短編
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人からはよく、お人好しだと言われる。
たしかに、困っていたら手を差し伸べてしまうし、頼まれごとも断れないが、お人好しと言われるほどではないと思う。
現に、往来の激しい公道でうつ伏せになりピクリとも動かないピンク髪の男性に、声をかけるべきかどうか悩んでいる。
これが極一般的な髪色ならば迷わずいけるのだが、ピンクか……そうか……。
いや、見た目で判断すべきではないけれども……。
悩んで、悩んで、悩み抜き、人目がある場所なら大丈夫かな、と思い声をかけることにした。
「あの、大丈夫ですか?体調悪いようでしたら、救急車呼びましょうか?」
「……か?」
「え?」
「俺を……心配してくれるのか……?」
ゆっくりと起き上がり、顔を上げた男性は涙に濡れていても綺麗だと思える顔ではあったが、目が完全にイッている。
焦点の合わない目に、「これ、話しかけたらダメなやつだったな」と後悔する。
しかし、もう話しかけてしまった手前、引くに引けない。
「その……こんなところで寝てると、よくないですよ?」
「そうだな、そうだな。どっか入って話そうぜ」
「え、いや、体調大丈夫なようでしたら、私は帰りますね」
「いまダメになった。誰か側にいて手握っててくれねえと、もう一歩も動けねえ」
嘘じゃん、とは思うが、こんな目に涙を浮かべすがられてしまうと、断りづらい。
「わかりました、落ち着くまでいます」
「よっしゃー!じゃあ、ホテル行こうぜ!」
「帰ります」
さすがの私でも、それがアウトなことはわかる。
急いで踵を返し逃げ出そうとしたが、「はぁ?!そういう目的じゃなかったのかよ!」と言いながら腕を掴まれた。
「人が道端に倒れてたら、声くらいかけます!」
「え……じゃあ、マジで心配して声かけてくれたのか……?」
「だから、そう言ってるじゃないです……か……」
「……」
目の前で大粒の涙を流しだした男性。
ぎょっ、として思わず「大丈夫ですか?」と聞くと、べそをかきながら「久しぶりに人から優しくされたからよぉ……。嬉しくて……」と言うから、可哀想になってしまう。
「会社じゃ、ゴミとかクズとかヤク中とか言われて雑に扱われてさあ……。俺だってがんばってんのに……」
「それは、イジメでは……」
「最近、誰にも名前呼ばれてない気がすんだよな……」
「えぇ……」
「なあ、名前。呼んでくんね?春千夜って……」
どうしようか、とも思ったが、あまりにも可哀想だし、名前くらいならと「春千夜さん」と呼ぶと、「ゔぇぁ〜。明日もがんばる……!」と大号泣し、私の手を離して「また明日な」と言って雑踏にまぎれた。
明日?と疑問に思いつつも、翌日には忘れて帰りの電車の改札を出ると、「みーつーけーたー!」と迷惑なボリュームの声が響いた。
誰だろうと声の方を向くと、昨日のピンク髪の男性が手を振り回しながら、真っ直ぐこちらに向かってくる。
う、うわぁ……。
「よぉ。仕事、お疲れさん」
「ありがとうございます。今日は元気そうですね、春千夜さん」
「俺を心配してくれんのは、オマエくらいだ……。もっと呼んでくれ」
「春千夜さん」
「ゔぇぁ……好き……」
名前を呼ばれただけで好きになるだなんて、こんなに綺麗な顔をしているのにモテないのだろうかと思ったが、そりゃ、公道でぶっ倒れるような奇行をする人がモテるわけないか。
私も、こうなるとわかっていたら声はかけなかった。
「なあ、食事行こうぜ、食事!」
「すみません、持ち合わせがなくて」
「俺が奢るに決まってんだろ。肉?寿司?中華?」
ダメだ、この人。人の話を聞かないし深読みもしないタイプだ。
明日も仕事だしさっさと帰りたい私は、よく行くラーメン屋さんのラーメンが食べたいと言うと、「謙虚、好き」と無駄に好感度をあげてしまった。
私がラーメンを食べている間も、「一生懸命食べて、可愛いな〜」と一挙手一投足褒めてくる。
なにをしても褒めてくるから、この人の彼女は自己肯定感増々になることだろう。
まあ、私は彼女どころか友人にすらなりたくもないのだが。
「あー!美味かったな!」
「気に入ってもらえて、よかったです」
「明日は俺のお気に入りの店、連れてってやるな。もちろん、奢るから」
えっ、明日も?!なんで?!と思ってしまい、ついうっかり、そのまま口にしていた。
春千夜さんは見る間にしょげていき、「嫌か……?」と聞かれてしまった。
嫌かどうかで言えば、嫌だ。
しかし、はっきり言うとまた泣かせてしまいそうだしな……。
「えっと……ほら、そんなよくしてもらう理由がないですし」
「俺のことを心配してくれて、俺の名前を読んでくれるだけで、理由なんて十分だろ」
「春千夜さん、大丈夫ですか?マルチ商法に引っかかってませんか?」
あまりのチョロさに心配すると、「ほら、そうやって俺のこと心配してくれる……好きだ……」と、また無闇に好感度が上がる。
「金でもヤリ目的でもなく、純粋に心配してくれるのが嬉しいんだよ」
「は、はぁ……。だとしても、そんな何度も奢ってもらうのは気が引けます」
「安心しろよ。将来的に全部面倒見てやるから」
「一体、どこまで展望を見据えているんですか?!」
「墓場まで」
「怖いですよ!」
ダメだ、このままでは一生この人に絡まれる気がする。
「とにかく、これきりにしてください」
「じゃあ、もう会えねえのか……?」
捨て犬のような顔をする春千夜さんに、私の有り余る良心が刺激される。
「友だちからとかでも……ダメか?」
「あ……あ……あー……」
Noと言えない人種であることを、今日ほど後悔したことはない。
友だちとしてなら、と了承してしまった私に、春千夜さんは喜々としてアドレス交換をしてきた。
「愛してる」の一文と一緒に添えられていた三途春千夜という名前に、失礼ながら縁起でもない苗字だなと思いつつ、「よろしくお願いします」の一文と名前を添えて返すと、嬉しそうに「撫子!」と私の名前を呼んだ。
「家まで送ってく」
「そこまでしてもらわなくて、大丈夫ですよ」
「バッカ、オマエ!自分がどんだけ優しくて可愛いか、理解しろよ!変なやつに引っかかったらどうすんだよ!」
オマエが言うか、という気持ちはさて置き、一生懸命心配してくれているのに、無下にするのはな……。と良心が痛む。
「そ、それに……。もうちょっと一緒にいてぇんだよ……」
モジモジと恥ずかしそうに言われ、可愛いことを言う。と絆されてしまい、「じゃあ、お願いします」と言っていた。
他愛もない雑談をしながら家まで送ってもらい、「ありがとうございます。おやすみなさい、春千夜さん」と言うと、目を丸くしたあとに幸せそうな顔で「おやすみ、撫子」と返して私が部屋に入るまでその場から動かなかった。
変な人ではあるが、悪い人ではないかも知れない。
やはり、私の判断は間違っていなかったのだ。
◆
撫子が入っていった部屋を確認した。
別に調べ上げりゃ、いくらでも情報は出てくる。
けど、変なとこでボロはだしたくなかった。
これから、ゆっくり、色んな情報を本人の口から聞いて、安心させて、それで……それで……。
「オマエは俺のモンだ、撫子……」
墓場まで一緒だぜぇ……。
たしかに、困っていたら手を差し伸べてしまうし、頼まれごとも断れないが、お人好しと言われるほどではないと思う。
現に、往来の激しい公道でうつ伏せになりピクリとも動かないピンク髪の男性に、声をかけるべきかどうか悩んでいる。
これが極一般的な髪色ならば迷わずいけるのだが、ピンクか……そうか……。
いや、見た目で判断すべきではないけれども……。
悩んで、悩んで、悩み抜き、人目がある場所なら大丈夫かな、と思い声をかけることにした。
「あの、大丈夫ですか?体調悪いようでしたら、救急車呼びましょうか?」
「……か?」
「え?」
「俺を……心配してくれるのか……?」
ゆっくりと起き上がり、顔を上げた男性は涙に濡れていても綺麗だと思える顔ではあったが、目が完全にイッている。
焦点の合わない目に、「これ、話しかけたらダメなやつだったな」と後悔する。
しかし、もう話しかけてしまった手前、引くに引けない。
「その……こんなところで寝てると、よくないですよ?」
「そうだな、そうだな。どっか入って話そうぜ」
「え、いや、体調大丈夫なようでしたら、私は帰りますね」
「いまダメになった。誰か側にいて手握っててくれねえと、もう一歩も動けねえ」
嘘じゃん、とは思うが、こんな目に涙を浮かべすがられてしまうと、断りづらい。
「わかりました、落ち着くまでいます」
「よっしゃー!じゃあ、ホテル行こうぜ!」
「帰ります」
さすがの私でも、それがアウトなことはわかる。
急いで踵を返し逃げ出そうとしたが、「はぁ?!そういう目的じゃなかったのかよ!」と言いながら腕を掴まれた。
「人が道端に倒れてたら、声くらいかけます!」
「え……じゃあ、マジで心配して声かけてくれたのか……?」
「だから、そう言ってるじゃないです……か……」
「……」
目の前で大粒の涙を流しだした男性。
ぎょっ、として思わず「大丈夫ですか?」と聞くと、べそをかきながら「久しぶりに人から優しくされたからよぉ……。嬉しくて……」と言うから、可哀想になってしまう。
「会社じゃ、ゴミとかクズとかヤク中とか言われて雑に扱われてさあ……。俺だってがんばってんのに……」
「それは、イジメでは……」
「最近、誰にも名前呼ばれてない気がすんだよな……」
「えぇ……」
「なあ、名前。呼んでくんね?春千夜って……」
どうしようか、とも思ったが、あまりにも可哀想だし、名前くらいならと「春千夜さん」と呼ぶと、「ゔぇぁ〜。明日もがんばる……!」と大号泣し、私の手を離して「また明日な」と言って雑踏にまぎれた。
明日?と疑問に思いつつも、翌日には忘れて帰りの電車の改札を出ると、「みーつーけーたー!」と迷惑なボリュームの声が響いた。
誰だろうと声の方を向くと、昨日のピンク髪の男性が手を振り回しながら、真っ直ぐこちらに向かってくる。
う、うわぁ……。
「よぉ。仕事、お疲れさん」
「ありがとうございます。今日は元気そうですね、春千夜さん」
「俺を心配してくれんのは、オマエくらいだ……。もっと呼んでくれ」
「春千夜さん」
「ゔぇぁ……好き……」
名前を呼ばれただけで好きになるだなんて、こんなに綺麗な顔をしているのにモテないのだろうかと思ったが、そりゃ、公道でぶっ倒れるような奇行をする人がモテるわけないか。
私も、こうなるとわかっていたら声はかけなかった。
「なあ、食事行こうぜ、食事!」
「すみません、持ち合わせがなくて」
「俺が奢るに決まってんだろ。肉?寿司?中華?」
ダメだ、この人。人の話を聞かないし深読みもしないタイプだ。
明日も仕事だしさっさと帰りたい私は、よく行くラーメン屋さんのラーメンが食べたいと言うと、「謙虚、好き」と無駄に好感度をあげてしまった。
私がラーメンを食べている間も、「一生懸命食べて、可愛いな〜」と一挙手一投足褒めてくる。
なにをしても褒めてくるから、この人の彼女は自己肯定感増々になることだろう。
まあ、私は彼女どころか友人にすらなりたくもないのだが。
「あー!美味かったな!」
「気に入ってもらえて、よかったです」
「明日は俺のお気に入りの店、連れてってやるな。もちろん、奢るから」
えっ、明日も?!なんで?!と思ってしまい、ついうっかり、そのまま口にしていた。
春千夜さんは見る間にしょげていき、「嫌か……?」と聞かれてしまった。
嫌かどうかで言えば、嫌だ。
しかし、はっきり言うとまた泣かせてしまいそうだしな……。
「えっと……ほら、そんなよくしてもらう理由がないですし」
「俺のことを心配してくれて、俺の名前を読んでくれるだけで、理由なんて十分だろ」
「春千夜さん、大丈夫ですか?マルチ商法に引っかかってませんか?」
あまりのチョロさに心配すると、「ほら、そうやって俺のこと心配してくれる……好きだ……」と、また無闇に好感度が上がる。
「金でもヤリ目的でもなく、純粋に心配してくれるのが嬉しいんだよ」
「は、はぁ……。だとしても、そんな何度も奢ってもらうのは気が引けます」
「安心しろよ。将来的に全部面倒見てやるから」
「一体、どこまで展望を見据えているんですか?!」
「墓場まで」
「怖いですよ!」
ダメだ、このままでは一生この人に絡まれる気がする。
「とにかく、これきりにしてください」
「じゃあ、もう会えねえのか……?」
捨て犬のような顔をする春千夜さんに、私の有り余る良心が刺激される。
「友だちからとかでも……ダメか?」
「あ……あ……あー……」
Noと言えない人種であることを、今日ほど後悔したことはない。
友だちとしてなら、と了承してしまった私に、春千夜さんは喜々としてアドレス交換をしてきた。
「愛してる」の一文と一緒に添えられていた三途春千夜という名前に、失礼ながら縁起でもない苗字だなと思いつつ、「よろしくお願いします」の一文と名前を添えて返すと、嬉しそうに「撫子!」と私の名前を呼んだ。
「家まで送ってく」
「そこまでしてもらわなくて、大丈夫ですよ」
「バッカ、オマエ!自分がどんだけ優しくて可愛いか、理解しろよ!変なやつに引っかかったらどうすんだよ!」
オマエが言うか、という気持ちはさて置き、一生懸命心配してくれているのに、無下にするのはな……。と良心が痛む。
「そ、それに……。もうちょっと一緒にいてぇんだよ……」
モジモジと恥ずかしそうに言われ、可愛いことを言う。と絆されてしまい、「じゃあ、お願いします」と言っていた。
他愛もない雑談をしながら家まで送ってもらい、「ありがとうございます。おやすみなさい、春千夜さん」と言うと、目を丸くしたあとに幸せそうな顔で「おやすみ、撫子」と返して私が部屋に入るまでその場から動かなかった。
変な人ではあるが、悪い人ではないかも知れない。
やはり、私の判断は間違っていなかったのだ。
◆
撫子が入っていった部屋を確認した。
別に調べ上げりゃ、いくらでも情報は出てくる。
けど、変なとこでボロはだしたくなかった。
これから、ゆっくり、色んな情報を本人の口から聞いて、安心させて、それで……それで……。
「オマエは俺のモンだ、撫子……」
墓場まで一緒だぜぇ……。