筋肉と天邪鬼
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
不破を部屋に呼んでみようかと思った。
この間、家に招いてもらった礼もあるが、家に不破を呼ぶ事であの灰色の空間が不破の家の様に色づくのでは、少しは俺も変われるんじゃないかという、淡い期待。
そんな淡い期待を持ちつつ、最近有効な筋肉の付け方の論文の話しについてを語りだす不破に、いま何か食べたい物はないか聞くと「牛」と返ってきた。
こいつ……。牛一頭生きたまま送ってやろうか……。
落ち着け、俺。
不破は肉なら何でもいいってことだ。
じゃあ、牛肉のトゥルヌド アンリ四世風とライ麦パンと、サラダ。オニオン・ニンニクの玉子スープでいいかな。
メニューを決定し、どう切り出そうか悩んでいるというのに、不破は「牛丼食べたいな~」と呑気に言っている。
しばきたい。
「……不破。今日、うちに来なよ。ご飯食べさせてあげる」
「え?なんで?」
「……この間、家に招待してくれたから、そのお礼」
「いいよ、いいよ。気にしないで。私が引っ張っていっただけだし。それに猿飛くん、家知られるの嫌いなんでしょ?」
「……あんたはもう、知ってるし」
「いやいや、一回じゃ覚えられないってててててて!!」
頬を目いっぱい抓って「黙って来い」と言うと、不破は涙目になりながら了承する。
その日の放課後、不破を教室まで迎えに行くと教室がざわついたが、不破も俺も意に介さず校門を出て、そのままマンションからちょっと先の高級食料品店へと向かった。
牛フィレ肉を選んでいると、横から不破が興奮気味に「肉?肉?その分厚い肉、夕飯?本当に?!」とずっと聞いてきた。
お菓子買ってもらう子供か、あんたは。
「大人しくついて来ないと、一番安くて薄い肉にするよ」
「大人しくします!」
そう言うと、本当に静かに俺の後ろを雛鳥の様について回ってきた。
偶に、余計な肉を入れようとしてたけどその度、デコピンをしてやった。
買い物も無事に終え、筋トレの為に荷物を持つと言って聞かない不破に荷物を持たせ、俺のマンションへと帰る。
不破に、そこら辺に座って待ってろと言ったら、迷う事無くベッドに腰掛けた。
……あいつに、危機感ってものはないらしい。
まあ流石の俺でも、あの筋骨隆々とした体に発情はしないからいいけど。
手際よく料理を作って行き全ての準備が整ったのでメインから運んでいくと、ベッドに座り静かに読書をしている不破がいた。
不破のイメージと言ったらお喋りな筋肉バカだったのだが、意外にもまともな趣味を持ち合わせているようだ。
牛肉のトゥルヌドをテーブルの上に置き、声をかけると漸く顔をあげた。
「あ!ごめん!運ぶの手伝うよ!」
「いいよ。あんたはゲストなんだから座ってな」
だが、尚もまだ手伝う手伝うと煩く言う不破に「お座り」と言えば、大人しくテーブルについた。
パンとサラダとスープも机に置くと、不破は目を輝かせながら「いただきます!」と言い、先ずはサラダから手を付けた。
意外だった。
不破の事だから、真っ先に肉へと食いつくかと思っていたのに。
そう不破に言うと、「サラダから食べると、太りにくいんだよ」と言った。
確かに筋肉は脂肪に代わりやすいというから気にするのは納得いくけれど、やはり不破が太る事を気にするのは意外だった。
「そういえば、さっき何読んでたの?」
ライ麦パンを千切りながら訊くと、不破は頬張っていた肉を飲み込み「Peter Schlemihls wundersame Geschichteの原書」と流暢なドイツ語を織り交ぜて返してきた。
まさか脳筋不破の口からドイツ語をが出てくるとは思わずフリーズしていると、どういう作品なのか分からず困っていると勘違いしたのか説明をしだした。
「日本語訳すると、ペーター・シュレミールの不思議な物語っていうドイツのロマン主義文学の代表作なんだけどさ」
「いや、知ってる。読んだ事あるから。俺が驚いてるのは、あんたからそんな教養溢れる発言が出てきたこと」
「猿飛くん、私の事を何だと思ってるの」
「脳味噌まで筋肉女」
心外だという顔をしているが、どう考えてもこの期間の不破との会話を考えてもそんな知識がありそうな会話は……。
いや、よくよく思い出すと、たまに話しの中に織り込まれてくる論文(筋肉に限る)は、対外が海外の学者の名前だった気がする……。
つまり、海外の論文が読める程度に不破の頭は優れているって事になる。
「え……?あんた、そんなに頭良かったの?」
あまりにも驚きすぎて訊いてしまった。
不破は悔しそうな顔をしながら「酷いよ、猿飛くんー!」と叫んだ。
「確かに、テストで主席とった事はないけどさ!一回、八位になった事あるし、いっつも二十位圏内にはいるんだよ!」
「嘘くさっ!」
「本当だってば!うち、兄貴が筋トレにはまり過ぎて浪人しちゃったから、二十位以下になったら筋トレ禁止っていう鉄の掟ができちゃって……」
「不破兄……」
「まあ、それがなくても勉強はしたけどね。じゃないと、海外の論文とか読めないし。筋肉を更なる高みへ連れて行くには、グローバルにいかないと!」
嬉々として語る不破に「インテリ筋肉」と皮肉って言ってやったが、嬉しそうに「もっと言って」と言われた。
相変わらず、鋼の心だ。
その後、互いのお薦めの洋書の話しをしたりいい洋書専門店の話しをしたりと、不破と出会って初めて文化的な会話をした気がする。
食事も終え、家まで送っていくと「今度はうちに食べに来てね」と言い出した。
それじゃあずっとお互い食事に呼び合うことになるじゃんと笑ってしまうと、「それでいいじゃん」と笑い返され呆れてしまった。
「今日は、本当にありがとうね。すっごく美味しかったよ!じゃあ、また明日!」
そのまま家へと入ろうとしたが、何か思い出したのか振り向いて「猿飛くんも早く魔法の靴が手に入るといいね」と一言残して家へと入っていった。
帰り道、不破の言葉を考える。
不破の言う「魔法の靴」はさっき読んでいたペーター・シュレミールの最後に出てくる靴の事だろう。
ペーター・シュレミールの不思議な物語は、主人公が自分の影と引き換えに幸運の金袋を奇妙な男から貰うが影がない事を批判され、結婚を考えた相手にも影がない事でフラれて、しかも相手は主人公を裏切った召使と結婚してしまう。
その時、影を返しに来た奇妙な男、悪魔は影を返す代わりに死後、主人公の魂を要求してくるが、主人公は悪魔を振り切り、金袋も捨て放浪の旅に出る。
靴を履き潰した頃に、なけなしの金で買った靴は一歩で七里歩ける魔法の靴だった。
そして、主人公は自然研究家として充実した新たな人生を送ったという話だ。
「新たな人生、ね……」
もし目の前にそんな靴があったとしても、今の俺はその靴に手を出す勇気はない気がする。
この間、家に招いてもらった礼もあるが、家に不破を呼ぶ事であの灰色の空間が不破の家の様に色づくのでは、少しは俺も変われるんじゃないかという、淡い期待。
そんな淡い期待を持ちつつ、最近有効な筋肉の付け方の論文の話しについてを語りだす不破に、いま何か食べたい物はないか聞くと「牛」と返ってきた。
こいつ……。牛一頭生きたまま送ってやろうか……。
落ち着け、俺。
不破は肉なら何でもいいってことだ。
じゃあ、牛肉のトゥルヌド アンリ四世風とライ麦パンと、サラダ。オニオン・ニンニクの玉子スープでいいかな。
メニューを決定し、どう切り出そうか悩んでいるというのに、不破は「牛丼食べたいな~」と呑気に言っている。
しばきたい。
「……不破。今日、うちに来なよ。ご飯食べさせてあげる」
「え?なんで?」
「……この間、家に招待してくれたから、そのお礼」
「いいよ、いいよ。気にしないで。私が引っ張っていっただけだし。それに猿飛くん、家知られるの嫌いなんでしょ?」
「……あんたはもう、知ってるし」
「いやいや、一回じゃ覚えられないってててててて!!」
頬を目いっぱい抓って「黙って来い」と言うと、不破は涙目になりながら了承する。
その日の放課後、不破を教室まで迎えに行くと教室がざわついたが、不破も俺も意に介さず校門を出て、そのままマンションからちょっと先の高級食料品店へと向かった。
牛フィレ肉を選んでいると、横から不破が興奮気味に「肉?肉?その分厚い肉、夕飯?本当に?!」とずっと聞いてきた。
お菓子買ってもらう子供か、あんたは。
「大人しくついて来ないと、一番安くて薄い肉にするよ」
「大人しくします!」
そう言うと、本当に静かに俺の後ろを雛鳥の様について回ってきた。
偶に、余計な肉を入れようとしてたけどその度、デコピンをしてやった。
買い物も無事に終え、筋トレの為に荷物を持つと言って聞かない不破に荷物を持たせ、俺のマンションへと帰る。
不破に、そこら辺に座って待ってろと言ったら、迷う事無くベッドに腰掛けた。
……あいつに、危機感ってものはないらしい。
まあ流石の俺でも、あの筋骨隆々とした体に発情はしないからいいけど。
手際よく料理を作って行き全ての準備が整ったのでメインから運んでいくと、ベッドに座り静かに読書をしている不破がいた。
不破のイメージと言ったらお喋りな筋肉バカだったのだが、意外にもまともな趣味を持ち合わせているようだ。
牛肉のトゥルヌドをテーブルの上に置き、声をかけると漸く顔をあげた。
「あ!ごめん!運ぶの手伝うよ!」
「いいよ。あんたはゲストなんだから座ってな」
だが、尚もまだ手伝う手伝うと煩く言う不破に「お座り」と言えば、大人しくテーブルについた。
パンとサラダとスープも机に置くと、不破は目を輝かせながら「いただきます!」と言い、先ずはサラダから手を付けた。
意外だった。
不破の事だから、真っ先に肉へと食いつくかと思っていたのに。
そう不破に言うと、「サラダから食べると、太りにくいんだよ」と言った。
確かに筋肉は脂肪に代わりやすいというから気にするのは納得いくけれど、やはり不破が太る事を気にするのは意外だった。
「そういえば、さっき何読んでたの?」
ライ麦パンを千切りながら訊くと、不破は頬張っていた肉を飲み込み「Peter Schlemihls wundersame Geschichteの原書」と流暢なドイツ語を織り交ぜて返してきた。
まさか脳筋不破の口からドイツ語をが出てくるとは思わずフリーズしていると、どういう作品なのか分からず困っていると勘違いしたのか説明をしだした。
「日本語訳すると、ペーター・シュレミールの不思議な物語っていうドイツのロマン主義文学の代表作なんだけどさ」
「いや、知ってる。読んだ事あるから。俺が驚いてるのは、あんたからそんな教養溢れる発言が出てきたこと」
「猿飛くん、私の事を何だと思ってるの」
「脳味噌まで筋肉女」
心外だという顔をしているが、どう考えてもこの期間の不破との会話を考えてもそんな知識がありそうな会話は……。
いや、よくよく思い出すと、たまに話しの中に織り込まれてくる論文(筋肉に限る)は、対外が海外の学者の名前だった気がする……。
つまり、海外の論文が読める程度に不破の頭は優れているって事になる。
「え……?あんた、そんなに頭良かったの?」
あまりにも驚きすぎて訊いてしまった。
不破は悔しそうな顔をしながら「酷いよ、猿飛くんー!」と叫んだ。
「確かに、テストで主席とった事はないけどさ!一回、八位になった事あるし、いっつも二十位圏内にはいるんだよ!」
「嘘くさっ!」
「本当だってば!うち、兄貴が筋トレにはまり過ぎて浪人しちゃったから、二十位以下になったら筋トレ禁止っていう鉄の掟ができちゃって……」
「不破兄……」
「まあ、それがなくても勉強はしたけどね。じゃないと、海外の論文とか読めないし。筋肉を更なる高みへ連れて行くには、グローバルにいかないと!」
嬉々として語る不破に「インテリ筋肉」と皮肉って言ってやったが、嬉しそうに「もっと言って」と言われた。
相変わらず、鋼の心だ。
その後、互いのお薦めの洋書の話しをしたりいい洋書専門店の話しをしたりと、不破と出会って初めて文化的な会話をした気がする。
食事も終え、家まで送っていくと「今度はうちに食べに来てね」と言い出した。
それじゃあずっとお互い食事に呼び合うことになるじゃんと笑ってしまうと、「それでいいじゃん」と笑い返され呆れてしまった。
「今日は、本当にありがとうね。すっごく美味しかったよ!じゃあ、また明日!」
そのまま家へと入ろうとしたが、何か思い出したのか振り向いて「猿飛くんも早く魔法の靴が手に入るといいね」と一言残して家へと入っていった。
帰り道、不破の言葉を考える。
不破の言う「魔法の靴」はさっき読んでいたペーター・シュレミールの最後に出てくる靴の事だろう。
ペーター・シュレミールの不思議な物語は、主人公が自分の影と引き換えに幸運の金袋を奇妙な男から貰うが影がない事を批判され、結婚を考えた相手にも影がない事でフラれて、しかも相手は主人公を裏切った召使と結婚してしまう。
その時、影を返しに来た奇妙な男、悪魔は影を返す代わりに死後、主人公の魂を要求してくるが、主人公は悪魔を振り切り、金袋も捨て放浪の旅に出る。
靴を履き潰した頃に、なけなしの金で買った靴は一歩で七里歩ける魔法の靴だった。
そして、主人公は自然研究家として充実した新たな人生を送ったという話だ。
「新たな人生、ね……」
もし目の前にそんな靴があったとしても、今の俺はその靴に手を出す勇気はない気がする。