短編
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日焼けが嫌いだった。
小学生の頃。
同じ学年の男子たちは真っ黒に焼けているのに、私は体質的に黒くならず赤くなるだけ。
黒くなりたいわけじゃないが、真っ白な肌を男子たちが「女みたいだ」と馬鹿にしてくるのが腹立たしい事この上なかった。
今はまだ日焼けした自分に酔いしれているだけで済んでいるが、後々、シミ、そばかす、発癌など悪影響を及ぼすのに、哀れだな。
「針くんは肌真っ白でいいね」
夏休みのプール授業の帰り、プールに外遊びにと真っ黒に焼けた同じクラスの女子が、羨ましそうに私の腕をつつきながら言った。触るな。
「そんなに日焼けしたくないなら、サンブロックでも塗ればいいじゃないですか」
「やだ、横文字。オシャレ……意味は解らないけど……」
「横文字でお洒落って、ハードル低すぎやせんか……。日焼け止めの事です」
「なーる。私も欲しいんだけどさ、お小遣いはお菓子で消えちゃうし、ママは『小麦色の肌の方が健康的でモテるのよ』て言って買ってくれないし……」
「あんたの親はどこの時代を生きてるんですかい……」
今時、褐色の肌なんてそう流行らないし日焼けは健康的とは言い難いと思うが……。
「大人になったらシミとかに悩まされやすし、人の好みにもよりやすが肌は白い方がモテると思いやすよ」
「やっぱりー? ちなみに、針くんは白いのと黒いのどっちが好き?」
「白」
「有力情報ゲット! 女子に売りつけて、日焼け止めの足しにしよう!」
「人をだしにして金儲けするなんて、あくどい事しやすね。情報料として売り上げの六割頂きやしょうか」
「半分以上じゃん! 待って、私、割合の計算まだちゃんとわかってないの!」
「私が計算してあげやすよ。追加で一割、割増料金頂きやすね」
「増えてるし! そんなんされたら、買えないじゃん!」
ぴーぴーと文句を言う彼女に、「人を使うならそれ相応の対価を払うのは常識ですよ」と、世の中の厳しさを突きつければ「はーい」と唇をとがらせて拗ねた。
「うぅ、でもこれ以上は焼けたくない……」
「そうですね、それ以上焼けると炭ですよ。スミぱん」
「やめて、怖い」
哀愁を露骨に漂わせ帰っていく彼女の背中を見ながら、女性でスミぱんになるのは流石に可哀想だとは思う。が、私には関係のない事だ。
彼女がスミぱんになろうとも、この先、私に関係してくる事象じゃない。
さっさと帰って宿題をしようと、家路についた。
「……」
数日後、プールバッグにとある物を忍ばせ、廻に先に行くと言ってから学校へ行けば、既にワクワクした顔で更衣室が開くのを待ち構えている目的の人物がいた。
「おはようございます」
「おはよう、針くん! どうしたの、珍しいね? いつも渋々ギリギリに来てるのに」
「今日はあなたに用事がありやしてね。授業が始まってからじゃ遅いんで」
そう言いながら、鞄の中に入れていた日焼け止めスプレーを差し出す。
私と日焼け止めスプレーを交互に見つめてから小首を傾げる彼女に「あげやす」と言えば顔を輝かせた。
「いいの!?」
「えぇ。使ったんですが、肌に合わなかったんで。使いかけでよければですが」
「わー! 全然いいよ! ありがとう! 柄も可愛い!」
無駄にはしゃぐ彼女に、「使い方わかりやすか?」と一応尋ねれば、しょんもりとした顔をされた。
まぁ、そうですよね。今まで使った事がないわけですし。
「これ、スプレータイプなんで、ちょっと離れた場所から散布するんです。ムラなくかかるんで、大雑把なあんたでも塗り残しも少ないですし、水も弾くんでプールでも使えやすよ」
試しに、腕へとスプレーをかければ「凄い! ありがとう!」と腕を掲げて嬉しそうに礼を言われた。
「これ、なんだかいい匂いするね。レモン?」
クンクンと犬の様に匂いを嗅ぐので、「シトラスの香り付きですよ」と言えば「オシャレだ!」とはしゃぐ。
「今回は特別サービスですよ」
「ありがとー!」
「ほら、更衣室開きましたよ。行きなさい」
「本当にありがとうね、針くん! これで日焼けとはおさらばだ! やふー!」
テンション高く更衣室へと消えていく彼女を見送っていたら、いつの間にやら背後に忍び寄っていた廻が「なにが使いかけだ。未使用だろ、あれ」と言ってきた。
「そうだけど、内緒にしておいてくれよ。廻」
「別に言うつもりはないはないが、理由がわからん。人に物をわざわざ買ってやるタイプじゃないだろ、お前」
「まぁ、普段ならな。彼女、律儀な人だから恩でも売っておけばそのうち倍返しにしてくれるかと思っただけだ」
「特別サービスはどうした」
「嫌だなぁ。特別にサービスであげるが、誰もタダでとは言ってないじゃないか。勿論、対価は必ずどこかで払わせるつもりだ。それが世の常だろ?」
自覚を持って悪い笑みを浮かべる私の言葉に、廻は控えめに笑いながら「随分とあこぎな商売をするな」と言うから、私たちはやはり似た部分がある。
「いい玩具になりそうだろ?」
「あぁ、同感だ」
後々、この一本の日焼け止めスプレーで私たちの玩具になるとは知らない彼女は、今日も陽射しを浴びながらキラキラと輝き続ける。
その輝きをどうやって奪ってやろうか考えるだけで、今から楽しくなってしまうな。
※『スミぱん』
こげぱんという絵本に出てくるキャラクター。
焦げすぎて炭以外の何者でもない。声帯はくじらさん。
小学生の頃。
同じ学年の男子たちは真っ黒に焼けているのに、私は体質的に黒くならず赤くなるだけ。
黒くなりたいわけじゃないが、真っ白な肌を男子たちが「女みたいだ」と馬鹿にしてくるのが腹立たしい事この上なかった。
今はまだ日焼けした自分に酔いしれているだけで済んでいるが、後々、シミ、そばかす、発癌など悪影響を及ぼすのに、哀れだな。
「針くんは肌真っ白でいいね」
夏休みのプール授業の帰り、プールに外遊びにと真っ黒に焼けた同じクラスの女子が、羨ましそうに私の腕をつつきながら言った。触るな。
「そんなに日焼けしたくないなら、サンブロックでも塗ればいいじゃないですか」
「やだ、横文字。オシャレ……意味は解らないけど……」
「横文字でお洒落って、ハードル低すぎやせんか……。日焼け止めの事です」
「なーる。私も欲しいんだけどさ、お小遣いはお菓子で消えちゃうし、ママは『小麦色の肌の方が健康的でモテるのよ』て言って買ってくれないし……」
「あんたの親はどこの時代を生きてるんですかい……」
今時、褐色の肌なんてそう流行らないし日焼けは健康的とは言い難いと思うが……。
「大人になったらシミとかに悩まされやすし、人の好みにもよりやすが肌は白い方がモテると思いやすよ」
「やっぱりー? ちなみに、針くんは白いのと黒いのどっちが好き?」
「白」
「有力情報ゲット! 女子に売りつけて、日焼け止めの足しにしよう!」
「人をだしにして金儲けするなんて、あくどい事しやすね。情報料として売り上げの六割頂きやしょうか」
「半分以上じゃん! 待って、私、割合の計算まだちゃんとわかってないの!」
「私が計算してあげやすよ。追加で一割、割増料金頂きやすね」
「増えてるし! そんなんされたら、買えないじゃん!」
ぴーぴーと文句を言う彼女に、「人を使うならそれ相応の対価を払うのは常識ですよ」と、世の中の厳しさを突きつければ「はーい」と唇をとがらせて拗ねた。
「うぅ、でもこれ以上は焼けたくない……」
「そうですね、それ以上焼けると炭ですよ。スミぱん」
「やめて、怖い」
哀愁を露骨に漂わせ帰っていく彼女の背中を見ながら、女性でスミぱんになるのは流石に可哀想だとは思う。が、私には関係のない事だ。
彼女がスミぱんになろうとも、この先、私に関係してくる事象じゃない。
さっさと帰って宿題をしようと、家路についた。
「……」
数日後、プールバッグにとある物を忍ばせ、廻に先に行くと言ってから学校へ行けば、既にワクワクした顔で更衣室が開くのを待ち構えている目的の人物がいた。
「おはようございます」
「おはよう、針くん! どうしたの、珍しいね? いつも渋々ギリギリに来てるのに」
「今日はあなたに用事がありやしてね。授業が始まってからじゃ遅いんで」
そう言いながら、鞄の中に入れていた日焼け止めスプレーを差し出す。
私と日焼け止めスプレーを交互に見つめてから小首を傾げる彼女に「あげやす」と言えば顔を輝かせた。
「いいの!?」
「えぇ。使ったんですが、肌に合わなかったんで。使いかけでよければですが」
「わー! 全然いいよ! ありがとう! 柄も可愛い!」
無駄にはしゃぐ彼女に、「使い方わかりやすか?」と一応尋ねれば、しょんもりとした顔をされた。
まぁ、そうですよね。今まで使った事がないわけですし。
「これ、スプレータイプなんで、ちょっと離れた場所から散布するんです。ムラなくかかるんで、大雑把なあんたでも塗り残しも少ないですし、水も弾くんでプールでも使えやすよ」
試しに、腕へとスプレーをかければ「凄い! ありがとう!」と腕を掲げて嬉しそうに礼を言われた。
「これ、なんだかいい匂いするね。レモン?」
クンクンと犬の様に匂いを嗅ぐので、「シトラスの香り付きですよ」と言えば「オシャレだ!」とはしゃぐ。
「今回は特別サービスですよ」
「ありがとー!」
「ほら、更衣室開きましたよ。行きなさい」
「本当にありがとうね、針くん! これで日焼けとはおさらばだ! やふー!」
テンション高く更衣室へと消えていく彼女を見送っていたら、いつの間にやら背後に忍び寄っていた廻が「なにが使いかけだ。未使用だろ、あれ」と言ってきた。
「そうだけど、内緒にしておいてくれよ。廻」
「別に言うつもりはないはないが、理由がわからん。人に物をわざわざ買ってやるタイプじゃないだろ、お前」
「まぁ、普段ならな。彼女、律儀な人だから恩でも売っておけばそのうち倍返しにしてくれるかと思っただけだ」
「特別サービスはどうした」
「嫌だなぁ。特別にサービスであげるが、誰もタダでとは言ってないじゃないか。勿論、対価は必ずどこかで払わせるつもりだ。それが世の常だろ?」
自覚を持って悪い笑みを浮かべる私の言葉に、廻は控えめに笑いながら「随分とあこぎな商売をするな」と言うから、私たちはやはり似た部分がある。
「いい玩具になりそうだろ?」
「あぁ、同感だ」
後々、この一本の日焼け止めスプレーで私たちの玩具になるとは知らない彼女は、今日も陽射しを浴びながらキラキラと輝き続ける。
その輝きをどうやって奪ってやろうか考えるだけで、今から楽しくなってしまうな。
※『スミぱん』
こげぱんという絵本に出てくるキャラクター。
焦げすぎて炭以外の何者でもない。声帯はくじらさん。