twstプラス
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
元の世界に戻る方法を調べているが、まずもって異世界からの漂流記述がない。
お伽噺でもいいから、その類いの話がないかと読み物にも目を通すが、グレート・セブンの逸話ばかり。
それ、さっきも読んだ、という似通った話に煮詰まり天を仰いでいたら、「立ち往生しているみたいだな、仔犬」と、視界にクルーウェル先生が入ってきた。
「性懲りもなく、まだ元の世界に帰る方法を探しているのか」
「性懲りもなくって……。そりゃ、探しますよ。いまは学校が保護してくれてますけど、卒業したら路頭に迷うわけですし」
「何度も言っているだろ。貴様一匹くらいの面倒は俺がみてやると」
故郷が恋しいです、とは恥ずかしくて口にできずにいるのをいいことに、クルーウェル先生はこの世界に残れと勧めてくる。
私のなにをそんなに気に入っているのか知らないが、いつまでもこの場所にとどまる気はない。
「人はあるべき場所にいるべきです」
でなければ、どこかで歪みが生まれる。そう口にする私を、クルーウェル先生は「古くさい考えだ」と鼻で嗤った。
「どの道、いまの貴様には見えるものも見えなさそうだから、問題ないな」
「どういう意味ですか……」
「立ち止まった人間は進むことはない、ということだ」
それは、煮詰まっているから視野が狭くなっているよ、ということだろうか。
たしかに、色々な書物を読みすぎて思考が鈍っているのは自分でもわかっている。
ここで一度、気分転換に別のことをするのもいいかも知れない。
ぱたん、と本を閉じて席を立つと、「なんだ、諦めるのか?」とにやつきながら聞かれた。
「ご助言通り、一度体を動かして思考をリセットするだけですよ。明日は休みですし」
「諦めの悪いやつだな」
「諦められませんよ」
向こうには、家族も友人もいる。その人たちに会いたいと思うのは、自然な気持ちだろう。
少し、彼らの声や顔を思い出して泣きそうになった。
声も顔も思い出せなくなる前に、私は帰りたいのだ。
「……仔犬、明日は暇だろう」
「え、はぁ、まあ、課題とかは終わらせていますが」
「Well done.なら、明日は俺に付き合え。動きやすい服を着て、朝九時までに鏡の間に来い」
こちらの言い分など聞きもせず、クルーウェル先生はさっさと踵を返して去っていった。
休みの日くらいゆっくりしたかったな、と内心がっくりきたが、行かなかったら寮の扉を蹴破って引きずり出されるのは目に見えている。
ただでさえボロい寮を壊されても困るので諦めようと思い、本を元に戻しに行った。
翌日、言われた通り動きやすい格好に着替え、朝食を済ませて鏡の間でクルーウェル先生を待っていたら、「Good girl.俺より先に来るとは、褒めてやる」といつもの偉そうな声がした。
が、声の主の格好がいつもとは違い、一瞬固まった。
「先生、なんですか、その格好……」
「なんだ、ライディングウェアを知らないのか?」
真っ黒な革のジャケットにGパン姿は、いつものフォーマル&毛皮コートなクルーウェル先生からは想像できないワイルドさだ。
さすが、お洒落番長。どんな服装も着こなしてしまう。
呆気にとられる私の手を引き、クルーウェル先生はそのまま鏡を通って、見たこともない場所に連れてきた。
高台から望む海がキラキラと光り、山の匂いが故郷を思い出す。
綺麗な風景に目を奪われていると、「美しいだろ」とクルーウェル先生が言った。
「俺のお気に入りの場所だ」
「意外ですね。潮風は肌に悪いとか言うと思っていました」
「長時間はな。これを被れ、行くぞ」
ヘルメットを手渡され、「どこにですか?」と振り向けば、空気抵抗に配慮されたスタイリッシュなバイク、こちらの世界ではマジカルホイールにクルーウェル先生が跨がっていた。
「早く乗れ」
言われるまま後ろに乗れば、「しっかり掴まっていろ」と言って、私の腕を自分の腰に回させた。
ぎゅっ、と抱きつけば、細いながらもしっかりとした筋肉がついていて、さすがピンヒールを履いて爆走できる体幹オバケだと感心する。
さわさわ、ばしんばしん、と感触を楽しんでいたら、「やめろ」と手を叩かれた。
「出すぞ」
はい、と返事をする前に発進し、思わず存外広い背中に身を寄せた。
どんどん過ぎて行く景色と、布越しでも感じる風の気持ちよさが、体に纏わりついていた澱のようなものを吹き飛ばしていくようだ。
山頂まで着く頃には、靄がかっていた意識がスッキリしていた。
「気持ちよかったー」
「それはよかった。ツーリングはいいだろ。悩みがどうでもよくなる」
海を眺め、眩しそうに目を細めるクルーウェル先生の横顔は、いつもの厳しい印象はなく山から吹く風のように柔らかだ。
「先生も悩むんですか?」
「貴様は俺をなんだと思っているんだ。貴様より悩んでいるよ」
悩みなど時間の無駄だ!と、殴り捨てているイメージもあったが、この人も人間だったのか。
「お陰で、スッキリしました」
「なら、諦めるか」
「まだ言いますか……。諦めませんよ」
「どうせ、見つけたところで帰れないさ」
「なぜ?」
「俺が邪魔をするからな」
学園長とクローバーあたりも、結託するかもな。
そう、クツクツと愉快そうに歪な笑いを見せるクルーウェル先生の発言の真意を測りかねているうちに、「さて、昼食をとって帰るか」と、何事もなかったように言う。
気分は晴れたが、悩みが増えた。
お伽噺でもいいから、その類いの話がないかと読み物にも目を通すが、グレート・セブンの逸話ばかり。
それ、さっきも読んだ、という似通った話に煮詰まり天を仰いでいたら、「立ち往生しているみたいだな、仔犬」と、視界にクルーウェル先生が入ってきた。
「性懲りもなく、まだ元の世界に帰る方法を探しているのか」
「性懲りもなくって……。そりゃ、探しますよ。いまは学校が保護してくれてますけど、卒業したら路頭に迷うわけですし」
「何度も言っているだろ。貴様一匹くらいの面倒は俺がみてやると」
故郷が恋しいです、とは恥ずかしくて口にできずにいるのをいいことに、クルーウェル先生はこの世界に残れと勧めてくる。
私のなにをそんなに気に入っているのか知らないが、いつまでもこの場所にとどまる気はない。
「人はあるべき場所にいるべきです」
でなければ、どこかで歪みが生まれる。そう口にする私を、クルーウェル先生は「古くさい考えだ」と鼻で嗤った。
「どの道、いまの貴様には見えるものも見えなさそうだから、問題ないな」
「どういう意味ですか……」
「立ち止まった人間は進むことはない、ということだ」
それは、煮詰まっているから視野が狭くなっているよ、ということだろうか。
たしかに、色々な書物を読みすぎて思考が鈍っているのは自分でもわかっている。
ここで一度、気分転換に別のことをするのもいいかも知れない。
ぱたん、と本を閉じて席を立つと、「なんだ、諦めるのか?」とにやつきながら聞かれた。
「ご助言通り、一度体を動かして思考をリセットするだけですよ。明日は休みですし」
「諦めの悪いやつだな」
「諦められませんよ」
向こうには、家族も友人もいる。その人たちに会いたいと思うのは、自然な気持ちだろう。
少し、彼らの声や顔を思い出して泣きそうになった。
声も顔も思い出せなくなる前に、私は帰りたいのだ。
「……仔犬、明日は暇だろう」
「え、はぁ、まあ、課題とかは終わらせていますが」
「Well done.なら、明日は俺に付き合え。動きやすい服を着て、朝九時までに鏡の間に来い」
こちらの言い分など聞きもせず、クルーウェル先生はさっさと踵を返して去っていった。
休みの日くらいゆっくりしたかったな、と内心がっくりきたが、行かなかったら寮の扉を蹴破って引きずり出されるのは目に見えている。
ただでさえボロい寮を壊されても困るので諦めようと思い、本を元に戻しに行った。
翌日、言われた通り動きやすい格好に着替え、朝食を済ませて鏡の間でクルーウェル先生を待っていたら、「Good girl.俺より先に来るとは、褒めてやる」といつもの偉そうな声がした。
が、声の主の格好がいつもとは違い、一瞬固まった。
「先生、なんですか、その格好……」
「なんだ、ライディングウェアを知らないのか?」
真っ黒な革のジャケットにGパン姿は、いつものフォーマル&毛皮コートなクルーウェル先生からは想像できないワイルドさだ。
さすが、お洒落番長。どんな服装も着こなしてしまう。
呆気にとられる私の手を引き、クルーウェル先生はそのまま鏡を通って、見たこともない場所に連れてきた。
高台から望む海がキラキラと光り、山の匂いが故郷を思い出す。
綺麗な風景に目を奪われていると、「美しいだろ」とクルーウェル先生が言った。
「俺のお気に入りの場所だ」
「意外ですね。潮風は肌に悪いとか言うと思っていました」
「長時間はな。これを被れ、行くぞ」
ヘルメットを手渡され、「どこにですか?」と振り向けば、空気抵抗に配慮されたスタイリッシュなバイク、こちらの世界ではマジカルホイールにクルーウェル先生が跨がっていた。
「早く乗れ」
言われるまま後ろに乗れば、「しっかり掴まっていろ」と言って、私の腕を自分の腰に回させた。
ぎゅっ、と抱きつけば、細いながらもしっかりとした筋肉がついていて、さすがピンヒールを履いて爆走できる体幹オバケだと感心する。
さわさわ、ばしんばしん、と感触を楽しんでいたら、「やめろ」と手を叩かれた。
「出すぞ」
はい、と返事をする前に発進し、思わず存外広い背中に身を寄せた。
どんどん過ぎて行く景色と、布越しでも感じる風の気持ちよさが、体に纏わりついていた澱のようなものを吹き飛ばしていくようだ。
山頂まで着く頃には、靄がかっていた意識がスッキリしていた。
「気持ちよかったー」
「それはよかった。ツーリングはいいだろ。悩みがどうでもよくなる」
海を眺め、眩しそうに目を細めるクルーウェル先生の横顔は、いつもの厳しい印象はなく山から吹く風のように柔らかだ。
「先生も悩むんですか?」
「貴様は俺をなんだと思っているんだ。貴様より悩んでいるよ」
悩みなど時間の無駄だ!と、殴り捨てているイメージもあったが、この人も人間だったのか。
「お陰で、スッキリしました」
「なら、諦めるか」
「まだ言いますか……。諦めませんよ」
「どうせ、見つけたところで帰れないさ」
「なぜ?」
「俺が邪魔をするからな」
学園長とクローバーあたりも、結託するかもな。
そう、クツクツと愉快そうに歪な笑いを見せるクルーウェル先生の発言の真意を測りかねているうちに、「さて、昼食をとって帰るか」と、何事もなかったように言う。
気分は晴れたが、悩みが増えた。