筋肉と天邪鬼
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猿飛くんに顔も見たくないと言われてしまい会いに行く事も出来ず数日が過ぎた。
本の続きを読もうとするが、あの時みせた猿飛くんの苦しげな表情と言葉ばかりが頭の中でずっと再生されてしまい集中できないし、筋トレにも身が入らない。
困ったなと思っていると、どこかで見た事のある険のある女子達の一人が「ちょっとよろしくって?」と、やはり険のある声で話しかけてきた。
誰だったかなぁ、と記憶を辿っていくが、そんな私などお構いなしに、女子が「今日の放課後、お話ししたい事があります。裏庭にいらっしゃい」と一方的に言いたい事だけ言って去ってしまった。
「……あ!猿飛くん親衛隊の人達か」
漸く思い出したが、話しの内容が大体想像できてしまった。
別に、何言われても聞き流せるだろうし、暴力振るわれても私の筋肉の前では女子の拳などさして痛みなどないだろう。
けど、刃物とか出されたら困るな。
あと、家族に危害及ぼすとか。
何かしら手を打たないといけないなと思い、農業部の部長の所へと走った。
「貴女、最近佐助様と馴れ馴れし過ぎではありませんこと?」
想像通りの言葉に漏れそうになる苦笑を抑え込み「どうだろう?」と、お茶を濁す。
「“どうだろう?”。白々しい事、この上ないですわね。佐助様がお優しい事を知りながら、ずけずけと話しかけて。……まあ、それで顔も見たくない程に嫌われてしまっていては、お笑い草ですわね」
あいたたたた。
今、一番触れてほしくない所に触れてきますね、お嬢様。
耳障りな複数の高笑いを聞き流し「要件がそれだけなら、私帰ってもいいかな?」と、早々に退散したい気持ちをオブラートに包みながら伝えると、お嬢様は高笑いを止め真剣な眼差しで「まだ終わりではありませんわ」と言った。
「二度と、佐助様に近づかないよう少しお灸をすえませんと。ね?皆さん?」
その言葉に引っかかるものを覚え、気が付いた時には「これ以上、猿飛くんから自由を奪わないで」と言ってしまった。
一度決壊してしまった感情のダムの流れは抑えきれなかった。
「そうやって、あんた達が猿飛くんの自由を奪うから!勝手な理想像を押し付けるから!だから猿飛くんの心が死んでいくのが分からないの?!一番近くにいるって言っておきながら!これ以上、猿飛くんを殺さないで!」
そう叫ぶと、お嬢様は顔を真っ赤にしながら「貴女こそ!佐助様の何を分かっているのよ!」と言いながら、手を振り上げた。
殴るなら、来い!と身構えていると、突然目の前に人間が降ってきた。
よくよく見れば、猿飛くんではないか。
猿飛くんはゆっくり立ち上がり、親衛隊の子達をしかと見据えた。
こちらから表情は確認できないが、親衛隊の子達が酷く怯えた表情をしている。
「不破に、何しようとしてたの……?」
静かな声色には、確かな怒気が乗っていた。
親衛隊の子達は震える声で「なにも」と答える。
やや間を空けてから「次はないから」と言い手で追い払う素振りをすると、親衛隊の子達は一目散に走って行ってしまった。
私も居なくなった方がいいかな、と思いそっと去ろうとしたが、猿飛くんの体がぐらりと揺れたので思わず支えてしまった。
「大丈夫、猿飛くん!」
返事をする事無く猿飛くんはそのまま体重を私に預けた。
引きずるのも悪いので、膝裏に手を入れそのまま持ち上げる。
微かに「お姫様抱っこはやめて」と猿飛くんが言った気がするが、引きずるよりましだろうと思うが、確かにこれで保健室まで歩いて行ったら猿飛くんの沽券に関わるな。
そっと校舎脇へと降ろし、背中を壁へと預けさせるが、何故か体育座りをして顔を伏せてしまった。
しゃがみ込み「気分はどう?」と尋ねると「……吐きそう」と弱々しく返ってきた。
「ヤバそうだね。誰か呼んでくるよ」
呼びに行くために立ち上がろうとすると「要らない」と微かに猿飛くんが言い、隣を指差し「お座り」と言ったので、少し距離をとって隣に腰掛ける。
気分の悪い相手に話しかけてはいけないと思い黙っていると、猿飛くんの方から「何か話しかけてよ」と言われた。
「何か……。さっき、どこから降りて来たの?」
「二階の窓から飛んだ」
「危な!何でそんな事したの?!」
「……あんたが絡まれてるの見て」
「あ、ありがとう」
思いがけない言葉を聞いてしまい、思わずどもってしまった。
「でも、私なら平気だから、もうやっちゃダメだからね?」
「分かってる。あんたの筋肉なら殴られたって平気だろうし、逆に相手の骨だって折れる事だって」
「流石にそれは無理だよ」
猿飛くんは私の事を何だと思っているんだろう。
サイボーグか何かとでも思っているのだろうか。
まあ、それは置いておこう。
では何故、私の為に二階からの飛び降りを決行したのか聞くと、「あんたが、もう俺を殺すなって言ったから」と言われた。
「あー、えっと……、ごめん。私だってそんなに猿飛くんのこと知ってるわけでもないのに、偉そうなこと言っちゃって」
「謝らないで。……謝らないといけないのは、俺なんだから」
「私、猿飛くんに謝られる事されたっけ?」
「俺は……、俺は、自分の体面の為に、あんたが馬鹿にされてるのに庇うどころか同調したんだ!自分の為に!」
「うん。……それで?」
話しの先を促したつもりだったのだが、猿飛くんの逆鱗に触れたのか勢いよく立ち上がり「それで?!怒れよ!罵倒しろよ!」と叫んだ。
え、えー?
取り乱した様子の猿飛くんを初めて見たので、どう対処すべきなのか分からず只々、見上げるばかり。
そんな私を他所に、猿飛くんは怒り続ける。
「俺は自分の為にあんたを見限った!その上、傷つけもした!なのに反応が“それで?”ってなんだよ!もっと責めろよ!」
「責めろって言われてもなぁ……。この酢だこ!」
「そうじゃない!」
そんな事を言われても困るけれど、何かしら言わないと絶対に納得してくれないだろうし……。
兎に角、知っている罵詈雑言を並べていくが、一向に納得しないご様子。
レパートリーが突き、結局、本人に何と言ってほしいのか聞いてしまった。
「あるだろ?!俺の言葉で傷ついたとか!あんた、あんなに泣きそうな顔してたじゃん!」
「確かに、“あんたの顔は見たくない”て言われた時には泣きたくはなったよ?でも、それは猿飛くんに拒否された事に対しての悲しみだから、猿飛くんにぶつけてもなぁ」
「じゃあ、陰口叩いてあんたを貶めて裏切った事とかさ!」
「あ、それは全然気にしてない。猿飛くんの立場的に、私に加担できないのは重々承知だし、筋肉を極めるって誓った時からそういうのは気にしないって決めてたから」
だから、そんなに気にしないでよ。と笑い飛ばしたら「やめろ!!」とまたもや叫ぶと、今度は猿飛くんは蹲ってしまった。
何か気に障る事を言ってしまったのかとおろおろしていると、猿飛くんは「嫌いだ!嫌いだ!大嫌いだ!」と涙声で連呼しだしたかと思ったら、「違う!違うのに!」と否定し出し、明らかに安定した状態ではない。
「猿飛くん、落ち着いて!深呼吸しよ?ね?」
「煩い!煩い!煩い!」
私の言葉は届きそうにない。
何かいい方法はないかと鞄を漁ると、農業部の部長からもらった例の物、リンゴを見つけ、弟が子供の時に癇癪を起こした時に母がやっていた事を思い出した。
「やぁ!初めまして佐助くん!」
精一杯の裏声でリンゴで顔を隠しながら話しかけると、「嫌い」「違う」「煩い」を繰り返し叫び伏していた猿飛くんが漸く顔をあげた。
「僕はリンゴ!何をそんなに泣いているんだい?」
「何やってるの、不破……」
「灯花ちゃんは今はいないよ。君の前にいるのは僕だけだよ」
「……」
白けた顔をしているが、うん、どうやら少しは落ち着いたみたいだ。
私はそのまま、リンゴくんを喋らせる。
「僕に全部、話してごらん?僕は何でも聞いてあげるよ。話し終わったら、僕の事は食べちゃって。そうしたら、僕は君の中で溶けてなくなるから」
そう言い、そっと猿飛くんの手にリンゴを持たせる。
母はこの後、物陰に隠れて弟の話しを聞いていたけれど、私は盗み聞きする気はないので立ち去ろうとすると、猿飛くんに手首を掴まれた。
ここに居ろって事なのだろうか?
真意は分からないけれど、引き止めたという事はそういう事だと判断し、隣に腰掛ける。
猿飛くんも座りなおして、ぽつりぽつりと話し出した。
「本当は、嫌いなんかじゃないんだよ、不破の事……。最初こそ、良い人払いの道具だ位にしか思ってなかった。でも、あいつは俺の事を優しいとか言うし、本気で友達になろうとするし、俺の事を知ろうとしてくれるし……。それに、顔も見たくない何て言ったのに俺の心を殺すなって言ってくれたんだ。嬉しかった。……俺より、不破の方がずっと優しいんだよ。その優しさを与えられると嬉しくなるんだけど、それよりずっと大きな不安とか恐怖とかに襲われるんだ。それが来ると、口から勝手に拒絶の言葉が出てくるんだ。それが不破を傷つける度に、一層、不安とか恐怖とかが強くなるんだよ。……俺は、不破の優しさに触れていい人間じゃない」
話し終えたのか、猿飛くんはゆっくりとリンゴを咀嚼しだした。
一口食べる度に涙がボロボロと零れるけれど、そんな事を気にする風もなく無心でリンゴを食べる猿飛くんを見て思わず「お食べ、猿飛くんの元気が出る様にまじないをかけた」と言いたくなったけれど、グッと抑えた。
そもそも、まじないをかけたとしても、かけたのは農業部の方々だ。
食べられる部分を食べ終わった頃には猿飛くんの涙は止まった。
リンゴの芯を受け取り、良い養分になるように祈りながら埋めて戻って来ると、猿飛くんは空を仰ぎ見ていた。
猿飛くんは目を瞑り大きく深呼吸してから立ち上がり、そのまま真っ直ぐ近場の水道へと向かい顔を洗いだした。
私は鞄からタオルをだして、そっと差し出す。
「ありがとう。……ねえ、不破」
「んー?」
「俺はこの先、自分の不安に負けてあんたを傷つけ続けるかもしれない。そもそも、こんな事を言う資格もないけど……」
「うん」
「……俺の友達であってほしい」
あまりにも弱々しい猿飛くんの声に思わず吹き出して大爆笑してしまうと、バチンッといい音を響かせてデコピンされてしまった。
謝るも私の笑いは止まらなかったが、猿飛くんがもう一発構えたのですぐさま謝る。
「猿飛くんが何を基準に資格がないって言ってるのか知らないけどさ」
「白々しい……」
「友達になるのに資格は要らないと思うんだ。だから、猿飛くんが私に友達でいてほしいって思ってくれるならそれでいいと思う。いやぁ、大きな一歩だね!」
手放しで喜ぶと、猿飛くんが吐きそうになっていたので背中をさする。
あぁ、うん、ごめんね。
優しさが辛いんだったね、ごめんね。
猿飛くんは水で気持ちを飲み込んで立て直した。
「ゆっくり行こう、猿飛くん」
「あぁ……。ところでさ、不破。何で、リンゴなんて持ってたの?」
まあ、疑問には思うよね、丸ごとリンゴ持ってたら。
「いやね、もし相手が刃物出してきたらさっきのリンゴ握りつぶして『さて問題です。次にこうなるのは誰でしょう』って、脅そうかと思ってて」
「こえーよ」
「大丈夫、大丈夫。私、喧嘩とか苦手だし」
「そういう問題じゃないよ。つか、呼び出しくらったなら相談しなよね。……俺とかさ」
照れたように顔を背けながら呟かれた言葉が嬉しくて、ついついにやけてしまった。
それを見た猿飛くんはばつが悪そうに顔を顰めて速足で歩きだしてしまった。
私も慌てて追いかける。
「猿飛くん、改めてよろしくね」
「仕方がないから、よろしくしてあげるよ。……不破。今度はちゃんとあんたの事、守ってみせるから」
「気にしないでいいのに。ありがとう」
漸く、猿飛くんと友達としてのスタートラインに立てた気がする。
本の続きを読もうとするが、あの時みせた猿飛くんの苦しげな表情と言葉ばかりが頭の中でずっと再生されてしまい集中できないし、筋トレにも身が入らない。
困ったなと思っていると、どこかで見た事のある険のある女子達の一人が「ちょっとよろしくって?」と、やはり険のある声で話しかけてきた。
誰だったかなぁ、と記憶を辿っていくが、そんな私などお構いなしに、女子が「今日の放課後、お話ししたい事があります。裏庭にいらっしゃい」と一方的に言いたい事だけ言って去ってしまった。
「……あ!猿飛くん親衛隊の人達か」
漸く思い出したが、話しの内容が大体想像できてしまった。
別に、何言われても聞き流せるだろうし、暴力振るわれても私の筋肉の前では女子の拳などさして痛みなどないだろう。
けど、刃物とか出されたら困るな。
あと、家族に危害及ぼすとか。
何かしら手を打たないといけないなと思い、農業部の部長の所へと走った。
「貴女、最近佐助様と馴れ馴れし過ぎではありませんこと?」
想像通りの言葉に漏れそうになる苦笑を抑え込み「どうだろう?」と、お茶を濁す。
「“どうだろう?”。白々しい事、この上ないですわね。佐助様がお優しい事を知りながら、ずけずけと話しかけて。……まあ、それで顔も見たくない程に嫌われてしまっていては、お笑い草ですわね」
あいたたたた。
今、一番触れてほしくない所に触れてきますね、お嬢様。
耳障りな複数の高笑いを聞き流し「要件がそれだけなら、私帰ってもいいかな?」と、早々に退散したい気持ちをオブラートに包みながら伝えると、お嬢様は高笑いを止め真剣な眼差しで「まだ終わりではありませんわ」と言った。
「二度と、佐助様に近づかないよう少しお灸をすえませんと。ね?皆さん?」
その言葉に引っかかるものを覚え、気が付いた時には「これ以上、猿飛くんから自由を奪わないで」と言ってしまった。
一度決壊してしまった感情のダムの流れは抑えきれなかった。
「そうやって、あんた達が猿飛くんの自由を奪うから!勝手な理想像を押し付けるから!だから猿飛くんの心が死んでいくのが分からないの?!一番近くにいるって言っておきながら!これ以上、猿飛くんを殺さないで!」
そう叫ぶと、お嬢様は顔を真っ赤にしながら「貴女こそ!佐助様の何を分かっているのよ!」と言いながら、手を振り上げた。
殴るなら、来い!と身構えていると、突然目の前に人間が降ってきた。
よくよく見れば、猿飛くんではないか。
猿飛くんはゆっくり立ち上がり、親衛隊の子達をしかと見据えた。
こちらから表情は確認できないが、親衛隊の子達が酷く怯えた表情をしている。
「不破に、何しようとしてたの……?」
静かな声色には、確かな怒気が乗っていた。
親衛隊の子達は震える声で「なにも」と答える。
やや間を空けてから「次はないから」と言い手で追い払う素振りをすると、親衛隊の子達は一目散に走って行ってしまった。
私も居なくなった方がいいかな、と思いそっと去ろうとしたが、猿飛くんの体がぐらりと揺れたので思わず支えてしまった。
「大丈夫、猿飛くん!」
返事をする事無く猿飛くんはそのまま体重を私に預けた。
引きずるのも悪いので、膝裏に手を入れそのまま持ち上げる。
微かに「お姫様抱っこはやめて」と猿飛くんが言った気がするが、引きずるよりましだろうと思うが、確かにこれで保健室まで歩いて行ったら猿飛くんの沽券に関わるな。
そっと校舎脇へと降ろし、背中を壁へと預けさせるが、何故か体育座りをして顔を伏せてしまった。
しゃがみ込み「気分はどう?」と尋ねると「……吐きそう」と弱々しく返ってきた。
「ヤバそうだね。誰か呼んでくるよ」
呼びに行くために立ち上がろうとすると「要らない」と微かに猿飛くんが言い、隣を指差し「お座り」と言ったので、少し距離をとって隣に腰掛ける。
気分の悪い相手に話しかけてはいけないと思い黙っていると、猿飛くんの方から「何か話しかけてよ」と言われた。
「何か……。さっき、どこから降りて来たの?」
「二階の窓から飛んだ」
「危な!何でそんな事したの?!」
「……あんたが絡まれてるの見て」
「あ、ありがとう」
思いがけない言葉を聞いてしまい、思わずどもってしまった。
「でも、私なら平気だから、もうやっちゃダメだからね?」
「分かってる。あんたの筋肉なら殴られたって平気だろうし、逆に相手の骨だって折れる事だって」
「流石にそれは無理だよ」
猿飛くんは私の事を何だと思っているんだろう。
サイボーグか何かとでも思っているのだろうか。
まあ、それは置いておこう。
では何故、私の為に二階からの飛び降りを決行したのか聞くと、「あんたが、もう俺を殺すなって言ったから」と言われた。
「あー、えっと……、ごめん。私だってそんなに猿飛くんのこと知ってるわけでもないのに、偉そうなこと言っちゃって」
「謝らないで。……謝らないといけないのは、俺なんだから」
「私、猿飛くんに謝られる事されたっけ?」
「俺は……、俺は、自分の体面の為に、あんたが馬鹿にされてるのに庇うどころか同調したんだ!自分の為に!」
「うん。……それで?」
話しの先を促したつもりだったのだが、猿飛くんの逆鱗に触れたのか勢いよく立ち上がり「それで?!怒れよ!罵倒しろよ!」と叫んだ。
え、えー?
取り乱した様子の猿飛くんを初めて見たので、どう対処すべきなのか分からず只々、見上げるばかり。
そんな私を他所に、猿飛くんは怒り続ける。
「俺は自分の為にあんたを見限った!その上、傷つけもした!なのに反応が“それで?”ってなんだよ!もっと責めろよ!」
「責めろって言われてもなぁ……。この酢だこ!」
「そうじゃない!」
そんな事を言われても困るけれど、何かしら言わないと絶対に納得してくれないだろうし……。
兎に角、知っている罵詈雑言を並べていくが、一向に納得しないご様子。
レパートリーが突き、結局、本人に何と言ってほしいのか聞いてしまった。
「あるだろ?!俺の言葉で傷ついたとか!あんた、あんなに泣きそうな顔してたじゃん!」
「確かに、“あんたの顔は見たくない”て言われた時には泣きたくはなったよ?でも、それは猿飛くんに拒否された事に対しての悲しみだから、猿飛くんにぶつけてもなぁ」
「じゃあ、陰口叩いてあんたを貶めて裏切った事とかさ!」
「あ、それは全然気にしてない。猿飛くんの立場的に、私に加担できないのは重々承知だし、筋肉を極めるって誓った時からそういうのは気にしないって決めてたから」
だから、そんなに気にしないでよ。と笑い飛ばしたら「やめろ!!」とまたもや叫ぶと、今度は猿飛くんは蹲ってしまった。
何か気に障る事を言ってしまったのかとおろおろしていると、猿飛くんは「嫌いだ!嫌いだ!大嫌いだ!」と涙声で連呼しだしたかと思ったら、「違う!違うのに!」と否定し出し、明らかに安定した状態ではない。
「猿飛くん、落ち着いて!深呼吸しよ?ね?」
「煩い!煩い!煩い!」
私の言葉は届きそうにない。
何かいい方法はないかと鞄を漁ると、農業部の部長からもらった例の物、リンゴを見つけ、弟が子供の時に癇癪を起こした時に母がやっていた事を思い出した。
「やぁ!初めまして佐助くん!」
精一杯の裏声でリンゴで顔を隠しながら話しかけると、「嫌い」「違う」「煩い」を繰り返し叫び伏していた猿飛くんが漸く顔をあげた。
「僕はリンゴ!何をそんなに泣いているんだい?」
「何やってるの、不破……」
「灯花ちゃんは今はいないよ。君の前にいるのは僕だけだよ」
「……」
白けた顔をしているが、うん、どうやら少しは落ち着いたみたいだ。
私はそのまま、リンゴくんを喋らせる。
「僕に全部、話してごらん?僕は何でも聞いてあげるよ。話し終わったら、僕の事は食べちゃって。そうしたら、僕は君の中で溶けてなくなるから」
そう言い、そっと猿飛くんの手にリンゴを持たせる。
母はこの後、物陰に隠れて弟の話しを聞いていたけれど、私は盗み聞きする気はないので立ち去ろうとすると、猿飛くんに手首を掴まれた。
ここに居ろって事なのだろうか?
真意は分からないけれど、引き止めたという事はそういう事だと判断し、隣に腰掛ける。
猿飛くんも座りなおして、ぽつりぽつりと話し出した。
「本当は、嫌いなんかじゃないんだよ、不破の事……。最初こそ、良い人払いの道具だ位にしか思ってなかった。でも、あいつは俺の事を優しいとか言うし、本気で友達になろうとするし、俺の事を知ろうとしてくれるし……。それに、顔も見たくない何て言ったのに俺の心を殺すなって言ってくれたんだ。嬉しかった。……俺より、不破の方がずっと優しいんだよ。その優しさを与えられると嬉しくなるんだけど、それよりずっと大きな不安とか恐怖とかに襲われるんだ。それが来ると、口から勝手に拒絶の言葉が出てくるんだ。それが不破を傷つける度に、一層、不安とか恐怖とかが強くなるんだよ。……俺は、不破の優しさに触れていい人間じゃない」
話し終えたのか、猿飛くんはゆっくりとリンゴを咀嚼しだした。
一口食べる度に涙がボロボロと零れるけれど、そんな事を気にする風もなく無心でリンゴを食べる猿飛くんを見て思わず「お食べ、猿飛くんの元気が出る様にまじないをかけた」と言いたくなったけれど、グッと抑えた。
そもそも、まじないをかけたとしても、かけたのは農業部の方々だ。
食べられる部分を食べ終わった頃には猿飛くんの涙は止まった。
リンゴの芯を受け取り、良い養分になるように祈りながら埋めて戻って来ると、猿飛くんは空を仰ぎ見ていた。
猿飛くんは目を瞑り大きく深呼吸してから立ち上がり、そのまま真っ直ぐ近場の水道へと向かい顔を洗いだした。
私は鞄からタオルをだして、そっと差し出す。
「ありがとう。……ねえ、不破」
「んー?」
「俺はこの先、自分の不安に負けてあんたを傷つけ続けるかもしれない。そもそも、こんな事を言う資格もないけど……」
「うん」
「……俺の友達であってほしい」
あまりにも弱々しい猿飛くんの声に思わず吹き出して大爆笑してしまうと、バチンッといい音を響かせてデコピンされてしまった。
謝るも私の笑いは止まらなかったが、猿飛くんがもう一発構えたのですぐさま謝る。
「猿飛くんが何を基準に資格がないって言ってるのか知らないけどさ」
「白々しい……」
「友達になるのに資格は要らないと思うんだ。だから、猿飛くんが私に友達でいてほしいって思ってくれるならそれでいいと思う。いやぁ、大きな一歩だね!」
手放しで喜ぶと、猿飛くんが吐きそうになっていたので背中をさする。
あぁ、うん、ごめんね。
優しさが辛いんだったね、ごめんね。
猿飛くんは水で気持ちを飲み込んで立て直した。
「ゆっくり行こう、猿飛くん」
「あぁ……。ところでさ、不破。何で、リンゴなんて持ってたの?」
まあ、疑問には思うよね、丸ごとリンゴ持ってたら。
「いやね、もし相手が刃物出してきたらさっきのリンゴ握りつぶして『さて問題です。次にこうなるのは誰でしょう』って、脅そうかと思ってて」
「こえーよ」
「大丈夫、大丈夫。私、喧嘩とか苦手だし」
「そういう問題じゃないよ。つか、呼び出しくらったなら相談しなよね。……俺とかさ」
照れたように顔を背けながら呟かれた言葉が嬉しくて、ついついにやけてしまった。
それを見た猿飛くんはばつが悪そうに顔を顰めて速足で歩きだしてしまった。
私も慌てて追いかける。
「猿飛くん、改めてよろしくね」
「仕方がないから、よろしくしてあげるよ。……不破。今度はちゃんとあんたの事、守ってみせるから」
「気にしないでいいのに。ありがとう」
漸く、猿飛くんと友達としてのスタートラインに立てた気がする。