恋する十二カ月


≪ 五月の巻 ≫ 摂津のきり丸×トモミ



木々の緑が眩しく、晴れわたった空が広がる気持ちの良いとある日。
そんな日に何だか似つかわしくない、懇願するような声が忍術学園から聞こえてきた。




「トモミちゃ~ん!この通り!一生のお願いだから!!」

「……きり丸、あんたいつぞやかもそう言ってこなかった?」

「あれ、そうだっけ?まあそんな固いことは言わないで……」


ヘラッと八重歯を見せて笑うきり丸に、トモミは「お調子者」とため息をついた。まったく、こいつはいつもこんなんだから呆れて物も言えないとジロリと睨みつける。

しかし相手はそんな眼差しもなんのその。引き下がるつもりなど全くないように「この通り、お願いだから手伝ってよ!」と目を血走らせて詰め寄る。……というか目を銭にして詰め寄ってくる。

きり丸がここまでする理由、それは『日給が相場の倍の高額アルバイト』のためである。銭が命のきり丸からすれば、こんなおいしい話は逃せないだろうが、自分はそうではない。トモミは盛大なため息をついてきり丸を見つめた。


「あんたはいいかもしれないけど、もし手伝ったとして一体私に何の得があるってのよ?」


トモミの意見はもっともな話だろう。きり丸が貰ったアルバイト料をくれるとも考えられないし、そうなれば前と同じようにタダ働きを強いられているだけの話でしかない。トモミは腕組をしながらきり丸をもう一度睨みつけた。

だが肝心のきり丸は焦る様子も見せず、むしろ待ってましたと言わんばかりに得意げな表情を見せた。


「フフフッ……この俺がそんなことも考えずにトモミちゃんを働かせるとでも思ってるの?今回はちゃんと配慮するから安心してよ」


そう言ってドンと胸を叩いたきり丸に、トモミは怪しげに首を傾げた。





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「しっかし、あんたってホント食えない奴ね」

「褒めてもバイト代は渡せないぜ、トモミちゃん」

「なに格好つけて言ってんのよ、別に褒めてないし、バイト代もいらないわよ」


キャッキャと周りを元気に駆け回る子供たちに目を配りながら、二人はパクンと柏餅を頬張った。


(まあ、おかげで美味しい柏餅を食べられた訳なんだけど)


きり丸の言っていたアルバイト、それは庄屋の家で子守りというものだった。しかも彼の言っていた『配慮』というのが、ご丁寧に用意してくれたお茶とこの柏餅だと知ってホントちゃっかりしているなと、変な感心してしまうからトモミは始末が悪いなと思わず笑ってしまった。


「どうかしたの?」


それをどう思ったのか、きり丸は口にした柏餅を飲み込んで不思議そうな顔をする。


「別に、何でもないわよ」

「……なーんか怪しいな」


ジロジロと疑う眼差しで見つめてくるきり丸に、トモミは話を逸らそうと疑問に思っていたことを聞いた。


「そ、そういえばなんで私だったのよ?…他の人は用事があってダメだったの?」


きり丸のバイトを手伝うのは大体が乱太郎かしんべヱ、子守りなら土井先生や六年生とも行っていたけど、何故今回は自分だったのか、トモミは不思議に思っていた。子守りの子が女の子たちならなんとなく分かるのだが、今走り回っているのはいかにも活発で元気いっぱいな男の子たちだ。


「んーなんひぇひゃひょほほう?」

「……口に含みながら喋るんじゃないの、それにあんたそれ何個目よ」


ぺちっときり丸の頭を叩くと今度はゴクンと勢いよく飲み込んだ。


「…んだよー、まだ二個しか食べてねーよ」


口をとがらせ睨むきり丸に、トモミはオホホとお茶を入れ誤魔化そうとした。


「なーんで俺がトモミちゃんをバイトに誘ったかって?」

「そうそれ!」

「だってトモミちゃん、甘いものには目がないじゃん」


「え?」


きり丸のしれっとした物言いに、渡そうとした湯呑みを滑らすところだった。


「俺さ、前に乱太郎としんべヱと一緒にこのバイトしたときも美味いぼた餅とお茶が出て食べたんだけど…」

「……」

「その時、なーんかトモミちゃんの顔が浮かんできたのよな」

「……」


「だから誘ったわけ、美味いでしょ!」


その屈託のないきり丸の笑顔を見ると、トモミは素直にこくりと頷いた。


(……何よ、可愛いとこあるじゃない)


そう思いながら、赤くなった頬を隠すように淹れたてのお茶を飲むと、思いのほか熱かったので余計赤くなってしまった。


「しんべヱなんて俺たちの分まで手をつける勢いで食ってたんだぜ、……ま、でもそれくらい美味いってことだよな」


きり丸は気にせず話を続けると、サッとまた一つと柏餅を手に取る。


「…ちょっときり丸!あんた私の分まで食べてない!?」


よく見るともう片方の手にも柏餅を持っている。


「へへ…早い者勝ちだぜ、トモミちゃん」

「一人三個ずつでしょうが!私ちゃんと数えたんだからね!!」


「……そ、そんな細かいこと気にしないでさ~、それにほらっ!トモミちゃん甘いもの食べ過ぎるとブタになっちゃうって気にしてただろ…俺がちょっと多めにもらう・・・のがいいんじゃないかと……」


気を利かせたつもりのような口ぶりで話したが、トモミはそれを聞いた途端、目じりを吊り上げ拳を握り締めた……段々と雲行きが怪しくなってきたように感じたきり丸は、懐に素早く柏餅を収めた。


「ブ、ブタですって~~!」


トモミは全身を真っ赤にして震えると、ジリジリときり丸ににじり寄る。


「……やっぱ鬼かも、あっ」


ポロッと口に出してしまい、しまったと口をつむぐが後の祭りであった。



「き~~り~~ま~~る~~!!!」

「み、みんな逃げろ~!鬼が来たぞ~~!!」


勢いよく庭に飛び出すきり丸の叫び声を聞いた子供たちは、一斉に「鬼ごっこだ~!!」と歓喜の声をあげて逃げはじめる。


「だ~れ~が~鬼ですって~~~!!!」


トモミは先程の可愛いとこあるなと思ったのは帳消しと、小憎たらしい気持ちで追いかけ始める。


「きり丸~~~!あんたを最初に捕まえてあ・げ・る・・・~~~!!」

「えっ、あげる・・・!?もらいます!もらいま……やっぱ遠慮しとく~~!!」





涙目になりながら逃げ回るきり丸と、楽しそうに走り回る子供たち、そしてそれを追いかけるトモミのどこか楽しげな声が、青空に響いていた。







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