしたが、横を通り過ぎる瞬間、腕を掴まれた。
掴まれたかぁ……。
「撫子!俺の仕事に付き合え!」
「珍しいね。蘭じゃなくて私に言うなんて」
「今回は、兄ちゃんが相手だと命の危険を感じる」
そうか、私は蘭が相手だといつも命の危険を感じる。
「それで、どんな仕事なの?」
「アトラクションの試遊……」
「ほお」
それのどこに、命の危険を感じるのだろうか。
まあ、一日で終わると言うので付き合えば、そこは一軒のゲストハウス。
ここ?と聞けば、竜胆は青い顔で「ここ」と言う。
私の手を握り潰す勢いで掴む竜胆に、どういうアトラクションなのか聞いた。
「ミッションクリア型のホラーハウス……」
「ああ……」
そういえば、竜胆はホラーが苦手だったな。
本人は否定しているが、蘭に無理矢理ホラー映画観させられて、ブチギレて蘭ぶん殴って乱闘してたのは記憶に新しい。
なぜ竜胆に試遊させるのか、と思ったが、まあ、いい具合にビビってくれるからだろうな。
巻き込まれた私は可哀想だが。
一歩も動こうとしない竜胆を引きずって中に入ると、遊び方を教わる。
なるほど、基本的に指示通りに進みながら謎解きをするだけか。
通された一室で指示を待っている間も、可哀想なくらいに竜胆は震えていた。
「竜胆。この仕事、私が引き受けるから外で待ってなよ」
「はぁ?!なんでだよ!俺がビビってるって言いてえのか?!」
うん、そうだよ。とは、流石にプライドが折れるかと思い、黙る。
「なんか、体調悪いみたいだし」
「だ、大丈夫だ……。オマエ一人に任せられねえし……」
そうか、男気を見せてくれて、ありがとう。
だがしかし、オマエが握りしめている手がそろそろ関節外れそうなくらい、痛いんだよな。
さっさと終わらせよう、と来たミッションをクリアする為に部屋から出ようとしたが、竜胆が動かない。
「竜胆、行くよ」
「も、もうちょっと時間かけようぜ……?折角の試遊なんだしよ……」
さてはオマエ、腰が抜けているな。
なんとか立たせようと竜胆を引っ張るが、ピクリともしない。
「りーんーどーうー!」
竜胆を立たせようと奮闘していると、ミッションを伝えるタブレットから爆音の奇声が流れた。
たぶん、チンタラしている人間を追い立てるシステムだろう。
その瞬間、竜胆が声にならない悲鳴をあげタックルしてくる。
竜胆の年季が入ったタックルを受け止められるはずもなく、その場に押し倒された。
「もういい!もういい、竜胆!あとは私がサクッと終わらせてくるから、竜胆はここで待ってて!」
「嫌だー!俺をこんなところに、置いていくなー!」
「うるせー!」
三途の場合
「撫子、今日の夜。予定空いてるか?」
なんだか三途が首を痛めたイケメンのポーズをしながら聞いてきたので、「特に予定はないね」と答えると、嬉しそうに笑いながら「寂しいやつだなー!仕方ねえから、俺が遊んでやるよ!」と言った。
うーん、言い方はムカつくけど、無邪気にじゃれついてくるから許しちゃうんだよな。
「どこに連れて行ってくれるの?」
「遊園地のナイトイベントだ」
取り出されたチケットには、綺羅びやかな遊園地の写真が載っていた。
「へー、具体的にはどんな内容なの?」
「行ってからのお楽しみだ!」
……助け舟はだしたからな。
「オイコラ!どういうことだよ!!」
私の手を掴み、怒鳴り散らしながら全力疾走する三途に、「純粋なるリサーチ不足だねー」と言ってやる。
出版社関係伝で、私はこのナイトイベントのことは知っていた。
たしかに、このナイトイベントは遊園地で行われるが、遊園地全体を使ったホラーナイトイベントなのだ。
ひたすら、陸上部並の速さで追いかけてくるゾンビから逃げる。
あらすじと写真で、ロマンチックなのを想像しちゃってたんだろうなあ。
「前方からゾンビが来ますよー、三途くーん」
「ふざけんじゃねぇえぇ!ぶっ殺してやらぁぁあぁ!!!」
「やめんかい!!!」
本当に殴り飛ばそうとする三途の首にスタンガンを押しあて、気絶させる。
危なかった、楽しいイベントが血祭りになるところだった……。
スタッフさんに謝り、三途を背負って駐車場まで戻ってくる。
遊園地で走り回ったり、三途をおぶったりと、仕事終わりには中々しんどいイベントだった。
「……」
「まあ、詰めは甘かったけど、最後まで手を離さなかったのは偉かったかな」
鶴蝶の場合
「……」
「……」
なんだろう。鶴蝶がずっと、こっちを見ている。
視線を合わせようにも、目があった瞬間に逃げられる。
なにかしただろうか……。思い当たる節はないのだがな……。
鶴蝶からの熱い視線を感じながら仕事をしていると、マイキーが鶴蝶を引きずって来た。
「さっさとしろ」
「わ、わかってる……」
顔を真っ赤にしながら、鶴蝶が「あ、あし、明日……!遊園地、に、行かな、いか……?!」と上ずった声で言った。
遊園地……。
「今日一日、それ言おうとしてたの?」
「悪い……。こういうの、慣れなくて……」
や、養いたい可愛さ……。
まあ、稼ぎは鶴蝶の方がいいのは明々白々だが。
「いいよ、明日だね。楽しみにしてる」
そう言うと、鶴蝶は安心した笑みを浮かべて、「俺も楽しみにしてる」と言った。
養わせてくれ。
翌日は絶好の行楽日和で、待ちあわせ場所にはすでに鶴蝶がいた。
「ごめんね、待たせちゃった?」
「いや、たいして待ってねえよ」
「そっか、よかった。ところで、あれはなに?」
あれとは、遠くに点在する梵天幹部たちだ。
あんな目立つ様相なのに、あれで隠れているとは笑えるな。
鶴蝶も、困惑しながら「俺にもわからん」と言うから、勝手について来たんだろうな。
まあ、害はあるまい。
行こう、鶴蝶。と入園すると、鶴蝶は目を輝かせながら「どれから乗る!?」と聞いてきた。
定番でジェットコースターから攻め、箸休めに子供向けアトラクションに乗り、売店で食べ歩きをしている間、鶴蝶は無邪気な子供のようだった。
養いて〜。
「楽しそうだね、鶴蝶」
「わ、悪い!俺ばっかりはしゃいで!」
「いいんだよ、楽しいなら」
「ああ……。俺、こういうところ子供のとき以外で来たことなかったから、つい、嬉しくて」
照れて笑う姿に、幸せにしよう、と思ってしまった。
いや、そもそも付き合ってすらいないから、幸せにするもなにもないんだが。
「なあ、次ここ行っていいか?」
「んー?どこ?」
「ここ」
指さされたのは、お化け屋敷だった。
「ああ、いいよ」
「本当か?もし嫌だったら、無理しなくていいからな?」
「大丈夫、大丈夫。私、こういうの平気な方だから」
軽く言う私に、鶴蝶は笑い「ありがとう」と言った。
夕方ともあり、中々雰囲気を醸し出す建物。
並ぶのは、概ねカップル。
ロビーに何人かまとめて入れられ、コンセプトとなる話を聞かされ、順番に中へと入っていく。
「あ、そうだ。手」
「手?」
「蘭と竜胆から、お化け屋敷じゃ一緒に行ったやつと手を繋ぐのが礼儀作法だって教わった」
あいつら、なんつう嘘を鶴蝶に教えているんだ。
しかし、こんな純粋無垢な目で見られては、嫌だとは言えない。
おずおずと手を握ると、優しく握り返してくれた。
甘酢っぱすぎて、顔が熱くなる。
「わっ!」
仕掛けが発動するたびに、素直に驚く鶴蝶が可愛くて、私はまったく驚いていなかった。
「すごいな、すげえドキドキした」
「楽しかったね」
「ああ。もう一回、入らないか?」
「ふふ、いいよ」
望月の場合
「望月さん、これは重大な人選ミスだと私、思うんですよね」
連れてこられたのは、今度、梵天が手掛けるお化け屋敷。
なお、監修が蘭と九井らしく、嫌な予感しかしない。
で、なぜ連れてこられたのかと言うと、望月さんが試遊を任せられたが、望月さんはあまりお化け屋敷を楽しむタイプではないので、私を捕まえて連れて来たという流れだ。
「私がお化け屋敷怖がるタイプに見えますか?」
竜胆や三途の方が、活きよく騒ぐと思うけどなあ。
「野郎と来るより、オマエと来たかった」
「乙女心に響いたので、私は今日から乙女になります」
「オマエは乙女だろうが」
「望月さぁん……」
そんなこと言ってくれるの、望月さんとマイキーだけだよ……。
某途と某谷と某井は見習ってほしい。
中に入ると、病院を舞台とした作りのようだった。
内容としては、学校内にいる殺人鬼から逃げる、という鬼ごっことホラーを掛け合わせたものであった。
獲物をいたぶりながら追いかけるのが趣味な蘭と、トラップ作りが好きな九井らしいお化け屋敷である。
コツコツ、と静かな屋内を歩き雑談をしていると、パァン!という破裂音が立て続けにした。
振り向くと、そこには返り血まみれの男が銃を構えて立っていた。
「いや、蘭じゃん」
なにやってんの、と聞く前にまたも破裂音が響く。
え、なになになに、全然状況が掴めない。
呆然とする私の手を引き、望月さんは走り出した。
「いやいやいや、さっきの蘭でしたよね?!」
「さあな、暗がりだから判断できなかったが、そうでないことを祈るしかねえだろ。もし蘭なら、悪ふざけで撃ってくる可能性がある」
や、やりかねね〜!
いや、普通にホラーじゃない方向で怖くなってきたけど?!
とりあえず物陰に隠れて息を殺す。
カツン、カツン、と靴音が響く。
通り過ぎるのを待っていると、ドアが開き蘭が顔を覗かせ「みーつけた♡」と笑った。
「望月ざん、ごわいよー!」
「ちょっと我慢しろよ」
そう言うと、望月さんは私を横抱きにし、後ろの扉から逃げ出した。
うえー、カッコいい、惚れちゃう。
結局、普通に脅しただけでは私たちが驚かないであろう、ということで蘭が来たらしいが、普通にオマエ楽しんでただけだろ。
明司の場合
「遊びに連れて行ってほしいやつ、この指とーまれ」
「連れて行って〜!」
差し出された明司さんの人差し指を握る。
明司さん、どこに連れて行ってくれるのー。と浮足立って着いた先はお化け屋敷。
「なんでお化け屋敷なんですか〜!もっとスカッとするやつがいい〜!ボーリングとか〜!」
「ここの下見終わったら付き合ってやるよ」
「お仕事じゃないっすか!」
騙された〜!と喚く私を引きずって中に入っていく明司さん。
ぶすっ、としながら、ロビーでゾンビナースから前振りを聞いていると、不意に雷が落ちる音がして、まったく予想していなかった為に「うおぁぁあぁ!!!」と叫んでしまった。
「なんつう悲鳴あげてんだよ」
「音で脅かしてくる系は苦手なんですよ」
「じゃあ、オマエここ苦手だな」
「嘘じゃーん」
ギャン泣きする赤ちゃんみたいな顔をする私を、明司さんは愉快そうに笑い、「怖いなら、手繋いでやろうか?」と言うので、胴に抱きついてやった。
「歩きにく!」
そう言いながらも、明司さんは楽しそうに私の肩を最後まで抱きしめてくれていた。
「撫子、明日暇?」
「うーん、三途のクソ野郎が押し付けてきた仕事に目処がつくから、空くっちゃ空く」
マジ、あいつ事務仕事苦手すぎるだろ。
それで、明日なにかあるの?と聞くと、「遊園地行かないか?」と言われた。
「遊園地?いいけど、突然だね」
「行きたくなった」
本当に突然だなぁ、と思いながら「いいよ、空けとく」と言った瞬間、三途が「撫子ー!書類よろー!」と仕事を持ってきた。
三途に事情を説明して自分でやるように言おうとしたが、その前にマイキーの上段蹴りが決まっていた。
「自分でやれ」
「はい、ずみまぜん……」
可哀想に。
翌日、一緒に有名な遊園地へと来た。
遊園地となれば、どこに行こうかなどと話し合うものだが、マイキーは私の手をとり真っ直ぐとあるアトラクションに向かった。
ホラーハウスだ。
「マイキー、ここ入りたかったの?」
「ん」
マイキーがホラーハウス好きとは意外だった。
私はこういうのはあまり驚かないタイプなのだが、マイキーの興を削ぐことはしたくない。
「怖かったら、手握っていいぞ」
「ありがとう」
差し出されたマイキーの手を握る。
がんばって驚こう、と努力をしようとはしたのだが、驚くポイントがわからずオロオロしている間に出口をくぐっていた。
「……怖くなかったか?」
「ご、ごめん……。あまり……」
「そっか……」
残念そうにするマイキーに、もう一度「ごめん」と謝る。
「楽しみにしてたのに、なんか興を削いじゃって」
「雑誌には、ここに来ればいいって書いてあったんだよ」
「雑誌?」
そう聞くと、マイキーは女子が読む雑誌の名前を口にした。
誰に買わせに行ったんだろう……。三途かな……。
「そこに、ここ来れば相手と距離が縮まるって」
あ、あー……。一般的な女子じゃないからなぁ、私……。
なんせ蘭に、「事故物件一週間住んどけ」と言われて何度となく事故物件に住み、本物の怪奇現象と遭遇している。
「でも、そんなことしなくても、私とマイキーの距離は近いじゃん」
ね?と言うと、マイキーは顔を近づけて「足りない、もっと」と言う。
下手な吊り橋効果より、こういうのの方が効果あるってわかっててやってるのかな。
「そんなお手軽に縮めないでよ。ちゃんと、マイキーが考えて」
「俺が?」
「うん。とりあえず、今日はデート楽しもう」
「デート、なのか?」
「違うの?」
「……ううん、デート。行こう。手、離すなよ」
「うん、もちろん」
九井の場合
「蓮月、仕事」
「この、書類の山に囲まれた私が見えないと?」
「俺はその倍の仕事に囲まれてるけどな。まあ、だからこそ、気晴らしになる仕事持ってきたんだけど?」
気晴らしだあ?と嫌な顔をする私に、「今度作るアトラクションの下見なんだが、行きたくないならいい」と、くるり、と背を向けた九井に飛びつき「行きます!行かせてください!」と懇願する。
「シャバの空気が吸いたい!」
「なら、出かけるぞ」
わーい、なんのアトラクションだろうなー。
和むやつがいいなー。と思っていたのに、連れてこられたのは陰鬱とした雰囲気の廃墟。
「なにこれ」
「廃墟」
「見りゃわかるわ」
これのどこが、気晴らしになる仕事じゃ。
むしろ、気分が滅入るわ。
「廃墟に見えるが、安全性をクリアしたお化け屋敷だ」
「お化け屋敷……」
「クオリティーチェックが、今日の仕事」
来たことを後悔する私に、九井は馬鹿にした表情で「怖かったら、しがみついててもいいぞ」と言うから、カチーン、ときてしまった。
絶対に怖がってやらないからな。
中に入ると廃墟風にしているだけあって、瓦礫があったり、天井や床も崩れているところがある。
本当に大丈夫か?という顔をしていたのか、「崩れねえよ」と九井が言ってきた。
「ちゃんと計算して崩してあるからな」
「へー」
「奥行くぞ」
「うん」
九井について順路を進みながら、このお化け屋敷のコンセプトを聞く。
「廃墟で肝試しはしてえけど、危険なことはしたくねえっていう連中を狙ってる」
「なるほどねー。ジェットコースターみたいな感じ……!」
足元に転がっていた物に躓いて、思い切り九井に抱きついてしまった。
「なるほどな。こういうハプニングも、ウケそうだな」
「怪我されたら、訴えられるよ」
「なら、誓約書も用意するか」
そういうと、九井は私の肩を抱き寄せた。
なに?と聞くと、「転けられたら、困るからな」となんでもない顔をする。
「それにしても、部屋すごい荒れっぷりだね。あれも、計画的に荒らしてあるの?」
「いや、三途と蘭と竜胆に好きにしろっつっただけ」
made in 梵天……。
蘭の場合
「撫子ー、廃墟探検行こうぜー」
「行かない」
「オマエにその選択肢があると思ってんのか?」
ならば、なぜ選択肢があるような聞き方をするのか。
考えるだけ無駄である。相手は理不尽の権化、灰谷蘭だぞ。
へーへー、行けばいいんでしょ、と蘭に言われるまま梵天管理の廃墟へと車を走らせる。
「いまなんか物音しなかったか?」
「人影が通ったな」
「見てみろよ、この人形。怖くね?」
蘭自身、まったくもって怖いとか思っていないのだろうな、というのが声からも表情からも読み取れる。
なにがしたいんだろう、と思いなが聞き流していると、不意に真顔で「ビビれよ」と言われた。
嘘じゃん。
「なんの為にオマエ連れてきたと思ってんだよ。オマエの恐怖に慄いた顔で、元気だそうと思ったのによお」
文句の内容がイチャモンすぎるだろ。
「そういうのは、霊障系事故物件に仮住まい何回もさせられてる私に求めない方がいいと思うよ……」
「……それもそうだな」
つまらなそうにする蘭に、「用事済んだなら帰ろうよ」と言うと、突然閃いた顔をして「鬼ごっこしようぜ!」と言いながらチャカを取り出した。
鬼ごっこにチャカは使わねえんだわな〜。
「じゃあ、俺が鬼な。死んだら、撫子の負け」
「負けとかの話じゃないんだわ」
「ほら、早く逃げろー」
「やってらんない」
そう言って帰ろうとした瞬間、足元に銃弾がめり込んだ。
「……」
「なに帰ろうとしてんだよ。遊ぼうぜ、撫子」
こちらにしっかりと銃口を向けた蘭の目は、本気のそれだった。
ダメだ、本気で逃げないと死ぬ。
一目散に出口へ向かって走り出したが、車の鍵、蘭に預けてなかった?!
鍵を入れておくポケットがないからと、不用意すぎた!
森の中に逃げ、必死に走ろうとするが脚がもつれて上手く走れない。その上、蘭が発砲してくるから、恐怖は増していく。
「っで!」
盛大に転け、無様に地を這う私に蘭が追いつき「ゲームセットだな、撫子」と言って、私の額に銃口を突きつけてきた。
「た……たすけて……」
「んー?それが物を頼む態度かー?」
「たすけ、て、ください……」
「えらい、えらい。でも、やーだ」
じゃあな、撫子。
死んだ、と思ったが、拳銃からはカチン、と高い音しかしなかった。
「残念、弾切れだ」
「……」
「あー、遊んだら疲れた。帰ろうぜ、撫子」
この日、私は灰谷蘭という男に恐怖を覚えた。
幽霊より、生きた人間より、あの男の方が怖い。
竜胆の場合
「……」
「……」
事務所に、なんかくしゃっとした顔の竜胆がいた。
関わらんとこ、と思って「お疲れ様ー」と最低限の挨拶をして通り過ぎようとしたが、横を通り過ぎる瞬間、腕を掴まれた。
掴まれたかぁ……。
「撫子!俺の仕事に付き合え!」
「珍しいね。蘭じゃなくて私に言うなんて」
「今回は、兄ちゃんが相手だと命の危険を感じる」
そうか、私は蘭が相手だといつも命の危険を感じる。
「それで、どんな仕事なの?」
「アトラクションの試遊……」
「ほお」
それのどこに、命の危険を感じるのだろうか。
まあ、一日で終わると言うので付き合えば、そこは一軒のゲストハウス。
ここ?と聞けば、竜胆は青い顔で「ここ」と言う。
私の手を握り潰す勢いで掴む竜胆に、どういうアトラクションなのか聞いた。
「ミッションクリア型のホラーハウス……」
「ああ……」
そういえば、竜胆はホラーが苦手だったな。
本人は否定しているが、蘭に無理矢理ホラー映画観させられて、ブチギレて蘭ぶん殴って乱闘してたのは記憶に新しい。
なぜ竜胆に試遊させるのか、と思ったが、まあ、いい具合にビビってくれるからだろうな。
巻き込まれた私は可哀想だが。
一歩も動こうとしない竜胆を引きずって中に入ると、遊び方を教わる。
なるほど、基本的に指示通りに進みながら謎解きをするだけか。
通された一室で指示を待っている間も、可哀想なくらいに竜胆は震えていた。
「竜胆。この仕事、私が引き受けるから外で待ってなよ」
「はぁ?!なんでだよ!俺がビビってるって言いてえのか?!」
うん、そうだよ。とは、流石にプライドが折れるかと思い、黙る。
「なんか、体調悪いみたいだし」
「だ、大丈夫だ……。オマエ一人に任せられねえし……」
そうか、男気を見せてくれて、ありがとう。
だがしかし、オマエが握りしめている手がそろそろ関節外れそうなくらい、痛いんだよな。
さっさと終わらせよう、と来たミッションをクリアする為に部屋から出ようとしたが、竜胆が動かない。
「竜胆、行くよ」
「も、もうちょっと時間かけようぜ……?折角の試遊なんだしよ……」
さてはオマエ、腰が抜けているな。
なんとか立たせようと竜胆を引っ張るが、ピクリともしない。
「りーんーどーうー!」
竜胆を立たせようと奮闘していると、ミッションを伝えるタブレットから爆音の奇声が流れた。
たぶん、チンタラしている人間を追い立てるシステムだろう。
その瞬間、竜胆が声にならない悲鳴をあげタックルしてくる。
竜胆の年季が入ったタックルを受け止められるはずもなく、その場に押し倒された。
「もういい!もういい、竜胆!あとは私がサクッと終わらせてくるから、竜胆はここで待ってて!」
「嫌だー!俺をこんなところに、置いていくなー!」
「うるせー!」
三途の場合
「撫子、今日の夜。予定空いてるか?」
なんだか三途が首を痛めたイケメンのポーズをしながら聞いてきたので、「特に予定はないね」と答えると、嬉しそうに笑いながら「寂しいやつだなー!仕方ねえから、俺が遊んでやるよ!」と言った。
うーん、言い方はムカつくけど、無邪気にじゃれついてくるから許しちゃうんだよな。
「どこに連れて行ってくれるの?」
「遊園地のナイトイベントだ」
取り出されたチケットには、綺羅びやかな遊園地の写真が載っていた。
「へー、具体的にはどんな内容なの?」
「行ってからのお楽しみだ!」
……助け舟はだしたからな。
「オイコラ!どういうことだよ!!」
私の手を掴み、怒鳴り散らしながら全力疾走する三途に、「純粋なるリサーチ不足だねー」と言ってやる。
出版社関係伝で、私はこのナイトイベントのことは知っていた。
たしかに、このナイトイベントは遊園地で行われるが、遊園地全体を使ったホラーナイトイベントなのだ。
ひたすら、陸上部並の速さで追いかけてくるゾンビから逃げる。
あらすじと写真で、ロマンチックなのを想像しちゃってたんだろうなあ。
「前方からゾンビが来ますよー、三途くーん」
「ふざけんじゃねぇえぇ!ぶっ殺してやらぁぁあぁ!!!」
「やめんかい!!!」
本当に殴り飛ばそうとする三途の首にスタンガンを押しあて、気絶させる。
危なかった、楽しいイベントが血祭りになるところだった……。
スタッフさんに謝り、三途を背負って駐車場まで戻ってくる。
遊園地で走り回ったり、三途をおぶったりと、仕事終わりには中々しんどいイベントだった。
「……」
「まあ、詰めは甘かったけど、最後まで手を離さなかったのは偉かったかな」
鶴蝶の場合
「……」
「……」
なんだろう。鶴蝶がずっと、こっちを見ている。
視線を合わせようにも、目があった瞬間に逃げられる。
なにかしただろうか……。思い当たる節はないのだがな……。
鶴蝶からの熱い視線を感じながら仕事をしていると、マイキーが鶴蝶を引きずって来た。
「さっさとしろ」
「わ、わかってる……」
顔を真っ赤にしながら、鶴蝶が「あ、あし、明日……!遊園地、に、行かな、いか……?!」と上ずった声で言った。
遊園地……。
「今日一日、それ言おうとしてたの?」
「悪い……。こういうの、慣れなくて……」
や、養いたい可愛さ……。
まあ、稼ぎは鶴蝶の方がいいのは明々白々だが。
「いいよ、明日だね。楽しみにしてる」
そう言うと、鶴蝶は安心した笑みを浮かべて、「俺も楽しみにしてる」と言った。
養わせてくれ。
翌日は絶好の行楽日和で、待ちあわせ場所にはすでに鶴蝶がいた。
「ごめんね、待たせちゃった?」
「いや、たいして待ってねえよ」
「そっか、よかった。ところで、あれはなに?」
あれとは、遠くに点在する梵天幹部たちだ。
あんな目立つ様相なのに、あれで隠れているとは笑えるな。
鶴蝶も、困惑しながら「俺にもわからん」と言うから、勝手について来たんだろうな。
まあ、害はあるまい。
行こう、鶴蝶。と入園すると、鶴蝶は目を輝かせながら「どれから乗る!?」と聞いてきた。
定番でジェットコースターから攻め、箸休めに子供向けアトラクションに乗り、売店で食べ歩きをしている間、鶴蝶は無邪気な子供のようだった。
養いて〜。
「楽しそうだね、鶴蝶」
「わ、悪い!俺ばっかりはしゃいで!」
「いいんだよ、楽しいなら」
「ああ……。俺、こういうところ子供のとき以外で来たことなかったから、つい、嬉しくて」
照れて笑う姿に、幸せにしよう、と思ってしまった。
いや、そもそも付き合ってすらいないから、幸せにするもなにもないんだが。
「なあ、次ここ行っていいか?」
「んー?どこ?」
「ここ」
指さされたのは、お化け屋敷だった。
「ああ、いいよ」
「本当か?もし嫌だったら、無理しなくていいからな?」
「大丈夫、大丈夫。私、こういうの平気な方だから」
軽く言う私に、鶴蝶は笑い「ありがとう」と言った。
夕方ともあり、中々雰囲気を醸し出す建物。
並ぶのは、概ねカップル。
ロビーに何人かまとめて入れられ、コンセプトとなる話を聞かされ、順番に中へと入っていく。
「あ、そうだ。手」
「手?」
「蘭と竜胆から、お化け屋敷じゃ一緒に行ったやつと手を繋ぐのが礼儀作法だって教わった」
あいつら、なんつう嘘を鶴蝶に教えているんだ。
しかし、こんな純粋無垢な目で見られては、嫌だとは言えない。
おずおずと手を握ると、優しく握り返してくれた。
甘酢っぱすぎて、顔が熱くなる。
「わっ!」
仕掛けが発動するたびに、素直に驚く鶴蝶が可愛くて、私はまったく驚いていなかった。
「すごいな、すげえドキドキした」
「楽しかったね」
「ああ。もう一回、入らないか?」
「ふふ、いいよ」
望月の場合
「望月さん、これは重大な人選ミスだと私、思うんですよね」
連れてこられたのは、今度、梵天が手掛けるお化け屋敷。
なお、監修が蘭と九井らしく、嫌な予感しかしない。
で、なぜ連れてこられたのかと言うと、望月さんが試遊を任せられたが、望月さんはあまりお化け屋敷を楽しむタイプではないので、私を捕まえて連れて来たという流れだ。
「私がお化け屋敷怖がるタイプに見えますか?」
竜胆や三途の方が、活きよく騒ぐと思うけどなあ。
「野郎と来るより、オマエと来たかった」
「乙女心に響いたので、私は今日から乙女になります」
「オマエは乙女だろうが」
「望月さぁん……」
そんなこと言ってくれるの、望月さんとマイキーだけだよ……。
某途と某谷と某井は見習ってほしい。
中に入ると、病院を舞台とした作りのようだった。
内容としては、学校内にいる殺人鬼から逃げる、という鬼ごっことホラーを掛け合わせたものであった。
獲物をいたぶりながら追いかけるのが趣味な蘭と、トラップ作りが好きな九井らしいお化け屋敷である。
コツコツ、と静かな屋内を歩き雑談をしていると、パァン!という破裂音が立て続けにした。
振り向くと、そこには返り血まみれの男が銃を構えて立っていた。
「いや、蘭じゃん」
なにやってんの、と聞く前にまたも破裂音が響く。
え、なになになに、全然状況が掴めない。
呆然とする私の手を引き、望月さんは走り出した。
「いやいやいや、さっきの蘭でしたよね?!」
「さあな、暗がりだから判断できなかったが、そうでないことを祈るしかねえだろ。もし蘭なら、悪ふざけで撃ってくる可能性がある」
や、やりかねね〜!
いや、普通にホラーじゃない方向で怖くなってきたけど?!
とりあえず物陰に隠れて息を殺す。
カツン、カツン、と靴音が響く。
通り過ぎるのを待っていると、ドアが開き蘭が顔を覗かせ「みーつけた♡」と笑った。
「望月ざん、ごわいよー!」
「ちょっと我慢しろよ」
そう言うと、望月さんは私を横抱きにし、後ろの扉から逃げ出した。
うえー、カッコいい、惚れちゃう。
結局、普通に脅しただけでは私たちが驚かないであろう、ということで蘭が来たらしいが、普通にオマエ楽しんでただけだろ。
明司の場合
「遊びに連れて行ってほしいやつ、この指とーまれ」
「連れて行って〜!」
差し出された明司さんの人差し指を握る。
明司さん、どこに連れて行ってくれるのー。と浮足立って着いた先はお化け屋敷。
「なんでお化け屋敷なんですか〜!もっとスカッとするやつがいい〜!ボーリングとか〜!」
「ここの下見終わったら付き合ってやるよ」
「お仕事じゃないっすか!」
騙された〜!と喚く私を引きずって中に入っていく明司さん。
ぶすっ、としながら、ロビーでゾンビナースから前振りを聞いていると、不意に雷が落ちる音がして、まったく予想していなかった為に「うおぁぁあぁ!!!」と叫んでしまった。
「なんつう悲鳴あげてんだよ」
「音で脅かしてくる系は苦手なんですよ」
「じゃあ、オマエここ苦手だな」
「嘘じゃーん」
ギャン泣きする赤ちゃんみたいな顔をする私を、明司さんは愉快そうに笑い、「怖いなら、手繋いでやろうか?」と言うので、胴に抱きついてやった。
「歩きにく!」
そう言いながらも、明司さんは楽しそうに私の肩を最後まで抱きしめてくれていた。