criminal
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体を本来の姿に戻してからというもの、仕事を振られる量が多くなった。
泣き言のひとつやふたつ言いたいが、その度に「俺はそれを一人でやっていたけど、そうか……」と、遠回しにできないことをバカにされる。
天邪鬼としてはやってやろうじゃないの、という気持ちになるから我ながらチョロい。
夏の暑さ薫るその日、招集をかけられ長期の仕事になる空気を察した。
「今回の仕事は、大規模な降霊術の類いだ」
もうその説明の時点でこの案件から降りたくなった。
いや、しかし、モンスターとかならまだいける。
そう、自分を言い聞かせていたのに「なお、今回はジャパニーズホラー系だから、アーティア以外は安心してくれ」とアランが言うから「降ります!」と盛大に宣言した。
「言うと思ったが、ダメだ」
「やだやだやだ!こればっかりは、やだ!ジャパニーズホラーやだ!モンスターならいいわ!ゴーストはダメよ!攻撃は通じないし、気がつかないうちに体乗っ取られるし!しかもジャパニーズホラーってことは、壁とか床とか天井這ってくるんでしょ!嫌っ!becauseみたいな顔したわけわかんないモンスターとかもやだ!」
錯乱した私に「びこーずってなんだよ」とザップさんが聞いてきたので、「ボーリングの穴みたいな数学記号!」とわかりやすく説明したら、「そんな間抜け面したやつが怖いのかよ、お前。お子様だな~」とバカにしてきたので「バカー!」と叫んでしまった。
「そういう間抜け面したジャパニーズモンスターが一番強いのよ!なにも言葉を発さないでジリジリ近づいてきて目を離した瞬間に背後にいたりするのよ!動きが無駄に機敏なのもいるし、なに考えてるかわからないのが不気味だし、殺され方がエグいのよ!」
「お前、嫌いなのに詳しいな」
「嫌いだから、そういうのと関わらないために詳しくなったのよ!」
やだー!降りるー!と騒ぐ私に、アランは「アーティア、君には選択肢がふたつある」と肩に手を置き選択肢とやらを提示し始めた。
「ひとつ。現在漏れ出しているジャパニーズモンスターの処理」
「嫌!」
「ふたつ。本格的な降霊術を阻止する為に、僕と一緒に事務仕事をしつつ、各員から来たモンスター処理情報をまとめる」
どっちも嫌!と言おうとしたが、「指を咥えて見ているだけかい?」と、自分の言葉を逆手にとられて「事務仕事するわ……」と泣きながら請け負うことになった。
アランはべそをかく私を抱き締め、「じゃあ、これからの指示をだすぞ!」と話を始めたが、私の頭の中は「無理」「怖い」でいっぱいだった。
事務仕事にだけ集中しようにも、アランは降霊術の場所特定とモンスターを送り返すプログラムを組むのに手一杯で、他の事務仕事と報告のまとめは私がやらなくてはならい。
必然的に聞きたくもない、ジャパニーズホラーな話を聞かされるはめになる。
「いや……もういや……」
「アーティア、泣いた分だけ水分はとるんだぞ」
涼しい顔で言っているが、私がジャパニーズホラー嫌いになったのは誰の所為かわかっているの?と、信じられないという気持ちで聞けば、これまた涼しい顔で「僕だろ」と言うから手元の無線マウスを投げつけようとしてクラウスさんに止められた。
「アランが毎夏毎夏、ジャパニーズホラー映画会開かなければこうはならなかったわよ!」
「僕は別に一緒に観なくてもよかったのに、君が強がって観たからじゃないか」
「強がらせるように仕向けたのはどこの誰よ!」
「僕だな」
しれー、としながらコーヒーを飲むアランを一発ぶん殴ろうにも、クラウスさんに腕を掴まれては不可能。
「落ち着くんだ、アーティア!スティーブン!君もなにを苛立っているんだ!」
「そうよ!理由は知らないけど、八つ当たりはよくないわよ!」
うっすら感じていたが、やはりイライラしていたらしいアランを非難すれば、目を細くして「本当に八つ当たりだと思うか」と静かに聞いてきた。
八つ当たり以外になにがあるのか。
「写真」
「写真?」
「この間のセルディオ氏警護の時に、見るのが君だけならばと撮影を許可したはずだ。それなのに、待受にしてザップに見せたな」
「……見せてないです。ザップさんが勝手に私の待受を見てしまっただけです」
別に嘘は吐いていない。
私はザップさんに見せていない。
本当にザップさんが勝手に見たのだから、約束は破っていない。
毅然とした態度で否定すれば、それが気にくわなかったのだろう。
悪魔みたいな笑みを浮かべた。
よく似合うわ。
「なるほど。なら、僕が勝手に見たザップを蹴り倒してぼろ雑巾にしたとしても、君は後悔しないかな?」
「……私がチラ見せしました」
ザップさんの日頃の行いを考えれば押し通してもよかったが、やはり自分の不注意で見られてしまったのに犠牲にするのはさすがに申し訳なく思う。
「それで?今回のこれは、その報復ですか?」
「馬鹿言わないでほしいな。報復するなら、選択肢なんて与えず外に叩き出すさ。そっちの方が君は自分の非力さに打ちのめされ、嫌いなオバケとも接触させられ、嫌が応にでも僕を頼らなければならない屈辱を味わわせられるからね」
考えの性根がねじ曲がっているとは思うが、その通りではある。
外の仕事を任せられたら、プライドかなぐり捨てて泣きついていたと思う。
ぐぅの音も出ず黙りこんだ私に、春風のように微笑み「僕の優しさに感謝して仕事を再開しようか」と言って、また自分の作業に戻ってしまった。
いつもは口うるさく怒るアランがこうも静かに怒ると、謝ろうにも話しかけにくい。
「スティーブン。彼女も反省はしている。今一度話しに耳を傾けてあげてはどうだろうか」
「ふーん。どんな大層な理由があったら、人の恥ずかしい写真を待受にするんだい」
クラウスさんのお願いだからか、一応は耳を傾けてくれてはいるが、言葉が非常に刺々しい。
しかし、私としては恥ずかしいので理由は言いたくない。
「ごめんなさい、待受は変えるわ」
「待受にしていた理由を聞かせてもらってないが?」
私が言いたくないと思っていることに勘づき、「理由を聞かせてくれないと、許しようがないさ」と追及の手を緩めないアラン。
恥ずかしいから言いたくはないが、言わないと機嫌を損ねたままだ。
「……から」
「聞こえない」
「一緒に写った写真だったから……」
「は?」
「その、この体というか見た目にまだ違和感あって嫌で、写真とか昔から苦手だったから一緒に写った写真ほしくても言えなくて、この間ノリで撮れたから嬉しくてつい……浮かれて待受にしてたの……」
しどろもどろに理由を説明した私を、アランは大きな声で笑い飛ばした。
「そんな可愛い理由だったのか!なんだ、許すよ、許す。というか言ってくれれば、君とのツーショットなんで沢山あるから送ったのに」
どれがいいかな、とケータイの画面をスライドさせていくが、ちょっと待ちなさい。
「アラン。私が写真嫌いなの、知ってるわよね?」
「勿論」
「そう。じゃあもうひとつ聞くけど、私はあなたと写真を撮った記憶がないのだけれど」
「そりゃそうさ。隠し撮りしてもらってるやつだからな」
「なぁっ……!いつ、どこで、どうやって!」
詰問する私に、アランは怪しい笑顔で「ナイショ」と言うから、怒りの沸点を越えた。
「ちょっと運動に付き合ってくれないかしら、アラン?その涼しいお綺麗な顔、ボコボコにしないと気がすまないわ」
「運動なら、仕事終わったら相手するよ。勿論、ベッドの上で」
「そういう冗談はいいのよ!」
「心外だな、本気なのに。はい、写真何枚か送っておいたよ」
そう言うと、ブルブルとケータイにアランからのメッセージを通知しており、開けば数枚のアランとの盗撮ツーショット写真に「愛しているよ」と書き添えられていた。
本当なら、「この程度で絆せると思わないでちょうだい」と言いたいところだが、やはりアランと一緒に写った写真は嬉しくて、素直に「ありがとう」と言っていた。
「そう素直だと、盗撮したことに罪悪感がわくね」
「最初からわかせなさいよ」
「そうだな、すまない。なら、今度レオにちゃんと撮ってもらおう。僕もほしいし。大丈夫、その写真を見ての通り、いまの君も素敵だよ。レオが不安なら、フォトスタジオでもいいし」
ワクワクとした表情をするアランに嫌だとは言えず、「そう……ね。頑張ってみるわ」と曖昧に答えたが、「それじゃあ、最高の写真の為にさっさと終わらせようか!」と幸せそうに笑うアランを見ては、やっぱり嫌ですとは言えそうになさそうだ。
泣き言のひとつやふたつ言いたいが、その度に「俺はそれを一人でやっていたけど、そうか……」と、遠回しにできないことをバカにされる。
天邪鬼としてはやってやろうじゃないの、という気持ちになるから我ながらチョロい。
夏の暑さ薫るその日、招集をかけられ長期の仕事になる空気を察した。
「今回の仕事は、大規模な降霊術の類いだ」
もうその説明の時点でこの案件から降りたくなった。
いや、しかし、モンスターとかならまだいける。
そう、自分を言い聞かせていたのに「なお、今回はジャパニーズホラー系だから、アーティア以外は安心してくれ」とアランが言うから「降ります!」と盛大に宣言した。
「言うと思ったが、ダメだ」
「やだやだやだ!こればっかりは、やだ!ジャパニーズホラーやだ!モンスターならいいわ!ゴーストはダメよ!攻撃は通じないし、気がつかないうちに体乗っ取られるし!しかもジャパニーズホラーってことは、壁とか床とか天井這ってくるんでしょ!嫌っ!becauseみたいな顔したわけわかんないモンスターとかもやだ!」
錯乱した私に「びこーずってなんだよ」とザップさんが聞いてきたので、「ボーリングの穴みたいな数学記号!」とわかりやすく説明したら、「そんな間抜け面したやつが怖いのかよ、お前。お子様だな~」とバカにしてきたので「バカー!」と叫んでしまった。
「そういう間抜け面したジャパニーズモンスターが一番強いのよ!なにも言葉を発さないでジリジリ近づいてきて目を離した瞬間に背後にいたりするのよ!動きが無駄に機敏なのもいるし、なに考えてるかわからないのが不気味だし、殺され方がエグいのよ!」
「お前、嫌いなのに詳しいな」
「嫌いだから、そういうのと関わらないために詳しくなったのよ!」
やだー!降りるー!と騒ぐ私に、アランは「アーティア、君には選択肢がふたつある」と肩に手を置き選択肢とやらを提示し始めた。
「ひとつ。現在漏れ出しているジャパニーズモンスターの処理」
「嫌!」
「ふたつ。本格的な降霊術を阻止する為に、僕と一緒に事務仕事をしつつ、各員から来たモンスター処理情報をまとめる」
どっちも嫌!と言おうとしたが、「指を咥えて見ているだけかい?」と、自分の言葉を逆手にとられて「事務仕事するわ……」と泣きながら請け負うことになった。
アランはべそをかく私を抱き締め、「じゃあ、これからの指示をだすぞ!」と話を始めたが、私の頭の中は「無理」「怖い」でいっぱいだった。
事務仕事にだけ集中しようにも、アランは降霊術の場所特定とモンスターを送り返すプログラムを組むのに手一杯で、他の事務仕事と報告のまとめは私がやらなくてはならい。
必然的に聞きたくもない、ジャパニーズホラーな話を聞かされるはめになる。
「いや……もういや……」
「アーティア、泣いた分だけ水分はとるんだぞ」
涼しい顔で言っているが、私がジャパニーズホラー嫌いになったのは誰の所為かわかっているの?と、信じられないという気持ちで聞けば、これまた涼しい顔で「僕だろ」と言うから手元の無線マウスを投げつけようとしてクラウスさんに止められた。
「アランが毎夏毎夏、ジャパニーズホラー映画会開かなければこうはならなかったわよ!」
「僕は別に一緒に観なくてもよかったのに、君が強がって観たからじゃないか」
「強がらせるように仕向けたのはどこの誰よ!」
「僕だな」
しれー、としながらコーヒーを飲むアランを一発ぶん殴ろうにも、クラウスさんに腕を掴まれては不可能。
「落ち着くんだ、アーティア!スティーブン!君もなにを苛立っているんだ!」
「そうよ!理由は知らないけど、八つ当たりはよくないわよ!」
うっすら感じていたが、やはりイライラしていたらしいアランを非難すれば、目を細くして「本当に八つ当たりだと思うか」と静かに聞いてきた。
八つ当たり以外になにがあるのか。
「写真」
「写真?」
「この間のセルディオ氏警護の時に、見るのが君だけならばと撮影を許可したはずだ。それなのに、待受にしてザップに見せたな」
「……見せてないです。ザップさんが勝手に私の待受を見てしまっただけです」
別に嘘は吐いていない。
私はザップさんに見せていない。
本当にザップさんが勝手に見たのだから、約束は破っていない。
毅然とした態度で否定すれば、それが気にくわなかったのだろう。
悪魔みたいな笑みを浮かべた。
よく似合うわ。
「なるほど。なら、僕が勝手に見たザップを蹴り倒してぼろ雑巾にしたとしても、君は後悔しないかな?」
「……私がチラ見せしました」
ザップさんの日頃の行いを考えれば押し通してもよかったが、やはり自分の不注意で見られてしまったのに犠牲にするのはさすがに申し訳なく思う。
「それで?今回のこれは、その報復ですか?」
「馬鹿言わないでほしいな。報復するなら、選択肢なんて与えず外に叩き出すさ。そっちの方が君は自分の非力さに打ちのめされ、嫌いなオバケとも接触させられ、嫌が応にでも僕を頼らなければならない屈辱を味わわせられるからね」
考えの性根がねじ曲がっているとは思うが、その通りではある。
外の仕事を任せられたら、プライドかなぐり捨てて泣きついていたと思う。
ぐぅの音も出ず黙りこんだ私に、春風のように微笑み「僕の優しさに感謝して仕事を再開しようか」と言って、また自分の作業に戻ってしまった。
いつもは口うるさく怒るアランがこうも静かに怒ると、謝ろうにも話しかけにくい。
「スティーブン。彼女も反省はしている。今一度話しに耳を傾けてあげてはどうだろうか」
「ふーん。どんな大層な理由があったら、人の恥ずかしい写真を待受にするんだい」
クラウスさんのお願いだからか、一応は耳を傾けてくれてはいるが、言葉が非常に刺々しい。
しかし、私としては恥ずかしいので理由は言いたくない。
「ごめんなさい、待受は変えるわ」
「待受にしていた理由を聞かせてもらってないが?」
私が言いたくないと思っていることに勘づき、「理由を聞かせてくれないと、許しようがないさ」と追及の手を緩めないアラン。
恥ずかしいから言いたくはないが、言わないと機嫌を損ねたままだ。
「……から」
「聞こえない」
「一緒に写った写真だったから……」
「は?」
「その、この体というか見た目にまだ違和感あって嫌で、写真とか昔から苦手だったから一緒に写った写真ほしくても言えなくて、この間ノリで撮れたから嬉しくてつい……浮かれて待受にしてたの……」
しどろもどろに理由を説明した私を、アランは大きな声で笑い飛ばした。
「そんな可愛い理由だったのか!なんだ、許すよ、許す。というか言ってくれれば、君とのツーショットなんで沢山あるから送ったのに」
どれがいいかな、とケータイの画面をスライドさせていくが、ちょっと待ちなさい。
「アラン。私が写真嫌いなの、知ってるわよね?」
「勿論」
「そう。じゃあもうひとつ聞くけど、私はあなたと写真を撮った記憶がないのだけれど」
「そりゃそうさ。隠し撮りしてもらってるやつだからな」
「なぁっ……!いつ、どこで、どうやって!」
詰問する私に、アランは怪しい笑顔で「ナイショ」と言うから、怒りの沸点を越えた。
「ちょっと運動に付き合ってくれないかしら、アラン?その涼しいお綺麗な顔、ボコボコにしないと気がすまないわ」
「運動なら、仕事終わったら相手するよ。勿論、ベッドの上で」
「そういう冗談はいいのよ!」
「心外だな、本気なのに。はい、写真何枚か送っておいたよ」
そう言うと、ブルブルとケータイにアランからのメッセージを通知しており、開けば数枚のアランとの盗撮ツーショット写真に「愛しているよ」と書き添えられていた。
本当なら、「この程度で絆せると思わないでちょうだい」と言いたいところだが、やはりアランと一緒に写った写真は嬉しくて、素直に「ありがとう」と言っていた。
「そう素直だと、盗撮したことに罪悪感がわくね」
「最初からわかせなさいよ」
「そうだな、すまない。なら、今度レオにちゃんと撮ってもらおう。僕もほしいし。大丈夫、その写真を見ての通り、いまの君も素敵だよ。レオが不安なら、フォトスタジオでもいいし」
ワクワクとした表情をするアランに嫌だとは言えず、「そう……ね。頑張ってみるわ」と曖昧に答えたが、「それじゃあ、最高の写真の為にさっさと終わらせようか!」と幸せそうに笑うアランを見ては、やっぱり嫌ですとは言えそうになさそうだ。