短編
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気持ち玄野針と子守唄の続き
不機嫌そうに、補佐が唇にべったりついた口紅を手の甲で拭っていた。
「補佐、どうしたんすか。その口紅」
そう声をかければ、やはり不機嫌そうに「あぁ、窃野。クレンジングシート見やせんでしたか」と聞かれ、確か洗面所にいつも補佐と一緒にいるあいつが置きっぱなしにしていた物があった気がする、と答えれば「本当に雑な女ですね」と、吐き捨てた。
補佐が、あいつに対してこんな露骨に嫌悪感をだすのは珍しいと思い、「喧嘩でもしたんですか?」と尋ねると、鼻で嗤い「喧嘩するほど仲よくないんで」と言われたが、傍目からでも仲いいと思うんだけどなぁ。
「尻の軽い女と仲いいわけないでしょう。一番、嫌いな人種ですよ」
「そんな奴でしたっけ?」
ドライな関係性を築くタイプの女だと思っていたので、補佐の口からあいつを『尻の軽い女』と形容する言葉がでてくるとは思わなかった。
「えぇ、えぇ、そうですよ! さっき廊下で、品のない化粧と服なんて着て楽しそうにしてたからどこに行くのか聞いたら、『ちょっと男と会って来ます』なんて宣って! わざわざ、私の補佐という仕事を蔑ろにしてまで会いたかった男なんでしょうねっ!」
ゴミ箱に、口紅のついたクレンジングシートを力強く叩きつけ捨てる。
「あいつ、男いたんですね。そういう浮いた話、聞いたことなかったっす」
「いるわけないでしょうが! 私が働き続ける限り、あれは私についてまわるのが義務なんですよ! この資金繰りで忙しい時にそんな余裕を与えると思っているんですかい!」
目を吊り上げてキレられたが、そうなると『尻の軽い女』と形容された理由に繋がらない。
普通、男をとっかえひっかえしていればそう言われても仕方がないとは思うが、男がいないのに男ができて尻の軽い女とは?
謎が謎を呼んでいたが、苛立って饒舌になっている補佐が自分で回答を出してくれた。
「ここの所、あれ以外の人間がサポートに入ることがよくあったから捕まえて問いただしたら、『若から言われた仕事をしてるんです』なぁんて、オーバーホールを口実に男と会ってたんですよ。私との仕事をそっちのけで! その時点でもう腹がたつのに、あんな品がないとは言え気合の入った化粧に香水、ヘアセットや、服! 私だってあんな気合の入った格好、見たことないのに! それだけ、大切なんでしょうね! 私を差し置いて行くほどに! 腹がたったんで、濃厚なキスをおみまいしてやりやしたよ、ざまーみろ! 私のテクニックの前では、どこの馬の骨ともわからない男とのキスなんて霞みますからね! 精々、帰ってきて『補佐とのキスが忘れられなくて』としおらしくい言え!」
鼻息荒く切れる補佐を見て、『尻の軽い女』と口紅の理由がやっとわかった。
この人、嫉妬してるんだ。あいつが自分以外の男の所に行くことに。
「補佐、やっぱりあいつのこと、好きですね」
「だーかーらー。好きじゃないです。嫌いだって言ってるじゃないですか」
けど……、となおも追求しそうになったが、気が付いたら足元に来ていた本部長が「そいつ、本気で人と関係性築いたことねーから独占欲変な方向にねじ曲がってんだよ。突っ込むな」と止めたのでやめておいた。
本部長に急かされ今日の仕事に補佐と向かったのだけれども、先程まで憤然としていたのに仕事中は微塵も感じさせない冷静さで、切り替えの速さに感心した。
まぁ、切り替えてもやはり怒りは収まっていないようで、若頭と組長を無理に自棄酒に付き合わせているのだけれども。
補佐の自棄酒は絡み酒になるから、若頭が心配になるも俺にできることはない。
致し方なく帰り支度をして出ようとしたら、疲れ切った声色で「ただいま戻りましたー」と、件の女が帰宅したのだった。
ヒールを適当に脱ぎ捨てて、取次ぎに倒れこみ「しんど」と口にする女に、「帰り早かったな」と声をかければ「あ、お疲れ様です。窃野さん」と普段の覇気を一切感じられない声をだした。
「その感じだと、フラれたのか?」
そうであって欲しい。補佐の機嫌を直すという意味合いで。
期待の目で、声で聞いたのだが、当の本人は「はぁ? 誰にフラれなきゃいけないんですか、私が」と心底、不思議そうな顔で見上げてくる。
「だって、補佐が……つーか、一回起きろって。俺、一応お前より立場上だからな。あと……見えるから……」
横たわり、そのまま俺の方を見上げている所為で、胸元は大きくはだけているし、スカートはめくりあがっていて見られた物じゃない。
「あー、すいやせん。いやぁ、もう、くっそ面倒な仕事がやっと終わったんで気が抜けちゃって……」
もぞもぞと上半身を起き上がらせた女に、「仕事? 男と会ってたんじゃないのか?」と、自分が得た情報で聞くも「仕事相手は男ですよ」と、綺麗にセットされていた髪を解き、自分の匂いを嗅いでは「くさい」と顔を顰めている。
およそ、好きな男と会っていた感じではない。
「なんの仕事だったんだ?」
「前に補佐にくっついて行った会合で、土地いっぱい持ってる野郎に気に入られたんですよ。そしたら若に『土地とマンション二つ、三つとって来い』て言われて、せっせとしたくもないデートしまくって、今日やっと、若から一番いいとことって来たらもうういいって言われたから超がんばってとって来たんですよ。おかげで、こんな格好しないといけないし、趣味じゃない化粧とか香水つけないといけないから、最悪ですよ。あ、若どこにいるか知ってますか?」
流れるように回答を得られてすっきりしつつ、「いまは、補佐の自棄酒に付き合ってる。早めに行け」と疲れでぼんやりしているところを急き立てれば、思い出したように「それー!」と声を上げる。
どれだよ。
「なんか、出る前に補佐からわけわからないテクニシャンキスされたんですよ! 意味分からんくないですか!」
「えっと、なんて言うか、お前が補佐の補佐業に入らなかったことに腹立ててたみたいだぞ。なんでちゃんと理由言わなかったんだよ」
「若が、『言ったら面倒になるから黙ってろ』て言うから……。まぁ、結局つめ寄られて濁したにせよ言っちゃったんですけど」
あぁ、たしかに。
仕事だからと割り切ったにせよ、補佐がイライラするのはなんとなく目に見える。
「あれ、マジでなんだったんだろう」
意味がわからない、と言った顔をする女にかくかくしかじかと補佐とした会話を伝えれば、一切笑っていない表情で一言「ウケる」と発した。
「独占欲こじらせすぎでしょ。まぁ、いいや。ちょっと若に権利証わたしてきます。窃野さんはもうお帰りですか?」
「あぁ」
「お疲れ様です。また、明日」
ぺこりとお辞儀をし、俺に背中を向けた女に「なぁ」と声をかけ引きとめる。
「お前はさ、もし補佐に女ができたら嫉妬とかすんの?」
「私がですか? どうして?」
「いや、ただの好奇心で」
「質問された理由を聞いたんじゃないんですけど……。別にしないですよ。私は補佐の恋人でも愛人でもなければ、友人でもないですし。そんな、嫉妬するような対等な人間関係ではないので。仕事上のお付き合いです」
本人にとっては、補佐がなにをしようが口出しできる立場ではないとわきまえての発言なのだろう。
やはり、こいつは人間関係に対してドライだ。
「それ、補佐には言ってやるなよ。可哀想だから」
「よくわかりませんが、わかりました」
もう一度、俺に「お疲れ様でした、失礼いたします」と礼をしてから女は似合わない香水の香りを残して去って行った。
補佐、がんばってください。
不機嫌そうに、補佐が唇にべったりついた口紅を手の甲で拭っていた。
「補佐、どうしたんすか。その口紅」
そう声をかければ、やはり不機嫌そうに「あぁ、窃野。クレンジングシート見やせんでしたか」と聞かれ、確か洗面所にいつも補佐と一緒にいるあいつが置きっぱなしにしていた物があった気がする、と答えれば「本当に雑な女ですね」と、吐き捨てた。
補佐が、あいつに対してこんな露骨に嫌悪感をだすのは珍しいと思い、「喧嘩でもしたんですか?」と尋ねると、鼻で嗤い「喧嘩するほど仲よくないんで」と言われたが、傍目からでも仲いいと思うんだけどなぁ。
「尻の軽い女と仲いいわけないでしょう。一番、嫌いな人種ですよ」
「そんな奴でしたっけ?」
ドライな関係性を築くタイプの女だと思っていたので、補佐の口からあいつを『尻の軽い女』と形容する言葉がでてくるとは思わなかった。
「えぇ、えぇ、そうですよ! さっき廊下で、品のない化粧と服なんて着て楽しそうにしてたからどこに行くのか聞いたら、『ちょっと男と会って来ます』なんて宣って! わざわざ、私の補佐という仕事を蔑ろにしてまで会いたかった男なんでしょうねっ!」
ゴミ箱に、口紅のついたクレンジングシートを力強く叩きつけ捨てる。
「あいつ、男いたんですね。そういう浮いた話、聞いたことなかったっす」
「いるわけないでしょうが! 私が働き続ける限り、あれは私についてまわるのが義務なんですよ! この資金繰りで忙しい時にそんな余裕を与えると思っているんですかい!」
目を吊り上げてキレられたが、そうなると『尻の軽い女』と形容された理由に繋がらない。
普通、男をとっかえひっかえしていればそう言われても仕方がないとは思うが、男がいないのに男ができて尻の軽い女とは?
謎が謎を呼んでいたが、苛立って饒舌になっている補佐が自分で回答を出してくれた。
「ここの所、あれ以外の人間がサポートに入ることがよくあったから捕まえて問いただしたら、『若から言われた仕事をしてるんです』なぁんて、オーバーホールを口実に男と会ってたんですよ。私との仕事をそっちのけで! その時点でもう腹がたつのに、あんな品がないとは言え気合の入った化粧に香水、ヘアセットや、服! 私だってあんな気合の入った格好、見たことないのに! それだけ、大切なんでしょうね! 私を差し置いて行くほどに! 腹がたったんで、濃厚なキスをおみまいしてやりやしたよ、ざまーみろ! 私のテクニックの前では、どこの馬の骨ともわからない男とのキスなんて霞みますからね! 精々、帰ってきて『補佐とのキスが忘れられなくて』としおらしくい言え!」
鼻息荒く切れる補佐を見て、『尻の軽い女』と口紅の理由がやっとわかった。
この人、嫉妬してるんだ。あいつが自分以外の男の所に行くことに。
「補佐、やっぱりあいつのこと、好きですね」
「だーかーらー。好きじゃないです。嫌いだって言ってるじゃないですか」
けど……、となおも追求しそうになったが、気が付いたら足元に来ていた本部長が「そいつ、本気で人と関係性築いたことねーから独占欲変な方向にねじ曲がってんだよ。突っ込むな」と止めたのでやめておいた。
本部長に急かされ今日の仕事に補佐と向かったのだけれども、先程まで憤然としていたのに仕事中は微塵も感じさせない冷静さで、切り替えの速さに感心した。
まぁ、切り替えてもやはり怒りは収まっていないようで、若頭と組長を無理に自棄酒に付き合わせているのだけれども。
補佐の自棄酒は絡み酒になるから、若頭が心配になるも俺にできることはない。
致し方なく帰り支度をして出ようとしたら、疲れ切った声色で「ただいま戻りましたー」と、件の女が帰宅したのだった。
ヒールを適当に脱ぎ捨てて、取次ぎに倒れこみ「しんど」と口にする女に、「帰り早かったな」と声をかければ「あ、お疲れ様です。窃野さん」と普段の覇気を一切感じられない声をだした。
「その感じだと、フラれたのか?」
そうであって欲しい。補佐の機嫌を直すという意味合いで。
期待の目で、声で聞いたのだが、当の本人は「はぁ? 誰にフラれなきゃいけないんですか、私が」と心底、不思議そうな顔で見上げてくる。
「だって、補佐が……つーか、一回起きろって。俺、一応お前より立場上だからな。あと……見えるから……」
横たわり、そのまま俺の方を見上げている所為で、胸元は大きくはだけているし、スカートはめくりあがっていて見られた物じゃない。
「あー、すいやせん。いやぁ、もう、くっそ面倒な仕事がやっと終わったんで気が抜けちゃって……」
もぞもぞと上半身を起き上がらせた女に、「仕事? 男と会ってたんじゃないのか?」と、自分が得た情報で聞くも「仕事相手は男ですよ」と、綺麗にセットされていた髪を解き、自分の匂いを嗅いでは「くさい」と顔を顰めている。
およそ、好きな男と会っていた感じではない。
「なんの仕事だったんだ?」
「前に補佐にくっついて行った会合で、土地いっぱい持ってる野郎に気に入られたんですよ。そしたら若に『土地とマンション二つ、三つとって来い』て言われて、せっせとしたくもないデートしまくって、今日やっと、若から一番いいとことって来たらもうういいって言われたから超がんばってとって来たんですよ。おかげで、こんな格好しないといけないし、趣味じゃない化粧とか香水つけないといけないから、最悪ですよ。あ、若どこにいるか知ってますか?」
流れるように回答を得られてすっきりしつつ、「いまは、補佐の自棄酒に付き合ってる。早めに行け」と疲れでぼんやりしているところを急き立てれば、思い出したように「それー!」と声を上げる。
どれだよ。
「なんか、出る前に補佐からわけわからないテクニシャンキスされたんですよ! 意味分からんくないですか!」
「えっと、なんて言うか、お前が補佐の補佐業に入らなかったことに腹立ててたみたいだぞ。なんでちゃんと理由言わなかったんだよ」
「若が、『言ったら面倒になるから黙ってろ』て言うから……。まぁ、結局つめ寄られて濁したにせよ言っちゃったんですけど」
あぁ、たしかに。
仕事だからと割り切ったにせよ、補佐がイライラするのはなんとなく目に見える。
「あれ、マジでなんだったんだろう」
意味がわからない、と言った顔をする女にかくかくしかじかと補佐とした会話を伝えれば、一切笑っていない表情で一言「ウケる」と発した。
「独占欲こじらせすぎでしょ。まぁ、いいや。ちょっと若に権利証わたしてきます。窃野さんはもうお帰りですか?」
「あぁ」
「お疲れ様です。また、明日」
ぺこりとお辞儀をし、俺に背中を向けた女に「なぁ」と声をかけ引きとめる。
「お前はさ、もし補佐に女ができたら嫉妬とかすんの?」
「私がですか? どうして?」
「いや、ただの好奇心で」
「質問された理由を聞いたんじゃないんですけど……。別にしないですよ。私は補佐の恋人でも愛人でもなければ、友人でもないですし。そんな、嫉妬するような対等な人間関係ではないので。仕事上のお付き合いです」
本人にとっては、補佐がなにをしようが口出しできる立場ではないとわきまえての発言なのだろう。
やはり、こいつは人間関係に対してドライだ。
「それ、補佐には言ってやるなよ。可哀想だから」
「よくわかりませんが、わかりました」
もう一度、俺に「お疲れ様でした、失礼いたします」と礼をしてから女は似合わない香水の香りを残して去って行った。
補佐、がんばってください。