短編
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オヤジがふと思いついた様に「焼き芋が食いてェな」と言いだした。
今日は中秋の名月で、こういった風流なイベント事は欠かさないオヤジの為に月見料理を作ったり、ビニール手袋着用して団子を大量に捏ねたりと既に忙しい所へ、焼き芋が追加され更に忙しくなった。
ただの焼き芋ならレンジかフライパンで出来るのだが、オヤジが所望するのは落ち葉で焼く焼き芋。
大慌てで庭の落ち葉をかき集めるのと同時進行で、毎年大量消費される料理の準備をしなくてはならず、人手が足りない。
あまり大人数でやれば、なにもしていないのにヒーローや一般人にいちゃもんをつけられかねないので、部屋住みの連中と私たちで選んだ人間しかおらず、人手が本当に冗談抜きで圧倒的に足りない。
「クロノ、もういい! アホの手も借りろ!」
廻の指示に、瞬時にケータイでアホだが落ち葉集め位はできるアホに「焼き芋と月見料理食べさせてやるから手伝いに来い」とメッセージを送れば、十数分後にはしっかり手土産の酒を持ってアホが現れた。
「呼ばれて飛び出てビビディ・バビディ・ブー! ご飯が食べられると聞いちゃ、黙ってられない! お手伝い来ちゃったよー!」
この、忙しくてイライラしている時に聞きたくない登場の仕方だ。
一回ど突いてやりたい気持ちを抑え込み「落ち葉集めて来い! 指示は音本に聞け!」と手早く伝えれば、酒を置いて「ヨーソロー!」と言いながら台所から出て行った。
窃野が「あの人、本当に大丈夫ですか?」と不安そうに聞いてきたが、それは頭についてなのか、あの歳であのテンションでこの先の人生大丈夫かという事なのか、その両方なのか知らないが、大丈夫。
ネジが飛んでいる様で、意外としっかりと止まっている狂人を装った常人だから。
「狂人だったら、そもそも呼んでやしないですから」
料理の手を止めない私の言葉に、窃野は「それもそうっすね」と納得してくれた。
これで納得したという事は、やはり頭の方を心配されていたのだろう。
料理作りもひと段落したので、少し遅い昼休憩にと適当におむすびを作り、焼き芋班へ声をかけに行ったら珍妙な歌が聴こえてきた。
この歌は……。
――ほっくほっくお芋 美味しいお芋 きんきんきんいろ こがねいろ 銀色包みにつつまれて 中からでてきた きんいろもなか 袖の下を通しましょう そいや そいや♪
もう、どこからツッコミを入れればいいのかわからない歌詞の上、絶妙に不安を煽る音の外し方をしている。
これ、近所から苦情とか来やしないだろうか……。
庭へ行けば強面連中の顔が青くなっていた。
慣れていないと、あの不安になる珍妙な歌は精神に障るだろうに。私も初めて聞いた時は気がふれるかと思ったものだ。
今は耐性ができてしまい、聞き流せる様になったが。
近くにいた音本に進捗を聞けば、目元だけでもわかる青い顔で「落ち葉集めは順調だが、彼女の歌で数人体調を崩している」と報告を受けた。
やはり、呼ぶべきではなかったか……。
「その、若のご友人をこんな風に言うのは憚られるが、彼女は大丈夫なのか?」
「心も頭も正常です。あれは奇病か特殊能力の類ですよ。あと、オーバーホールはあれを友人だと思ってないですから、安心していいです」
実験動物や使い走りの枠組みに入っても、友人の枠組みに入れる事は一生ないだろう。
尚も歌い続けるアホの頭を「やめろ」と言いながら、思い切り引っ叩けばピタリと止まる。
「補佐、いくらなんでも女性の頭を叩くのはよくない」
紳士的な音本の発言に「こいつは一度叩かないと歌い続けやすよ」と教えてやれば、それ以上はなにも言わず黙った。
「人様に迷惑かかるから、その即興ソングやめろといつも言ってるだろ」
米神部分に手根部を押し当て、ぎちぎちと力を入れ挟めば人間とは思えない悲鳴をあげた。
「それで、ちゃんと手伝ったんだろうな?」
「おうとも! ほら、ちゃんと集まった! あとは、お芋とトウモロコシとみかんだね!」
「トウモロコシとみかんは要らない。芋買ってこい」
「ラジャスタン!」
千円札を数枚入れた財布を渡し、お使いに行かせようと思ったが一応、「余計な物を買うなよ」と忠告すると、すぃーと右上に視線を泳がせた。
「……まぁ、別に買っても私は怒らないよ」
「本当に?」
「私は、な。オーバーホールは……わかるだろ?」
昔、廻を怒らせた時の事を思い出したのか「ひぇ」と小さな悲鳴をあげた。
「わかったら、駆け足で買って来い。Hurry up.」
「うーっす」
渋っていたので若干の不安はあったが、廻の躾の賜物かしっかりと言われた物と足りなくなりそうな食材も買って帰って来たので、褒美として頭を撫でてやった。
「先に焼き芋してていいぞ。ただし、お前は食べるの専門だ。手出しは絶対にするな」
「なんで?」
「学生時代に学校でやった焚火で、栗を仕込んで大惨事をを引き起こしたのを覚えているか……?」
「薄っすら」
「薄っすら……?」
「ごめんなさい、鮮明に覚えてます。あれは私もびっくりした。なにもしません」
指切りをして約束はさせたが、保険で乱波に「絶対に焚火に近寄らせないでください」と見張り役を命じて台所に戻ろうとしたのに、即座に「ファイアー!」と不安になる雄叫びが聞こえてきたから、短針を肩に刺して強制的に大人しくさせた。
怪我は後で廻にでも治してもらえ。
その後、やんちゃが過ぎた所為で廻に傷を治して貰えず、片腕で蛮族の様に焼き芋を貪り食べていたアホの傷の手当てをしてから、月見料理を用意したらやっと一息つき、月見の宴が始まった。
先程まで焼き芋を食べていた人間とは思えない食欲で里芋の煮物を頬張るアホ。
あの珍妙な歌と言い、謎のテンションと言い、この異常なまでの食欲と言い、本当に人間かと疑いたくなる。
「どうかした? はっ! もしや、芋煮の煮汁こぼしてる?!」
自分の服を確認するアホに「こぼしてない。ただ、お前は本当に人間かと思っただけだ」と言いながら、口元についた煮汁をティッシュで拭いてやる。
私の言葉に、にやぁ、と笑いながら「遂に気が付いちゃったかい?」と言いだす。
アホなショートコントが始まる気配を察知した。
「実はね、私は月の住人なんだよ」
「じゃあ、今日はお迎えが来るな。中秋の名月だし」
「ねー。まぁ、冗談だけど。正真正銘、地球人で日本人だよ」
「知ってる」
冗談以外になにがあると思ってるんだ、こいつ。
「けど、私より玄野くんの方がかぐや姫が似合いそうだよね。なんか、儚い! 私はアレ! 帝の兵やりたい!」
「モブの上、なにもしないじゃないか」
「私にお似合いでしょ?」
こんな自己主張の激しい兵は絶対に嫌だ。
訳のわからない謎の口上を延々と述べながら、呆気に取られている間に突然切りかかってきそうだし。
「私がかぐや姫なら、翁と媼はオヤジと廻か?」
「そうなるね。玄野くんが帰らない理由なんて、二人しかないでしょ?」
「そこに自分を含まないんだな、お前は」
「なんで私が含まれるの? 私なんて、そこら辺の女と変わりないでしょ。玄野くんを引きとめる要因になる訳ないじゃん」
「まぁな。けど、そこら辺の女みたいに、自分は私に受け入れられた特別な存在だと驕らない所は、好感を持ってるよ」
普通だったら、この場に呼ばれた時点で自分は特別だと勘違いすると思うが、自分を石ころだと認識しているのは好感度が高い。
その分、あの珍妙な歌で好感度が下がっているけれども。
「私はお前の事をハムスター位にしか思ってないが、お前はどうなんだ? 嫌じゃないのか?」
「玄野くんとサヨナラするのがって事? そりゃ、嫌だけどさ。本人が決めた事には口出ししたくないから。言った所で聞き入れられる訳でもないし、縋ったって『五月蝿い』て言って足蹴りするでしょ? 金色夜叉みたいに」
「するな、確実に」
「でしょー? まぁ、本当に月へ帰るのを止めたかったら治崎くんにお願いするよ。地球外生命体となんて戦えないし」
「廻でも、地球外生命体には勝てないだろ」
「いやぁ、勝てるよ。あの、物理でなんでも解決☆マジカル撲殺バスターゴリラ治崎くんなら」
「誰が撲殺バスターゴリラだ」
通りすがった廻の、私とは比べ物にならない威力の拳骨を食らい彼女の手から危うく里芋の煮物が落ちかけたが、ギリギリ持ちなおした。
「そうだね、ゴリラは可愛くないね。クマの方がいいか」
論点の違う部分に訂正を入れ、追撃でもう一発殴られていた。
アホだな、本当に。
※中秋の名月はかぐや姫が月へ帰った日。
今日は中秋の名月で、こういった風流なイベント事は欠かさないオヤジの為に月見料理を作ったり、ビニール手袋着用して団子を大量に捏ねたりと既に忙しい所へ、焼き芋が追加され更に忙しくなった。
ただの焼き芋ならレンジかフライパンで出来るのだが、オヤジが所望するのは落ち葉で焼く焼き芋。
大慌てで庭の落ち葉をかき集めるのと同時進行で、毎年大量消費される料理の準備をしなくてはならず、人手が足りない。
あまり大人数でやれば、なにもしていないのにヒーローや一般人にいちゃもんをつけられかねないので、部屋住みの連中と私たちで選んだ人間しかおらず、人手が本当に冗談抜きで圧倒的に足りない。
「クロノ、もういい! アホの手も借りろ!」
廻の指示に、瞬時にケータイでアホだが落ち葉集め位はできるアホに「焼き芋と月見料理食べさせてやるから手伝いに来い」とメッセージを送れば、十数分後にはしっかり手土産の酒を持ってアホが現れた。
「呼ばれて飛び出てビビディ・バビディ・ブー! ご飯が食べられると聞いちゃ、黙ってられない! お手伝い来ちゃったよー!」
この、忙しくてイライラしている時に聞きたくない登場の仕方だ。
一回ど突いてやりたい気持ちを抑え込み「落ち葉集めて来い! 指示は音本に聞け!」と手早く伝えれば、酒を置いて「ヨーソロー!」と言いながら台所から出て行った。
窃野が「あの人、本当に大丈夫ですか?」と不安そうに聞いてきたが、それは頭についてなのか、あの歳であのテンションでこの先の人生大丈夫かという事なのか、その両方なのか知らないが、大丈夫。
ネジが飛んでいる様で、意外としっかりと止まっている狂人を装った常人だから。
「狂人だったら、そもそも呼んでやしないですから」
料理の手を止めない私の言葉に、窃野は「それもそうっすね」と納得してくれた。
これで納得したという事は、やはり頭の方を心配されていたのだろう。
料理作りもひと段落したので、少し遅い昼休憩にと適当におむすびを作り、焼き芋班へ声をかけに行ったら珍妙な歌が聴こえてきた。
この歌は……。
――ほっくほっくお芋 美味しいお芋 きんきんきんいろ こがねいろ 銀色包みにつつまれて 中からでてきた きんいろもなか 袖の下を通しましょう そいや そいや♪
もう、どこからツッコミを入れればいいのかわからない歌詞の上、絶妙に不安を煽る音の外し方をしている。
これ、近所から苦情とか来やしないだろうか……。
庭へ行けば強面連中の顔が青くなっていた。
慣れていないと、あの不安になる珍妙な歌は精神に障るだろうに。私も初めて聞いた時は気がふれるかと思ったものだ。
今は耐性ができてしまい、聞き流せる様になったが。
近くにいた音本に進捗を聞けば、目元だけでもわかる青い顔で「落ち葉集めは順調だが、彼女の歌で数人体調を崩している」と報告を受けた。
やはり、呼ぶべきではなかったか……。
「その、若のご友人をこんな風に言うのは憚られるが、彼女は大丈夫なのか?」
「心も頭も正常です。あれは奇病か特殊能力の類ですよ。あと、オーバーホールはあれを友人だと思ってないですから、安心していいです」
実験動物や使い走りの枠組みに入っても、友人の枠組みに入れる事は一生ないだろう。
尚も歌い続けるアホの頭を「やめろ」と言いながら、思い切り引っ叩けばピタリと止まる。
「補佐、いくらなんでも女性の頭を叩くのはよくない」
紳士的な音本の発言に「こいつは一度叩かないと歌い続けやすよ」と教えてやれば、それ以上はなにも言わず黙った。
「人様に迷惑かかるから、その即興ソングやめろといつも言ってるだろ」
米神部分に手根部を押し当て、ぎちぎちと力を入れ挟めば人間とは思えない悲鳴をあげた。
「それで、ちゃんと手伝ったんだろうな?」
「おうとも! ほら、ちゃんと集まった! あとは、お芋とトウモロコシとみかんだね!」
「トウモロコシとみかんは要らない。芋買ってこい」
「ラジャスタン!」
千円札を数枚入れた財布を渡し、お使いに行かせようと思ったが一応、「余計な物を買うなよ」と忠告すると、すぃーと右上に視線を泳がせた。
「……まぁ、別に買っても私は怒らないよ」
「本当に?」
「私は、な。オーバーホールは……わかるだろ?」
昔、廻を怒らせた時の事を思い出したのか「ひぇ」と小さな悲鳴をあげた。
「わかったら、駆け足で買って来い。Hurry up.」
「うーっす」
渋っていたので若干の不安はあったが、廻の躾の賜物かしっかりと言われた物と足りなくなりそうな食材も買って帰って来たので、褒美として頭を撫でてやった。
「先に焼き芋してていいぞ。ただし、お前は食べるの専門だ。手出しは絶対にするな」
「なんで?」
「学生時代に学校でやった焚火で、栗を仕込んで大惨事をを引き起こしたのを覚えているか……?」
「薄っすら」
「薄っすら……?」
「ごめんなさい、鮮明に覚えてます。あれは私もびっくりした。なにもしません」
指切りをして約束はさせたが、保険で乱波に「絶対に焚火に近寄らせないでください」と見張り役を命じて台所に戻ろうとしたのに、即座に「ファイアー!」と不安になる雄叫びが聞こえてきたから、短針を肩に刺して強制的に大人しくさせた。
怪我は後で廻にでも治してもらえ。
その後、やんちゃが過ぎた所為で廻に傷を治して貰えず、片腕で蛮族の様に焼き芋を貪り食べていたアホの傷の手当てをしてから、月見料理を用意したらやっと一息つき、月見の宴が始まった。
先程まで焼き芋を食べていた人間とは思えない食欲で里芋の煮物を頬張るアホ。
あの珍妙な歌と言い、謎のテンションと言い、この異常なまでの食欲と言い、本当に人間かと疑いたくなる。
「どうかした? はっ! もしや、芋煮の煮汁こぼしてる?!」
自分の服を確認するアホに「こぼしてない。ただ、お前は本当に人間かと思っただけだ」と言いながら、口元についた煮汁をティッシュで拭いてやる。
私の言葉に、にやぁ、と笑いながら「遂に気が付いちゃったかい?」と言いだす。
アホなショートコントが始まる気配を察知した。
「実はね、私は月の住人なんだよ」
「じゃあ、今日はお迎えが来るな。中秋の名月だし」
「ねー。まぁ、冗談だけど。正真正銘、地球人で日本人だよ」
「知ってる」
冗談以外になにがあると思ってるんだ、こいつ。
「けど、私より玄野くんの方がかぐや姫が似合いそうだよね。なんか、儚い! 私はアレ! 帝の兵やりたい!」
「モブの上、なにもしないじゃないか」
「私にお似合いでしょ?」
こんな自己主張の激しい兵は絶対に嫌だ。
訳のわからない謎の口上を延々と述べながら、呆気に取られている間に突然切りかかってきそうだし。
「私がかぐや姫なら、翁と媼はオヤジと廻か?」
「そうなるね。玄野くんが帰らない理由なんて、二人しかないでしょ?」
「そこに自分を含まないんだな、お前は」
「なんで私が含まれるの? 私なんて、そこら辺の女と変わりないでしょ。玄野くんを引きとめる要因になる訳ないじゃん」
「まぁな。けど、そこら辺の女みたいに、自分は私に受け入れられた特別な存在だと驕らない所は、好感を持ってるよ」
普通だったら、この場に呼ばれた時点で自分は特別だと勘違いすると思うが、自分を石ころだと認識しているのは好感度が高い。
その分、あの珍妙な歌で好感度が下がっているけれども。
「私はお前の事をハムスター位にしか思ってないが、お前はどうなんだ? 嫌じゃないのか?」
「玄野くんとサヨナラするのがって事? そりゃ、嫌だけどさ。本人が決めた事には口出ししたくないから。言った所で聞き入れられる訳でもないし、縋ったって『五月蝿い』て言って足蹴りするでしょ? 金色夜叉みたいに」
「するな、確実に」
「でしょー? まぁ、本当に月へ帰るのを止めたかったら治崎くんにお願いするよ。地球外生命体となんて戦えないし」
「廻でも、地球外生命体には勝てないだろ」
「いやぁ、勝てるよ。あの、物理でなんでも解決☆マジカル撲殺バスターゴリラ治崎くんなら」
「誰が撲殺バスターゴリラだ」
通りすがった廻の、私とは比べ物にならない威力の拳骨を食らい彼女の手から危うく里芋の煮物が落ちかけたが、ギリギリ持ちなおした。
「そうだね、ゴリラは可愛くないね。クマの方がいいか」
論点の違う部分に訂正を入れ、追撃でもう一発殴られていた。
アホだな、本当に。
※中秋の名月はかぐや姫が月へ帰った日。