短編

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鬼徹主
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春になると必ず彼女と訪れている、組が所有する桜の群生地。
別段、彼女自体は桜が好きなわけではないと話していて、なら、なぜいつもそんなに楽しそうに歩くのかと尋ねれば「玄野さんが一番綺麗に見える場所なので」と言いながら、指でフレームを作り私を写していた。
今年も、楽しそうに軽い足取りで桜の花びらの中を進む彼女の背中は、いつ見ても瞬きをした瞬間に消えてしまいそうな気がしてしまう。
殺しても簡単には死なないくらい元気な人間なのに、どうしてそんな印象を持つのかわからない。
けれども、見失ってはいけない、目を離してはいけないと思ってしまうのだ。

「あんまり離れるなよ」
「どうしてですか?」
「桜にさらわれても知らないからな」
「なんですか、それ。玄野さんは相変わらず、ロマンチストですね」

ケタケタと子供みたいに笑う彼女につられて笑い、確かに桜にさらわれるは、我ながら恥ずかしい言い方だったな。

「そうだな、お前が桜程度にさらわれる筈もないか」
「酷い言い方」
「お前をさらえるなんてきっと……」

きっと、なんだったか……。
なにか一瞬、忘れていた事を思い出しそうになったけれども、上手く思い出せない。
思い出そうと彼女から視線を外したが直ぐに、思い出せないなら大した事ではないと考えるのをやめ、視線を戻すがそこには只々桜が舞い散っているだけだった。
自分の脈拍が耳へ直に響き渡り、緊張で口が渇く。
彼女の名前を大声で呼び「どこにいるんだ!」と叫べば、一本の桜の木の上から彼女が「どうしました?!」と言いながら顔を出した。
なんでそんな所にいるんだ!猿か、お前は!
怒鳴りたい気持ちもあったが、なによりも安堵の気持ちの方が大きかった。

「よかった……」
「どうしました、玄野さん。本当に私が消えると思ったんですか?」

桜の木から降りて心配そうに私の顔を覗き込む彼女に、「少し」と正直に言えば意外そうな顔をしてから嬉しそうに微笑み「私は消えませんよ。玄野さんが受け入れて、そう願うまでは」と言った。

「まるで、もういないみたいな言い方だな」
「そう聞こえました?ごめんなさい」
「いいよ、別に」

許してやれば、「よかった」と安堵して、また軽い足取りで桜の中を歩いて行く。
平和だ。この先も、この平和な光景を見ていたい。


桜の花びらが舞う虚空を、幸せそうに見つめては一人で話すクロノを、オヤジと一緒に不憫に思いながら見守る。

「まだ、受け止めきれねェんだろうな、玄野は」
「話を聞く限りじゃあ、相変わらず幻覚を見てるみたいだ」

その幻覚の女が死んでから、三年も経つのにな。
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