今日も授業に調べ物に、クルーウェル先生の雑用と忙しない一日だった。まったく、あの先生は人の使い方が荒いったらない。
さあさあ、今日はもうお風呂も済ませたしさっさと寝よう。
はあ、眠い、ねむ……くない！
ダメだ、調子にのって調べ物に耽った所為で脳味噌が覚醒状態に入ってしまい、眠気が寝ている。
私より先に寝るとはどういうことだ、眠気。
しかも、ちゃんとした夕飯をとっていない所為でお腹が減ってしかたがない。
いまから急げば、まだサムさんが起きていて食べ物を買えるのでは。
いや、しかし、もし万が一クルーウェル先生に見つかると、物理的にも比喩的にも雷が落ちる。
クルーウェル先生に怯え、空腹を耐えるか。クルーウェル先生に立ち向かい、胃袋を満たすか。
悩んだ所為で頭を使い更にお腹が減り、なりふり構っていられず、上着を羽織り駆け出した。
右見て、左見て、よし。先生は誰もいない。サムさんの店まであと少し！というところで、目の前に羽音をたて舞い降りたのは。

「こらー！もう、消灯時間はとっくに過ぎていますよ！」
「ひょえ！学園長！」

神秘的な登場とは正反対に、喧しい声にびくっ！としてしまった。

「しかも、貴方それパジャマじゃないですか！そんなはしたない格好で出歩くなんて！」
「学園長、お願いです！見逃してください！」
「ダメです！さあさあ、送ってあげますから寮に帰りますよ！」

学園長の魔の手から逃げようとした瞬間、私の腹からモンスターでも飼っているのか？というような音が鳴り響く。
学園長もそれを聞いて、「あー……」と憐れそうな顔をしたので、「学園長……」と媚びを売って許してくれないかと試みる。

「どれだけ、お腹が空いているんですか」
「すごく……」
「この時間に食事をとると、逆に眠れなくなりますが……」

またも凄まじい腹の音が鳴り響き、学園長も悩みに悩んで「今回だけですよ」と言ってくれた。
やったー！学園長大好きー！と手放しで喜べば、「安い“大好き”ですね」と言いながら、ぽんぽん、と頭を叩き「来なさい」と言うので素直に着いていけば、大食堂に入り、そのまま厨房に入っといく。
なにをするんだろうと見ていると、冷蔵庫からハムとトマト、レタスをとりだし、食パンを切り分け、手際よくサンドイッチを作り「お食べなさい」と出してくれた。

「あまり、胃に負担がかかりすぎる物はよくありませんからね」
「学園長……好き……！」
「はい、はい」

早速「いただきまーす！」と言ってかぶりつけば、いい食材を使っているのでとても美味しい。

「そんな幸せそうな顔で食べてもらえると、嬉しいですね」
「はい、美味しいです！ありがとうございます、学園長！」
「ふふっ、クルーウェル先生が貴方を気にかけるかわかりますね」

よーし、よーし、と犬を可愛がるように撫でられて、「どういうことですか」と聞こうとする私の声に「そうでしょう、学園長」と聞き馴染みのある声がし、学園長と一緒にゆっくりと厨房の入口を見れば、壁に寄りかかったクルーウェル先生が笑みを貼り付け立っている。

「Hi. 仔犬、なにをしている……」
「くぅーん……」

その後、私はクルーウェル先生に滅茶苦茶怒られ、学園長はトレイン先生に怒られた。
えーん、ぴすぴす。