筋肉と天邪鬼
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いつもの様に不破が話していると、唐突に「猿飛くんは、何が好き?」と聞いてきた。
質問がアバウトすぎる。
何がって、何だよ。
その思いを、俺の顔から察したのか「何でもいいの!」と言うが、何でもいいが一番困るんだけど。
盛大に溜息を吐きながら「別にない」と答える。
「え?!ないの?!好きなお肉の部位とか、プロテインの味とか!」
「どっちもあんたの好きな物だろうが」
「うん!」
元気よく頷く筋肉バカに呆れながら「誰も彼も好きな物があると思わないでよね」と言い捨てる。
この人生で、好きだと感じる物なんてなかった。
全部、義務でやってきた物、食事も栄養を取る為の行為。
女の好みもない。
どうせ、政略結婚させられる訳だし。
興味もないので次の話しを促したはずなのだが「じゃあ、今日から好きな物作っていこうよ!」と、全然変わらない話題に頭が痛くなった。
「作らない。つか、作ってどうするの」
「好きな物ができたら、猿飛くんと仲良くなれるかもしれない!」
ドヤ顔で言い放つ言葉に呆れるしかない。
こいつ、まだ俺と仲良くなろうだなんて考えてたのか。
諦めないやつ……。
この間、はっきり「嫌い」て言ったの……あぁ、そういえば、その時「好きになってもらうよう頑張る」とか言ってたっけ。
あれ、本気だったんだ……。
またもせり上がってくる喜びを覆い隠す様に、嫌悪感が現れ口から突いて出たのはやはり「嫌い」という言葉だった。
不破は一瞬固まったが、直ぐに笑顔を取り戻して「頑張るね」と言った。
「そうだ!今日、うち来てみない?」
「いきなり家かよ」
「え、だって、一緒に買い物とか食事行ったら、変な噂たっちゃて迷惑じゃない?」
「家の方がたつだろ」
困ったなぁ、と思案する不破に「……別にいいよ」と言ってやる。
不破相手に、色恋の噂がたつわけない。
それに、若干、不破の育った環境には興味がある。
何をしたら、こんな筋肉女ができあがるのか。
「じゃあ、放課後一緒に行こうか!」
「はいはい」
そう約束して、気が付けば放課後になり、不破が迎えに来たので連れ立って教室を出ていくと、教室の方がざわついていた気がする。
不破の家は、存外俺のマンションから近いところにある普通の一軒家だった。
結構普通だなと気を抜いて家へと入ると、丁度トイレから出てきた体躯のいい男が「お帰り姉貴~」と言いすぐさま隣に立つ俺へと視線を移したので、営業スマイルで挨拶しようとしたら「親父!兄貴!大変だ!姉貴が彼氏連れてきた!」と叫びながらリビングへと入っていった。
「……古典的な反応だな」と笑ってやると、直ぐに先程の体躯のいい男、たぶん不破の弟が神妙な面持ちで戻ってくると、前振りもなく「服を脱げ」と言われた。
「ちょ?!何言ってんの!」
「姉貴は黙っててくれ。姉貴の男になる奴が、貧弱だなんて認めねえ!」
「いや、だから違うって!」
「いいから脱げ!」
今にも、俺の服を剥ごうと飛びかかってきそうなので、渋々上半身裸になる。
何で俺、他人んちの玄関で半裸になってるんだろう。
不破弟は俺の体を見たり触ったりして品定めし、悔しそうに「合格だ」と言った。
「リビングに行け。そこで第二関門が待っている」
どこの道場だよ、ここは。
不破は「猿飛くん!今日はちょっと、もう帰ろう!」と言ってるが、そのセリフは半裸にされる前に言って欲しかった。
不破弟は、全くもって帰す気のない顔をしている。
仕方がないと諦め、服を着てリビングへと進む。
その後ろを、不破がついてくる。
リビングには、弟よりもずっと体躯のいい男二人が待ち受けていた。
若い方が、不破兄だろう。
「よく来たな……。第二関門は、これだ」
不破兄は、コップに注がれた飲み物を俺に差し出してきた。
「ちょっと、兄さん!これ、プロテインバナナ味じゃない!」
「プロテインを飲めなければ、この家に入る資格はない!」
どういう家だよ。
予想以上にツッコミどころの多い不破家に呆れつつ、渡されたプロテインを一気に飲み干したが、直ぐに後悔した。
口の中に広がる、腐ったバナナみたいな味。
吐き出しそうになるのを、プライドで押しとどめ飲み込む。
こんなもの喜んで飲んでるのかよ、不破。
ありえねー、と吐き気に抗っていると、一番筋肉量の多い不破父が「最後の関門だ」と言って立ち上がった。
「俺を乗せて腕立て五十回だ!」
もういいよ、帰るよ。
こんな、重石の塊みたいな男を乗せて腕立てなんてできるか。
しかも、あんな不味い物飲まされたあとで吐きそうだっていうのに。
即座に「辞退します」と言おうとすると、背後から細身の女性が跳んできて、不破父に跳び蹴りをくらわした。
「あなた!何をやっているんですか!」
「母さん!これは、その!娘の為にだな!」
「うちの常識が、他人様の常識に通用すると思わないでください!あぁ、灯花の彼氏くん?うちの男連中がごめんなさい!大丈夫?」
「あ、はい。大丈夫です。あと、彼氏じゃないです」
「あら!そうなの?!益々、ごめんなさいね!」
不破母は、申し訳なさそうに眉を下げた。
なんだ、この家にも常識人がいたのかと少し安心した。
その後、男衆は不破と不破母に一頻り説教をされ、食事まで誘われた。
初めての賑やかな食卓に、またも楽しさを打ち消す様に嫌悪感が這い上がってきた。
その時は、作り上げた笑顔で乗り切った。
怒涛の不破一家の猛攻にげっそりしていると、改めて不破が謝ってきた。
「本当にごめんね。なんか、うちの男連中が騒いじゃって」
「うん。ちょっと、筋肉が嫌いになりそうだった」
「えぇ!?」
「冗談。でも、プロテインは二度と飲まない」
「あんなもの一般人が飲んじゃだめだよ」と真顔で止めてきたけど、だから、飲まないって。
二、三言葉を交わし、帰ろうとすると不破が「猿飛くん」と呼び止めた。
「なに?」と振り向けば、不破が笑顔で「好きな物はできた?」と聞いてきた。
あぁ、そういえば当初の目的はそれだったね。
俺は少し考えて「できたよ」と答えた。
「本当?!」
嬉しそうに不破は「教えて!」と聞いてくる。
それに営業じゃない笑顔で「不破の家で食べるごはん」と答えると、更に嬉しそうに笑いながら「なら、また食べに来て!」と言った。
「気が向いたらね」
それだけ返して、不破のおやすみに、おやすみで返し家路についた。
帰ってきた部屋は、いつもより静寂が耳に痛い気がした。
質問がアバウトすぎる。
何がって、何だよ。
その思いを、俺の顔から察したのか「何でもいいの!」と言うが、何でもいいが一番困るんだけど。
盛大に溜息を吐きながら「別にない」と答える。
「え?!ないの?!好きなお肉の部位とか、プロテインの味とか!」
「どっちもあんたの好きな物だろうが」
「うん!」
元気よく頷く筋肉バカに呆れながら「誰も彼も好きな物があると思わないでよね」と言い捨てる。
この人生で、好きだと感じる物なんてなかった。
全部、義務でやってきた物、食事も栄養を取る為の行為。
女の好みもない。
どうせ、政略結婚させられる訳だし。
興味もないので次の話しを促したはずなのだが「じゃあ、今日から好きな物作っていこうよ!」と、全然変わらない話題に頭が痛くなった。
「作らない。つか、作ってどうするの」
「好きな物ができたら、猿飛くんと仲良くなれるかもしれない!」
ドヤ顔で言い放つ言葉に呆れるしかない。
こいつ、まだ俺と仲良くなろうだなんて考えてたのか。
諦めないやつ……。
この間、はっきり「嫌い」て言ったの……あぁ、そういえば、その時「好きになってもらうよう頑張る」とか言ってたっけ。
あれ、本気だったんだ……。
またもせり上がってくる喜びを覆い隠す様に、嫌悪感が現れ口から突いて出たのはやはり「嫌い」という言葉だった。
不破は一瞬固まったが、直ぐに笑顔を取り戻して「頑張るね」と言った。
「そうだ!今日、うち来てみない?」
「いきなり家かよ」
「え、だって、一緒に買い物とか食事行ったら、変な噂たっちゃて迷惑じゃない?」
「家の方がたつだろ」
困ったなぁ、と思案する不破に「……別にいいよ」と言ってやる。
不破相手に、色恋の噂がたつわけない。
それに、若干、不破の育った環境には興味がある。
何をしたら、こんな筋肉女ができあがるのか。
「じゃあ、放課後一緒に行こうか!」
「はいはい」
そう約束して、気が付けば放課後になり、不破が迎えに来たので連れ立って教室を出ていくと、教室の方がざわついていた気がする。
不破の家は、存外俺のマンションから近いところにある普通の一軒家だった。
結構普通だなと気を抜いて家へと入ると、丁度トイレから出てきた体躯のいい男が「お帰り姉貴~」と言いすぐさま隣に立つ俺へと視線を移したので、営業スマイルで挨拶しようとしたら「親父!兄貴!大変だ!姉貴が彼氏連れてきた!」と叫びながらリビングへと入っていった。
「……古典的な反応だな」と笑ってやると、直ぐに先程の体躯のいい男、たぶん不破の弟が神妙な面持ちで戻ってくると、前振りもなく「服を脱げ」と言われた。
「ちょ?!何言ってんの!」
「姉貴は黙っててくれ。姉貴の男になる奴が、貧弱だなんて認めねえ!」
「いや、だから違うって!」
「いいから脱げ!」
今にも、俺の服を剥ごうと飛びかかってきそうなので、渋々上半身裸になる。
何で俺、他人んちの玄関で半裸になってるんだろう。
不破弟は俺の体を見たり触ったりして品定めし、悔しそうに「合格だ」と言った。
「リビングに行け。そこで第二関門が待っている」
どこの道場だよ、ここは。
不破は「猿飛くん!今日はちょっと、もう帰ろう!」と言ってるが、そのセリフは半裸にされる前に言って欲しかった。
不破弟は、全くもって帰す気のない顔をしている。
仕方がないと諦め、服を着てリビングへと進む。
その後ろを、不破がついてくる。
リビングには、弟よりもずっと体躯のいい男二人が待ち受けていた。
若い方が、不破兄だろう。
「よく来たな……。第二関門は、これだ」
不破兄は、コップに注がれた飲み物を俺に差し出してきた。
「ちょっと、兄さん!これ、プロテインバナナ味じゃない!」
「プロテインを飲めなければ、この家に入る資格はない!」
どういう家だよ。
予想以上にツッコミどころの多い不破家に呆れつつ、渡されたプロテインを一気に飲み干したが、直ぐに後悔した。
口の中に広がる、腐ったバナナみたいな味。
吐き出しそうになるのを、プライドで押しとどめ飲み込む。
こんなもの喜んで飲んでるのかよ、不破。
ありえねー、と吐き気に抗っていると、一番筋肉量の多い不破父が「最後の関門だ」と言って立ち上がった。
「俺を乗せて腕立て五十回だ!」
もういいよ、帰るよ。
こんな、重石の塊みたいな男を乗せて腕立てなんてできるか。
しかも、あんな不味い物飲まされたあとで吐きそうだっていうのに。
即座に「辞退します」と言おうとすると、背後から細身の女性が跳んできて、不破父に跳び蹴りをくらわした。
「あなた!何をやっているんですか!」
「母さん!これは、その!娘の為にだな!」
「うちの常識が、他人様の常識に通用すると思わないでください!あぁ、灯花の彼氏くん?うちの男連中がごめんなさい!大丈夫?」
「あ、はい。大丈夫です。あと、彼氏じゃないです」
「あら!そうなの?!益々、ごめんなさいね!」
不破母は、申し訳なさそうに眉を下げた。
なんだ、この家にも常識人がいたのかと少し安心した。
その後、男衆は不破と不破母に一頻り説教をされ、食事まで誘われた。
初めての賑やかな食卓に、またも楽しさを打ち消す様に嫌悪感が這い上がってきた。
その時は、作り上げた笑顔で乗り切った。
怒涛の不破一家の猛攻にげっそりしていると、改めて不破が謝ってきた。
「本当にごめんね。なんか、うちの男連中が騒いじゃって」
「うん。ちょっと、筋肉が嫌いになりそうだった」
「えぇ!?」
「冗談。でも、プロテインは二度と飲まない」
「あんなもの一般人が飲んじゃだめだよ」と真顔で止めてきたけど、だから、飲まないって。
二、三言葉を交わし、帰ろうとすると不破が「猿飛くん」と呼び止めた。
「なに?」と振り向けば、不破が笑顔で「好きな物はできた?」と聞いてきた。
あぁ、そういえば当初の目的はそれだったね。
俺は少し考えて「できたよ」と答えた。
「本当?!」
嬉しそうに不破は「教えて!」と聞いてくる。
それに営業じゃない笑顔で「不破の家で食べるごはん」と答えると、更に嬉しそうに笑いながら「なら、また食べに来て!」と言った。
「気が向いたらね」
それだけ返して、不破のおやすみに、おやすみで返し家路についた。
帰ってきた部屋は、いつもより静寂が耳に痛い気がした。